クリスマスのアベックを殲滅した英雄、しっと団。 彼らはクリスマス以後目立った活動はしていなかった。
クリスマスに彼女ができたと笑うかつて友だったものを妬み、恋人と別れたものをざまぁみろと笑い、新年になってカップルになった人間を妬む。
だが、その感情を決して表には出さずに耐えてきた。 クリスマスと同じか、それ以上にアベックがはびこるイベント、バレンタインのために……
「なぁ、リヴァル」
「どうした、ライ」
「なんで僕らは経済特区日本に向かってるんだっけ?」
「おいおい、もう忘れたのか? しっと団エリア11総本部での会合に俺たちしっと団・アッシュフォード学園支部が招かれたからじゃないか」
「……いや、僕は――――」
「ライ、お前はすごいよ。 入団したてでアレだけのアベックを殲滅できるなんてさ。 なんでも新しく就任したエリア11総本部団長から激励の言葉もあるらしいぜ」
「……どうしてこんなことに」
特区日本へと止まることなく進んでいくアッシュフォード学園の極々一部の生徒を乗せた電車から窓の外を眺めながら、ライは悔いていた。
セシルの料理のあまりのまずさに暴走してしまった過去の自分を。 クリスマス以後活動などなかったものだから、そんなことをしたのを忘れていた自分の愚かさを。 ゴキブリホイホイのように粘着質なしっと団の絆を甘く見ていたことを。
ライは彼女のいる友人の話を憎憎しげに語る周りの皆の話を自分には関係ないと聞き流し―――――
「それでさ、トムのやつ彼女に弁当作って貰ってるんだ。 しかもすっげぇ美味そうなんだ……」
トムは死ねばいい。 そんなことが瞬時に頭に浮かんだライ。 なんだかんだ言いつつ、彼もしっと団になじんでいるのだろう。
周りの白い目を気にしつつも受け流し、彼らはしっと団総本部へと向かうのだった。
「ワシの若いころはアベックどもをちぎっては投げ、ちぎっては投げ、やつらを恐怖のどん底へ叩き落したものだ……
最近のやつらは生ぬるい! 昔は告白しそうな軟弱な男どもには48のしっと技を食らわせて再起不能にしていったものだ。
しかしながら、最近の若いやつは――――――」
ライ達アッシュフォード学園のしっと団団員たちが総本部に入ってからしばらくして始まった先代しっと団総本部団長の演説は既に一時間以上続いていた。 かつての栄光、最近の活動は生ぬるさ、基本的にこの二点を繰り返し話し続けていた。
幾人かのしっと団団員達はその長い演説により眠りの世界へといざなわれていた。
「つまりだ、アベックどもを――――――むっ、もうこんな時間か。 まぁ、長々と話してきたが、ワシは今のしっと団は今のしっと団でよいものだと思っておる。
ワシもさすがに年をとり、しっと心が薄れてきてしまった……かつての過激な行動はできん。 そして、今平和が保たれている時期にそのようなことをすべきではないこともわかる。
ゆえに、そろそろ次の世代へとバトンを渡そうと思う。 あと、最後にひとつ忠告をしよう……取調べ中のカツどんは自腹だ」
先代しっと団総本部団長の演説が終わる。 そして先代総本部団長はゆっくりとそのマスクに手をかけ、高らかに宣言する。
「もう、普通のおっさんに戻ります!」
「……あれ? なんか僕あの人見たことが……あ……」
そこにいるのはもうしっとの心の代弁者ではない。 上半身裸の若干太り気味のおっさんだった。 そのおっさんの顔を見たライはあることに気づいた。 日本解放戦線、そして黒の騎士団の一員として手配されていた男の顔を思い出す。
「仙波……崚河……」
奇跡の藤堂の部下、四剣聖の一人、仙波崚河。 エリア11がまだ日本という名前の時からアベックを殲滅し続けた男は後人に道を譲った。
「そして、新たなしっと団総本部団長は、この漢だ!」
仙波が腕を伸ばした先にしっと団団員たちの視線が集まる。 と、いきなりその場の明かりが消え、二つのスポットライトが動き始める。
しばらくスポットライトは無秩序に動き、仙波の示した場所にとどまる。 そこには黒い仮面の男がいた。 チューリップのような仮面には燃える炎のようなペイントがなされている。
「しっと団総本部団長を承った、ゼロだ……!」
仮面のペイントのスキマが光を浴びて輝く。 右腕を高く掲げ、左腕はそれに垂直になるようにピンと伸ばされている。 ピシっと揃えられた脚はO脚やX脚とは無縁の代物だ。
しばらくその格好を維持した後、右腕をゆっくりとおろし、肩の高さより少し低めの位置に両腕を持ってきて、そして胸を張る。
「聞け! しっと団の諸君よ! 私は悲しい……。 哀れみと優越の視線。 振りかざされる自慢話!
