042-343 鉄の道 第9章 レスキュー @パラレル"



燃え盛る炎に今まさに飲み込まれようと、脱線しているゼロを発見したアーニャは、まだ原形を留め、多くの助けを求めている乗客が閉じ込められている独房(客車)の10mほど先で列車を停車させる。
「全力で行くぞ!!」
「さぁ行こうか!!」
停車したと同時に、猛然と運転席から飛び出して行くジェレミアとノネット。
その後にライが続こうとするその背中を、アーニャが止める。
「ライ!!」
「?」
自分を呼びとめたアーニャを向いたライは、少し涙目になっているアーニャの紅い瞳を真っ直ぐに見る。
その瞳は、心は、ライを失うのではないかという恐怖で一杯だった。
「必ず・・・・ここに帰って来て、待ってるから!!」
その叫びにも似たアーニャの言葉、ゆっくりと近ずき、ライはそっとアーニャに唇を重ねる。

愛する人の不安を取り除く様に優しく。

突然のキスに一瞬ビクッとなるアーニャ、けれどキスから伝わるライの想いに、さっきまでの恐怖心は落ち着いていく。
「必ず戻って来る、ここを頼む!」
「うん!!」
ライは固く、そして強く決意する、アーニャの元に必ず戻って来ると!

客車の方でも、乗り合わせていた消防旅団の6人の隊員は、ハンマーやチェーンソウ、斧を手に駆け出して行く。
その目に燃え盛る闘志を秘めながら。
「いいか!!車体はアルミを多く使っている、切り崩し一刻も早く救助するぞ!!」
「「「「「了解!!」」」」」
隊長を務めているジョーンズを先頭にして突進していく、その数こそ少ない救助隊にゼロの乗客達は歓喜に包まれる、さっきまでの恐怖にかられていた表情から一変して。


「鉄の道 第9章 レスキュー 」



客車に着いた旅団の6人は3人1組のチームを組み、ふたてに分かれて車体の切断にとりかかった。
しかし、いかにアルミを多く使用しているとはいえどやはり固い。斧で切りかかっている若い隊員は、その固さに数回の振りかぶりだけで焦りを見せる。
「くそっ!!中々、切れない!!」
「焦るな!!切り口がバラバラでは効果は無い、冷静に対処すれば大丈夫だ!!」
「は、はい!!」
若い隊員に冷静になるように落ち着かせるベテラン隊員だが、彼にも焦りは有るのだろう。
象徴するかの様に、額には汗の筋が多くなっている。
それから数分しての後、脱出の突破口が開かれる。
「班長、OKです!!」
「よし、離れていろ!!」
若い力と言うのは頼もしい、と思う一方まだまだ負けん!と意気込み、その渾身の力を持ってしてハンマーを振りかざす。
数回の打ち込みでバコッ!!と音を立てて道が開かれる。
「よ、良かった。助かった」
「焦らないで、ゆっくりと順番に降りて下さい!!」
安堵し、出口になだれ込もうとする乗客を安心させ、順番に降ろし始める。
「大丈夫、時間はまだ有ります!!」
自らの焦りも沈めるように言いきかせ、乗客を降ろし、オリエントへ導く旅団の隊員達。
その間にも炎は燃え広がるばかり、森の木々は次々と焼かれ夜を赤く照らす。
「こっちも切れたぞ、ハンマーを頼む!!」
「はい!!」
隊長ジョーンズの焦りのある早口な命令、だが部下はそれを気にしている場合では無く、無我夢中でハンマーを振りかざす。
(火の勢いが速い、このままではオリエントも巻き込まれてしまう。だが焦りは、死に直接つながる原因の1つ!しかし・・・・)
冷静に対処しようにも心と体はそれを許さない、冷静になろうと努めている時にまた、バコッ!!と鈍い音を響かせてできた脱出口に、群がる乗客を順番にこちらも降ろす。


一方のライ達も似た様に作業を繰り返していた、切り崩し、叩き割り、その出来た扉から逃げる人々。
「あせる事はありません!!ゆっくり落ち着いて避難して下さい!!」
ジェレミアが叫びながら横転している客車に取り残された生存者を引っ張り上げる。
「掴まって、よしよし、もう大丈夫だぞ!!」

