041-445

井上さんが唸っている。
眉間にしわが寄っているのが、彼女の苦悩を感じさせた。
怒ったときでさえ、あんなに眉間にしわを寄せたりしないはずなのに……。
僕は心配になって声をかけた。
「あの~、どうしたんですか?」
「あ、ライくん……」
すがりつくような目で見つめられる。
こんなに困っている井上さんは、初めてだった。
だから、僕は思わず言ってしまっていた。
「僕に出来ることなら、手伝いますよ」
その言葉に、井上さんの表情がぱーっと明るくなる。
あ、なんかうれしいな。
「ありがとう、ライくんっ。お願いできるかしら……」
僕は二つ返事で引き受けたのだった。

そして、3時間後……。
僕の前には、まだ20人近くの人が並んでいる。
ここに並び始めて1時間は経ったというのに……。
夏のギラギラと照りつける日差しがまぶしい。
意識が朦朧となりながらも、僕は並び続けていた。
右手には、井上さんから渡されたメモを持って。
そのメモには、こう書かれていた。
「1日限定800個 スペシャル・プリン 5個 お願いね By井上
             追伸:愛してるわ、ライくん~♪   」
僕は、自分のうかつさを、今、痛感している。
女の人って……甘いものに命かけているのね。

《おわり》

最終更新:2010年02月23日 00:33
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