ライは生徒会室の扉の前で立ち止まっていた。 一応、仮入学していて、仮の生徒会役員である彼は今から生徒会室に入り仕事をせねばならない。
だが、扉の向こうが若干騒がしい事が彼の手足を止めていた。
経験上――記憶を失ってからの短い経験であるが――この先にはかなりの高確率で何らかのイベントが待っている、とライは推測した。
現に「男子全員猫耳の日」とか「健康サンダル履いて仕事」とか、その発想がどこからくるのか分からない思い付きイベントを経験してきたのだから。
更に聴こえる声の主はルルーシュ、スザク、リヴァルの三名。 全員男性である事がより不安に拍車をかける。
「……入るか」
しかし、このまま扉の前で立ち止まっていても何も解決はしないし、何らかのイベントだとしても自分だけ逃げて彼らを見捨てる薄情さを持ち合わせてはいなかった。
ライはゆっくりと扉を開け、中を確認しつつ生徒会に入る。
まず真っ先に会長の机に視線を向けた――が、目にしたのは自らの予想とはかけ離れた姿だった。
イベントを提案して慌てる皆を少し笑いながら見ている、それが今ライが思い描いたミレイ会長。
だが、実際には真面目な顔で机の上の書類と向き合っていた。
少し安堵の息をもらし、同時に疑問を抱く。 何故男子三人が騒がしかったのか、と。
とりあえずやかましい方に目を向け、その会話を聞くことで疑問はすぐに氷解したが。
「ジャンプの面白さが一番だろう?」
「いや、サンデーが一番面白いさ!」
「お前らに存在が時々忘れられるチャンピオン派の悲しみの何が分かるっていうんだよ!」
ルルーシュ、スザク、リヴァルの熱い週間少年○○が一番面白い議論が繰り広げられていた。
「努力、友情、そして勝利! 三つの力が一つになったジャンプこそ至上!」
何故かポーズを極めながら叫ぶルルーシュ、特に「至上」の叫びでビシッっと極めたポーズは神々しさすら感じる。
「サンデーの面白さを否定させはしない!
それにその三つはまさに王道、ジャンプにもサンデーにもマガジンにも存在するそれらは決定的な決定力とはならない、なりにくい!」
スザクの反論もなかなか的を射たものであった。
「おいィ? なんで今チャンピオン飛ばしたんだよ!
チャンピオンにだって努力、友情、勝利くらいあるぜ?」
リヴァルがその言葉にすぐさまツッコミを入れる。
そして、しばらく三者に無言が続く。 時間にして数秒ほどたってからおもむろにルルーシュが口を開いた。
「……三つ巴では埒があかないな」
「そうだね、ルルーシュ。 君の言うとおりだ」
「あぁ、つまりこの戦いの結末は……」
リヴァルの言葉と同時に三人がライの方を向いた。
「ライ、お前は何が好みだ?」
左手を顔の前に出し、ルルーシュが言う。
「ジャンプか、サンデーか、それともチャンピオンか」
ズズッっとスザクもライに迫る。
「……俺達、親友だよな?」
微妙に悲壮感を漂わせながらリヴァルもライへと近付く。 どちらかと言えばチャンピオン読者は少ないので劣勢に立たされていたのだろう。
「ぼ、僕は……」
ライは言葉に詰まる。 誰の味方をするべきか、自分の好みを正直に言うべきか。
そして、少しの迷いののち、彼は言い放った。
「僕は、マガジン派だ!」
三つ巴の争いが四つ巴の争いになった瞬間であった。
「いや、だからジャンプは面白い、それは認める。
だけど僕はマガジンの方が好きだ」
「そうだよ、ジャンプの面白さは僕も認める。
でもサンデーの方が好きだよ」
ライの言葉にスザクが追従する。
「くっ、似たような事を……汚いなさすがコラボきたない。 雑誌二冊がかりとか卑怯すぎるだろ」
好きな雑誌の主張は違えど、ジャンプを面白い、と言った上での言葉にルルーシュは思わず悪態をついた。
「卑怯とかじゃないから、仲間に入れて貰えなかったのが寂しいの?」
「そうだよ、それにこっちは同じ日に発売されているんだから仲の良さは証明されているよ」
「違う! 断じて寂しくなどない!
俺がどうしてジャンプのあまりにも強大な面白さには太刀打ちできないとばかりにコラボした雑誌を恐れているって証拠だ」
なんだかんだで『三人』の議論は白熱していく。
「お前ら……チャンピオン無視すんなよ!」
三人の話題にすら上がらなかったチャンピオン派であるリヴァルが言う。
「「「チャンピオンとかバキしか読まない」」」
「何でだよ! なんでよりにもよってバキだけなんだよ!」
三人声を揃えての『バキしか読まない』発言にリヴァルは半ばキレ気味に怒った。
「ルルーシュ、君だって『うしおととら』や『からくりサーカス』を読んで泣いただろ?
他にもガッシュとか……」
「連載終了したものは今関係無い。 そう、全ては過去、終わったことだ」
スザクの言葉に言い切るルルーシュ、その言葉に迷いはなかった。
「過去!? これだからジャンプ派は……連載終了を何とも思わないのか!?」
スザクのその言葉にルルーシュは顔を歪める。
「お前……ッ! 俺だって、俺だって打ち切りされた漫画にお気に入りがあった!
みえるひとやP2が何故消えねばならなかった!」
拳を握り、奥歯を噛み締めながらルルーシュは言った。
「……マガジンやサンデーなら打ち切られなかった」
ポツリとライが呟いた言葉にルルーシュは敏感に反応する。
「所詮それは仮定、イフの話だ。
ジャンプ派だからといってジャンプのやり方を全肯定している訳ではないが、それでもジャンプに連載される漫画が好きなのだから……」
少し俯きながら言うルルーシュの声には悲哀の音があった。
打ち切られてしまったお気に入りの漫画を思い出しているのだろう。
「……僕が思うに無理に決着をつけなくていいんじゃないか?」
「……うん、僕もそう思った」
ライとスザクがルルーシュに向かって言う。
「……あぁ、結局は好みの問題、ジャンプもマガジンもサンデーも面白く、一番を決めるのは個人の主観だからな。
サンドイッチの具がハムかツナかカツかで言い争うようなものだ」
「僕はハム派」
「僕はツナかな」
「俺はカツが好きだが……そういう話ではない!」
笑いながらルルーシュはツッコミを入れた。
「まぁ、とりあえず今日の所はこれまでだな」
「うん、溜まってる書類やらなきゃいけないね」
「そうだな……ん? 何か忘れている気が……気のせいか」
その日、仕事を始める時間は遅かったが三人で協力した為か仕事ははかどった。
「……チャンピオン面白いのに」
独り呟くリヴァル、その哀しみ故にいつもより作業ははかどったようだ。
おまけ~もしナナリーがいたら~
「あの……」
四人が言葉を交わしているとおずおずとナナリーが声をかけてきた。
「漫画って面白いんですか?」
かいしんのいちげき!
リヴァルは(心に)580のダメージ
「ぬわー」
リヴァルは倒れた
スザク(の心)にクリティカルヒット!
9999
「ウボァ」
スザクは倒れた
きゅうしょにあたった
こうかはばつぐんだ
ライのめのまえがまっくらになった
ルルーシュに(あらゆる面で)9999万のダメージ
ルルーシュははいになった
最終更新:2010年02月03日 21:54