戦場で最も不必要なのは 怒り? 恨み? 私情? 恐怖?
それともそれらすべての感情なのか… 否、それらは時として武器となる
一番不要なものそれは………
Action04 円卓 学生 詐欺師
「ラウンズ様のお出ましだぜ…」
向こう側から2機のグロースターが現れた。こちらと区別をつけるためかそれぞれのラウンズを彩る紫と黄緑のマントをグロースターに付けている。
「模擬戦とはいえラウンズと手合わせできるなんて…」
スザクが興奮気味に言った。
「スザク『例のアレ』忘れんなよ。」
「分かってるけど、それって必要なの?」
「バカ言え、こっちはサザーランドだぞ?これで普通に勝ったら俺らはラウンズなんか目じゃねぇってことだぜ?」
なぜかこちらのグロースターは故障していた。グロースターは軍から借りることになっていたのでこちらからの調整ができない為特派に非はない、だがラウンズ達がこの後に公務など色々あるためこの日以外に模擬戦はできない。その為サザーランドの予備で、急遽グロースターVSサザーランドという無謀な模擬戦となったのだ。
「でも良かったよ、都合よくサザーランドがあって。」
「はあ?スザクお前それ真剣に言ってんのか?」
「?」
「まずグロースターが故障して、都合よくサザーランドがある事で気付けよな。」
「えっ?それってまさか………」
「そうだよ、軍の奴らの罠だよ。この前の模擬戦の野郎がKMFに細工しやがったんだよ…ったく、これだから軍人ってやつは…」
これはあくまでライツの仮説であるが、他に考えられない。
KMFは精密機器が多く搭載されている為にメンテナンスは念入りに行う。だからこそ運んでくる前から故障しているKMFを現場に持ってくることはありえない。
さらに、模擬戦開始30分前にそれが判明するという事など100%ありえないのだ。特派が使う機体を特派にメンテナンスもさせない事がすでにおかしかった。
実際問題、少佐の隊のグロースターをこちらが借りる事になっていたらしい。
「ったくよ~、俺だって正々堂々やりてぇ~よ?…けど機体差がありすぎるんだから、多少は小細工しないと割に合わん!」
ライツは鼻息が荒く述べた。
「まぁ、いいよ。それにそこまでいけるかどうかが一番問題だけどね。」
「いけるだろ?俺とお前が力を合わせればな…」
「両者準備はいいですか?」
セシルの声が開始時刻を告げる。
「こちらはいつでもいいぞ。」
「いいですよ。」
向こうは準備バッチリのようだ。
「こっちも準備完了です。」
「準備完了だ。」
両者の準備完了の返答を聞くとセシルは説明を始めた。
「今回の模擬戦は実戦とほぼ同じです。銃器類やスピア、スタントンファー、使用していただいて結構ですが、銃器類はペイント弾で被弾率や被弾場所でKMFの損傷率をコンピューターが見て、続行不可と判断したら自動的にKMFの運動は停止します。なお、スラッシュハーケンは機体には当てないでください。
スピアやスタントンファーなども模擬戦用でコンピューターがダメージを判断します。しかし模擬戦用といっても武器には変わりはないのでそれを承知してください。以上です。」
「本格的だな~、はぁ…同じグロースターでやりたかったよ…」
「ホントね、残念だわ…まぁせっかくだからお勉強させてあげましょう。」
向こうも残念がっているようだ。しかし、もう勝った気でいる事にライツは少し苛立ちを感じていた。
「なぁ、スザク……」
「何?ライツ?」
「戦場で何が一番不必要なものを知っているか?」
いきなりの問いにスザクは一瞬キョトンとしたが答えた。
「急に何を?えぇぇっと…戦場で一番不必要なものは、感情じゃないかな?」
「なぜそう思うんだ?」
「だって、感情が入ると冷静な判断ができなくなるし、いつでも一定のテンションを保つのは基本じゃないかな?」
「間違ってるな、それは基本であって基本ではない。」
「え?」
「人間ってのはな“感情”をコントロールできないから“感情”は不要っていうがな、“感情”は武器になり得る場合もある。一番不必要なものではない。」
ライツは少し間を開けて続けた。
「戦場において一番不必要なものそれは『先入観』だ。」
「『先入観』?」
「戦場において敵を自分の予測で計ってはいけない。敵は生き残る為に何でもやるんだ。例えるなら…そうだな…新型KFCを日本が作ったとしてそれが従来の無頼と全く同じ外観だとする。それを完全に無頼だと思いこちらがなめてかかるとこちらの被害は数倍にも数十倍にもなる。
