「………雨ですか」
傘を忘れたわけではなかったが、それでも突然の雨を好きにはなれない。
ひとつふたつと嘆息を重ね、傘を広げて。
「お、和は傘を持ってきてたのか」
「須賀くんは忘れていたんですね」
ちらりと横目で見ると、カバンさえ持たぬ部活仲間の姿があって。
「忘れてはなかったぜ?咲と優希に貸してやったんだよ」
「……本当にお人好しですね」
呆れたような声色だが、侮蔑の色はない。
仕方ありませんねとその腕を取り。
「一緒に帰りましょうか」
「和はいいのか?俺と相合い傘なんてさ」
「須賀くんだからいいんですよ」
しれっと傘を持とうとする手に、柄を受け渡す瞬間の触れ合いが嬉しくて。
密着しないと濡れますからねと腕を組んで。
「まるで恋人みたいだな」
他愛のない言葉が、嬉しくて。
「まるで恋人みたいですね」
ほのかに紅みを帯びた頬を見られないように、肩に頭を委ねて。
この時間が終わらないでほしいと、二人の気持ちは確かに重なり合っていた。
最終更新:2020年04月06日 22:57