「は……はわわ……大変なのです…!」
「どうしたの、玄ちゃん?」
「京太郎くんが…京太郎くんがぁ…」
「京太郎くんが…どうしたの?」
「おもちな人の写真集を持ってたんだよぉ…どうしようお姉ちゃーん!!」
「………」
「京太郎くん、浮気なんかしないって言ってたのに……私と玄ちゃんだけだって、言ってたのに……やっぱり、ずっと一緒にいなきゃいけないんだ……」
「ずっとって……お風呂やトイレは流石に無理じゃないかな…?」
「おトイレは無理だけど、お風呂は一緒に入れるよね…?」
「え……」
「入れるよね」
「……うん、入れるね」
「……二人で頑張って、京太郎君の心を繋ぎ止めようね…?」
「うん…頑張りますのだ!」
松実館の一室。
長期休暇を利用してアルバイトに来ている少年──須賀京太郎に与えられた部屋で。
須賀京太郎は、視線を落ち着かせることも出来ず、キョドっていた。
目の前にいるのは、成程夏ということを加味すれば違和感のない水着姿の美人姉妹。
傍目には、休みを与えられた姉妹と少年が海に行くための用意をしている光景にも見えた。
だが、だがである。
世はそれ程甘くない。
ビキニ姿の妹は、スタイルの良さも健康的な色気も相俟って眼福と呼ぶに相応しかった。
問題は姉である。
(宥さん……ビキニがはちきれそうに…!)
妹のソレよりも、一回り大きく、柔らかさも増し、しかし着ているビキニは小さい姉。
一歩歩む毎に外れそうになるビキニは、そのサイズもあってか注目の的間違い無しだ。
なんならカップル破局の原因さえある。
「京太郎君は、こういうのが好きなんだよね?」
「はい大好きです!」
条件反射で即答。
少年の目に曇りはない。
「でもね、こういう本を読むのはいけないのです!」
「ああっ!?何故その本を!?」
「今大事なのは本じゃないよ」
ぷぅ、と頬を膨らませた姉と、小動物じみた捨てられたくないという媚びた眼差しの妹。
二人がずい、と歩み寄るごとに、二人の匂いが京太郎の鼻を撫でる。
「本相手にえっちなことは出来ないからね」
「私たちからいつでも大丈夫なのです」
「いや……その、何というか、まだ告白もしてない相手に言うのは躊躇われるっていうか、責任取れないのに手出し出来ないっていうか」
失言である。
京太郎の言葉を聞いて、姉妹は確信した。
『今ここで』
『姉妹一緒に京太郎のモノにさえなれれば』
『三人で幸せにいちゃいちゃ出来るはず』
誰のものか分からない深呼吸が一つ。
水着姿の姉妹ににじり寄られながら、京太郎は抗うことも出来ずに。
松実京太郎、誕生の時である。
最終更新:2020年04月06日 22:53