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西の悪き博士<上>

「……本当にここなの?」
「これにはそう書いてあるけど……」
ラノベ学園生徒の大半は寮住まい。
その寮もピンからキリまであるのだが、今彼らが居るのはそのキリの中でもキリのキリ、最安価な寮である。
彼ら二人のうち一人は『ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール』。
虚無/ゼロの二つ名を持つ魔法使い/メイジ。
もう一人はその使い魔、背中に剣を背負った少年、ガンダールヴ『平賀才人』。
二人は、とある理由があってこの寮へと来ているのだが……
「……人が住んでるようには見えねえよなあ……」
ぼやく才人。
事実、この寮は薄暗い。というより薄気味悪い。昼からよからぬモノが出そうな勢いである。
……この学園ではめずらしくはないのだが。
「…ああもう、行くぞ。ここでこうしてても埒が明かない」
「ち、ちょっと待ちなさいよ!」
寮の中へと入る二人。目当ての部屋はすぐ見つかった。
その部屋のドアにはこう書かれていた。
『大十字探偵事務所ラノベ学園出張所』と。


ピンポ――…ン
呼び鈴を鳴らす才人。しかし。
「「……」」
…誰も出ない。
留守か、とも思ったがどうも違うようだ。中からぶつぶつと何かが聞こえる。
二人は耳をそばたてる。すると聞こえてきたのは…
『ひもじい……ひもじいぃぃ……』
「「…………」」
言葉を失う二人。
「やっぱりあたしたちだけで何とかすべきかしら…」
「かもな…」
何というか、せつなげにそんな会話をする。
だが、この時後ろからかかってきた声で中の赤貧探偵に関わらざるを得なくなってしまう。
「…汝等、何をしておる?」
驚いて後ろを振り向いた。
そこに居たのは、手に購買部のレジ袋を提げた、フリルがついた白い服を着た少女だった。

『ふっふっふっはっはー。ふっはっはっはっはー。わひゃーっはっはっはっは!ドォォォクタァァァァァァ、ウエエエエェェェストッッ!!
 メイジのお嬢さん、ならびにその下僕、そしてこのスレをご覧の皆様はじめまして。1億年に一度のどぉぅゎい!天!才!
ドクターウェストで御座いますっっ!
 さぁぁてさて、今回我輩とある研究のためにどぉぉぉしても必要なものがありまして。
 そのために、君たちの持ち物の中にそれがあると知った我輩はこの知性を抑えきれなくなりそれをちょっぱらせていただいた次第!
 この研究が成功した暁には協力者として我輩の改造実験優先券を進呈、そして改造が無事済んだその時にはっ!
 あの憎き魔導探偵大十字九郎を共にぎったぎたのコテンパンにした後に、屋上からゴムの切れ目を入れたパンツ一丁で
吊るしてさらし者にし、「そのゴムが切れた時、お前は死ぬ。(社会的に)」なんて言ってやるのである!
 っつーわけであるからして、『始祖の祈祷書』と『水のルビー』、そしてヴァリエール家の杖はありがたく頂戴。
 貴君らの協力に感謝である、まる。』

以上が、今朝ルイズの部屋に残されていたドクターウェストの手書き丸出しの名刺の裏に細かく記された文章である。
この名刺を持ってきたルイズと才人、そして、白いフリルの服の少女、アル・アジフと(そのアルが買ってきた食い物で
空腹を満たした)大十字探偵事務所所長、大十字九郎は虫めがねでこれを読んでいた。
んで、読み終わった後。
「「…………」」
「「…………」」
四者二様の沈黙。
 方や、改めて読んだ名刺の裏書のあまりの内容にせつなくなり。
 方や、出張所での初の依頼なのに故郷でやってた頃とあんま変わんないなー、と、ある種の諦観の念により。
「…で、盗られた物を取り返したいから手を貸して欲しいと」
「…まあ、そういうことです」
 九郎の確認の質問に、才人が答える。
「ひとつ聞きたいのだが、此処のことをどうやって知った?我等は広告費すらも削らねばその日の糧を得られぬほどに
貧窮しておったのだが」
「………」
 アルが語った今更な現状に鬱になる九郎。
「ああ、それなら」
「占い師よ」
「「……占い師?」」


