第10の座――動乱の導き手


 深夜の冬木市の港は、赤く光を放っていた。
 元々この時間この場所には、2組の暴走族がいた。
 どこにでもある縄張り争いだ。一触即発となった両陣営は、互いに罵詈雑言を飛ばしぶつかろうとしていた。
「ぁ、ああ……」
 その時に現れたのが、その男だった。
 男は両者の真ん中に、突如姿を現したのだ。
 全身を包帯で覆った、異様な風体の男だった。まるでエジプトの墓に収まった、古代のミイラが蘇ったようだった。
 そして現れたその男は、2組の暴走族のうち、片方だけを皆殺しにした。
 総勢30はいようという軍団を、たった一振りの日本刀で、次々と虐殺してみせたのだ。
「弱ェな」
 どぅっ――と音が轟いた。
 地に走る炎に引火したバイクが、烈音を伴って爆発した。
「どうせゴロツキ崩れだろうが、まるで話になりゃしねえ。そこらの山賊の方がマシなくらいだ」
 淡々と呟く男の剣が、赤い光に燃えている。
 荒くれ者達を斬り裂いた、ミイラ男の切っ先が、盛る炎を纏っている。
 血と炎の海の只中で、赤い照り返しを受ける体が、闇にその存在を主張していた。
「よぅ――」
「ひっ!」
 低く、しゃがれた音だった。
 地の底から響くかのような、魔物の唸りのような声だった。
 ミイラ男に声をかけられた、強面の暴走族達が、情けなくびくりと震え上がる。
 虚勢で固めたファッションも、全てがハリボテに過ぎなかった。真に恐るべき強者の前では、何の威嚇にもなりはしない。
「俺が何でお前らのことを、殺さずに生かしておいたと思う?」
 刀を鞘へと納めながら。
 包帯から覗く口元に、ニヤリと笑みを浮かべながら、男は彼らへと歩み寄った。
 舞い散る火の粉を素通りし、引きちぎれた死体を足蹴にしながら、一歩一歩と近寄った。
「ほっとけば殺られてたのはお前らだからだ。あの数の差を覆せるほど、お前らは強そうには見えなかった」
 アスファルトにへたり込む者達の数は、ざっと数えても20ほどか。
 実を言えば彼らの勝負は、戦う前から決まっていた。
 一山いくらのチンピラ風情だ。個々の実力差はたかが知れている。
 だからこそ数の多い方が、圧倒的に有利だった。そのパワーバランスが傾くような、そんな次元の世界には、彼らは住んでいなかったのだ。
「弱ェお前らは戦っていれば、まず間違いなく負けていた。俺1人に命運を動かされるような、そんなちっぽけな存在なのさ」
 それは奴らも同じこと。
 そこでくたばっている連中も、その程度の力しかないからこそ、この俺に呆気無く殺されたのだと。
「所詮この世は弱肉強食……強ければ生き、弱ければ死ぬ。お前らより強ェ俺だからこそ、選ぶ権利もあるってわけだ」
 それを知らしめんがために、敢えて弱いお前達こそを、選んで生かしておいたのだと、言った。
 教訓としては効果てきめんだ。
 自分達より強いのだと、そう断言した連中を、こいつはあっさりと殺してのけた。
 であればこのまま呆けていれば、それこそ自分達の末路は、火を見るよりも明らかだ。
 奴は間違いなくやってのける。涼しい顔を保ちながら、まばたきもせぬ間に自分達を殺す。
 暴走族の生き残り達は、最悪の未来を想像し、全身に汗を滲ませた。
「――だがよ」
 しかし。
 されど男は剣を抜かず、彼らの前にしゃがみ込む。
 視線を彼らに合わせながら、今度はなだめるような口調で、怯える不良達へと語りかける。
「俺も命が欲しいんじゃねぇんだ。少し人手が必要でな」
 それこそがわざわざお前達を選んで、生かした真の理由なのだと。
「お前ら、俺について来い。そうすれば死ぬ側のお前らに、生き残る強さを与えてやる」
 俺がお前らを強くしてやると、ミイラ男はそう言った。
 命令口調ではあったが、強制するような語気ではなかった。
 だとしてもその言葉には、抗いがたい何かがあった。首を縦に振らずにはいられない、そんな言霊が込められていた。
 もちろん、そこには恐怖もある。
 されどそれ以上に大きなものを――不思議な安らぎのようなものを、暴走族達は感じていたのだ。
「俺の名前は志々雄真実」
 一緒にデカいことをしようじゃねえかと。
 いつしか、そう誘う男につられて、彼らも、引きつった笑みを浮かべていた。


