蝉の鳴き声が響く。
日本の夏には欠かせないなのだそうだが、今の僕には耳障りなだけだった。
なんせ、日差しのあたる場所でじーっと待っていなければならなかったから。
じりじりと強い日差しが、僕の肌を焼いていく。
こんなことなら、引き受けるんじゃなかった。
そんな恨み節が漏れそうだった。
だが、これは気軽に引き受けた自分自身の落ち度だ。
腹をくくるしかあるまい。
そう自分に言い聞かせて、空を見上げる。
そして、目の前の光景を再度確認した。
ふう………。
あと一人だ。
あと少しで報われる。
そう思うと、2時間近く並んだ甲斐があるというものだ。
すごくうれしそうな井上さんの顔が目に浮かぶ。
ふふふふふ……。
自然と笑いが漏れた。
前後の人が少し距離をとる。
やばい、変な人に思われた?!
慌てて、表情を引き締める。
そして、にこやかに微笑む。
なんか、周りの人も疲れているのだろうか。
苦笑いで対応してくれる。
そして、ついに僕の前の人が店に入る。
次は、僕だっ。
さすがに表に出さないが、心の中で僕は高笑いをあげた。
ふはははははははははははっ。
勝ったっ。勝ったぞっ。
勝利の女神は、我に微笑んだっ。
やった。やったよ、井上さんっ。
僕は、勝利の美酒に酔っていた。
だが、その喜びもそこまでだった。
「すみませーん。本日は、ここまでで終了となりました。まことに申し訳ありません」
店員の非情な声が響く。
僕の前に入った人が、ニコニコ顔で袋を抱えて出て行く。
え?!
嘘だろっ……。
僕は、一瞬頭が真っ白になった。
ここまで………?
つまり、僕の2時間は無駄だということなのか?
なぜだっ。
なぜなんだーーっ。
僕の心の叫びが、虚しく響いていた。
そして、東京決戦の時、僕は一人別行動を取っていた。
目指すは、あの場所だ。
僕の苦労を嘲るかのような仕打ちにしたあの店。
許さんっ。絶対、許さんぞっ。
神が忘れても、井上さんが忘れても、僕は忘れない。
あの虚無感を……。
あの何も残らない疲労感を……。
僕は月下をあの店のあった通りに走らせた。
よし、ここの角を曲がれば、あの店だ。
そして、過度を曲がった先で目に入ったもの。
それは一枚の看板だった。
それは店の前に立てられていた。
エリア11支店閉店のお知らせ
拝啓 弊店にご愛顧を賜り厚くお礼申し上げます。
さて、弊店は、諸般の事情によりまして、閉店のやむなきに至りました。
開店以来、ひとかたならぬお引き立てにあずかりましたお客様には誠に申し訳なく存じます。
まずは上、略儀ながら書面にてご通知を申し上げます。
連絡先等は、ブリタニア本店或いはHPにご連絡ください。
敬具
僕は、鈍器に殴られたようなショックを受けていた。
くそっ……。
逃げやがったなっ。
心の中で、再び燃え上がる黒い炎。
ようしっ……。
やってやろうじゃないかっ。
ブリタニア本店まで行ってやろうじゃないかっ。
怒りは、より強い炎となって、燃え上がっていく。
ふふふふふふふ……。
ふはははははははははははははははははっ……。
いつしか、僕は笑い出していた。
そして、5年後……。
黒の騎士団はついにブリタニア本国に攻め入むことになる。
そして、その先鋒には、常に蒼いナイトメアフレームがいたと言う。
《おわり》
最終更新:2010年02月23日 00:33