14:30 観音崎 廃墟街内部
「近藤機、配置につきました」
「松本、配置完了です」
「全機、砲撃準備!敵輸送船団及び航空船団が来るまで待機」
「「了解!」」
観音崎に進出したライ、近藤、上松の月下3機は、背後に其々配置されているナイトメアタンク「島根」3機を護衛していた。
(ここで補給路を叩ければ、エリア11におけるブリタニアの戦力回復は遅れる・・・・解放戦線が動かないのであれば、僕達が積極的に動くしかない!)
ナリタ連山の戦い、四聖剣と藤堂中佐の帰還、ベイエリアの戦い、ナイトオブラウンズ(ジノ、アーニャ、モニカ)の苦戦・・・・。
様々な要因が、ブリタニア皇帝シャルル・ジ・ブリタニアを大きく動かした。
「エリア11にナイトオブラウンズNO.2、エドワード小隊の投入を決断する!!」
エドワード小隊、過去数十回以上の出撃での総撃破数は数える事は出来ず、彼等の前に出てきた敵の中で生き残った者はほぼ皆無。
その小隊がついにエリア11、この日本に上陸する・・・・もしそれを許してしまった時、日本の抵抗組織は全て恐怖するだろう。
何としても阻止しなければならない、騎士団の戦力増強もすんでいないこの状況では尚更だ、せめて遅らせる事が出来れば・・・・。
ライの脳裏にゼロとのやり取りが浮かんだ。
さる6時間前、ライはゼロにのみ渡した無線で作戦会議を開いた。
「ゼロ、エドワード小隊の事は知っているか?」
「ああ、知っている」
無線越しでもゼロの声が若干震えているのがわかる、それほどゼロにとっても深刻な事だと言う事だ。
たかが3機と思うかもしれない、しかしそのたかが3機に対して諸外国は打つ手がないのが現状だ。
「その事について、作戦補佐として提案がある」
「聞こう」
ライの提案とは――――
エリア11に到着する輸送船団と航空船団の中に、その小隊専用機を乗せた船団が混じっているとの情報を得た。
その船団が15:50に観音崎を通過すると言う、ライはこの輸送船団を強襲し、戦力の回復を遅らせようと言うものだった。
上手くいけばエドワード小隊のKMFだけでなく、エリア11の補充戦力を海の藻屑と化す事が出来るかもしれない。
彼等のKMFは通常のKMFよりも重すぎる、その為専用の大型輸送機か輸送船を用いなければならない。
「その船団を攻撃し戦力の回復を遅らせる事が出来れば、幾分かの余裕は生まれる」
「だが片瀬は動くのか?あの重い腰で」
ゼロは片瀬の重い腰では許可は下りないと見ている、当然だろう。
積極的に攻勢に出ず、あまつさえ外国勢力との共闘を望んでいると言う始末だ。
その結果が悪い方向に向かうとも予想せずに。
「動きはしないだろう、だからこそ僕達が動こうと言うんだ」
「・・・・投入できる戦力は僅かだぞ?それに、コーネリアがそれを黙っているとは思えん」
「問題は無い、ゼロには一つだけミッションを完遂してもらえればそれでいい。それだけで勝率は上がる」
ライの強い声を聞いたゼロはしばらく考え―――
「良いだろう、何をすればいい?」
そして冒頭に戻る。
「(ライ君、聞こえる?)」
「井上さん!待ってましたよ、結果は?」
「(オールクリア、軍用の飛行場は全部滑走路を使用不能にさせたわ!)」
井上の弾むようなこの報告にライ、近藤、松本の3人は作戦の成功をより一層信じた。
「これで成功の確率が上がるな!へっ、面白くなってきた!」
「ここからが、私達の仕事ね!腕がなるわ」
近藤と松本はさらに気合いを入れ、己を奮い立たせる。
今回の作戦でライ達が最も警戒していたのは航空戦力だ、砲撃戦に特化させた島根は航空機のこの上ない獲物となる。
確実に無力化しなければこちらが袋叩きを受けて全滅するのは火を見るより明らかだ。
その為、船団が通過する時間帯に航空隊が出撃できないようにする必要がある。
そこでゼロに東京に存在する軍用飛行場を無力化させてもらい、その脅威を取り除いてもらうよう頼んだのだ。
そして今、嬉しそうな井上からの報告でそれが現実の物となった事を意味している、それからライは静かに時が来るのを待つ。
一つの不安を残して。
(けど、敵がここに制圧部隊を送ってきた。おそらくはまたここに戦力をまわしてくるはず)
同時刻14:30、浦賀湾内部にある指令室
大型のディスプレイを見ながら席に付いている鷹の様な眼を持つ男が、静かに事の成り行きを待っていた。
(まさかコーネリアがここまで苦戦するとは・・・・しかし―――)
そこへ、1人の軍人が早歩きで近ずいてくる。
「ブラウン中将、東京内の全飛行場が正体不明の攻撃を受け無力化したとの報告が」
「やはり動く者がいたか、制圧部隊からの定時連絡は?」
「・・・・観音崎に向った部隊からの連絡は、20分程前から」
コーヒーの入っているカップを口にもっていこうとした手を止め、ピクッとブラウンは反応する。
戦力の増強に先立ち、エリア11の視察に訪れているブリタニア全軍の参謀長ブラウンは、今回の輸送船団護衛の陣頭指揮にあたっていた。
定時連絡が途絶えた事が意味するのは一つ!