悪意なき言葉の刃! 勘違いされる我々の善意、報われぬ好意! そう、世界はいつだって不平等、弱者への虐げが存在する!
だから私は、この壇上に立った……アベックどもが、持たざる者を虐げ続ける限り、私は諸君らの味方となろう!」
手のひらを上方に向けた両腕を掲げ、ゼロは説く、彼の思う理論を。 彼は示す、しっと心の行き場を。
「さしあたって一週間後、2/14に私は粘膜の作り出す幻想に溺れるアベックどもへと天誅を下そう……。 バレンタインデーは聖人をたたえる日、同時に愛が生み出される日、それを認めよう。 だが、アベックどものそれは決して愛ではない!
性欲に溺れる愛などはあってはならない。 人は、心を繋ぐことができる。 互いに好意を抱き、互いにすべてを捧ぐ。 それが愛だ! 我々の求める、愛だ! だというのに、やつらの向ける哀れむ視線。 真に哀れなのは彼らだ!
私は示そう! 君たちに、彼らに、真実の愛とはいかなるものかを! 製菓会社に踊らされる愛などは不要! チョコレートが欲しいのならばコンビニエンスストアに行くがいい!
愛のある贈り物がしたいのならば、いつでもいいだろう。 誤った愛を撒き散らす、バレンタインデー! それを我らの手で正そうではないか!」
ゼロの叫びが終わり、その場にいたものは静まり返る。 だが、その静けさは一瞬のものだった。
「……ゼロ、ゼロ、ゼロ!」
「ゼロ、ゼロ、ゼロ! ゼロ、ゼロ、ゼロ!」
「ゼロ! ゼロ! ゼロ! ゼロ! ゼロ!」
誰かが叫びだすと、まるで堰が外れたかのごとく、ゼロ、と叫ぶ声が響きあう。 それを仮面越しに眺めるゼロだったが、ある一箇所に視線を向けた瞬間、仮面の中の顔は驚きに歪んだ。
(ラクシャータ謹製のリア充スカウターに反応……? ……バカな! 何故しっと団のアジトにリア充力5000ガバスのやつがいる……!
いや、だがしっとカウンターでは500万ギガバイトか……くっ、遠くて見えんが確かあのあたりはアッシュフォード学園から招いた……まさかリヴァルか!?
フッ、ありえないな……ともかく不確定要素には早めに対処しなければ……!)
