女三人寄れば姦しいとは言うが。
夏のインハイも終わり、引退した久が受験もあってか顔を出すことも減り。
二年一人、一年三人の美少女たちは、対局することもなく、ゆるりと語らいの時を過ごしていた。

「私もですね、最近太っちゃったみたいで」

どうせのどちゃんのことだから胸だじぇ、いいなぁ、何を言うとるんじゃ。
まるで女子会の様相の麻雀部部室で、ただ一人顔色を伺うことも出来ない男がいた。
一人で携帯端末を弄っては穏やかな笑みを浮かべている少年。

「胸もそうですけど、お腹や太もも、お尻もですよ。ダイエットも考えたんですが、食事制限からがいいのではないかなと」

大凡、年頃の少年の前でするような会話ではない。
だが少年からの反応は無く。
やっかむような声、嘆息の後で、会話していた三人が各々理由を持って部室を去る。
図書館に行く、好物の特売、家業手伝い、それらに口を挟むほど野暮な性格はしていない。
三人が去り、部室の鍵を託された『太った』少女は、部室の鍵を内側から閉めてしまった。
残されたのは、少年と美少女のみ。

「ねぇ須賀君、私も太ったんですよ」

「そう言われても困るんだけどさ」

「もうっ!もうっ!触らせてとか、あるんじゃないですか!?」

少女が頬を膨らませてベッドに腰掛ける。
少年がしばらく前、誰だかに電話で語っていた『おもちはサイズが全てじゃない、でも肉付きが良いのは堪らない』旨の言葉を真に受けて、肉を付けたのだ。
制服に皺が付くことも気にせず、ベッドに横たわり。
シャツごと制服を捲り、お腹を触る。
元々胸を始めとして贅肉がちな身体ではあったけど、こうなると限度を弁えないと太っただけになりかねない。

「須賀君」

「あの、和?流石に無防備過ぎないか?」

「須賀君が女の子のお腹に顔を埋めたりしたいって言ってたのは知ってますからね」

「……えと、良いのか?」

「そのために太ったんですよ」

恐る恐る近付いてくる京太郎に、とびきりの微笑を一つプレゼント。
おっかなびっくり腹に頬を当てた少年の髪を撫でながら、和は幸せそうに笑い──

女三人寄れば姦しいとはよく言ったもので。
昨日の今日ですが、ダイエット始めたんですと語らう和。
ふーん、その肉が少し欲しいじぇ、がんばりんさいと各々の答えを聞きながら、和は艷やかな微笑む。
視線の先の少年は、やっぱり表情を伺えなかった。


「疲れました………」

ぐでぇ、とベッドに倒れ伏す和の姿を見ながら、京太郎は苦笑を一つ。
飛んだり跳ねたり走ったりとするには、その二つのおもちは大きな邪魔であり、まずは長時間の散歩から始めたダイエット。
だがどうにも痩せている実感は湧かないし、なんなら京太郎と一緒にいる口実にしかなっていない気もする。
京太郎と一緒に談笑しながら散歩、慣れると気安いもの。
それでも一時間、二時間と歩くとなると、そこまでアウトドア派ではない和にはキツく。
自分の部屋に男の子を入れるのは恥ずかしいという乙女心もあってか、散歩の後は専ら京太郎の家で休んでいた。
汗で濡れた服の代わりに京太郎のシャツを借りて、服を洗濯してもらって、乾くまでの時間が語らいの時間。
京太郎のベッドに腰掛けたり、或いは寝転んだりしながら、太ももや脇腹のマッサージをおねだりして。
たまに気が緩んで眠ってしまったら、家まで送ってもらえたり、須賀家に泊めて貰ったり。
須賀家に泊まらせて貰うと家に連絡したときも、最初は揉めに揉めた。
けしからんと呆れる父、そこまで行ったならあと一歩と焚きつける母、一つのベッドで共に眠る幸福な時間。
朝起きたら抱き枕扱いされてたのは、嬉しくもあり、悔しくもあり。

「ほら和、スポドリ」

「ありがとうございます…」

京太郎の匂いに包まれながら、和は飲み慣れた感じも出てきたスポドリを飲んで。
その唇の艶やかさ、嚥下する細い喉、シャツから覗く谷間、惜しげもなく晒される太腿、或いはその全てを目に毒とばかりに顔を背ける姿をからかうほどの余裕は和にはまだなく。 

「須賀くん、膝枕してあげましょうか?」

不器用な男女の進展は、少女の親友が苛立ち説教するまで、爛れたことにはならなかったとか。

ムチムチとした太腿に、重みが心地良い。
金髪を撫で、寝息を立てる唇を指先でなぞり、愛おしさから軽く、本当に本当に軽く、抱き込もうとして。
胸に愛しい顔を埋めてしまいそうになって、断念。

(……もう)
「意地悪なんですから」

たまに電話やメールをしている相手が、どうにも自分と同じぐらい胸がある相手らしい。
喜色満面、好みの相手と差し支えることも無く話しているのを見るに、自分とはまだまだ壁があるのだと錯覚してしまう。
いっそ優希のように開け広げにぶつかれたら、とも思うが、勘違いでしたとなれば立ち直れる自信など皆無。
恋愛経験に関しては頼れる友人もおらず、母には身体を駆使してしまえば蛇のように絡め取ることも容易と唆され、一方で母娘の考えから逸脱し、あくまでも良き友であろうとする青年を好ましく思っている父。
恋人でもない相手を家に連れ込み、部屋に迎え入れ、無防備な寝姿を晒す──はっきりと好意が無ければ出来ないことなのに、恋愛経験の無さがソレを察することを許さない。
いっそ自分がこのベッドで眠り、目覚めたら裸で穢されていたというほうが、まだ踏ん切りもつくのに。責任を取らせる方向でだが。
自分から告白するのは怖いが、告白待ちで時間を食った挙げ句横から掻っ攫われるのも嫌。
悩まし気な溜息は、当分数が減ることも無さそうで───

須賀京太郎は、告白することを恐れている。
万一告白して勘違いだったとしたら、立ち直れる自信がない。
麻雀部を辞めて学校も辞めて旅に出ることさえ考えてしまいそうで。
とはいえ、度胸と意地の張り場ぐらいは察している。
場所は自室、互いにプライベート、隠すものなど何もない。
フラレたら誰かが慰めてくれるといいなと妥協と諦念も多大に含んではいるものの。
髪を撫でる手を掴み、驚く顔に間髪も入れずフルスウィングで告白をぶちかますだけ──

「どうしよう咲、俺和にフラレた」
「ええ……(困惑」

「どうしたらいいの優希、私驚きと困惑で須賀くんをフッちゃった…」
「ええ……(困惑」

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最終更新:2020年04月06日 23:13