「食えよマスター。あまり食ってるって顔してねぇぞ」
 凄惨な殺戮劇が起きた、冬木の港のその波止場で。
 包帯男――志々雄真実は、そう言って手にしたものを投げた。
 神代凌牙が受け取ったのは、コンビニで売っていたフライドチキンだ。
 和装の志々雄に似合わぬそれは、彼が買ってきた物ではない。彼の従えたゴロツキの1人が、つい先程買ってきたものだ。
「チッ……」
 偉そうに、と舌打ちしながら、凌牙はチキンにかぶりつく。
 いかにもファストフードといった風情の雑な味だ。
 もっとも江戸だか明治だかを生きた、この英霊様にとっては、珍しい贅沢品なのかもしれないが。
 志々雄は凌牙のサーヴァントだった。ライダーのクラスを得て現界した、過去の英霊の写し身だったのだ。
「不満そうだな」
「昔の人は食うものにも困ってたんだぞ、って説教でも垂れるか?」
「……なるほど、真理だな」
 皮肉のつもりで言った言葉だった。
 しかし意外にも、志々雄――ライダーのリアクションは、感心したといった様子だった。
「弱ェ奴らは奪われるしかねぇ。飯も食えねぇのも当たり前だ。
 だが逆に言えば、その奪う連中に逆らえねぇ弱者は、ほとんどが食うものも食えねぇ連中と相場が決まってたな」
 食わなきゃ強くなれねぇとはよく言ったものだと、ライダーはくつくつと笑いながら言った。
 そんな態度が気に食わなくて、凌牙はふんと鼻を鳴らした。
「何だってまたこんなことを続ける」
 こんなこと、と凌牙が評したのは、先ほどの衝撃的なスカウトのことだ。
 ここまで過激ではなかったが、こんなことは初めてではなかった。
 既にこの包帯のライダーは、チンピラや暴走族のような荒くればかりを、100人近く支配下に置いていた。
 神秘性を持たないNPCなど、マスター同様サーヴァント相手には、傷ひとつつけられないというのにだ。
 あんな連中を集めたところで、敵に有効打を与えられない以上は、烏合の衆に過ぎないのではないかと。
「そう言うなよ。アレはアレで使いでがある」
 返すライダーの返答が、それだ。
 別にサーヴァントを殺せずとも、人が群れているというだけで、使い道はいくらでもあると。
「まぁ、目下の用途としちゃアレだな」
 言いながら、ライダーが海上を指さした。
 そこにあったのは1隻の船だ。幾分か時代がかってはいたが、月下に鉄の光沢を放つ、立派な戦艦の姿だった。
 大型甲鉄艦・煉獄――ライダーの騎乗兵(ライダー)たる所以。
 彼がサーヴァントになったことで、宝具化し己が武器とした、鋼鉄製の巨大戦艦である。
「操舵くらいなら俺にもできるが、他の作業には人手がいる。動かす人間がいねぇことには、宝の持ち腐れでしかねぇのさ」
 恐らく方治が使っていたなら、多少は変わっていただろうがと。
 ここにいない誰かの名前を出して、ライダーはそう締めくくった。
(涼しい顔していやがるが……)
 そんなライダーの横顔を、神代凌牙はじっと睨む。
 このサーヴァントは危険だ。
 事も無げに軍団を築いてはいるが、それを成し遂げた彼の資質は、間違いなく危険なものだった。
 幕末の人斬り、志々雄真実。
 その後明治の時代において、一大軍団を結成し、政府に反旗を翻した男。
 それだけの荒くれ達を束ねた、この包帯まみれの男には、邪悪なカリスマとでも呼ぶべきものがある。
 人々の心を巧みに束ね、血みどろの動乱へと駆り立てる、そうした才を持っている。
 たとえばナチのアドルフ・ヒトラー――第二次世界大戦を牽引した、ドイツ軍の指導者のような。
 もっとも中学生の凌牙には、ヒトラーの起こした戦いが、貧困を打開するための必要悪に端を発していたことまでは、理解できていなかったが。
(下手すりゃ俺すらも取り込むような、そういう類の男だ、こいつだ)
 隙を見せれば染められてしまう。
 彼の放つカリスマに、主人であるはずの自身が呑まれ、体よく利用されてしまう。
 どうしてなのかは分からないが、直感めいた不思議な感覚が、凌牙にそう警告を発していた。
「いっそ普通に受肉して、この時代を支配してやるのも、悪かねぇかとも思ったが……生憎と今の世はぬるすぎだ」
 あの程度の連中がデカい顔をしているようでは、平成の程度もたかが知れていると。
 凌牙の警戒など知りもせず、ライダーは海風を受けそう呟く。
 包帯の隙間から覗いていた、数本の細い黒髪が、夜の潮風に揺れている。
「やはりこの国は明治の時から、この俺がやり直してやるしかねぇようだ」
 だからこそ聖杯に望むのは、生前の時代への遡行だと。
 もう一度かつての国盗りに挑み、今度こそ日本を手中に収め、覇道を歩ませることこそが必要なのだと。
 不敵な笑みを浮かべながら、誰を恐れることもなく、ライダーはそう言い切ったのだった。
(冗談じゃねえ)
 面白くないと思うのは凌牙だ。
 こんな男に聖杯はやらない。願いを聞き入れてもらう権利は、主人である自分にこそあるのだ。
 ワールド・デュエル・カーニバルを経て、妹・璃緒を巡る因縁には、一応の決着をつけることができた。
 それでも、まだ全てが終わったわけではない。意識を失った肝心の璃緒は、未だ目を覚ましていないのだ。
 この聖杯戦争を勝ち抜き、必ずや願望器を手に入れる。
 そしてその奇跡の力で、今度こそ妹の目を覚まさせる。
 そのためにはたとえ誰であっても、邪魔をさせるわけにはいかない。
 さながら鮫の牙のように。
 内側に決意を固めながら、凌牙は鋭く目を光らせた。



