最初は喫茶店やファミレスでだった。
勉強を教えてもらって、代わりに携帯の操作を教えて。
受験もあるだろうに、お世辞にでも会うのが楽しみだ、楽しかったと言われれば、そりゃあ勘違いの一つもしようというもので。
だが、その勘違いで心を傷付けるのは自分自身なのだから、そこはグッと堪えていた。

「須賀君、美穂子とデートしてるってホントなの?」
「勉強を教えてもらって、代わりに携帯電話の操作を教えるのをデートっていうならそうでしょうね」

引退したはずの部長が、部室のベッドで寝転びながら笑う。
あっさりと興味を失ったらしいけど、代わりに同級生たちからの視線が強くなって。

「でも、実際問題福路さんみたいな人が恋人って良いですよね。少し欠点があるのが余計に可愛いですし」
「それ、美穂子に言ってもいいかしら?」
「なんで俺に聞くんですか」
「だって、ねぇ?」

意味ありげに笑った瞬間、背後からの重圧が一層強くなって。
追求の声を振り切るかの如く、雑用で鍛えた健脚を以て逃げ出したのだった。


久からの電話を反芻しながら、僅かに熱の籠もった頬を撫で擦る。
ふと鏡を見ると、にやけた顔の自分がいて。

「けっ…恋人なんて…まだ早いわよ…」

そう。
そんな色のある話も殆どしないし、二人でする話といえば勉強と、携帯電話の扱いと、部活のことと、次に会うときのことで。
ああ、でも次に会うのは明日。
それも喫茶店やファミレスだとお金が掛かりすぎるからと決めた、須賀君の家で。

「──────!!!!」

羞恥と、色々な感情がないまぜになったそれを抱きながら。
私は必死に考えを巡らせていた。

翌々日。

「ねえ須賀君、美穂子はどう?」
「美穂子さん、すげえ可愛いですよね」
「それは分かりきって……あら?」
「恥ずかしがりやで甘えん坊のお姉さんとか犯罪的でさえありますし」
「ちょっと待って、私はそんな美穂子を殆ど知らないんだけど」
「結婚式は洋風がいいらしいです」
「ちょっと待って、一日で何があったの…」

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最終更新:2020年04月06日 23:06