「輸送船団の行路安全確保に失敗したか・・・・私が出よう、KMFの出撃準備を」
「はっ!!」
カップをデスクに置き、席を勢いよく立ちあがると格納庫に向おうとした。
「中将、我々も」
「ダメだ、制圧ごときに余計な戦力を割く事は出来ない。ここは私1人で行く」
「しかし単騎では―――」
部下の主張は良く理解できる、僅か1機でどれほどの事が出来るだろうか?それが出来るのは一騎当千の猛者かよほどのバカしかいないだろう。
「敵は飛行場を事前に使用不可能にした。大尉、飛行場を破壊した敵部隊の詳細は?」
「KMFは僅か3機、形は無頼と呼ばれる量産機だそうです。観音崎の部隊の最後の報告では、そこのKMFは高性能機3機だそうです」
「このことから、今回の作戦に敵は大きな戦力を割けないのであろう。だとすれば観音崎に展開している敵戦力はそう多くは無いと予想される。
それに、今は飛行場の復仇作業に全力を注がなければならない。余計な戦力は避けんのだ!」
冷静に状況を分析し結論を出すブラウン、その声からは恐怖や焦りは微塵も感じられなかった。
現在、ここにある戦力は一つの基地を防衛するので精一杯な状態だ。
ナリタやベイエリアの戦いでの損害が大き過ぎたのが一番の要因だが、ジノ、アーニャ、モニカらラウンズの敗退がさらに拍車をかけた。
「それに、私の機体は単独ミッションを主眼に置いたバランス型。心配はいらん、私は必ず戻る」
「「はっ、ご武運を!!」」
ブラウンは部下達の敬礼を背に受け、マントを翻し格納庫へ向かう。
(我が友エドワード、貴様の相棒はやらせはせん!)
14:50 観音崎
辺りは静寂に包みこまれる。
「あと1時間と言ったところか・・・・」
「隊長、緊張してます?」
「ああ、戦場で緊張しない奴なんていないだろ?」
「そうですね、井上さんはど――――」
「(松本、静かに!!)」
ライ小隊の会話を遮り、井上の深刻そうな声が無線から響く。
「どうしたんです!?」
「(聞いた事がある音が近ずいてるのよ、何か来るわ)」
接近の知らせにライ、近藤、松本は戦闘態勢に入る。
「井上さん、何処から?」
「・・・・・・・」
ライの問いかけに井上はいまだ沈黙している、何かが接近しているのは解る。しかしそれが何処からなのかが解らない。
その音はだんだん大きさを増していく、そして―――。
「っ!!エレベータ、地下からよ!!近藤君、左前方!!」
「何!?」
叫ぶ井上が知らせ、近藤が機体を向けるよりも早く、爆音と共に1機のKMFが飛んで行った!
そのスピードは、騎士団内でもエース格と言われる3人が機体を見失ってしまう程だ。
「「「は、早い!!」」」
その轟音が、戦闘開始の合図となった。
最終更新:2010年03月23日 22:33