「目がハート、ね」

自室で携帯端末を操作しながら、爆乳の美女が艷やかな声を漏らす。
なるほどイラストを見れば分かりやすい。
これは、まさに。

「京太郎様といるときの小蒔ちゃんは、こういう目をしているもの。分かりやすいわ」

朝から夜まで、まるで主人に甘え通しの犬のように付き従う『姫』の目は、明らかに恋慕の艶に染まりきっている。
褒められたり撫でられたりするだけで、美女でさえドキリとするほどの愛らしい微笑と、もっと褒められたいと懇願するような色がありありと浮かぶのだ。

『……京太郎様……』

年下の少年を主と崇めるのは、何も小蒔一人ではない。

「京太郎様……」

従者に傅く主、などと本末転倒にも思えるが、悪いのは京太郎だ。
助平なだけだと思っていたのに、落ち込んでいた時は優しくしてくれて、寂しいときに一緒にいてくれて──恐らくは、霞が希えば、彼は自分に寵愛を与えてくれるだろう。
その日々を想うだけで── 

ずしりと重い胸肉を抱きながら、京太郎に愛でられる己を想う霞。
その瞳には、まさしくハートが浮かんでいるような錯覚さえ与えた。

「目にハート、ですか」

ネットサーフィンをしながら、原村和は独りごちる。
風呂上がりの美少女は、普段とはまた違った色気を纏っていた。

「須賀君がスケベな目をしているときのとは、また違うみたいですね」

イラストを見るに、個性の強調に使われていたり、女として悦ぶ姿を描かれる際に使われる傾向のあるソレを、和は眺める。
自分も悦ぶ日が来れば、こういうふうに女として男を見つめる事になるのだろうか。
頭を撫でられ、唇を許し、首輪代わりのチョーカーで売約済の烙印を押され、ただ一人の男に愛でられる為に媚び、愛でられることで悦ぶ──被虐的な光景を想い、背筋を震わせる。
何より、その傍らにいる男が。
どんなに慈愛に満ちた愛でられ方でも、どんなに冷徹な扱いをされる方でも。
須賀京太郎以外、考えられないのだ。

(須賀君以外の男子となんて、殆ど話す事もありませんから……ただそれだけですから)

あんなスケベで、背が高くて、仲間思いで、カッコよくて、優しい男なんかに──

和の成績が奮わずに落ち込んだ時に、抱き締めてくれた。
和の泣き顔を見ないように、抱き締めてくれた。
両親にもされたことがないほど、優しく、何度も髪を梳くように撫でてくれた。
自分の慟哭を、後悔を受け止め、ただ泣かせてくれた、あの胸が。

(好き───なんかじゃ、ないんですから───)

携帯端末にて撮った一枚の写真を見つめながら、和は言い訳をするように溜息を繰り返して。

(でも──須賀君に、また抱き締められたいです──)

明日、お願いしたら、抱き締めてくれるんだろうか。
須賀君に色々おねだりして、甘えたいですね──小さく呟くと、和は布団を被る。
こんなとき、距離の近い咲さんや、アグレッシヴな優希が羨ましいと思いながら。

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最終更新:2020年04月06日 22:52