040-485 鉄の道 三章 @テリー"




ストラスブールと言えば有名なノートルダム大聖堂が有り、アルザスの伝統家屋が密集
したプチット=フランス地区がユネスコの世界遺産に登録され、またストラスブールの
イメージキャラクターとして至るところで登場するコウノトリでも有名なここにライ達は到着した。
「定刻どうりに到着、何事も無くて良かった」
4番線に停車したオリエントエクスプレスの機関車「クラブ」は額の汗をほっとした
表情でぬぐい息を吐くライと同じようにシューーーと蒸気をはき停車した。


列車が停車するとカメラを片手に持つ家族やガイドマップを持つ夫婦など乗客は観光の為に下車をする、その様子を何故だか
「ぶーーーーーー」
膨れっ面で片膝をつくミレイがうらめしく下車する乗客達を見送っていた。
「何でこんな日に私が居残り当番なのよ?」
「まあまあミレイさん、仕方ないじゃないですか。ミレイさんの分まで私が“ライさんと”
一緒に楽しんできますから」
ライさんとの部分を強調してウキウキしながらナナリーは5号車の車掌室からライのいる
機関車へと向かっていった。それを――
「ナナリーめーーーー、覚えてらっしゃーーーい」
地獄の底から聞こえてくる様な呻き声をあげてナナリーの方を拳を握りしめピクピクと
震えるミレイが有りましたとさ。
「・・・・私も休むかな」
車掌室の仮眠ベットに横になると日頃の激務からかすぐに寝息をたてたミレイ、それほどまでに真剣に仕事に取り組んだ結果なのだ。


そのころ機関車では
「じゃあ・・・・ジェレミアさん、点検の方頼みます」
ここに到着するまで前方にずっと気を張り巡らせていたライはその緊張感から抜けだしたからか今どっと疲れが出でしまい、もの凄く眠い目をしている。
「うむ、しっかりと整備しておく!ゆっくりと休んでおけ」

社内で一番の元気印ジェレミア、昨日アーニャの強烈な殺気にあてられたにも関わらず
決まった時間にはもうグッスリと眠ったのでもう元気はつらつのニッコニコ。
「はい、そうさせてもらいます」
目を擦りながらライは乗務員専用の1号車に向かった、所に
「ライ!!お茶に行くぞ、付き合え」
ライと一緒に仕事をして疲れているはずのノネットだが停車してから4分位でシャワー
を浴びて着替えまで済ませ元気にライを誘いにウキウキと来た。
「ノネットさん元気ですよねぇ、僕まだシャワーも何も浴びてないですけど」
大きい欠伸をして向きあうライとノネットの間にものすごい勢いで割って入り
ノネットを睨みつけるアーニャがいた。
「抜け駆けは許さないよノネット、ライは疲れてるんだから休ませてあげないと」
「そう言うがアーニャ、お前そう言ってライを独り占めするつもりだろうがそうは
とんやがおろさないぞ?」
アーニャを見下ろすノネットも同じく睨み返す、両者共一歩も譲る気など毛頭ないし
それを欠伸をしながら見守ってしまうライは眠いのか頭がよく回らない。
「じゃあアーニャもノネットさんも一緒にお茶しに行きましょう、シャワー浴びて
着替えて来ますから待っててください」
と全然二人の気持ちを考えずに?言いシャワーを浴びて目を覚ます為に客車へ欠伸を
さっきから連発しながら向かって行った。
「「・・・・・ライらしい・・・か」」
と苦笑いの二人でした。


ライ達が町にお茶をしに行った頃、車掌室でミレイはお昼寝中だった・・・・所を
無線のアラームでたたき起こされてしまった。
「うん?何よ・・せっかく人が気持ち良く寝てたのに、こちらオリエントエクスプレス
車掌のミレイですが?」
(ずいぶん眠たそうだなミレイ)
「それはそうですよ千葉さん、1時間しか寝てないんですから」
総合司令室のオペレーターの千葉、ブリタニアは日本人だろうが優秀と見込めば雇用する
のが社の基本。
(十分に思うがまぁいいか。それより連絡だ、昨日アルプス山脈でまた猛吹雪が起こった)
「アルプスで?確かあそこには―――――」
その連絡を聞いて一気に仕事人の顔にミレイは変わる。
(そうだ、「サンタマリア大鉄橋」の補強工事が吹雪で大幅に遅れる。そのせいで全列車
に速度制限70kmが継続されることになった)