考えをまとめたゼロは歓声の中両手をあげ高らかに言う。
「諸君らの健闘を祈る!」
そして、やまぬ歓声を後にゼロは総団長室へと向かう。 しっと団幹部へとある指示を出した後に。
「やるじゃあないか、ルルーシュ」
部屋に入ってかけられた言葉、それを聞きゼロは即効で扉を閉めて鍵をかける。 幻ではないかと仮面の中の瞳を2,3度瞬かせ、それでもなおそこに存在する人物に対する言葉を捜す。
しかしながら、とっさに出てきたのは思っていたこと、すなわち
「何故お前がここにいる」
「私がC.C.だからさ」
しれっと答えるC.C.に頭に血を上らせながらもゼロは言葉を吐き出す。
「俺が聞きたいのは、どうやってこの場所を知り、どうやってここにきたか、だ」
「忘れたか、私は魔女だぞ? 契約者の場所を知ることなど造作もないことだ」
答えになってはいない答え、だがC.C.の中ではそれはしっかりとした答えなのだろう。 やはり持っていたピザを食らいながら悠然とソファに寝そべった姿勢を崩そうとはしない。
「しっと団総団長ねぇ……そんなことだからお前は童貞ぼうやなんだ……」
「なっ……!」
ゼロに聞こえるようにC.C.は呟く。 その言葉は彼の冷静さを容易に奪い去る。 彼の怒りが有頂天を迎えようとしたとき、その怒りをとどめさせ、頭を冷やさせる事態が起こる。
コンコン、と部屋に響く音、続いて彼の良く知る声が聞こえた。
「総本部団長、アッシュフォード学園支部の団長 リヴァル・カルデモンド、ただいま到着しました」
その声を聞いたゼロはソファで寝そべっていたC.C.の腕を引っ張り、前任者の予備のマスクが大量に保管されている隣の保管庫へと押し込め、外から鍵をかける。
普段の彼には決して出せない力を出せたのはしっとマスクのおかげかもしれないし、そうでないのかもしれない。
「あぁ、入ってくれたまえ」
数分前、ゼロの演説が終わってからリヴァルとその隣にいたライはゼロの呼び出しを受けた。 そのしっと団員も、ただ呼び出して欲しいと言われただけでその理由は聞かされていなかった。
「んー、ゼロが俺たちを呼ぶ理由か……いったいなんだろうな」
「確かに……」
リヴァルの何気ない言葉に、適当に相槌を打つライ。 彼は頭の中でさまざまな可能性を推測、吟味、整理していた。
単純にこのまえのクリスマスのことでの呼び出しを考えたが、アオモリゲットーのしっと団員、しっと
サイクロンが出会うアベックにパイルドライバーを食らわしていった功績で壇上でたたえられていたからそれはないだろうと考える。
自分がブリタニア軍人だからというのも考えたが、黒の騎士団とブリタニア軍は和解しているといっていい。 それに彼は黒の騎士団のゼロではなく、しっと団員のゼロとしてこの場にいるのだろう、と考える。
他人のしっと心はある程度以上のしっと心を持った人間には、あいまいだが読み取ることができる。 無意識のうちに自分がしっと心をはかることが出来ているのをライは全力で見逃す。
結局、何故呼ばれているのかわからぬままにゼロの待つ部屋の前に彼らはたどり着く。 そしてリヴァルがドアをノックして中へと声をかけた。
少し間をおいて今現在のその部屋の主の入出許可がおりたので二人は部屋へと入る。
「……っ! ……君たちがアッシュフォード学園のしっと団員か」
「は、はい!」
「……アッシュフォード学園しっと団団員、ライです」
ゼロはリヴァルとともに入ってきたライに一瞬驚きを見せるが、すぐに取り繕った。 間近でゼロを見たリヴァルは少し緊張気味に言葉を返し、ライは少し間を空けて自己紹介する。
「……君がしっと団に入団しているとは思わなかったな」
「僕もですよ」
ゼロがライのほうを向き言葉をかけ、それにライが言葉を返す。 二人の言葉を聞いたリヴァルは首をかしげる。 そして、遠慮がちに二人に声をかけた。
「えーっと、知り合い……なん……ですか?」
「あぁ、特区日本の仕事でね……まぁ、それ以前からの付き合いではあるな」
ゼロの言葉にライもうなづく。 それを見たリヴァルはライがブリタニア軍に所属していたことを思い出す。 なるほど、ゼロと面識があってもおかしくはないだろう。
だが、知り合いだから呼ばれた、というわけでもないだろうとリヴァルは考える。 先ほどのゼロのセリフからライがいることは予想外だったということが推測できるのだから。
「……とりあえず用件を言おう、今度のバレンタインの作戦、私はアッシュフォード学園へと向かう」
「……えっ」
「……」
二人の困惑を感じ取り、ゼロは更に言葉を続ける。
「大人になれば、バレンタインという行事は義理の絡む、製菓会社の陰謀に巻き込まれたイベントとなるのが大半だ。 なにが逆チョコだ、なにが友チョコだ。 チョコレートを食べたいなら毎日でも食うがいい!
