『のどちゃんはとんだヘタレだじぇ』

心底呆れ返ったと言わんばかりの声に、返せる言葉などなく。

『告白するのが怖いから告白されるまで待って』
『恋人付き合いの仕方が分からないから友達からはじめて』
『誘い方が分からないから遊びにも誘わないで』
『部活で一緒だったのに友達からはないじぇ』

タコスをパクつきながら向けられる視線は、少なくとも原村和が親友の一人に向けられた記憶などなかったほどのもの。
同じ部活の同級生の親友三人で同じ人に惹かれたのに、いざ一人勝ちになると臆病風に吹かれて逃げを選んだ者への、明確な侮蔑。
私は悪くない、間違っていないとは口が裂けても言えないが、それにしたって少しは温情があっても良いのではないか、と。

『だって……分からないんです!須賀君が私を好きなのか、私の外面だけを好きなのか……内面まで知って好きになってくれたのか…』
『みんなそうでしたから!胸や顔ばかり見て、私を知ろうともしないで!』
『だから、………怖いんです。裏切られた時が
、裏切られると思う自分が……』

頬を伝う涙を拭うこともせず、小さく俯く。
全国で数多立ち向かったライバルたちよりも強く、全国で幾度となく見えた牌の並びよりも難解なそれに、心が圧し折れそうになって。

『その時は私と咲ちゃんで京太郎をボコボコにして、三人揃って見る目がなかったと笑うんだじぇ』

ふと見つめた顔は、侮蔑が多分に含まれたものではなかった。
悪戯で明朗な、親友の普段の顔だった。

『ちなみに京太郎はのどちゃんにフラレたもんだと思ってるじょ。のんびりしてると別の誰かに持ってかれるじぇ?』
『──────』

それは嫌だ。
親友のうちならともかく、明確に離別を告げたのならともかく、臆病なだけでいられたならともかく。
親友に礼を告げて脱兎の如く駆け出す姿に、優希は微笑む。
その明るい笑顔に伝う涙を知るものは、誰もいなかった。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2020年04月06日 22:58