その声は呆れにも似ていた。

オリエントなどイタリアに向かう特急や急行、貨物はローマに行くためにアルプス山脈を越える事になっている、その中では数多くの鉄橋やトンネルを通らなければならない。
その中でも1、2を争う長い鉄橋が「サンタマリア大鉄橋」なのだ。
「あの橋は建ってから80年近いからなぁ、結構古いしボロなのよねぇ」
(その為の補強工事が今回の吹雪でまた遅れたからな、おまけに積雪の多さから雪崩の可能性も出てきてる始末だ)
「雪崩が?厄介ねぇ、もし爆発級の大揺れでも起こったらサンタマリアの柱に激突するかもしれないじゃない」
ここにきてミレイは少しではあるが冷や汗をかいた、サンタマリア大鉄橋の橋げたは雪崩の勢いを止めるだけの強度が今無いのだ。
(仕方ないだろう、そんな事はないと思うがな・・・・注意してくれよ)
「了解です!」
無線が終わるとミレイは速記したメモを持って大急ぎで機関車に向かった。


ストラスブール駅のすぐ近くにはフランスでも有名なカフェ「ブルーアイ」の紅茶と
サンドイッチのセットはお手頃の価格でかなり美味と大評判で注文が絶えない。
「「・・・・・・・・・」」
そのとあるテーブルでそのセットを注文したアーニャとノネットは不機嫌だ、アーニャは
紅茶を飲みながら向かいの車掌を冷やかな目で見、ノネットはテーブルを指でたたきながら料理長を睨む。

そして

「うん、皆で食べると美味しいかな」
いまだ寝ぼけている機関士はこんな時でものほほんとサンドイッチをほおばっている。
「そうでしょう、ライさんもきっと気に入ってもらえると思ってました!」
と笑顔でナナリーは嬉しそうに言うものの、目は笑ってはいなかった。
「私がかつて修行を積んだ所だ、当たり前だろう?しかし・・・・4人で食事か」
明らかに不満たらたらのC.Cはノネットを睨み返す、本当ならライと2人だけで来るはずだったのにアーニャ、ノネットには出かける前にもう捕まっていたし駅のプラットホーム
ではナナリーまでも加わる始末。
「それはこっちのセリフだ、本当なら私と二人きりのはずだったんだぞ?」
と紅茶を飲みながらノネットが
「それはお門違いよノネット、ライは私の男」
とアーニャがノネットを睨みながら
「でもまだ結婚はしてませんよね?でしたらまだチャンスは有ります!」
サンドイッチを頬張りながらナナリーは言う、この事はナナリーに限らずノネットも
C.Cも思っている事ではある。
「ナナリーめ・・・・けどライは誰にも渡さない」
と対抗心丸出しでナナリーだけでなく全員に言い返すアーニャだが
「ふっ、せいぜい吠えているがいい――――」
とC.Cが警告をアーニャに発し
「隙あらば何時でも寝とるからな?」
とノネットも続くこの空気、こんな中にも拘らずライはコックリ、コックリと全く蚊帳の外だった、所だが
「この服、なかなか良いな」
C.Cが何気に見たファッション雑誌の服を見てボソリと呟くと
「これか・・・・私はジーンズ位しか買った事がないからこういうのは苦手だな」
難しい顔をしてC.Cのみる雑誌を覗き見るノネットにナナリーが
「勿体ないですよノネットさん、そのルックスですし少しオシャレも良いと思いますよ?」
「ナナリーの言う通りだと思う、私よりも良いんだからドレスアップも良いと思う」
アーニャもナナリーに賛成する
「そ、そうか?」
「そうだ、お前自覚ないのか?まぁ、ライがこの状態だから次のベルンででも洋服選びを手伝おう。ま、貸しは高いがな」
ニンマリとするC.Cだがアーニャもナナリーも笑顔にいつの間にかなっていた、なんだかんだ言っても仲良しなようです。(これって有りかな?)


