放課後の麻雀部部室。
秋も深くなったとはいえ、残暑はまだまだ厳しく。
気の早い夕暮れに照らされながら、須賀京太郎は着替えていた。
夏の栄冠を手にした後は、各々趣味や生活と部活を並行するようになって。
「───須賀くん」
ぽつりと聞こえた声色に、硬直する身体。
扉が閉まる音がして、鍵が閉まる音がして。
フラレた相手と今更どのツラを晒して会えばいいのか、何を言えばいいのか。
口が乾く。
精一杯の根性を振るって振り向こうとして─
「ごめんなさい、須賀くん」
愛らしかった目が、兎のように真っ赤に染まっていた。
落ち着いた口調ばかりが印象に残っていた娘の、震えるような声。
弱々しい──なんて弱々しい。
「あ、和……」
「私、須賀くんに告白されて、本当はすごく嬉しかったんです──本当に、本当に…」
でも、と。
「急に言われて、混乱してしまって。落ち着いて考える余裕もなくて、あんな酷いことを」
「あ、うん。あれは俺の告白の仕方も悪かったよ」
おずおずと歩み寄ろうとする美少女を抱き寄せてやると、感極まってか泣き出して。
それに口を出すほど無粋なつもりはなく。
少し乱れた桃髪を撫でながら、涙がシャツを濡らしていく感覚をじっと味わっていた。
『あの、和?』
『……はい』
『俺と、付き合ってくれないかな』
『はい……喜んで。お願いします、頑張って須賀くんの好みの女の子になりますから、いっぱい可愛がってくださいね…?』
部室の外で聞き耳を立てる二人の少女の心境は如何ばかりのものか。
邪魔をするのも野暮とばかりに立ち去る姿は、堂々としていた。
最終更新:2020年04月06日 23:14