こそこそ、こそこそと耳かき棒が動いては、耳穴の中の排泄すべき汚物──耳垢を乗せて出て行く。
ジクジクとした痒みに苛立っていた心が、癒され、落ち着き、安寧をもたらして。
──それでも、竹井久の心は混乱の極致にあった。

(大丈夫、大丈夫よ、須賀くんは龍門渕が太鼓判を押す程の紳士!襲われたりはしないわ)

清澄高校麻雀部の黒一点にして、久の求めるものを全て持ってきてくれた少年──須賀京太郎の腹部に顔を押し付けられ、まるで愛し子にするように時折髪を撫でながら、耳かき。
耳の痒さでささくれる心を見抜き、耳かきしてくれるなんて。
それでも最初は警戒もしたのに、一度耳かきをされてからは、駄目だった。
部内唯一の三年生として、麻雀部の主将として、綺羅星の如き才覚の持ち主の後輩たちに負けまいと奮闘し、張り詰めていた心が、春の雪解けの如く蕩けていく。

耳かきも終盤。
梵天が耳穴の細かい汚れを取り払いだすと、久の心臓の高鳴りがより強くなる。
行きますよ、と優しい予告に喉が鳴り。


「私以外に膝枕なんてしちゃ駄目よ」

睨むように見つめると、居心地悪そうに余所見をする後輩。
それでも髪を撫でる手は止まらない。

「衣様や透華様にねだられるんですが」
「本命なの?」
「違いますけど」
「ならいいわよ」

膝枕されながらの、他愛ない会話。
誰も戻ってこないことを願いながら、久の放課後は満たされていく。

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最終更新:2020年04月06日 22:59