「うぅ~~~ん………」
「どうしたの、そんなに唸って」

 1年生の教室で、京太郎は頭を抱えて悩んでいた。
 休み時間中、うんうんうなってはたまに何かひらめいたように頭の上に電球を点かせ、数秒すると頭を振ってまたうなりだす。

 どこまでそれが続くか、京太郎を観察していた春が、流石に昼休みが終わりそうなので聞いてみる。

「いやな、来週霞さんの誕生日だろ?」
「うん」
「高校生になってバイトが出来るようになったし、今年からは結構いいものをプレゼントできると意気込んでいたのはいいんだけど……」
「うんうん」
「内容がぜんっぜん決まらねぇ……!」

 唇をかみしめたまま、京太郎が机に突っ伏す。
 そんな友人を見て春は

「じゃあ、霞さんに直接何が欲しいか聞いたら?」
「聞いたんだよ。今年は予算もあるからすごいもの用意できますよって。そしたら『気持ちのこもったものならなんでもいいわ』って、そんな今夜何食いたいか聞いてるのに『何でもいい』って答えるみたいなこと言われてさぁ! むしろ微妙にハードル上がってるんだよ!」
「お母さんみたい」
「ほっとけ!」

 だが確かに、京太郎は去年までは金銭的余裕のなかった中学生で、高価なものを贈れない分それはそれは気持ちのこもったものをプレゼントしていた。
 霞が化粧を嗜む年頃になれば学校の技術室を借りてお手製の化粧品箱を作り、市販の草履の鼻緒が靴連れを起こしてしまいやすいと悩めば自分で草履を作ってプレゼントしていた。

 あれと同じくらい気持ちのこもったものと言われても、そうそうネタが出て来なくても当然だ。

「なぁ、春は何にするか決めたか?」
「わたしのは参考にならないと思うけど…………」
「頼む! 何かヒントになるかもしれないから!」

 両手を合わせて拝んでくる京太郎に、春はため息を一つ着いてから答える。

「新しいブラ。今使ってるのがまた小さくなったんだって」
「想像以上に参考にならなかったよチクショオ!?」

 バァン! と、机を叩いて京太郎が落胆する。
 自分が同じようにぴったりのサイズの下着でも送ってみろ。塀の中へゴーだ。

(ぶっちゃけ霞さんならあらあらとか言いながら受け取って襲う口実にしそうだけど)

 実はそれもアリなことを知らぬ京太郎はまた頭を抱え始める。

「ていうか、あれよりまだ大きくなるのかよ…………」
「(ピーー)カップになったっんだって」
「(何だろう。伏字が伏字として機能して無い気がする)
 ていうかたとえ女性同士でも下着を贈るってどうなんだ?」
「私もそうだけど、実際あれだけ大きいとかなり負担。負担を軽減してくれる下着は死活問題。実用性はこれ以上なくある」
「な、なるほど…………・あ」
「?」
「それで思いついたかも………サンキュ、春!」

 京太郎は表情を明るくすると、すぐさまスマホで調べ物を始める。
 後でこっそり検索履歴を見て、「ブラ 手作り」とでも見つけたら待ったをかけることにして、春は自分の席に戻った。

7月16日
「霞さん! おはようございます!」
「あら、早いわね。おはよう」

 朝の5時半。
 霞が日課の境内掃除をしていると、京太郎がやって来た。
 軽く息を切らせながら佇まいを直し、

「霞さん、誕生日おめでとうございます!
 これはお祝いです!」

 すると京太郎は笑顔で祝いの言葉を述べた後、封筒を手渡してきた。
 事前から春に「もし京太郎が変なものを渡して来ても、叱らないでほしい。たぶん悩み過ぎてるところに私が変なヒント出しちゃったせいだから」と言われ、少し身構えて来た霞は気を引き締めて封筒の中身を確認した。

「あら?」

 そこから出てきたのは、2枚のチケットだった。
 『霧島湯ったりランド ガールズリゾート』

 プールと水着で入れる温泉が併設された、夏でもお風呂好きに人気な施設と、それに併設された旅館の宿泊券だった。
 中でもこのガールズリゾートというのは、女性限定のエリアの名前だったか。
 宿泊の日付も、来週から始まる夏休みに合わせており、霞の予定を考慮したものだ。
 しかもご丁寧に、女性に人気と銘打たれたマッサージプランまでは行っている。

「いいの? こんなものもらってしまって? 宿泊券の方はかなり高かったでしょう?」

「そこはバイト頑張ったので大丈夫です! 霞さん最近お疲れみたいだったから、ゆっくりしてほしくて。
 ただ本当は3枚用意できれば姫様と春も行かせてあげられたんですけど、流石にそこまでは軍資金が無くて…………今回は春からヒントをもらったので、春を誘ってやってくれると嬉しいです」
「まぁ………」

 そこまで頑張ってこんな高価なものを贈ってくれた京太郎に、ときめきを覚える霞。
 しかしこちらとて年長者の意地がある。
 そこで霞はゴホン、と咳ばらいをすると

「ありがとう京太郎君。とっても嬉しいのだけれど……これは受け取れないわ」
「え…………」

 京太郎の顔から笑みが消える。
 そこで霞は境内に他に誰もいないことをすばやく確認すると

「受け取ってもいいのだけれど、条件がいくつかあります。
 一つ目、今から出来るなら、プランを変更して、女性限定じゃ無くしてもらうこと」

 指を一本立てながら、目を瞑って早口に述べる。

「二つ目、せっかくのペアチケットなのだから、京太郎君が一緒に来てくれること」
「え」
「三つ目」

 霞は念のためもう一度傍に誰もいないことを確認すると

「マッサージプランもいらないわ。代わりに………一緒にお風呂に入った後、京太郎君がして頂戴。
 このみっつを守ってくれるなら、喜んで受け取ります」
「え………」
「へ、返事は?」
「は、はい! こっちこそ喜んで!」
「ふふ、約束よ? 楽しみにしているわ」

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最終更新:2020年04月06日 23:00