ルルーシュ・ランペルージは急いでいた。 アッシュフォード学園の購買部へと彼の出せる全力の力を持って駆ける。 昨夜は騎士団としての活動をしていたため、買う暇がなく、授業を受けるために朝にも買うことができなかった。
租界の書店に行けばいくらでもあるだろう。 だが、彼は今、すぐに、読みたいのだ。 ジャンプを。
(くそっ、無駄に授業を長引かせる教師め! あと五分遅れたらギアスを使うところだ)
などと悪態をつきながら彼はひたすらに購買部を目指していた。
「ハァ……はぁ……よし、残り一冊、ギリギリか……」
購買部に並べられた雑誌のうちのひとつ、残されたジャンプに二つの手が伸びた。
「……」
「……」
二つの手がジャンプを掴む光景をルルーシュの目が映す。 そして、彼は無言でその手の主を見た。 ルルーシュの目に映ったのは先日熱い議論を交わした友人がこちらを見ている姿だった。
「ライ」
「ルルーシュ」
二人は互いの名を笑みを浮かべながら呼ぶ。 互いの目を見て、ジャンプを話すことなく二人は話し始めた。
「お前はマガジン派だろう? ここは俺に譲るべきだと思わないか?」
「いや、たまには敵情視察も必要なのさ。 それに、僕が読んでジャンプ派になるなら君にとって喜ばしいことなんじゃないのかい?」
「いやいや、俺はそんな中途半端な覚悟でジャンプ読んで欲しくない。 ジャンプにだって失礼だろう? ジャンプは本である。 本は楽しんで読むもの。 もっとも楽しんで読めるジャンプ派こそ読むべき。 こういうことだ」
「いやいやいや、なんだその三段論法は。 いっておくが僕は結構な漫画好きになりつつあるから僕が読んでもジャンプは喜ぶよ」
「いやいやいやいや、俺が読むほうがお前が読む30倍くらいジャンプが喜ぶ、だから譲れ、ライ」
「いやいやいやいやいや、たまには違う人に読んでもらうほうが新鮮さがあっていいってガンガンが言ってたよ、だから僕に譲ってくれ、ルルーシュ」
「ガンガンはそういっててもジャンプは違う、お前にジャンプの気持ちのなにがわかるって言うんだよ」
「きっとジャンプもそう思ってるって、サンデーも新しい読者が増えるとうれしいって言っていた」
「わかった、率直に言おう。 俺が読みたいんだよ」
「うん、僕も読みたいんだよ」
二人は語り合い、そして理解した。 相手は強敵だ、と。 もし手を離せばジャンプは相手のものになってしまう、と二人は直感的に悟った。
「ならば、戦おうか……」
「あぁ、どちらがジャンプを買うか……」
「買うんならさっさと買いな! 後がつかえてるんだよ!」
「「ごめんなさい」」
張り詰めた空気は購買部のおばちゃんにより破られた。
「さて、これでジャンプは俺のものだな」
自信に満ちた笑みを浮かべながらルルーシュは宣言する。 彼の自身の源はたった今ポケットにしまったカードにあった。
「くそっ! まさかすぐに代金を払うとは……」
おばちゃんに怒鳴られた後、ライは財布に手を伸ばし、お金を出そうとした。 だが、胸ポケットからクレジットカードをだすというルルーシュの動作に対しては速さが足りなかった。
ジャンプの代金を払ったのはルルーシュ、つまりジャンプの所有権はルルーシュにある。
「フハハハハハハハハ! 俺の勝ちだな、ライ! たとえジャンプ2週分の代金を渡されても俺はこれを手放さない!」
「……今日のところは引き下がろう、だが、来週は、来週こそは……!」
捨て台詞を残して立ち去るライの後ろ姿をルルーシュは優越感に浸りながら眺めていた。
「よし、では歩きながら読む……か……」
買ったばかりのジャンプに目を向けたルルーシュは目を見開く。 その表紙に書かれていた文字を、何度も、まばたきしながら見る。
だが、何度見てもその文字、「赤マルジャンプ」という文字は存在していた。
「……まぁ、読むけどな」
そういえば先週「合併号で○○連載再開か、もっと仕事しろよ」とか考えていたなぁ……ということを今になってようやく思い出すルルーシュだった。
最終更新:2010年02月03日 21:53