【マスター】神代凌牙
【出典】遊戯王ZEXAL
【性別】男性

【参加方法】
『ゴフェルの木片』による召喚

【マスターとしての願い】
璃緒の意識を取り戻したい

【weapon】
カードデッキ
 デュエルモンスターズのカードデッキ。40枚のメインデッキと、数枚のエクストラデッキで構成されている。
 【シャーク】と名のつくモンスターを主体とした、水属性モンスターデッキ。
 特殊な力を持ったカード・《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》を所有しているが、
 他のマスターがデュエルモンスターズをプレイしない以上、その力は意味をなさない。

【能力・技能】
バイク運転
 免許を持っているのかどうかは不明だが、バイクを運転することができる。

バリアンの皇
 死した魂が行き着く場所・バリアン世界。
 凌牙にはその支配者である、バリアン七皇の一角・ナッシュの魂と力が乗り移っている。
 しかし当時の記憶は封じられており、事情に通じたものでなければ、それを解き放つことはできない。

【人物背景】
ハートランドに住む中学生。14歳。
カードゲーム・デュエルモンスターズをたしなむ決闘者(デュエリスト)であり、その実力は全国クラス。
しかし妹・神代璃緒が意識を失い、精神的に追い詰められた彼は、全国大会の舞台で不正を犯し、表舞台を追われてしまう。
以降は不良と化していたが、九十九遊馬らとの交流の中で、次第に心を開いていった。
ワールド・デュエル・カーニバルにおいては、かつての全国大会での対戦者とも対峙し、その因縁を乗り越えている。

ガラが悪く喧嘩っ早い、典型的な不良。
一方、元は妹思いの兄貴であったこともあり、何だかんだで義には厚い。

【方針】
優勝狙い。ライダーに利用されないよう警戒する。



【クラス】ライダー
【真名】志々雄真実
【出典】るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-
【性別】男性
【属性】混沌・悪

【パラメーター】
筋力:C+ 耐久:B 敏捷:C 魔力:E 幸運:C 宝具:B

【クラススキル】
対魔力:D
 一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
 魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

騎乗:D
 騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み程度に乗りこなせる。

【保有スキル】
炎の呪縛:B
 全身に火傷を負ったライダーは、発汗機能のほとんどを喪失しており、体温をコントロールすることができない。
 そのため15分以上直接戦闘を行うと、体温の異常上昇により、命に関わる苦痛を味わうことになる。
 しかし同時に、体温の上昇に伴って身体機能が活性化し、筋力・敏捷に段階的にプラス補正が与えられる。

