幾分か育った胸を鏡越しに見て、龍門渕透華は複雑げな顔をする。
育つのならば、いっそ件の原村和の如く人目を引きつけてやまない程のサイズにまで育てば良いのに、と愚痴って。
気に食わないことは連鎖するものだ。
最近ハギヨシ伝手に入った見習い執事の京太郎も、自分に対して一線を引いたような態度をやめようとしないし。
恋をしろ、愛しろとまでは言わないが、もう少しあるんじゃないのか。
涼しげな薄手の服を着て、透華は衣たちのところへと向かった。

須賀京太郎にとって、龍門渕透華は主であり、また立場の大きな違いから積極的に関わり合いになろうとは出来ない相手だった。
否、それは京太郎の逃げ口上であり。
いつでも前を見て、留まることなく歩み続ける彼女の姿が眩しくて。
留まることを選んだ自分が彼女の傍らにあることが許されない気がして、距離を置いてしまっていたのだが。

「京太郎」

凛とした声に振り向くと、客前ではまず見られないラフな姿の透華の姿がおり。


気を抜いた京太郎の姿を見て、叱咤ではなく理解を選んだのは間違いではなかったらしい。
軟化した態度の執事と、ラフな姿の自分。
ハギヨシには見せられないな、と方向違いの感想を抱きながら、透華は京太郎に近付く。
吐息の温度さえ、互いの香りさえ、唇の湿り気さえ感じられるほどの距離で、透華は京太郎と語り続ける。
一介の執事にすべきことではないと分かっていても、開け透けに距離を取られるよりは良いと感じるのだ。
マシンガンかガトリングのように話を振っては言葉を並べ続け、一瞬の沈黙が二人を包み。

「京太郎は、私が嫌いなのかしら?」

いや、そんなことはない。
ただ諦めて逃げた男に、お嬢様のような絶えず前に進む女性は眩しすぎるだけで。
自分が触れてはならない、立場の違いや身分の違いみたいなものを感じて。
京太郎の声に、透華は喜色と呆れで笑った。

「京太郎、確かに貴方は麻雀の道からは離れましたわ。ですが、新たに執事の道を歩み出し、今も一歩ずつ進んでいるでしょう?」

悔しければ、ハギヨシを超える逸材たり得なさい。
ハギヨシが衣に付きっ切りになったとき、私の傍らに貴方がいるように。
私が貴方の傍らにいたいと願うほどの男になりなさい。

「さ、まずは今からですわね」

戸惑う京太郎の手を取り、仲間たちの待つ部屋にエスコートさせた。

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最終更新:2020年04月06日 23:06