「京太郎は、夏休みが終わったら帰っちゃうんだよね」

寂しさと、羨ましさと、妬ましさが入り混じった声が、感情を失った顔から漏れる。
松実姉妹といちゃいちゃしている所に混じったり、休みの日に和菓子作りを見に来たり教わったり。
毎日のように顔を合わせ、声を聞き、可愛がられて。
友情とは明確に違う感情に、穏乃は戸惑い、迷い。
それが恋と知ったとき、穏乃は、彼が元いた清澄高校への羨ましさと妬ましさを隠せなかった。
明朗な彼女は、嫉妬と羨望を抱く自分に困惑しつつも、それを飲み込み。

「そうだな、次は冬休みにって話は玄さんや宥さんたちも含めて話し合ってたんだけど」

「帰らないで欲しいなぁ。寂しいんだよ?」

「寂しいって……」

穏乃がいっぱい話をしたいと乞い願ったが故に、今晩は高鴨家で一夜を過ごす京太郎。
談笑し、風呂に入り、さあ寝ようと布団に寝転がった時に部屋に来た穏乃は、京太郎が息を呑むほど妖艶だった。
胸が小さいのは仕方ないが、小学生程の外面全てから妖しい程の色気を纏っていた。

「和たちよりも、ずっとずっと京太郎のことをから好きなんだよ」

「……シズ」

「玄さんや宥さんと、毎日一緒に寝てるんだよね?知ってるんだよ?」

「それは───俺が、」

「私も、京太郎のものにして?一番じゃなくていいから。玄さんと宥さんの次になりたい」

手出しすれば犯罪待ったなしの少女が、その身を京太郎に委ねる。
仄かな膨らみも、風呂上がりのシャンプーの香りも、熱のこもった吐息も、無理をしているのか真っ赤に染まった頬も、玄や宥と愛し合う関係で無ければ陥落していたに違いない。

「シズ、俺は、」

「きっと京太郎にギューって抱きしめられたら、凄く幸せだから。冬休みまで寂しくならないように、ギューって抱きしめて?」

「あ、はい」

妖艶さが鳴りを潜め、京太郎は息を抜く。
知ってか知らずか穏乃は京太郎に抱き締められながら、間もなく寝息と共に夢の国に誘われて。
京太郎は、妖艶だったシズの幻影と、懐にて眠りにつく少女のギャップに戸惑いながら、それでも小柄な身体に女を秘めた少女に悶々とする一夜を過ごしたのだった。

翌日夜、松実玄が京太郎のフラストレーションの全てを受け止められたのは僥倖であったと言える。

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最終更新:2020年04月06日 22:54