須賀京太郎は友達は多いがモテない、と本人は思っている。
無論そんなわけがなく、ムードメイカーで気安くスポーツもできれば中学時代に思いを寄せる人間というのは結構な数いた。

ただ彼が特に面倒を見ている宮永咲という少女と付き合っているのではないか、などと噂で声がかけにくいだけだ。

そうなれば矛先がどこに行くか、引き金はあまりにも分かりやすかった。
気弱で大人しくて本ばかり読んでいる暗い少女、それが当時の宮永咲への評価である。

そして水面下で彼女へのいじめが加速し、彼女は耐え……そしてバレた。

端的に言って須賀京太郎は激おこだった。普段温和な人間というのはキレれば怖い。実際そうだった。
イジメに加担した少女たちは嫌われ、咲への構いっぷりは上昇しもはや過保護、そして咲は少しずつだが笑顔を取り戻した。

――それがすべてある少女の掌の上だと知ることもなく。

咲「京ちゃんは私のだもん。私だけの」

姉との確執に別離、結果的に咲は京太郎に異常に執着した。それは無理もないこと。
その思いはずっと彼女の根底にある。高校生になり、麻雀部に入って、目標ができて、今もなお。

咲「今はお姉ちゃんに会うために我慢してあげる。でもそれが終わったら……京ちゃんを虐げる奴、近づく奴、みんなみんな」

インターハイで勝つための臥薪嘗胆。本音はそれだった。
彼女らへの友情なんてものは実は見せかけで、演技でしかない。

本当は邪魔だった。彼女らが京太郎に声をかけるたび掌には爪痕がついた。

咲「京ちゃんは私に残ったひとつなの。絶対に誰にも渡さない」

人畜無害そうな顔で彼女は日記をつける。彼女らが京太郎にした絶対に許されないことを余さず書き連ねる。

彼女は京太郎には裏を見せない。だって彼にとって自分は大事な大事な保護対象なのだから。
彼が本当の自分への気持ちに目覚めると信じて疑うこともなく、想いを募らせる。

歪んだ想い、だが同情の余地はある。あんな家族環境で歪まないわけなんてありはしないのだから。

咲「京ちゃんのお嫁さんに早くなりたいな」

クラスメイトには否定したが、それは『今はまだ』だから。これから先にはそうなると曇りもなく信じていた。

思い込みと現実に差異があった場合なにが起こるか、それは起こす側である咲自身もいまだ知らない。


カン

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2020年04月06日 23:06