最初に見たときは、箸にも棒にもかからない三流以下という評価を下したことを、覚えていた。
女目当てで部活に入ったと言われても、疑うことなく納得できたはずだった。
次にあったときは、ようやく身の丈を弁えたかと思った。
戦力たり得ぬ弱小が、それでも誰かの為に尽くそうと四苦八苦する様は良いものだった。
執事に教えを請いに訪れては、優しいとはお世辞にも言えない訓練を課され、しかしそれを熟していき。
さん付けで呼ばれていたのが、様付けになって。
愛おしいメイドたちにも慣れ親しみ、毎日龍門渕にその男の姿があることに違和感もなくなりだした頃である。
「部活を辞めた、と」
「はい。あいつらが栄冠を勝ち取ったのに、俺は地べたに押し潰されただけでしたから」
「……まぁ、あの対局を見て満足な学びがあっての出場とも思えませんでしたが」
「部長の最後の年だから、って。部長の夢のための踏み台っていうと悪いものに感じますけどね」
金髪を梳くように撫でられながら、それでもと言葉を紡ぎ。
そして、彼が衣とどれだけ対局しても怯えや畏れを見せなかったことを思い返した。
強者であれば、畏れや怯えを顕にしたであろうが、彼はそこに到ることさえ出来ていないのだ。
それ故、対局の機会でさえあれば牌を愛おしげに撫でたりもしていた。
「京太郎、貴方はもう龍門渕の執事。願いがあれば、きちんと言うべきですわ」
例えば、そう───
湿り気を帯びた金色の髪が波を立てて。
シャンプーの香りが京太郎の鼻孔を撫で。
気高さを失わぬ美貌に朱色が差して。
その日、須賀京太郎は家に帰ることなく。
ただ手元の宝玉を愛でるばかりの一夜を過ごすこととなった。
最終更新:2020年04月06日 23:05