……すまない、取り乱した。 つまり、学生の欲というのは恐ろしいものだ、若さゆえの過ちという言葉もあることだしな。
乱れた風紀を正すために、おそらく今のエリア11、日本の中でもっとも学生の多い地区であるアッシュフォード学園の近辺を警戒しようと思ってな。
ゆえに君たちに許可を取ろうと思ったのだ」
「当然OKですよ! ゼロがきてくれるならこちらの士気も上がります! 今日の演説だって、俺ら聞きほれてしまいました!」
「僕らの団長がそういうんだから、僕に異論はない」
二人の言葉を聞き、ゼロは仮面の中で笑みを浮かべる。 彼がしっと団団員になった目的はこれでクリアされたといってもいいだろう。
「ありがとう、リヴァル君……いや、同志リヴァル! そして同志ライ! 君たちの奮戦を期待する!」
「はい!」
「了解です!」
話が終わり、リヴァルとライは部屋から出て行こうとする。 だが、それをゼロはさえぎった。
「ライ、君に話がある……少し残ってくれないか? 少し長くなるかもしれないが……」
「……はい……リヴァル」
「ん、了解。 俺らは特区日本の見物でもしておくよ」
そういい残し、リヴァルは部屋の外に出る。 残されたゼロとライはしばらく互いに黙っていたが、ゼロが話を切り出した。
「ラクシャータの作ったリア充スカウターという装置がある。 ……まだ実験段階と言ってもいいものだが、なかなか信用の置ける装置だ」
「……つまり、僕から……」
「理解が早くて助かるよ。 君からはリア充値5000ガバスが検出された。 だが、しっとカウンターでは500万ギガバイトほどのしっと心が計測された」
ちなみに実験として扇要のリア充値を測ったところ、1500かける10の三乗モジャ(単位はいろいろ変わるので実質数値のみを考えればよい)だった。
その後、彼は黒の騎士団内のしっと団から闇討ち(特に玉城は「親友だと思ってたのに!」と叫びつつ積極的に扇にビンタをかました)を受ける羽目になった。
「……僕は、一応セシルさんという彼女がいる」
「……お前ッ!」
「僕がしっとするのはね……料理が上手な彼女を持つ人間なんだ」
「……」
「君にはわかるかい? 彼女の手料理が紫色の煙を出しているのが見えた時の気持ちが。 それを食べなければならないものの気持ちが。
しかも、それが味見をした結果の産物だということが!」
料理が下手な原因は多々ある。 ライの言うセシルという女が味音痴な部類に入る、とゼロは理解する。 興奮して「おにぎりにジャム」「ケーキにポン酢」と叫ぶライの声を聞き、アレンジャーであることも理解した。
「――――――卵かけご飯にあんことバニラアイスを入れられたとき……」
「もういい! すまない……! すまない……! 本当にすまない……!」
卵かけご飯のアレンジという失敗するほうが難しいものを聞かされて、ゼロはライの言葉をさえぎる。 料理の名前を出すたびにだんだん青ざめていくライの顔を彼は見ていられなかった。
「……ちなみに、アッシュフォード学園にいる君の仲間はなんと?」
「毎回ねぎらいの言葉を」
「そうか……だが、君に彼女がいることはあまりまわりに知らせないほうがいい。 言ってはなんだが、君の仲間は甘い。 それは悪いことではない。
だが、しっと団のなかには彼女がいる! という一点のみにしか注目しないやつが大多数だ……あんな演説をした後で言えるセリフではないと私も思うがな……」
「ゼロ……」
「話はそれだけだ……気をつけてくれ」
そしてライは部屋を去る。 と、同時に隣の部屋へと続く扉が開く。
「まったく……よく回る舌じゃないか」
「……C.C.……以外だな、お前が話に乱入してくるものとひやひやしたが……」
「お前の私に対する認識がどんなものかよくわかったよ」
「あ、いや……」