 名刺裏とは別の紙に書かれていた『改造手術を受けるのならこちらロボ』という地図の×印の場所へ殴り込もうとした二人を
その占い師は引き止め、この寮の場所のメモを渡しこう言ったという。
『魔導探偵大十字九郎なら力になってくれるさ』と。
「…………その占い師って、黒い髪に紅い眼で、……」
「……なんだ?」
 途中で言葉を切り、アルの様子を伺うようにして続ける。
「…やたら胸がでっかい、美人?」
「「!!!」」
 ぎん。
 そんな感じの擬音が合う眼光をその眼に宿し、それぞれの相方をにらむアルとルイズ。
「…はい」
 そしてその視線に気付きながらも正直に答える才人。すると。
「…ええ、そうなのよ」
 底冷えしそうな口調でルイズが言い、
 ぎゅむ、
 と才人の足を踏みつけ。
 どふ、
 と才人のみぞおちにひじを入れた。
「……!!!」
声にならぬ悲鳴。
「ええそうなのよそのとおりなのよこののらいぬったらまたくろかみでむねのでっかいおんなにしっぽふっちゃって
まったくせっそうないったらありゃしないそもそもこのつかいまったら……」
ぶつぶつ愚痴と怨嗟をはく静かな怒声。
「……ああっ、私をお棄てになるのですかご主人さまぁ…私はあなたなしでは生きられぬ体になってしまったというのに……」
腹癒せに陥れようとする演技。
「……アル。お前いいかげん初対面相手に俺を陥れる姦計をめぐらすのは止めれ」
いつものことに対する嘆き。
……事務所はいまや四者四様の混沌の異界となった。
ちなみに、アルの姦計は二人それぞれ痛みに耐えるのと怨嗟をはくのでいっぱいいっぱいで、さほど効果は無かったという。


あれからなんだかんだで、ラノベ学園の幾多ある食堂のうちマルトー親父が仕切る所でのしばらくのタダ飯を依頼料代わり
(これも占い師の入れ知恵である)にするということで話はまとまった。
さて、所は変わる。
大十字探偵事務所出張所があるのは確かに最安価な寮であったが、それは家賃を払うと言う前提での話。
学園の敷地の隅っこにぽつんと建っている建物。
学園の誰からも(記録からも)忘れ去られたこの建物、高い安いというよりむしろタダである。
この建物に住む人間はたった一人。その言動はかの『探耽求究』をも超えるほどに常軌を逸すことから、保健室の変態三本柱
(紅と緑とオマケ)からすらもあぶれてしまった、学園中から(多分意図的に)忘れ去られた男。
その男こそは。呪われた頭脳を持って生まれしその名は――
「ドクタァァァァァァァァァーーッ・ウェェェェェェェェストッッッッ!」
ギャァァァァッァァァッァァァィィィィィン!
ギターの旋律に乗せて己の名を叫ぶドクターウェスト。そんな様子を冷ややかに見つめ、
「博士、五月蝿いロボ」
のひと言で主の悦な気分をえぐるのはもう一人の住人……否、一機の同居人、ドクターウェストが鋳造せし
自動人形/オートマトン、エルザである。
「そんなことしてる暇があるなら、早く『我、埋葬にあたわず』にも例の新機能をつけて欲しいロボ」
「エルザよ……いつからそんなに自己中で冷たい子になってしまったのであるか?」
「自己中さは博士には負けるロボ。それよりエルザ、早く新しい『我、埋葬にあたわず』でダーリンとの愛の巣を今度
こそこの手で作りたいから――――」
どがしゃぁぁぁん!!
「くぉぉぉぉるぁぁぁぁっっ!!!ドクターウェストォォォォォッッッ!!!!人様にまた迷惑かけやがってぇぇぇぇぇ!!!」
「んお?」
ぼぐしゃぁぁぁっ!!
「げるぶふぉおおおあっ!??」
エルザのセリフの途中、壁をぶち破って現れ、ドクターウェストをぶん殴った黒い影。
「ロボ……?あっ、ダーリン!」
「「ダーリンちゃうわッ」」
息ぴったりのツッコミを入れるその二人は、マギウス・スタイルの大十字九郎と、手のひらサイズに縮んだアル・アジフだった。