勇猛:B
 威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
 また、格闘ダメージを向上させる効果もある。

戦闘続行:C
 瀕死の傷でも戦闘を可能とし、死の間際まで戦うことを止めない。

カリスマ:E+
 軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
 普通の人間にとっては恐怖の対象でしかないが、無法者や荒くれ者に対してのみ、絶大な効力を発揮する。

【宝具】
『大型甲鉄艦・煉獄(れんごく)』
ランク:C 種別:対城宝具 レンジ:1~99 最大補足:1000人
 志々雄が全財産の五分の三を投入して手に入れた、志々雄一派の切り札。
 過去の歴史をなぞり、東京湾洋上から東京を砲撃することを目的として調達された。
 一応ライダーの意志による操舵が可能だが、砲撃などそれ以外の動作には、相応の人員を必要とする。
 地上戦がメインとなる聖杯戦争では、自由に動き回ることはできないが、固定砲台としては十分過ぎる威力を発揮する。
 本来はこの戦艦を直接調達した、佐渡島方治の宝具だが、志々雄がライダーのクラスで召喚されたことにより、使用が可能となった。
 なお、この戦艦は実戦投入された記録がないため、当時のカタログスペックが、そのまま性能として反映されている(ランクが低いのもそのためである)。

『終の秘剣・火産霊神(カグツチ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1~5 最大補足:1人
 ライダー最強の秘剣。
 無限刃の全ての発火能力を解放し、刀身そのものを燃え上がらせることで、絶大な火力を発揮する

【weapon】
無限刃
 新井赤空作最終型殺人奇剣。
 絶対に刃こぼれしない刀として打たれており、その刀身には事前に鋸のような無数のこぼれが施されている。
 しかしそれ故に、切れ味の最大値が犠牲になっており、同等の達人同士の戦いにおいては、とどめの機会を逃してしまう可能性もある。
 この刀身にはライダーがこれまで斬ってきた、無数の人間の脂が染み付いており、
 これが発火することによって、「壱の秘剣・焔霊」および「終の秘剣・火産霊神」が発動する。

手甲
 火薬の仕込まれた手甲。
 これを「壱の秘剣・焔霊」によって引火・炸裂させることで、掴んだ相手に爆発ダメージを与える、「弐の秘剣・紅蓮腕」が発動する。

【人物背景】
幕末において長州藩に所属し、闇の処刑人を務めていた剣客。
しかし彼が請け負った暗殺の中には、明治政府の根底を揺るがすものもあり、用済みとなったことで処刑されてしまう。
そうして全身火炙りに遭いながらも、一命を取り留めた志々雄は、明治政府に不満を持つ者達を束ね、政府に反旗を翻すべく挙兵した。
最期には志々雄の先任に当たる剣客・緋村剣心との戦いの中で、自滅という形で命を落としている。
その性質から英霊ではなく、反英霊にカテゴライズされている。

「弱肉強食」を信条として掲げており、彼が政府を倒そうとしたのも、自らの支配する強い日本を作ろうとしたためである。
大胆不敵な野心家であり、自らの強さを信じて疑わない。
自信家であるが故か劇場型の傾向があり、作戦の際には様式美にこだわるタイプ。
とはいえ堅実な物見ができないわけではなく、一軍を率いるに相応しい、頭脳のキレを見せる男でもある。

剣術戦においては無双を誇り、その力は幕末を生き抜いた剣豪達を、次々と返り討ちにするほど。
しかしかつての処刑において、全身に火傷を負い発汗機能を失った志々雄は、15分以上戦闘を行うと、体に異常を来たしてしまう。
それでもなおその苦痛を、涼しい顔で抑え込むほどの精神力は、まさに驚嘆に値する。
本来はその逸話から、セイバーないしアサシンのクラスで召喚されるべきサーヴァントなのだが、
今回はライダーとして召喚されたことにより、例外的に宝具『大型甲鉄艦・煉獄(れんごく)』を使用できるようになっている。

【サーヴァントとしての願い】
明治時代で復活し、国盗りを再開する。



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参戦 神代凌牙 -
参戦 ライダー(志々雄真実

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最終更新:2015年02月15日 15:18