ジェレミアが「クラブ」の点検中だったその途中で
「ふむ・・・・異常はほとんど見当たらないが・・・・ローマに付いたらブレーキパイプ
を取り換えなくてはな、老朽しすぎだ」
ひととうり点検を終えたジェレミアは少し顔をしかめ結果をメモに取っていた所へ
「ジェレミアさーーーーん!!」
運転席から顔を覗かせ息を少し切らせながら来たミレイに呼び止められた。
「ミレイよ、どうした?」
「総合司令室から警告が」
とミレイから渡されたメモを見たジェレミアは少し深刻な顔をし
「注意・・・・だな、しかし玉城の列車が心配だな」
「そうねぇ、あいつ結構雑運転多いのよねぇ」
「雑で悪かったな」
ジェレミアとミレイの後ろから何の前触れもない玉城の声に
「うおおお!?た、玉城!!」
「びっくりさせるんじゃないわよ!!危うく魂抜けかかったじゃない」
飛び上がる2人。
「うるせえ、言いたい放題言いやがって!!」
玉城もライやジェレミアと同じ機関士なのだがもっぱら入社してからと言うもの引っ張ってきた列車は全部
「今日も貨物列車の運転御苦労さま!」
と超がつく皮肉をミレイがとびきりの笑顔で言うとジェレミアはくくくくと笑う
「てめーーーら、馬鹿にしやがってーーーーーーっ」
ぷるぷると震える怒れる玉城、元は客車や特急志望だったが運転が雑なため貨車と言う
玉城的には窓際に追いやられてしまったのだ。
「今日は1500mの長いタンクローリーを引くそうだな?6重連結の大編成とは壮観だな」
「そうは言うけどジェレミアの旦那、貨車だから花がねぇんだぜ?ゼロみたいな高速列車
だったら少しは花も――――」
途中で玉城はしまったと思い言葉を急いで止めた、その視線の先には険しい顔をする2人がいた。
「す、すまんつい」
「良い玉城」
「・・・・あれには何時か必ず天罰か下るから」


発車時間の2時間前にライはとうとう睡魔に負けてしまい今ノネットにおんぶされ列車に向かっている。
「まったく、途中で寝るだなんて子供だなぁライは」
「それにしても可愛い寝顔ですね・・・・なんか食べたいです」
美味しそうな物を目の前にして舌舐めずりをするナナリーに
「こらナナリー、それは私のセリフだぞ」
「C.Cもナナリーも勝手言って、私が一番そうしたいのに」
ノネット、ナナリー、C.C、アーニャの和気あいあい?の会話は不純極まりないこと。
「おやおや、またフラグを立てているのかい?」
「シュナイゼル兄様!?なぜここに?」
ストラスブール駅の構内で数人を率いて来たシュナイゼルは「ブリタニア」社長でかつては総合司令室の室長として広大な路線全線を指揮した事がある。
「うむ、ブリタニアの看板列車を見に来たんだ」
と笑顔で言うシュナイゼルだが
「それだけでは無かろうシュナイゼル」
「おやおや、やけに冷たく毒つくねC.C」
「私もC.Cの言葉に賛成だ、あれの為に来たのだろう?今日がお披露目の処女運転
だからな」
ノネットの言い放つ言葉にさすがにシュナイゼルも軽く眼をつむり
「さすがだね、その通りだよ」
「お兄様・・・・」
「解ってくれナナリー、社長である以上やむを得ないのだ」
辛い顔をするシュナイゼルはそっとではあるが彼女達から眼を逸らす。
「でも気に食わない、あれじゃあ全部の運転士を馬鹿にしてるし・・・・」
「・・・・・・・・・」
アーニャとナナリーはノネット達とは対照的に悲しい表情を見せる、それにシュナイゼルはただただ、黙るしかなかった。


