043-548 妬みのアッシュフォード学園・クリスマス変! 02 @全力

01


「ルルーシュ!」
「リヴァルか!? 頼む、助けてくれ!」

覚悟! という前にルルーシュが悲痛な声で叫ぶ。 シャーリーと緑髪の女に左右の腕を引っ張られて、その顔は苦痛に歪んでいる。

「離しなさいよ、ルルは私とデートなの……!」
「いや、こいつにはこれからクリスマス限定のピザを私に奢る崇高な使命があるのだ」

二人は言い合いながらぐいぐいと腕を引っ張る。 そしてそのたびに悲鳴を上げるルルーシュ。
リヴァルはスザクに聞いた大岡裁きとかいうものを思い出した。 もっともその後、ルルーシュがソロモン王の英知が元の話だろう、と言っていたが。

「えっと、そのまま互いに引き合って勝った方が連れて行けばいいんじゃないか?」

離した方が連れて行くというこの話のオチはシャーリーも知っているはずである。 これでシャーリーが離せば、リヴァルが後をとりなせばいいだけだ。
そうすればシャーリーの好感度が上がる。 そしてこの美談がミレイ会長に伝わればミレイからリヴァルへの好感度がうなぎのぼりで有頂天となる。
しかしリヴァルこの裁きを行ったのが権力者であるということを忘れていた。 それに、緑の髪の女がこの話を知っている可能性を失念していた。

「そうか」
「えっ!」

リヴァルの言葉を聞いてすぐに緑の髪の女はルルーシュの腕を離す。 シャーリーが腕を引いていた勢いのまま後ろに倒れ、腕をつかまれていたルルーシュも引きづられてこける。

「ほう、女を押し倒すとは、やるじゃないかルルーシュ」

緑の髪の女が言うように、二人が倒れた姿勢はルルーシュがシャーリーを押し倒しているように見えなくもない。
そのことに気づき互いに赤面する、が、近づいていた顔は緑の髪の女により引き離させる。

「というわけでこいつは私が連れて行くぞ、悪く思うな」
「えっ、ちょっと待ちなさいよ!」

ルルーシュの腕を取り歩き出す女を再びシャーリーが止める。

「勝ったのは私よ」
「あぁ、そうだな。 だが、古来からこの話は離した方の勝ちなんだよ」
「えぇ!? あ……そういえば前にスザク君が……」
「わかったか、ではそういうことでこの財布はいただいていく」
「自分で食べるもののお金は自分で出しなさいよ、別にピザを食べるくらい一人でいいじゃない」
「ふっ、屈辱に満ちたルルーシュの顔がピザの旨味を何倍にも増幅させるのさ」

リヴァルは見た、シャーリーからオーラ的な何かが湧き上がるのを。 そして彼は思う。 ほっとけば天誅が自動的に下されるのではないか、と。
一人納得したようにうなずいたリヴァルはそこから立ち去ろうとする。 しかし、世の中そんなに甘くなかった。

