全国大会が終わり、清澄高校麻雀部の女子チームは全国優勝、個人戦では宮永咲が二位という成績を収めるという快挙。
 一方、須賀京太郎は県大会予選初戦敗退という、比較すれば月とスッポンな成績だ。

 目を背けたくなるような成績の京太郎にも、ちゃんとした向上心はある。というかありまくる。部活中は雑用をしながらも、ネト麻や元部長の竹井久に麻雀を教えられているし、雀荘に行って武者修行などもしている。
 休日である今日も、昼から麻雀を上手くなるためネト麻をしていたわけなのだが、二時間ほど過ぎ、集中力が切れ、一旦ネト麻を辞めた。

「疲れたなぁ」

 椅子に背中を預けると、ギシっと椅子から音が鳴り響く。
 集中力が切れた京太郎は、何気なしに窓から見える外の景色をボーッと見つめていた。
 太陽が照り輝きながらも、暑くもなく寒くもない風が吹いている、外に出るには絶好の日和。
 京太郎は中学ではハンドボール部である。マイナーではあるが、県大会もある競技だ。つまり体を動かすことが嫌いではないのだ、京太郎は。

「よし! 走るか!」

 決意が変わらないうちに行こう、京太郎は直に外出用のジャージを取り出し着替える。
 久しぶりに体を動かすことにワクワクしながら、部屋を出る。階段を降りると、リビングから母親の須賀京子が皿洗いする音が、京太郎の耳に入り、京太郎は口を開く。

「母さん! ちょっと走ってくる!」

 伝えとかないと煩いからなぁ、なんて思いながらそう言うと、リビングから「気をつけて走ってくるのよー」という言葉が返ってきた。

「心配性だよなぁ」

 靴を履いて玄関を開ける。京太郎はそう言いながらも、口元は笑っていた。

「適当に走るかー」

 まったくもって無計画で飛び出してきた京太郎は、とりあえず走った。走るには、無計画ぐらいが丁度いいのだ。
 心地よい風が頬を撫で、時折吹く強い風が耳元でひゅうひゅうなる音、少しづつ心拍数が上がっていく感覚、照り付ける太陽は暑くはなく、なんとも言えない心地良さ。

「気持ちいいなぁ」

 見慣れた光景なのに、なんとも面白い。
 どれくらい走っただろうか、息が切れ始め、昔より走れなくなったなぁなんて思いながら、休憩と水分補給のために、水飲み場がある近くの公園に入る。

 小さな公園だった。滑り台とブランコにベンチ、そして水飲み場ぐらいしかない、特徴のない公園だ。

「美味いな」

 疲れた体に冷たい水、染み渡る感覚と美味さに舌太鼓を打っていた京太郎は、ふとベンチに人が座っていることに気づく。

「あれは……」

 丁度ベンチは木陰に入っており、気持ち良さそうに人が寝ている。女物のワンピースを着ていることから、女性ということが遠目からもわかった。
 不用心と危なっかしいさに、ついつい京太郎は、中学からの腐れ縁で、女の子として惚れている宮永咲を思い出した。
 あいつは不用心で良く迷子になるやつだが、流石に此処まで不用心ではないだろう。
 京太郎は、お節介かもしれないが、ちょっと注意しとくべきだな、そう思いながら近づくと、見覚えのある顔に、手のひらで顔を覆いため息をついた。

「マジかぁ……」

 認めたくはなかったが、本当に京太郎としては認めたくはなかったが、宮永咲だった。

 此処まで不用心ではないと、思ってた、思っていた、それを裏切る出来事に、京太郎の評価のなかにある、咲のポンコツ指数が上がりに上がって、天元突破してるまであった。

「……はぁ」

 遠慮なく京太郎は、寝ている咲の横にゆっくりと、起こさないように腰を下ろす。

「不用心すぎ」

 返事はない。そもそも返事が欲しくてこぼした言葉でなかった。
 可愛らしい小さな寝息をたてている彼女、咲の頬を軽く数回突くと、うーんと魘されてるかのように声を上げる。

「柔らかいなぁ……変態かよ」

 ハッと少し笑らながら、如何するべきか考える。起こすべきか起こさないべきか、チラリと先を見た。可愛らしい寝息と、口元には少しよだれが垂れており、実に幸せそうに寝ている。
 ふっと肩に重さを感じた。心地よい重さだ。

「しょうがないなあ」

 肩に咲がもたれかかっていた。まるで京太郎が座るのを待ってたかのようなタイミングだ。もし座るのが数分遅ければ起きていただろう。

「京……ちゃ……」

 寝言でも夢の中で自分が居ることに、嬉しさが込み上げる。
 惚れた弱みという言葉があるが、まったく、その通りだ、自分には似合わない言葉だなぁと苦笑いしながら、咲が起きるまで何をするか、京太郎は頭を悩ませるのだった。


カン

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最終更新:2020年04月06日 23:36