タン、タンと打牌の音が規則正しく刻まれ、それに合わせた悲喜も顔に現れる。
ポーカーフェイスを磨けと言いたくもなるが、麻雀は感情を見せることで相手の動揺も誘えたりするのが厄介なものだ。
「そういえば、私、須賀くんの嫁さんって言われたのよ。嬉しいわよね」
打牌の音が乱れる。
後輩三人の内心の乱れが現れたように。
「ぶちょーが犬の嫁……」
「正気の沙汰じゃありませんよ?」
「…………」
「あら。私、須賀くんのことは好きなのよ」
横倒して牌が置かれる。
喜色に満ちた声でリーチが告げられて。
「先輩なら須賀くんよりも良い人がたくさんいるでしょうに」
「たくさんいても、手の届くところにはいないもの。手元の一番が何よりよ」
悪待ちは彼女の特技だが、その悪待ちの果てに手に入った栄光──その栄光をもたらす切っ掛けは、間違いなく彼だった。
「それに、咲は嫁呼ばわりされるのが嫌だって言ってたものね」
「っ」
「ロン。こんなブラフで動揺してちゃダメよ?」
きっちりと捲ってみせて、微笑みを一つ。
胸元の寂しい二人が安堵の息を吐く隣で、怪訝そうに顔を歪めるのは、一際明晰な才女。
(ブラフかどうかなんて、確かめようのないことだものね)
たった一歩ながら、後輩よりも先んじているのは何よりの功績である。
二人きりの時に吐露した自分の弱さ。
二人きりの時に晒した甘えん坊な自分。
受け止めてくれた優しさを偽りとは思いたくないから。
「ぶちょーはもう帰るんだじぇ?」
「須賀くんと買い物よ。備品が減ってきているからね」
「気を付けてくださいね。胸を見られることも──最近は減りましたけど、ありますから」
「あら、大歓迎よ」
立ち上がる自分に向けられる三対の瞳に、少しの優越感を感じながら。
「ひさ……部長?」
「お迎えね。じゃあ、行ってくるわ」
可愛い後輩の腕を取って、恋人の如く振る舞いながら姿を消す。
困ったような、嬉しいような複雑な顔をしながらも嫌がらない姿に満足しながら。
「この後、須賀くん──京太郎の家に行きたいわ」
「そんなにいいとこじゃないですよ?」
御褒美とばかりに、胸に腕を当てて。
初デートが放課後の買い物、その後彼の部屋で語り合う形になるだろうと考えて、偽りなき微笑みを深めた一日だった。
最終更新:2020年04月06日 22:56