「おい待てリヴァル、置いていくな! 置いていかないでください!」

そのルルーシュの言葉に思い出したかのようにリヴァルのほうを見る二人。

「リヴァル、私の勝ちよね? ルールどおり手を離さなかったんだから」
「ふふっ、私の勝ちだろう? 史実のように手を離したのだから」

リヴァルをにらみつける二人、わかっているなと言いたげな視線はリヴァルを凍りつかせる。
だが、そこにリヴァルに対する救いの手が差し伸べられる。 

「なら三人でピザを食べに行けばいい」
「ライ君!」
『ライ!』
「ほう」

四者三様の言葉を放ち、ライのほうを向く四人。 そして一人納得したような声を出した緑髪の女はルルーシュの手を引きながら走り出す。

「確かシャーリーだったか、来い、私が至高のピザを食べさせてやろう」
「ちょっと、待ちなさいよ!」

それを追って駆け出すシャーリー、あとにはライとリヴァルの二人が残された。

「ライ、お前無事だったのか!」
「あぁ……何でも勘違いだったらしい」
「はっ!?」

何が勘違いだったのか、そんなことをリヴァルが考え……そして気付く。

「あっ! ルルーシュに裁きを与えるのを忘れてた!」

彼は展開が激しすぎたための根本的な目的を忘れていた。

「大丈夫だ、僕にいい考えがある」

それを聞いたライは何かを思いついたのかおもむろに携帯を取り出す。
そして手馴れた様子でどこかへ電話をする。

「もしもし……うん、そうだよ……実はルルーシュが二股をかけていてね……あぁ、本当だよ……シャーリーとあと緑色の髪の女の子だったよ……うん……それじゃあ」

ピッっと音を立ててライは通話をやめる。 そして、ふぅと息を吐きリヴァルのほうを見る。

「これで大丈夫だ」
「えっ!?」

ただ一本の電話、リヴァルにはそれがどう裁きに繋がるのかがわからない。
そしてリヴァルの反応からわかっていないことに気付いたライは簡単に彼に説明する

「ナナリーに電話した」

そして夕方すぎ、アッシュフォード学園にしっと団団員たちが集合する。

「よし! これからが本番だ! 夜に向けて活性化するアベックどもを! 聖夜を性夜に変えようとする愚か者どもに鉄槌を!」
『うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!!』

今日一番の気合と怨念がこもった叫びをあげる団員たち。 そう、彼らの本格的活動は今から始まるのだ。
だが、そんな彼らの熱さを冷ますかのように天候が変わる。 曇り空から雪が降り始めたのだ。

「しまった! 天はわれらを見捨てたか! これでは『うわぁ、雪が降ってきたわ。 ホワイトクリスマスね、素敵!』 というノータリンな会話が発生してしまう!」

別にクリスマスは素敵である必要はない、雨は夜更けすぎに雪に変わる必要などない、むしろ集中豪雨でいい。
少なくとも人目につく場所でいちゃつくのは防げる。 しかし現実は非常である。 イルミネーションに照らされて白い雪が輝く幻想的な風景が作り出されてしまっている。

「……」

うろたえる団員たちを見てライは、しっとエースの名を与えれた彼は考える、どうすればこの状況を打破できるのかを。
そして彼はひらめく、彼にしかできないやり方でホワイトクリスマスを阻止する方法を。

「皆、僕がホワイトクリスマスを阻止してみせる。 だからそのあとのことは任せた!」

そういい残して彼は走る。 特派のトレーラーへと。

(たしか、ロイドさんが作った新型のフロートユニットがあったはず、アレなら……)

そこまで考えてライは重大なことに気付く。 上空に飛んでも雪はどうにもならない、と。
雲を散らせばいいのかもしれないがその高度まで飛べるのかは不明である。

思考をめぐらせて走るうちにライの目に特派のトレーラーが見えてくる。 同時にトレーラーの入り口に立つ人影が見えた。

「セシルさん!?」
「あっ、ライ君!」

思わず口からその人物の名前が出る。 そしてライを見つけたセシルはパァっと花の咲くような笑みを浮かべた。

「ライ君、これからクリスマスパーティーをやろうと思うの」
「……初耳です」
「当然よ、サプライズパーティーなんですから。 でもね……ロイドさんもスザク君も来なくてどうしようかと思っていたのよ」
「……僕が来なかったらどうしていたんですか?」
「それは……」

困ったような表情を浮かべるセシルを見て、ライは思わず笑みを浮かべる。 ちなみに今現在彼の頭の中からホワイトクリスマスをどうにかするということは抜け落ちている。

「じゃあ、二人きりのパーティーですね」
「そうね……二人で楽しみましょう」

なんとなく雰囲気に流されるライ、しかし、次の一言で正気にもどった。

「いつもより気合を入れて料理を作ったの」
「……」

あぁ、僕は死ぬんだな、とライは本能的に感じ取った。 そして自分が先ほどまで幸福感で忘れていたことを思い出す。
ホワイトクリスマスを何とかする、と。 なるほど、自分の欲に負けた、自分ひとりが幸せになろうとした裏切り者にふさわしい罰だ、とライは思った。

しかし、そのときライに電流が走る! 圧倒的ひらめきっ! ホワイトクリスマスをつぶすひらめき!

「セシルさん、ランスロット・クラブにフロートユニット、付いてましたよね?」
「え、えぇ、昨日ロイドさんが持久力を上げた試作型を取り付けましたけど」
「よしっ、ちょっとテスト飛行してきます!」

