須賀京太郎が神代京太郎となり、一人の美人妻と四人の愛妾を与えられ。
何もせずとも全てを与えられる、蜂蜜のような日々の最中にあって。
それでも京太郎は、甘露に屈することもなく、愛妻と愛妾のために働いていた。
軽口を叩き、気を使い、それでも動くことが好きだというのと、ただただ与えられるだけなのは嫌だという僅かな意地と矜持。
それを知った神代の御大や石戸の父親は尚の事に彼を気に入った。
──霞と小蒔以外に、彼を支えるものを知る人は、いない。
「お疲れ様、旦那様」
自身の太腿を枕にし、寝息を立てる青年への慈愛を以て微笑む霞。
彼の弱さを受け止めるたび、受け入れるたび、それでも頑張る『旦那様』『御主人様』への依存心が強くなっていく。
この人が、私に存在意義を与えてくれる──
髪を撫でながら、頬を撫でながら、かつて狂おしい程の嫉妬に身を焦がした日々を思い出して──
『京太郎様を支えているのは、私──』
『なのに、何故姫様が正妻に──』
『京太郎様の全てを受け止めているのは、私なのに──』
灼けつくような嫉妬、わがままを言って困らせた自分を受け止め、愛でてくれたのも、旦那様なのだ。
共依存の日々は、未だ終わっていない。
京太郎から、清澄高校での日々の記憶が失われつつあった。
きらびやかで、幸せそうに見えて、その実何一つ与えられはしなかった日々。
幼馴染の声も、小さな切込み隊長の声も、かつて恋した少女たちの声も、もう聞こえない──
最終更新:2020年04月06日 23:15