白無垢姿の花嫁二人に、紋付き袴の花婿。
大袈裟にはしたくないというのが花嫁と花婿の一致した願いであり、その願いは見事叶えられることとなった。
花嫁二人の腹は見事に新たな命を宿しており、仲間たちや親族から見ても筆舌に尽くし難い色香を纏っていた。
段取りに手間取ったとは花嫁たちの父親の言だが、その結果孕み腹の娘に白無垢を着させることになるとは思わなかっただろう。
何れも初の妊娠ゆえ、戸惑うことばかりの愛妻と愛妾に手を差し伸べ、優しく歩む花婿に向けられるは、妬み嫉みの他に同情もあった。
一歩、二歩と緩やかに歩む三人に、ほろ酔い加減の壮年の男が呵々大笑、娘たる愛妾でさえ見たことのないような機嫌ぶりで近付いて、

「本当にありがとう、京太郎くん!」

霧島は閉ざされた地、ともすれば姫の侍女働きで女としての充実さえ知らずに老境を迎えるやも知れなかったと、かつて教えられていた。
正妻でないことに言いたいことはあったろうが、それでも愛妾として愛でられ、一人の女として子を孕み、ましてや白無垢を纏うての婚姻の儀を営めるなどとは。

「石戸、神代の次代を担う希望を、君が与えてくれたようなものだ。何度感謝してもしたりない」
「やめてくださいお義父さん。……ここは、逃げて逃げて逃げ続けた俺を、優しく迎え入れてくれたんです。…俺を、愛してくれたんですから。俺の持ちうる限りの愛で応えたかったんです」

婚姻の儀とはいえ、ここに集うは霧島に関わる人々ばかり。
飲んで騒いでと祝宴を楽しむ人々の輪に戻ろうとして、一歩。

「そういえば、明星ちゃんも京太郎君の子をもらいたがってるとか。姫様と霞が良ければ、あの子も見てやってほしい」

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2020年04月06日 23:22