『知っていたら避けられた被害なのに』じゃ遅い。死んだら何もできない。死ぬかもしれない戦場にそんなものは不必要ってわけだ。」
「なるほど…」
スザクはその言葉に納得した。
ただほとんどの場合、新型の兵器は敵を威嚇したり、敵に自分たちの研究成果を見せるためだったり、自国の権力を見せつけたり、機能を追求した為に武器の形は変化していくのでそういう事はほぼありえない。しかし、0%ではないのも事実だ。
ライツの言いたい事は、いつでも、どこでも、何が起こっても、戦場においては、“あり得ないこと”が起こって死ぬ場合があり、そのせいで死んでからでは遅いという事だ。
「まぁ、全力で行こうぜ…」
「ああ!」
スザクが返答した時セシルが合図をする瞬間だった。
「では………模擬戦開始!!」
号令の合図と共にランドスピナーの音が響いた。
〇
ライはカレンが今日は用事がある為に、一人だけで学園をブラブラしていた。
ライにとっては先程カレンが怒っているのを思案できるいい機会だったので、先ほどからクラブハウスを回りながら考えていた。
(正直に言って何が悪かったのかな?カレンが怒る要素なんて一つもなかったのに……)
腕を組みながら顎を手に置きながら歩いていると、ふと車椅子の少女とメイドが見えた。
(確かあれは………メイドの咲代子さんとルルーシュの妹のナナリーだったけ)
咲代子が何かをナナリーに教えていることに気づきライはそちらの方向に向かって歩き出した。
「あっお兄様、今日はお出かけではなかったんじゃないんですか?」
ナナリーはライの方向をみてそう言い、咲代子は珍しいものをみたように目を丸くした。
それもそのはず、ナナリーが自分の兄であるルルーシュを他人と間違えたことなんてただの一度もなかったからだ。
「ええぇっと…僕はルルーシュじゃないんだナナリー……」
ライは迷いながらも彼女の兄ではないことを否定した。
「え?あ………す、すみませんお兄様と足音が似ていたもので…」
ナナリーは顔を真っ赤にしながら俯いた。
「足音?」
「ナナリー様は目が不自由なので、他の器官でそれを補っているのです。それにナナリー様は足音で人を正確に判断するのですが……」
咲代子がライに向かってナナリーに聞こえないように小声で言った。ナナリーを気遣ってのことだろう。
「誰でも間違いはあるからね、間違える時だってあるさ。」
「はい…」
何気なく視線を下へと落としてみるとナナリーの手に持っていたものに気がついた。
「それって…鶴かな?」
色紙で作った鶴のように見えた。
「え?…は、はい。鶴のつもりですが…」
見て呉れはお世辞にも良いとは言い難い、翼に該当する部分はしわくちゃで、嘴の部分が長すぎて、鶴とは言い難い形状になっていた。
「一人で作ったの?」
「…はい」
ナナリーは顔を俯けた。
「凄いね…綺麗に織れてるじゃないか。どうやって作ったの?」
ライは感心しながらナナリーの方を見た。
「咲代子さんに作り方の手順を聞いたり、出来上がった折り紙を元に戻しながら覚えたり、色々ですけど………」
折り紙のあまりの出来の悪さに恥ずかしさを感じて、ライと真っ直ぐ顔を合わせられないらしい。
「へぇ~」
「不出来なのですが…」
そんなナナリーの様子を見てライは頬笑む。
「何事も、最初からできる人間なんていないんだよ、ナナリー」
「え?」
予想外の言葉を発したライの方へと顔を向けるナナリーの様子を見ながらライは続ける。
「僕だって記憶を失ってから色々困ったよ?人との接し方とか未だに良く分かんないしね。」
ははは、と笑いながらライは自分の最近の出来事や思っている事を話す。
そんなライの話をナナリーは黙ってしっかり聞いていた。
「それにね、もし最初から上手くできる人間がいたとしたらその人間は可哀想だと思うよ。」
「?何でですか?最初からできた方が良いんじゃないんですか?」
ナナリーはライのその言葉の意味がよく分からなかった。最初から何でもできる方が良いとナナリーは思っていたからだ。
「何でだと思う?」
ライはナナリーの様子を温かな目で見る。
「…分かりません。」
じっくり考えたナナリーだが答えは出ない。
ライはナナリーの
「それはね、少しずつ上手くなっていく喜びがないから。達成感というものは心理的にも脳にとっても、いい事なんだ。それで心が豊かになっていくんだって。」
ライはナナリーとゆっくり話す為に横に座った。
「ナナリーは心の豊かさでは誰にも負けないね」。
ライはナナリーの折り鶴を見ながら、机にあった白い折り紙を織っていく。
「心が強くなれば、身体も強くなっていく。」