「……やっぱこの学園の一員だねえ、あの二人。ひもじいひもじいなんて聞こえた時はオレもどうかと思ったがよ」
「だな…よっと」
デルフリンガーを持って九郎があけた穴をくぐってくる才人。ルイズは杖まで盗まれたので魔法は使えない。よって建物
の外で待機なのだ。
「あ…ああ…ハッ」
気絶から覚めるウェスト。
「のぉぉあっ!?お前は大十字九郎ッ!!??とついでに協力者の下僕のほう」
「ざっけんな、勝手に盗んでいって何が協力だ!しかもついでってなんだよ!」
「…下僕は否定せんのか」
「…!相棒、左だ!」
「ロォォォボォォォォォッッ!!」
ぎぃぃぃん!!
「うあっち!?」
デルフリンガーの指示でどうにかエルザのトンファーを受ける才人。
「――エルザとダーリンの愛の成就を邪魔する障害は、排除ロボ!ロォォォボロボロボロボロボロボッッ!!」
「う、うお、おおおっ!?」
ガン、ギン、ゴイン、と連続で繰り出されるトンファーを受ける才人。だが、一撃一撃が才人の握力を奪っていく…!
「おおおおおおおおおおりゃっっ!」
ブォン!
「ロボ!?」
ガキィィン!
横合いからの黒い斬撃を受けるエルザ。それはバルザイの偃月刀――!
「大十字さん!?」
「選手交代だ、平賀!お前はとりあえずドクターウェストを動けなくなるくらいにボコッて――――」
ズズズズズ…
その時。不吉な地響きが。

「……相棒、なんか地響きを感じねえか?」
「……ああ、はっきり感じた」
「よいしょっと…サイト、今何か地震みたいなのが――」
「ルイズ!?お前、外で待ってろって言ったろうが!」
「九郎、こいつは…!」
「……てめえ、ドクターウェスト!…ってあれ?いねえ!?」
きょろきょろ見回す九郎とアル。そんな二人にエルザが告げる。
「久しぶりにあれを動かすために、ここは少しのお別れロボ、ダーリン」
「なッ…てことはやっぱり」
「…『あれ』か。また面倒なものを…!」
「それじゃ、バッハハーイロボ!」
「ああっ、待ちやがれ!」
いつの間にか床に開いていた穴に飛び込むエルザ。九郎は後を追おうとするが、穴は閉まってしまう。
「探偵よ、それに魔導書の娘っ子、この地響きに心当たりあるみてえだね」
「むう…」
齢千を超えるアル・アジフを娘っ子呼ばわりのデルフリンガー。もっともこの剣は六千歳だが。
「ああ…正直あまり認めたくはねえが…とりあえず外に出るぞ。探し物はこの中にはなさそうだ」


外へ出た大十字一行。地響きはどんどんでかくなり、そして――――
ぐうぃぃぃィ――むっ
「うぉっ!?」
才人の目の前の地面が――否、見渡す辺り一帯が――せりあがった。
そして、そのせり上がりが頂点に達した時、四人は――学園の皆は見た。
その――――――でっかい、ドリルとか腕とか短足とか顔とかがついたドラム缶を。
忘れ去られた建物の地下に、ドクターウェストは格納庫兼リフトを建造していたのだった。