「あ・・ああ・・」
ノネットに引っ張り上げられ外に解放された女の子は一瞬ホッとしたが、横転している車両の高さと、周囲で燃え上がる炎を見、足がすくんでしまい、声も出せなくなってしまった。
「私の胸に思いっきり飛び込んで来い!!私を信じろ、怖がるな!!」
泣きじゃくる子供を腕を広げて安心させる様にする母親の様に優しく言い、C.Cは腕を広げる。
その助けを信じ、怖がりながらもその女の子はC.Cめがけて飛び込み、受け止めるC.Cは優しく抱きかかえる。
「強い子だ、もう大丈夫だぞ。名前は?母親はどこだ?」
「ミ、ミサト・・・ママ・・は・・解らない」
頬は煤で汚れている涙目のミサトは、行方知らずの母を想ってか泣き出してしまう。
C.Cも1人でいる不安を知っているだけに、ミサトと自分の過去の姿と重ねると、強くミサトを抱き締めなおす。
「安心しろ、お前の母親は生きている。私が探してやるからな」
「う、うん」
抱きかかえたままC.Cは客車に走る、その瞬間だった!!
ドッカーーーン!!と凄まじい爆発音があたりに響き渡り、炎と煙はさらに勢いとその量を多くしていく、もはや一刻の猶予も無い。
その爆発の瞬間、オリエントに向かっていた乗客はその身を守ろうと伏せる。
「いそげ、時間が無い!!」
「走れ、早く車内に逃げるんだ!!」
ある程度収まったのを確認してからまた走り出す、どの人も焦りと恐怖がまだ支配している。
それを象徴するように転んでしまう人、まだ引きつった表情にしかならない人しかいない。


救助開始からいくらの時間がたっただろうか、それすらも解らない。
ただ、ゼロに閉じ込められていた乗客のほとんどはオリエントへ避難を完了していた。
その中で、盛大に燃えている森を背に、横転している12号車と書かれた客車の上にたたずむ、揺れる白銀の髪を持つ機関士ライ。
「よし、これで良いな・・・・それにしてもこれだけの惨事でいまだ死者0とは」
大量の汗を拭い感心する、8両近くもの客車が原形をとどめないほど破壊され、横転した客車も数知れないというのにだ。
「どうだライ、これで全員か?」
「最後尾の客車にいた乗客は、全員退避したのを確認しています」

ライと同じく汗が額を流れているノネットとジョーンズは、息を少し切らせながら険しい顔で確認する。
「これで全員だと思います・・・・けど」
「けど?」
納得のいかない、深く考え込むライにジェレミアが聞く。
「ルルーシュ達の姿・・・・誰か見ていませんか?」
「いや、見ていない」
すまなさそうにジェレミアが、首を横に振りながら旅団の若い隊員も同じく答える。
「私も同じです」
すぐにかえって来た返答にライの顔色は悪くなっていく、まさかと、考えたくは無い答えが頭を過る。
客車を見渡しながら考える、彼等は何処にいるのかを。
(ルルーシュは、必ず目印を作っているはずだ・・・・何か)
見渡していくうちに、ある事に気付きハッとする。
「どうした?ライ」
「ノネットさん、ちょっと待っててもらえますか?調べたい事が有るんです」
ノネットの了承を得ずに、ライはその客車に向かって全速力で走って行く、ノネットやジェレミアが止める暇もない位早く。
「何があったんだ、ライは」
呆気に取られてしまったノネット達はポカンとしてしまい、ライの背中を見送ってしまう。


16号車と書かれた客車、ここだけ他の客車と大きく違った部分が有った。その姿を確かめたライの考えは確信に変わる。
「やっぱりそうだ、ここだけ窓が少ない。それに他の客車の損傷が大きいのに、こいつだけほぼ無傷だ」
ライは近くにある窓を、手にしているハンマーで破ろうとしたがビクともしない。
その間にまたドッカーーーーン!!と大きい爆発が起きた、残されているタンクローリーは次々に爆発していく。
ライは奥歯を噛みしめ、何か手はないかと考え下をみる。

その答もすぐ近くにあった。

「イチかバチか、やってみるか!!」
腰にしている愛銃を手にし、全弾を行く手を阻む壁にぶちこむ。
その後にありったけの力で振りかざしたハンマーは見事に窓を打ち破る。

