最後の客が代金を支払い、また来るよと笑って去っていくのを見届けて、閉店。
ここしばらくは毎日同じことを繰り返しているのに、慣れたと実感する余裕さえなく。
「お疲れさん、閉店までやってもらって悪かったの」
残暑の厳しさもあって冷房をかけているにも関わらず、エプロンの下は汗でぐしょぐしょのシャツが一枚。
つっかれたー!と椅子に座る汗だくの後輩に、感謝と申し訳なさと愛おしさが止まず。
どうするんじゃと問うと、泊まりたいですと戯けた答え。
フロア担当で雇った金髪の後輩は、席が空いた時の打ち子としても良く働いてくれていた。
優希、咲、和の三人は、実力も隔絶しているし、加減して打つことも出来ない。
そこへくるとこの後輩は、ルールや役はなんとか覚えたもののヘボ、初心者の域を脱することも出来ておらず。
ただ楽しむために打ちたい、言っては何だが下手の横好きと言える中年相手には丁度良い塩梅であった。
「風呂はどうするんじゃ?入るんやったら前のシャツも出さんとあかんぞ」
「あー……でも入りたいなぁ」
「……しょうがないのう」
それは、端的に、二人の間での暗黙の了解だった。
京太郎を背中から抱きしめ、首に手を回し、深く息を吸い込み──
京太郎が和目当てで入部したのは、まこも知っていた。
女所帯に黒一点、とはいえ仲間と認められたいと頑張っていたのも知っている。
その尽くを、部長は便利に利用した。
学ぶ機会など本とインターネットで充分とばかりに、僅か六人の部活の中でも活きた対局をする機会さえ殆ど与えられず。
にも関わらず、全国の舞台で晒し者にされ。
他者の夢の為に使われ、その果てに与えられたのが誹謗中傷。
支えていた恋慕さえも無惨に終わって。
居場所を失い、居場所を捨てた京太郎に、慈母が如き甘言を用いて。
まこは、全国の頂点に立つために自分が必要だったのか、長らく悩んでいた。
綺羅星の如き才覚、或いは限界まで突き詰めた確率論、或いは魔弾が如く他者の思考の隙間を穿つ打牌。
それらに比べた時の自身の非力さを、誰よりも知覚していた──せざるを得なかった。
自身以上に打ちひしがれた後輩と、傷を舐め合わないかと誘惑し。
彼に依存していることをひた隠しにしながら、彼の求めるもの──癒し、依存、慈愛、承認の全てを与え、同じものを貰って。
歪な共依存が、時を経るごとに恋慕となり、愛に昇華され、ここでようやく恋仲に到り──
最終更新:2020年04月06日 23:13