こそこそ、カサカサと音を立て、京太郎の耳穴を木製の耳かきが這う。
顔は腹肉に押し当てられ、耳穴には甘く切なげな吐息が毎秒毎秒染み入り。
ともすれば夫婦の営みのようでもあったが、二人は未だ恋仲とさえ言えなかった。
「痛っ」
「あ、ごめんね、京太郎くん」
「あ、いえ、大丈夫で……」
「京太郎くんのお耳、耳かきだとやっぱり危ないよね」
途端、ふぅ…ふぅ…と耳穴に吹き掛けられる、情に満ちた吐息。
背筋がゾクゾクと震えるような感覚の直後、京太郎の顔が、より一層強く腹肉に押し込まれて。
頭に押し付けられるのは、ずしりと重い二つのおもち。
ああ、抱き抱えられているんだと京太郎は理解した。
「ごめんね、京太郎くん。京太郎くんは玄ちゃんの恋人なのに、私のわがままをいっぱい聞いてくれるよね…?」
「玄さんと俺、二人で決めたんですよ。宥さんが望むんなら、俺と玄さんと宥さんの三人で幸せになりたい、って」
だから、一夜毎に交代で玄の部屋と宥の部屋を訪れているのだ。
まるで大奥のようだとは、京太郎と玄の共通見解でもある。
「京太郎くんも、玄ちゃんも、優しいね」
宥の頬が染まり、緩み、蕩ける。
姉妹揃って京太郎の愛妻となれるのは、宥にとっても玄にとっても幸せなことだから。
それに───
宥は、寒がりの特異性ばかり語られているが、それとは別に目覚めた特性がある。
「……えと、宥さん?」
「今日も、いっぱい温かくしてくれるんだよね…?」
「それは、構いませんが」
見慣れたはずの京太郎も息を呑む程の迫力。
隠すものを全て脱ぎ払い、掛け布団のみを纏った愛妻候補の姿は、いつ見ても美しく、淫らで、愛おしかった。
「京太郎くん、大好きだよ」
京太郎の箍が外れるまで。
間もなかった。
最終更新:2020年04月06日 22:53