そこから車内に飛び降りたライの目に最初に入ってきたのは、ベルンで会話した女性の見るも無残な姿だった。
「カレン!!」
ぐったりとしているカレンのスーツはボロボロだった、その姿を見てライはまさかと思い急いで駆け寄る。
「カレン、しっかりしろ!!カレン!!」
体を揺さぶり、懸命に呼び掛けるライは必死だ。その思いが伝わったのか、カレンはゆっくりと頭をあげる。
「・・・・ライ?」
その弱く覇気がない声には生きる気力さえ感じられない、目も虚ろで彼女がどれだけ弱り切っていたかを物語っていた。
「良かった、生きてたんだな。まだ間に合う、早く脱出しろ!!」
だがその言葉も、今のカレンにはそれすらも届いていなかった。また俯いてしまうカレンは涙を流す。
「私は、もういいよ・・・・こんな事にした・・・・私なんて」
その悲痛な声に、ライは目をカレンから背けた。信じたくは無かった、殆ど敵対していたとは言え、あんなにも輝いていて、自信と誇りに満ちていたあのカレンが・・・・。
しかし、何時までもこんな状態にしておくわけにはいかない、強い瞳を持ってカレンに言う。
「カレン、君は生きなきゃいけない。どんな事になろうともだ!」
「どうして!?私は・・・・こんな事にしたのに」
涙を溜めた目を逸らそうとするカレンを、安心させる様に強く抱きしめ優しく話す。
「君だけがこんな事にしたわけじゃないだろ?こんな所で死んで、いったい誰が喜ぶんだ?まだやり直せる、だから今は生きろ!僕もついてるんだから」
「・・・・ライ」
やっと微笑んでくれたカレンだが時間がない、ライはカレンを打ち破った窓まで連れて行き脱出させた。
見送るとライは、緩んだ眼光をまた鋭くさせ捜索を続ける。
車内に戻ってすぐにユーフェミアとスザク、そしてシャーリーを見つけた、気絶しているユフィとシャーリーを抱きかかえるようにスザクも気絶している。
衝突の直前にユフィとシャーリーを守ろうとしたのだろう。

その姿にライも考える、もし僕が同じ状況になったら・・・・。

「僕もアーニャを守ろうとするだろうな。スザク、見事だよ」
また緩みそうになる眼光を鋭くし、トランシーバーでジェレミアに連絡を入れる。

「ジェレミアさん、要救助者3人を発見しました!!16号車に救援願います」
「了解した、待っていろ!!」
ジェレミアの何時もの元気ハツラツな大声とは違う、緊迫したとても威圧ある声。
だからこそ、僕も安心して1つの事に集中出来るのだとライは改めて感じる事が出来る。
「・・・・残るは、ルルーシュだけか」
「俺なら、ここにいる」
後ろからの声にハッとするライだが、それが知っている声だと解り安心する。
「生きていて良かったよ、ルルーシュ」
振り返ったライは、カレンと気絶している3人と同じく悲惨な姿に心を痛める。
「ふ、無様だろう?かつてお前を失脚させたこの俺が、こんな姿になって」
生意気な口は相変わらずでどこか安心したが、その言葉にはあの時の力強さは微塵も感じられなかった。
悲しい、率直にライはそう感じた。
「ルルーシュ、君は生きる気は有るかい?」
「・・・・愚問だな、こんな大事故を起こしておきながら、今さらどの面をさげて生きろと言う?」
ルルーシュの目を真っ直ぐに見て問いただす、ルルーシュも同じく真っ直ぐにライの目を見て答える。
その返答にライは思う、“ルルーシュは責任を取るつもりだ、自分の命と引き換えに”と。
「衝突の直前、と言うより暴走が判明した時、君は乗客を最後尾へ退避させたんだよね?」
「・・・・ああ、そうだ」
その答だけで十分だった。
「なら良かった、乗客は誰一人として死んではいない」
「ほ、本当か?本当に、誰1人として死んでないと言うのか!?」
予想だにしていなかったのだろう、それまでの死人の様な目に生気が戻っている。
ニヤッ、心の中ではあるが計算通りにいった事にニヤニヤが止まらなかった、そして思う“相変わらずイレギュラーに弱いな”と。
「ああ、それに此処で命を絶っちゃ、オリエントで待っているシャルル会長、マリアンヌ婦人にナナリーも悲しむよ。やり直しならまだ効くさ!僕だって付いてるんだし」
顔を伏せるルルーシュは眼頭に熱いものを感じる、あんな事をしても友だと言ってくれる、ライと言う存在に胸が一杯になる。
「ライ・・・・ありがとう、お前に出会えて良かった」
「さあ、時間が無い!早く脱出しよう!!」
過去の溝が3年を経てようやく埋まった、長いようで短く感じた3年。
ライは、その間もルルーシュ達との友情はまだ治せると信じていた事は無駄じゃなかったと、静かに感激し同じく頬を一筋の光が濡らすのだ。