「私の心を深く傷つけた罰だ、お前にはこのバレンタイン限定チョコレートピザを10枚とバレンタイン限定チョコレートチーズ君を奢ってもらわねばなるまい。
いや、その程度では到底この傷は癒せんな……冬季限定のホタテピザも5枚ほど必要だな。 あと―――」
「わかった、俺が悪かった、謝ろう。 ピザだろうがなんだろうが奢ってやる。 だから、今は、速やかにここから誰にもばれないように出て行け!」
「……いいだろう。 奢るという約束、忘れるなよ」
そう言い残し、一応辺りをうかがったあとに出て行くC.C.を見送った後、ゼロはバレンタインの作戦案をまとめる。
「……とりあえず、最近流行りの逆チョコというのを警戒して男からチョコを奪うべきだな……もてなくなる可能性を示唆すれば女性から奪う、ということはないだろう。
奪ったチョコは恵まれないエリアの子供たちに配る―――――このあたりの手配はディートハルトに任せるか。
……黒の騎士団のメンバーの大多数が所属しているとは思わなかったが、これはこれで俺の目的を達成するのには好都合だ―――」
ナナリーに近づく害虫どもの駆除にはな! と心の中で叫ぶゼロ。 ちなみにロリコン疑惑のあった南はしっと団より追放処分を受けている。 ゼロが「幼女、少女には手を出すべからず」の項目を更に強化した結果である。
「ふぅ……まったく……」
監視の目をすり抜け、C.C.はしっと団のアジトの外へと抜け出していた。 そして、特区日本に最近出来た公園のベンチに座り、中空を見ながら一人で喋る。
「―――――マリアンヌ……ルルーシュは否定するだろうが、あいつはシャルルに似ている……」
かつて、皇帝になる前の若き日のシャルル・ジ・ブリタニアの姿を思い描く。 長髪をまとめ、マスクを被り、ビスマルクとともに大暴れしていた彼が108人の妻を持つことになるとは、誰が想像できただろうか。
皇帝がマリアンヌにアックスボンバーをくらって沈められていたなど誰が信じられようか。
「まぁ、あいつらがどんなことをするのか、少し楽しみではあるがな……」
まだ見ぬチョコレートピザの味に思いをはせて、C.C.は微笑みながら呟いた。
バレンタインデー当日。 しっと団は各々が持つアジトにて作戦開始を待っていた。
「我々は、すべてのモテない男たちの代弁者である! 彼らは、モテるやつらには天誅が下るべきである、とそう思っていることは間違いない!
しかし、彼らには行動を起こす力がない。 ならば、我々がかなえてやろうではないか! 理想があっても、力のないもののために!
我らが力を振るう! 出来るということを見せる! だからこそ、後に続くものが現れるのだ!
何も恐れることはない、私が肯定しよう! 君たちは正しいのだ! 行くぞ! 甘いチョコに脳内を汚染された愚か者に、罰を与えるのだ!」
『承知!』
『了解!』
『いくぜぇぇぇ!』
『うおりゃあああああああ!』
ゼロの号令の元、各地のしっと団たちはいっせいに行動を開始する。 自らの肉体を頼りにモテる男からチョコレートを強奪するしっと団員もいれば、手に持ったカカオ100%の人体に有害ではないチョコレートをもてていそうなの男の口に押し込む。
いそうな、とは言ったが勘でそのような男をすぐに見分けられるしっと団員が大多数である。 うらみやしっとは時として理屈を超えた力を生み出すのだ!
また、今にも口に運ばれそうなチョコレートにすぐさまにタバスコをかけて無理やり押し込める、という世の中の辛さを教えるしっと団員もいる。
そう、彼らは世間の恐ろしさを教えているのだ。 甘いと思ったものが甘いとは限らないということを、親切にも教えているのだ。 しっとする相手にそのようなほどこしを与える、そう、彼らの心は冬の海のように、広大で荒れ狂った心なのだ!
