智葉が須賀京太郎と出逢ったのは、夏の大会の真っ只中だった。
軽薄そうな男に追われていると警戒し、強めの言葉で圧し、落とし物を渡そうとしていただけだと聞いて、短絡さを恥じた。
二度目に会ったのは、秋。
学校を辞めて旅をし、行く先々で短期雇われては旅に戻るという生活を聞いた時は、やはり愚か者かとも思ったが。
自分の無力さが仲間の悪評に繋がるから、と笑える男を気に入って。

(京太郎……)

胸を締め付けるサラシを外し、美しく育ったソレを抱き締める。

既知の者の苦境を放ってはおけぬと家に迎え入れた青年は、昔気質の父親や、父の部下たちともあっさりと打ち解け、献身ぶりを褒められていた。
智葉も心を許したころか、着替えを見られた時も嫌な感じはしなかった。
それどころか、胸をサラシで隠しているのを勿体無いと言われ、嬉しくなった記憶さえあるのだ。

(京太郎……)

心を通わせるのに暫く。
互いを知り合うのに暫く。
恋に慣れない智葉が、渇きと充足を知るのにかかる時間は長くはなく。
この男なら、と最高峰の信頼を抱いたのが一週間前。
その頃に京太郎は暇を求めた。
知己の実家の旅館に助けを求められたと言われ、父親は快く旅費まで出して送り出し。
智葉は、松実という名に不安を感じた。
あの姉妹であるならば、京太郎でさえ陥落せしめる魅力も持ち得る。
オバケと形容される乳房や、それに準ずるようなサイズではないにせよだ。
そうなると、智葉の恋心はどうなる。
僅かの間に心に入り込み、充足を与えてくれた時間はどうなるのか。
帰ってきて、私の為に。
そう言うだけが精々だった自分は、紛れもなく臆病者だ。

(きっと、京太郎に触られたら──)

(私は恥じらいながらも、悦ぶんだろう)

(初恋……なんだ……)

布団を被りながら、溜息をひとつ。
我慢できずに京太郎に電話してしまうまで、後二日。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2020年04月06日 22:55