ライの織った白い紙は姿を変えて鶴となった。
「自分が出来ない事を出来るように努力するのは良い事だよ。」
ピンクの折り鶴の横に白い折り鶴を置きライはナナリーの頭を撫でていた。
「それに、それはとても大切なことなんだと僕は思うよ。」
「はい…」
ナナリーはまたライに顔を向ける事ができなかった。今度は負い目からではなく、幸せな気持ちになったのだが彼女はまだこの気持ちが何だか分からなかった。
「じゃあ、もう一回折り鶴でも織る?」
「はい。」
2羽の鶴は兄妹のように寄り添いながらライとナナリーを見護っていた。
〇
開始の合図から約10分がたったが、いまだに決着はついていなかった。
「ちっ、隠れたか…つまらんな。」
「まぁ機体差があるんだから仕方無いんじゃないの?でもこの土地の事を理解しているわね。」
K-12地区の第三訓練場はセンサーが効かない。ここは磁場がエリア11内でも屈指の高さの土地だからだ。ファクトスフィアが少し使える程度でその他のセンサー類はほとんど無意味。だからこそ、この戦略は有効ではあるが…
「隠れている場所はここから南南東へ60mってとこかしらね。」
「だろうな。まぁ、これ以上待つのも面倒だし、さっさと片付けて酒でも飲もう。」
ラウンズは精密機器が使えない状態でもありとあらゆるパターンで訓練をしているし、戦場では精密機器が壊れてしまう場面も多々存在するのだ。
帝国最強の彼女らにとっては今回の模擬戦は暇つぶし程度のもの、このエリア内の有望な騎士と遊ぶという娯楽なのだ。
しかし相手が仕掛けてくる気が見られない以上こっちから仕掛けるしかない。
「じゃあ行くか…」
「そうね…」
グロースターを前進させる。
「二人で組むのは4カ月ぶりか?最近書類の方の仕事の方が多くて息が詰まりそうだったよ…」
「今回も書類仕事だけよね?…今回は途上エリアであるエリア11の調査だけだと思っていたけど…」
「そんな堅い事言うなよ。お前も楽しめばいいじゃないか。何の為にお前を呼んだと思ってる?」
「面倒な書類仕事を私に押しつける為でしょ?…ったく」
モニカとノネットはお互い戦闘時に組まされることが多い。それはノネットの暴走気味の戦闘力がモニカの指示によってより効果的に発揮されるからである。
第2次白ロシア戦争において彼女らの力が世界に知られたのはもう3年前の話である。
ノネットがモニカの凄さを認め、モニカがノネットの強さを認めたのもその時だ。
そんな話をしていると目的地に到着し予想通りサザーランドがいた。
「じゃ、スザク打ち合わせ通りにな。」
「ああ、あっちの機体は何とかするよ。」
サザーランドを見つけたグロースターはランドスピナーを一気に加速させスピアを向けて突進してきた。
「さぁ、楽しませてもらおうか!」
ノネットはスザクの方の機体に突っ込んでいった。
「じゃあ、私はこっちをもらうわね。」
モニカはライツのサザーランドがスザクの方へ合流しないようにマシンガンで牽制する。
マシンガンを避けるが少し当たり、ライツのサザーランドは少しのけ反った。
「一対一のガチンコか?機体差が違うのに勝てるか!?」
「あら?さっきの衝撃でチャンネルがオープンになってるのかしら?」
どうやらライツは先程の衝撃でオープンチャンネルを開いてしまったようだ。
「くっ、これでも喰らっとけ!」
ライツのサザーランドはスラッシュハーケンを撃ってきた。しかし、モニカにとっては予想通りの攻撃であり、最小限の動作で軽くかわす。
「単調な攻撃ね…」
モニカが攻撃を仕掛けようとした時、背後から何かが倒れて来た。モニカはとっさにその場を離れ避けた。
「ちっ、はずしたか。」
ハーケンが狙っていたのはグロースターではなく後ろの木だった。
「よく考えてるわね……でもラウンズを倒すにはこれぐらいじゃ無理よ。」
グロースターはスピアで突っ込んでくる。ライツはペダルと操縦桿を細かく入力してそれを最小限の動きでかわそうとする。が、かわしたはずのスピアがわずかにあたり先程のマシンガンのダメージを含めると中破になっていた。
「ぐっ、やばい…切れも鋭さも別格だ…」
中破のサザーランドはランドスピナーを使い土煙を生み出してまた隠れた。
「スザク!p-12a地点で策を練るお前も何とか撒いて来い!」
いまだにオープンチャンネルになっている事に気付いていないらしい。作戦が筒抜けである。
「ノネット、一度そのサザーランドを逃がしましょう。」
「ん?何か良い作戦でも思いついたか?」
ノネットがスザクのサザーランドと距離を取った。
