ベッドで鼾をかく顔を、指先でなぞる。
汗でじわりと湿った肌の感触が愛おしくて。
指先でなぞるだけでは物足りなくて、頬にキスを一つ。
口紅でもしていれば、彼が私のものだとマーキングにもなっていたのに。
少し口惜しくて、同じ場所にキスを──
「ねえ、須賀くん?」
寝起き様に頬を撫でる後輩に、久は笑む。
「部長、なんか悪戯しました?」
「悪戯はしてないわよ」
「そうですか、なんか寝てるときに触られた感じがしたんですよ」
何だったんだろ、と怪訝そうな京太郎が、愛おしくて。
いたずら気な笑顔に、妖艶さを隠し味にして。
「部長?」
「それって、こんな感じだったかしら?」
唇が触れるのは、頬でなく唇。
驚く顔が見られないのが少し残念だけど。
がっしりとした腰に手を回すと、彼の手も自分の背に回されて。
「ねえ、須賀くん?」
唇が離れるだけで、なんて寂しいのか。
まるで中毒のようだ。
「今日は部活……休みなのよ」
「知ってます」
二度目のキス。
すぐに離される唇同士が、寂しくて。
「私、須賀くんに感謝してるのよ」
だから、だから。
二人きりでいられる今日だけは。
普段は会話と打牌音で賑やかな麻雀部部室が、静寂に包まれていた。
肩を寄せ合い、二人眠る先輩と後輩をみて。
気の利く二年生は、苦笑と共に帰路へと着くのだった。
最終更新:2020年04月06日 22:55