がっきょんがっきょん。
どこか間抜けな足音を響かせて、ドラム缶――破壊ロボは歩き出した。


――校舎内。
上条「……なんだありゃ」
悠二「ドラム缶……に見えるけど」
シャナ「……あんなもの作るやつといえば……」
インデックス「……教授かも?」
アラストール「『探耽求究』……奴以外におるまい」
ダンタリオン「皆さん、残ぁぁーーん念ながら違いますよぉぉーーーーう?」
インデックス「わっ!び、びっくりしたかも!」
上条「つか、あんたいつの間に俺らの真ん中に!?」
悠二「…違う?」
ダンタリオン「その通ぉぉーーーり、あぁぁぁーのエキサイティングにしぃぃーて、エクセレントかつ、エェーーーキセ
ントリックに素晴らしいぃぃぃーーーーメカは実に、そーーぉう、実ぃぃぃぃーーつに残念なことに
私が作ったもぉぉーのではありませぇぇーーん!ぜぇぇぇーーひ作った当人に会ぁぁーーってみなくては!」
シャナ「……こんなのがほかにも?」
アラストール「……」

『ふひゃーーーーーーはっはっはっはっはっはっはっは!!どうしたであるか大十字九郎!このドクターウェストの頭脳より
生まれた『スーパーウェスト無敵ロボ28號〔こんにちは~こんにちは~ラノベの~皆さん~♪〕』の前には』
『博士、うるさいだまれ』
『はい』
「ちっ…好き勝手言ってくれやがる!」
「きゃああああああああああああ!」
「ええい、黙らんか小娘!」
 九郎は才人とルイズを担いで破壊ロボから飛んで逃げていた。時折放たれるビームやミサイルをかいくぐるように躱す。
「このままでは埒があかんぞ、九郎!」
「解かってる……!!喚ぶぞ、アル!!!」
「……!ああ!!」
「大十字さん?呼ぶって何を…?」
「相棒、この二人にも切り札の一つぐらいあるってこったろうさ」
「なんでもいいから、手があるなら早くしなさいよ探偵!」
「了解だ、依頼人/クライアント!」
 返事をして地面に降りる九郎。二人を肩から降ろす。
『ほう?遂に観念したであるか大十字九郎?』
「まさか。むしろ観念するのはてめえのほうだぜウェスト。……鋼鉄のダンスと洒落込もうか!!アル、行くぞ!!」
「応!!!」


 宗介「会長閣下」
 林水「ん?」
 宗介「なぜあの未確認機への攻撃許可をくださないのですか。このままではこの学園が…」
 林水「それについてはあるところからすでに通信が入っている。『我々の不始末は我々でかたをつける』、だそうだ」
 宗介「…あるところ?」
 林水「……覇道財閥だ」


「憎悪の空より来たりて――」
九郎の声が聖句を唱える。
「正しき怒りを胸に――」
 アルの声が聖句を謳う。
「「我等は魔を断つ剣を取る!」」
 重なる二人の声。そして。
「「汝、無垢なる刃――デモンベイン!」」
 二人の聖句に応え、其れは――来る。

其処に有り得べからざる物質が、存在する無限小の可能性。
限りなく『0』に近い確率が集積され、完全なる『1』を実現する。
そして――其れは、この学園に顕現した。
「これ…ロボット…?」
「ああ」
 才人のつぶやきに、九郎が答える。
ラノベ学園では巨大ロボットは、さほど珍しいものではない。それにロボットでなくとも紅世の従などの中には遥かにでかいものも居る。
だが。
それは、この学園にそれまで一度も顕れなかった“鋼鉄の/刃金の”“巨人/巨神”――
「こいつが俺たちの切り札――鬼械神/デウスマキナ『デモンベイン』だ!」
 答えるとほぼ同時、九郎の体が魔術文字となって解ける。そして、デモンベインのコックピットへと転送される。
 ――動き出す。


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最終更新:2007年02月18日 13:35
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