「というより、ここのエリアの騎士のレベルは低いわね…手ごたえがなさ過ぎるから泳がせて一気に畳み掛けましょう。」
「手ごたえないか?こっちの奴は手ごたえあるぞ。」
「あら?じゃあ私はハズレを引いたみたいね…残念だわ。」
ラウンズの二人はレベルの違いを教える為にどうやら敵の策に合わせるつもりらしい。
今回は2対2とは言っているが実際は1対1の勝負。
それに相手はサザーランドなので相手の策に少しは乗ってやらなければ哀れ過ぎると思ったからでもある。
(ラウンズの能力はやっぱり半端じゃないな……だが作戦の第2段階まではなんとかクリア…後はスザク次第。)
「スザク、ラウンズは一対一じゃ、勝機は薄い。なんとか二対一に持ってこよう。」
「確かにサザーランドとグロースターじゃ性能差がありすぎるね、分かったそうしよう。」
「俺がまずフェイントでスピアを空に向かって投げるから、その一瞬の不意をついてスザクが突進して一気に畳み掛けよう。」
「……分かった。」
ちなみにこの会話はライツの箇所だけ筒抜けである。
「なんて単純な作戦なのかしら…」
「なんか熱くならんな~、もうケリをつけるか?」
2機のグロースターは彼らのいるポイントに向かっていく。
「来たか…スザク手はず通りにな。」
相手の作戦が手に取りように分かっているラウンズの二人に勝てる人間がはたして世界中探して数人いるかどうかである。
「行くぞ…」
ライツの掛声と共に上空にスピアが飛び上がった。
「行け!スザク!」
スザクのサザーランドはノネットの方へスピアで突進して行く。
が、ノネットは突進してきたサザーランドのスピアの横をグロースターのスピアでいなした。
「なっ…!?」
「鋭いし、切れも良い、けど素直すぎだね。丸分かりだっての!」
いなした勢いでノネットはサザーランドの懐に入り、スピアで一閃する。
「くっ、なら!」
ダメージは中破。スザクも負けじとスピアを捨て内蔵式のマシンガンで応戦しながら後退する。
「やるねぇ、でも遅い遅い!」
近距離であるのにマシンガンの弾はグロースターには当たらず周辺の木々のみにぺイント弾が付着するのみだった。スザクから見れば一直線にサザーランドに向かっているように見えるが実際は細かく左右に移動している。そしてサザーランドの懐に入った。
「これで終いだ!」
ノネットの勝利宣言と同時に大きな音が辺りを包み、一機のKMFは動かなくなった。
〇
ナナリーと一緒に折り紙を織っていたライは不思議な気持ちになっていた。
折り鶴の織り方など知っていた事もそうであるが、それ以上にナナリーと一緒に折り鶴を織る事が非常に心地良かったからだ。
「ライさんは他にどんなものを織る事が出来るんですか?」
ナナリーも楽しんでいるらしく自然な笑顔でライに話しかける。
「う~ん…ちょっと待って。」
ライはそう言うとピンク色の折り紙を使って織っていく、その間にナナリーと咲代子さんが最近新しい香水を買ったとか、最新型のビデオカメラを買ったとか、そんな話をしていた。
咲代子さんは「ミレイ様の御厚意です。」と言いながらお茶や出来立てのクッキーなどを運びながら微笑んでいた。
「はい、ナナリー。」
「これは何なんですか?」
そんな事をしている間にライの作った折り紙は花の形をしたものとなった。
「サクラだよ。エリア……日本の国花さ。」
少し戸惑った。エリア11という言葉を口にする事を。
ただそれだけであるが、ライは何故その名で呼びたくないかは自分でも分からないが自分の中にある何かがそれを躊躇わせたのは間違いなかった。
「…難しいものも織れるんですね。もしよろしければお願いを聞いてくれませんか?」
「ん?僕ができる範囲の事ならいいよ。」
ライは優しい声でナナリーに答えた。
「お暇な時でいいので、またここに来て折り紙の織り方を教えて頂けませんか?」
ナナリーの表情は明らかに不安そのものだった。ナナリーにとっては大胆なお願いで、自分の為にわざわざ時間を削るという行為をしてもらえるかは正直不安だ。自分は脚も目も不自由だし、面白い話もできない。だからナナリーは不安でいっぱいだったのだ。
「なら明日にでもする?」
ライは当たり前のようにその願いを聞き入れた。
「は、はい!よろしくお願いします。」
ナナリーは幸せそうな笑顔をライに向けた。
(何だろう…僕には妹がいたような気がするな…)
ナナリーの笑顔を見るとそんな感情にとらわれる。
(妹が“2人”いたような気がするな…)
そんな事を思いながらライはナナリーにサクラの織り方を教え始めた
〇
最終更新:2009年06月23日 21:47