「よし、ではこちらも作戦を開始するぞ、全員、マスクの準備は万全か?」
「はい、皆しっかりとマスクを被っています、ゼロ!」
「今の私はゼロではない、しっとジャスティス・ハイパーだ! わかったな、しっとリーダー!」
「了解です、しっとジャスティス・ハイパー殿! ではいくぞ、皆!」
『チョコはどこじゃぁぁぁぁああああああ!』
「……なん……だと……!?」
呆然とするしっとジャスティス・ハイパー(ゼロ)としっとリーダー(リヴァル)、そしてしっとエース(ライ)を残し、アッシュフォード学園のしっと団員たちは学園内へと散らばっていく。
突然の出来事に固まっていた3人だったが、絹を裂くような悲鳴を耳にして、ようやく我に返る。
「くっ、どういうことだ!? 女生徒には手を出すなと、あれほど言っておいたはずだが……」
「すまない、しっとジャスティス・ハイパー。 おそらくあいつらチョコレートのにおいで我を忘れるほど暴走しちまったんだ。 俺がしっかりと教育をしていなかったから……」
「しっとリーダー、君だけの責任じゃないさ。 僕だってアッシュフォード学園のしっと団の一員。 僕にも責任はある。 でも、今は……」
「あぁ、わかっているさ……しっとエース、しっとジャスティス・ハイパー、あいつらを止めるのに力を貸してくれ」
「了解」
「承知した」
三人が悲鳴の聞こえた場所へと向かうと、そこには数人の女生徒を囲むしっと団員の姿があった。
「ギブミーチョコ!」
「チョコをよこせ!」
「おいてけー、おいてけー」
「な、なんなの、こいつらは……」
じわりじわりとにじり寄るしっと団員たちはその格好と合わさり、明らかに変質者に見える。 ヒィ、と怯える生徒たちの中には泣き出しそうなものもいた。
「クラブ・キィィィィック!」
「あべしっ」
そんな彼女たちの姿を見るや否や、しっとエースはとび蹴りを放つ。 ジャンプした後空中で回転を加えたキックはその威力を逃がすことなくもっとも女生徒に近づいていたしっと団員へと命中する。
「無事ですか」
「は、はぃ……」
劇的なシチュエーションに若干ほほを赤らめる女生徒だが、救いの主が明らかに目の前の変質者と同じような格好をしているためか、声が引きつる。
それに少し遅れてしっとジャスティス・ハイパーとしっとリーダーが駆けつけた。
「貴様ら、今回の作戦内容を忘れたかッ! 女生徒を襲うなかれ、とあれほど言っただろうに!」
「あぁ、わかっているさ……だが……」
しっとジャスティス・ハイパーの言葉に彼らは俯く、が、顔をあげると同じ言葉を、同じタイミングで放つ。
『チョコレートが欲しいんだ!』
あまりの必死さにしっとエース、しっとジャスティス・ハイパー、女生徒は気おされる。 だが、しっとリーダーだけは違った。
「そうか……そんなにチョコが欲しいのか……じゃあやるよ」
そういって彼は腰に付いているホースにて手を伸ばす。 そしてそれを両の手で構え、しっと団員たちに向ける。
「受け取れ! カカオ100%チョコレートを!」
「あぷッ! に、にげぇ……」
茶色い霧のようなものがホースの先から放出されてしっと団員たちにかかる。 しっとリーダーいわく、カカオ100%チョコレートの霧を浴びたしっと団員たちはとたん、苦しみだした。
しっと団員たちを縛り上げて見せしめのために放置し、そして女生徒に謝った三人は他のしっと団員たちのむかった先を探す。
「まったく、アベックたちに使うはずの装備を味方に使うことになるとは……」
「暴走する味方は敵よりも厄介だ、覚えておくといい……ん?」
「どうしたんだい……しっとジャスティス・ハイパー?」
「いや……なんでもない……」
しっとジャスティス・ハイパーは少しの間どこか遠くのほうを見たが、首を振って再び2人とともに走り出した。
(いましっとカウンターに強力な反応があったが……故障か? いくらなんでもしっと力100億×200立方メートルという数値はありえない……)
一方、アッシュフォード学園の某所では、緑の髪の少女が毒々しい色の義理チョコを怨念交じりで作成していた。
……か、どうかは定かではない。 ちなみに、この後数日間枢木スザクという人物が病院で生死の境をさまよった、という噂が流れた。
そんなこんなで本来アベック用だった装備の大体を暴走したしっと団員たちに費やしたが、通りすがりに見つけたモテる男からチョコを奪い去り、告白しようとしている男子生徒を妨害したり。