そしてライは走り出す。 約束を果たすために。 途中でテーブルの上にあった比較的まともではない料理をタッパに詰め、ランスロット・クラブに乗り込む。


「よし、条件はすべてクリアされた……ランスロット・クラブ、飛翔します」

そして勢いよく飛び立つ機体。 その光景を一人の女性が見守っていた。


「……よし、ここまでくれば……」

租界を一望できる絶景を目にしながらライはタッパを開く。 そして中身をスプーンで細かく刻み上空からまく。

「ハーッハッハッハッハッハ! セシルさんの愛を受け取るがいいさ! そして知れ! 悲しく苦しい愛を!」

やたらとハイテンションになった彼は高笑いしながら少しずつすっぱくて甘くて苦くて塩味が効いていて辛い料理を空中に散布する。



その日、租界では原因不明の食中毒が発生した。 深夜に町を歩いていた人間はすべて病院に運ばれる大惨事となる。
また、謎のマスクを付けた集団も大量に病院に運び込まれた。 彼らはとても満足げな表情を浮かべながら気絶していた。

(ごめん、皆……)
「さぁ、ライ君。 クリスマスパーティーの始まりです」

無事空から帰ってきたライはセシルとともにささやかなパーティーを始めた。 ライが直感的に危険だと判断した料理はすでに空から地上へと降り注いでいったために、彼は安心して料理を食べていた。

「あ、このチキンは美味しいです」
「うん、私もお気に入りなのよ」

だいたいが既製品であるために、なんら危険はない食事。 彼は幸せに浸っていた。
好意を持っている人間と二人きりで過ごすクリスマス、殲滅した人間、ともに戦った仲間たちに謝りながらもすばらしいものだと彼は思っていた。
笑顔のセシルの持ってきたものを目にするまでは。

「ライ君のために作った特製のケーキよ」

目の前に存在するのはケーキというものの概念を覆した斬新な発想が随所に見られた。
クリームが塗られている、チョコレートでデコレーションされている、フルーツがトッピングされている。
ここまでは普通だ。 だが、土台がおかしい。 つぶつぶなのだ。 具体的に言うと米だ。 しかも青色。

「この前作ったオスシをアレンジした和風クリスマスケーキよ」

ライは自問自答する。 これは、ケーキなのだろうか、と。 否! 断じて否! これをケーキと思うのはすべてのケーキを侮辱する行為だろう。
というか何故青色なのだろう、黄色とか赤なら食べられるのに……ごめんなさい、僕は嘘をつきました。
もはや混乱してまとまらない思考、それに追い討ちをかけるようにセシルが言う。

「さぁ、めしあがれ」

この日、病院に運ばれる人間が一人増えた。

おまけ その後のルルーシュ

「お兄様……最低です……」
「ヌァァァァァァナァァァァァァリィィィィィィィィィィ!!!」

その後、三日ほどナナリーに口を聞いてもらえなかったルルーシュはしばらく抜け殻のような日々をすごした。




おまけそのに、ボツネタ

「皆、緊急参加してくれることになったニーナだ」
「よ、よろしくお願いします」
「なんでニーナが!?」

ライが淡々と紹介するが、リヴァルは驚く。 まず、彼女が参加する理由が思いつかないからだ。

「うん、昨日リヴァルがいないときにスザクがユーフェミア様とデートするって……」

そこまで言ってライは震えだす。 ニーナが「ミレイちゃん、離して、そいつ殺せない!」とか叫んでいたのは気のせいだ。 今もなにやら紫色の薬品の入った試験管を持っているのも目の錯覚に違いない。

「嫉妬パワーが俺たちのうちの誰よりも上、だと……」

マスクを付けたリヴァルが何かつぶやいている。 でもライには聞こえない、そう、聞こえない。



ボツ理由。 レッドクリスマスになる。


あとがき


             ,.   ―   .,.        
          , . ´ lヽヘュ  :  .  ` ...    
        /  .  /ゞ:;'ゝ.  : :  . . ヽ   
       , '.  . : . . ` . . :  : .  . . '、   まだだ、すべてのアベックを根絶やしにするまで!
       / 丿^ゞ    |    へ/^ゝ .  ',     もてない男が救済されるまで!
      i  > |\丶  |   ソ /ノ <   :::i   一緒にケーキを食べる恋人が現れるまで!
      !  ) ヽ \ヽしっとノ / ,ノ (.  ..::::::!
      ',  ゝ  ヽ_ゝヾ|//_ノ  く......:::::/
       ' 、 ^ゞ-丶-‐⌒ ^ゝ-、/ゝソ^...::::::::;'   しっとの炎は決して消えることはない!
       ヽ :  . ..   .  ;  :  ;:::::::;::::/
        ヽ.  : .   . : :  ...:.:.:::::/
          ` .、    .    ....:::;:''''´
              `    ー



最終更新:2009年12月30日 22:15
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