出発の45分前には、観光を終えた乗客やここから乗車するお客さんや積み込む荷物で
ホームはごったがえしていた、静まっていた「クラブ」も蒸気を吐きながらその時を待つ
「ノネット、ライはぐっすりか?」
「ああ、静かに寝息をたててる。可愛い寝顔だよ本当に」
1号車のドアでジェレミアが帰って来たライ達を出迎えたあとノネットはライを部屋に
運び寝かしつけたところだった。
「疲れているのか?やけに暗い表情だが」
「今日この後に来るあいつらの事を聞かされればそうもなる」
その口調は荒々しく表情もまた一段と険しいものになる、対するジェレミアも同じく・・・
「そうだな・・・・ライが寝てしまっただけでも良しとするか」
「ジェレミア・・・・あそこ」
アーニャが指さす方向の5番線には大勢の報道陣や見物客がいる、それを見るジェレミア
とノネット、アーニャはさらに嫌な気分になる。


「かっこいいなぁ・・・・僕も乗りたい・・・・」
クラブを見上げる少年が寂しそうに呟く声が聞こえ、ジェレミアが寄って行く
「少年、かっこいいか?この機関車が」
「うん、僕一回でいいから乗ってみたいんだ」
微笑む少年だがその微笑みもどことなく作り笑顔の様にも見えた。
「なぜ寂しそうなのだ?心から笑っていないように思えるが」
「・・・・・・」
気になったノネットが少年の目線までしゃがみ尋ねると少年は俯いてしまった。
「お兄ちゃん!!」
「ウイル、ここに居たのね」
「母さん、セフィ・・・・」
家族がウイルを迎えに来たがそれでも何故か晴れない表情。
「この子のお母さん?」
「はい、この子は心臓が弱くて・・・・これからイタリアへ手術に」
そこで3人は納得がいった、クラブが牽引するオリエントは他の列車よりも発車の衝撃が大きいいためそのショックで発作が起きる可能性は極めて高い。
「ではこれから空港へ?」
「いえ、この子は汽車が大好きでして汽車で行く事に。本当はこのオリエントが良かったんですが・・・・」
母親も残念そうにそう呟く、そんな状況を見かねてジェレミアがウイルの肩を掴み
「ウイルよ、しっかりと病気を治してまたここに来い!!その時には最高の席を用意して
君をこの世界1の急行に乗せようじゃないか!!」
その豪快な約束にノネットもアーニャも頷いて答える
「しっかりと治してまたこのホームで会おうじゃないか!!」
「待ってるからね、約束」
ノネットはいつもの様に、アーニャはウイルと指きりをする。
「うん、絶対に乗りに来るね」
「それじゃあ、おまじないをこめてこれあげるね」
アーニャはウイルの胸に黄金に光るライオンのバッチをつける。
「これはブリタニアの象徴であるこのオリエントエクスプレスの乗務員にしか付ける事を
許されていない栄光のバッチ」
「これを付けたその瞬間からその者はオリエントエクスプレスの一員となる、ウイルよ
お前もこれで私達の仲間だ、仲間は約束を破ってはいけないのが鉄則!約束だぞ?」
ノネットの言葉は厳しいと取られるだろう、だがその厳しさに耐えてこそ真の栄光が得られることが有るのだ。
「はい、約束します!」
ウイルはそう元気に約束すると母と妹と一緒に離れていく、その後姿を見つめる3人の心はさっきまでの暗さが嘘の様に晴れて行くのを熱く感じた。

ストラスブール駅4番線 14:37


オリエントは次の停車駅「ベルン」へと発車した、次なる町ではどんな出会いが待っているのだろうか?
そんな期待を乗せて滑るように走って行く、そのオリエントが切る風に乗りアーニャの
ピンク色をした髪が優雅に流れていく。
(今頃ライはぐっすり寝てる・・・・またあの夢を見てなければいいけど)
その事を思い出したアーニャの頬を一筋の涙が風に乗り流れていく、
(あんな事が無ければ今頃ライはこんな所で働いていないと言うのに)
石炭をくべながらジェレミアはシンミリとライを思い
(あいつに私達がたてつかなければ良かったのか?いや、それでもライは行ってただろう
だがそれでも・・・・)
唇を噛みしめるC.Cは7号車の通路にたたずみ
(私達を路頭に迷わせないために自分を犠牲にした・・・・あんな事がなければここで
眠っていなかっただろう)
目の前で眠るライを悲しい目で見守るノネット


そんな皆の想いを乗せて、アーニャは汽笛を鳴らす・・・・雪の中を


TO BE CONTEBYU


最終更新:2009年07月04日 13:09
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