そして男子生徒に告白しようとする男子生徒を生暖かい視線で見守ったり、一応しっと団としての活動はこなしたといってもいいだろう。
そして作戦が終わった後、アジトに戻ってしばらく経ち、しっとリーダーが口を開いた
「……しっと団を解散しようと思う」
「……リーダー!? 何故ですか!」
しっとリーダーの言葉に一人のしっと団員は大きく反応する。
「今日のお前らを見てさ、正直な話俺じゃあまとめきれないって思ったんだ……だから、正確に言えば解散っていうよりかは俺がやめるってかんじかな」
「そんな……」
「……ならば、僕もやめるべきだろうね」
「……私もだな」
しっとリーダーに続き、しっとエース、しっとジャスティス・ハイパーまでもが同じことを言う。 そのことにその場にいたしっと団員たちは更に動揺を見せる。
「しっと心を一定の方向に持っていくことである程度の制御が出来るのではないか、と私は思った。
しかし、ここアッシュフォード学園においてそれは不可能だった……アッシュフォード学園のしっと団員たちが悪かった、というわけではない。
だが、作戦の立案者としては責任を取らねばならない……私は、しっと団エリア11総本部団長の名において、ゼロ、リヴァル・ライの三名を永久退団扱いとする!」
「よかったのかい、リヴァル?」
「あぁ……未練がないって言えば嘘になるけど、あいつらを率いるのに疲れてきたってのは確かにあるな……」
「そうか……」
なんとなくクラブハウスへと向かうリヴァルとライ。 二人はどこかやり遂げた表情をしている。
「しっと団はどうなるんだろうね……」
「さぁ? 一応俺が団長になる前からあった組織だし、たぶんこれからもあるんじゃないか……あそこまで表立った行動はしないだろうけど」
ライが来る前のアッシュフォード学園しっと団の活動はせいぜい呪いのわら人形に釘を打ち付けたり、告白を受ける男子生徒に怨念をこめておくる、といった極々普通の平和的なものだったらしい。
クリスマスでの成功に少し調子に乗ったのだろう、というリヴァルの推測はまぁ、つじつまの合うものだ。
「とりあえず、ここ最近しっと団の活動にかまけっぱなしで生徒会の活動してなかったから、会長に謝りに行きますか……」
「あぁ……怒られるくらいならいいんだが……」
二人を待っていたのは、満面の笑みを浮かべたミレイ会長と、自分たちの机に山ほど置かれた書類の束。
そして何故か同じくらいの書類を相手に格闘するルルーシュの姿であった。
なお、しっと団が獲得したチョコレートは新団長・玉城が責任を持って恵まれないエリアの子供たちに送り届けた。
はずだったが、一部のチョコを横領していたことが発覚したため彼は三日で団長の座から引き摺り下ろされた。
おまけ
「おい、C.C.」
「なんだ?」
「もう、チョコレートピザ15枚目なんだが?」
「細かいことは気にするな、5枚くらい誤差の範囲だろう?」
「どこがだ! ピザのLサイズ5枚、確かに十人ほどいれば誤差の範囲だろうが一人で食うのにそこまで違いが出ると思うか!? その体のどこに15枚ものピザが入るんだ!」
「ほう、セクハラとはいい度胸じゃないか、童貞ぼうや」
「ああいえばこういう、お前は子供か!」
「ぐだぐだうるさいやつめ、お前は私のおかんか」
「誰がおかんだこのピザ女!」
この後、三十分以上の口論が続き、結果として二人とも店からたたき出された。
おまけその2
「ライ君、バレンタインチョコ、手作りよ」
セシルの言葉を聞き、ライは身構える。 とうとうこのときがきたのか、と覚悟をきめた。
生徒会の仕事が思ったよりも早く片付いてしまったために特派のトレーラーへと来ざるをえなかったのだ。
「いただきます……」
差し出されたチョコを口に含む。 ゆっくりと噛み砕き、味わう。 一思いに飲み込んでしまいたいのだが、目の前でセシルが見ている以上そのようなことは出来なかった。
「……マグロですか」
「えぇ、日本の人はマグロが好物だって聞いて……」
生臭いチョコレートではあるが、食べられないわけではなかった。
「うん、食べられますよ、これは」
ライはその言葉を後悔することとなる。 その日から、一週間ほどおやつにマグロチョコが出続けたのだった。
最終更新:2010年02月21日 23:11