ルルーシュ達を無事に客車まで送ったライは大急ぎで機関車に向かい、愛しき人の姿を見るなり大声で叫んだ。
「アーニャ!!」
「ライ!!」
ライの無事な姿を確認したアーニャは、運転席から飛び降り、思いっきりライを抱きしめた。
ライも、今ある全部の力でアーニャを抱きしめ返す。
「お帰りなさい、ライ」
「ただいま、アーニャ」
とびきりの笑顔でアーニャはライの帰還を出迎えてくれた、その笑顔に今までの疲労など、いとも簡単に溶けてしまう。

そして、今、僕は生きているんだと実感する事が出来る。

「ライ、すごくいい顔してる。すごくカッコイイ笑顔」
「どんな笑顔だよ、それよりも――」
何時までも甘い余韻に浸っていられない、こうしている間にも炎の勢いは増して行っているのだから。
ライはまた気を引き締める。
「早く脱出しよう、もう長居は無用だ」
コクッと頷いたアーニャは運転席に駆け上がり、出発準備を始める。
「「ライ!!」」
2人の元気の良く、聞き慣れた声が後ろから聞こえる、だがライには振り向く事無くとも解っている。
仲間が無事であった事を、向き合った3人は無言の笑顔でお互いを出迎えた。

長く共に歩んできた戦友に、わざわざ言葉で感情を表す必要など無い様に、お互いの気持ちは分かっているのだ。

「行こうかライ」
「全ての人は救助した、もう良いだろう」
「はい」
3人が頷き、出発準備をしようとした時、ライのトランシーバーから叫び声にも似た
「(ライさん!!後ろの線路が、燃えた木々で塞がれてます!!このままじゃあ脱出出来ません!!)」

ナナリーの声が入って来た。
「「なっ!!?」」
「なんと!!」
3人は驚愕する、この大爆発の連続でライ達はある結論を、答えを導き出していた。
その答から逃れる方法はただ一つ!!

バックして避難する事。

しかしそれが、たった一つの方法が炎に阻まれてしまった今、彼等に残された道は絶望的な一本の道しかない。
「ライ・・・・」
運転席にいるアーニャが、希望をほぼ失った目で語りかける。
「希望は、もう無いのか?」
ジェレミアは、何も打開策も浮かばない己を悔み。
「なにか無いのか?この絶望から、抜ける方法は!!」
必死に考えるノネット、だが直に思いつかない歯痒さを感じる。そんな中でも、静かに、冷静に考えるライは決断する。

もはや助かる道はこれしか残されていないのなら、とことん突き進んでやろう、と。

「列車を最大速度で前進させる!!」
その正気か!?と取れる決断に、無線を通じてC.Cの焦る声が響く。
「(正気かライ!?)」
「ああ、もうこれしか道が無いのなら、とことん突き進むしかない!!こいつなら、僕達なら出来るさ!!奇跡は人が起こすものなんだから」
その言葉に沈黙が覆い尽くす、ライの強い意志の籠った言葉に。
「よし、それで行こうじゃないか!!燃えるシュチュエーションは嫌いじゃないしな」
ニヤリと笑うノネットは、血に飢えた狂戦士の様な笑みを浮かべ。
「同志が行くのならば、このジェレミアも付いて行かずに誰が行く?」
「(しゃあねぇな、付き合うぜ!!テメーの覚悟、見せてみろや)」
友が、弟分が行こうとしているのに、自分だけついて行かずにどうする?ジェレミアと、無線から聞こえるルキアーノはそう思う。
全員の思いは唯一つ、生きてまた旅を続ける事、それだけなのだ。一つとなった心に、ライは指示を出す。生きて帰る為に!
「アーニャ、ノネットさん、全速前進!!ジェレミアさん、万一に備え特殊燃料の準備を!!ミレイさん、ナナリー、司令室に救援隊の出動要請を!!」


「行くぞ!!」


TO BE CONTENYU


最終更新:2009年07月30日 00:18
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