「俺と付き合って欲しい」

部活終了後、部室に残るよう頼まれた原村和は同じ麻雀部に所属する須賀京太郎に告白された。

「返事を聞かせてくれないか?」

客観的に見て彼は良い人である。
優しく、気が利く性格。
高身長で整った顔。
裕福な家庭。
親友の優希や咲が惹かれているのも、部活の皆が甘えてしまっているのも、頭では分かる。

「須賀くんは本当に私が好きなんですか?」

彼が見ていることには気づいていた。
初めて会ったときからその他大多数と同じ視線を感じていた。

「俺は和のことが好きだ」

和は信じられない。
男を信じられない。
彼が良い人だと理解していても須賀京太郎を信じきれない。

「…………」

嫌いではない。
好きなのかは答えられない。
愛せるようになれるかは分からない。

「須賀くん、条件ありなら付き合っても良いですよ」

嫌いではないのだ。

「本当か? 和、条件を教えてくれよ」

嬉しそうな彼を見て和は悩む。

「その前に確認しても良いですか?」

「何をだ?」

「あなたは私と何処までの関係を望んでいますか? 恋人? 妻? 母? お墓まで?」

問われた京太郎は暫しの間だけ考える。
和をお嫁さんにすることまでは想像したことがある。
それ以上は慮外の話だ。
真剣な彼女の表情を見れば、ふざけた回答は許されない。

「結婚までは考えたことがあるんだけどな……和が良いならお墓まで頼めるか?」

真摯な答えに和も応える。

「正直に言います。私は男性が好きじゃありません。苦手と言うのが正しいでしょうか。須賀くんのことも信じきれないんです」

和の言葉に動揺を隠せない。
好きだと想いを伝えた相手に拒絶の言葉を言われては心が苦しくなる。

「こんな私とでも付き合いたいですか?」

和が好きだ。
可愛い容姿、大きなおもち。
最初はその美しい姿に惹かれたのだ。
同じ部活に所属して、彼女の色々な面を知った。
頑固で融通が利かない。
可愛いものが好きな女の子。
真面目で世間知らずで少し変わってる。
誰よりも優しくて熱い情熱を持っている。
卓の上では冷静で格好良く決して揺らがない。

「和が俺のことをどんなふうに思っていても、俺は和のことが好きだよ。俺は和が嫌なら付き合わない、和が良いなら付き合いたい」

彼の言葉に何も思わないわけではない。
そこまで想いを寄せられれば嬉しくも感じる。
しかし、心の底では受け入れきれない。
それは彼が男で、異なる性別の、赤の他人の異性だから。
もしも、彼が彼女だったなら。
和はそう思った。
そう思考する自分に気付き笑う。

「私と性的な接触をしないで下さい。性行為もキスもなし。プラトニックな関係を続けることです。出来ますか?」

きっと出来ない。
彼は男の人だから。
幼い頃から身体ばかりを見られてきた。
和の想像する男性像はこの条件を否定する。

「そんなことで良いのか?」

彼は呆気なく答えた。

「簡単に言いますね?」

「俺は和が好きだからな。和が隣に居てくれるだけで十分幸せだよ。手を繋ぐ位は許してくれるか? エッチな目で見るのもダメか?」

「はあ、それ位なら。自分で言っておいてなんですが須賀くん本気ですか?
私、面倒な女ですよ。意外と嫉妬深いですし、独占欲も強いです。浮気は勿論、他所の女性に目移りするのだってダメですからね」

彼なら自分よりも素敵な女性と付き合える。
それだけの器量があり、今だって親友たちの心を盗んでいるのだ。

「ああ、これからよろしくな、和」

「はい、こちらこそよろしくお願いします須賀くん……いえ、京太郎くん」

彼女に初めて名前を呼ばれて彼は凄く良い笑顔を浮かべた。
麻雀部の戸締まりを終え、彼氏彼女の関係となった二人、秋の夕暮れの中を寄り添いながら帰路へとつく。


カンッ!




-オマケ-

「知っていますか京太郎くん」

「何がだ和?」

「世の中には体外受精と言う方法があります。エッチなことをしなくても子供は作れるんですよ!」

「!!」

「ふふふ、いつかあなたの子供を孕んで生みたいですね」

「和!」

「私の父と母は未だに清い関係です。私も体外受精で授かったらしいです」

(凄いな、お義父さん……)

京太郎の中で原村恵への尊敬が日々増えていく。
己の先駆者を知り、奮い立つ。
欲望を超えて和への愛に殉じるのだ。


-次回-
俺の彼女が無防備に挑発してきて煩悩を刺激しすぎる!
負けるな京太郎!
克つんだ京太郎!
欲望に負けたら愛しい和と別れなきゃいけない!

次話『NAGANOスタイル』


もう一個カンッ!!

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最終更新:2020年04月06日 22:52