「承知した、ミス・トオサカ。貴女は今から依頼者であり、私のマスターだ」
「そうね、まずは……ミス・トオサカって呼び方は好きじゃないわね。マスターか、嫌なら凛でも良いわ」
聖杯戦争に参加させられた少女、遠坂凛に与えられた役職は、学生だった。
よく学び、よく遊べとはよく言ったもので、学生ならばまずは登校。
東京とは言われるものの、本来所属する学び舎ではない、本来の日本とも東京とも異なるらしい
なんだかよく分からない、真面目に通い上げた所で単位にも免状にもならない仮初の所属ではあるのだが、
いかなる時でも優雅たらねばなるまいという堅い信条の下、彼女は学生を演じきる。
演じるとはいったものの、彼女は元々学生であり、また、学業において優秀な成績を修めてもいたので、
日常の振る舞いにおいて、また、教授される学問においても、困らされるという事はなかった。
困るというならば、むしろ他の事柄にある。
「お帰り。今日は早いのね」
「ただいま。ええ、今日は先生からの頼みごとや友達の誘いは無かったから」
「あら、そう。じゃあ今日は家にいるの?」
「呼ばれたりしなければね。早めに課題を終わらせようかな、って」
「あら、なら邪魔しちゃ悪いわね。お父さんも今日は早いって言っていたから、帰ってきたら呼ぶわね」
学業を終えて帰った彼女を迎えたのは、母という名の赤の他人である。ついでに本当に真っ当な人間であるのかも怪しい。
知った顔くらいにはなった女性といかにもなやりとりをし、誰かに用意された自室に入る。
知識としては家族の仔細や思い出が頭に入れられてはいるので、彼女はそれを受け入れた。
偽造された団欒に彼女が憤ったのか、それとも本来失われた物の代替として良い感情で受け入れたのかは定かではないが、
それはそれとして、彼女の抱える問題は別の物だ。
――お金が、無い。
彼女は魔術師だ。魔術を使う。魔力というおおよそ意味の分からない超常のエネルギーを操り、
手から呪いを飛ばしたり、重力干渉してみたり、体中の筋力を強化したり、愛と希望が飛び出す非凡な現象を起こす。
一括りに魔術といっても起こす現象の分野は多岐に渡り、魔術師と呼ばれる人間たちは各々の求める分野を研究し、掘り下げる。
科学ならば起こった現象を基に法則を解明し、洗練させ、汎用性を持った人間社会全体の利用する技術となるのだが、魔術は違う。
起こしたい現象を起こすために各人が研究する。根源という物に到達するために。
そんな魔術で彼女が研究するのは、宝石魔術といういかにも乙女チックで煌びやかな、まさしく優雅な魔術である。
これが石コロや土塊を宝石に変換する魔術ならばよかったのだが、残念ながらそうではない。
遠坂の魔術の基幹は魔力の流動・変換で、宝石を媒介として魔力を貯めこみ、
本来ならば魔力の用意が難しい大魔術を行使したり、大量の魔力で本来は起こせない現象を無理矢理起こしたりする。
ン万ン十万ン百万ン千万ン億ン十億……、宝石というのは学生には手を出しがたい値段の物だ。
高ければ魔力を宿しやすいという訳でも無いのだが、高い物は由緒があったり大粒であったり、魔力を宿しやすい要因を持ちやすい。
用意された中流家庭の子女という役職では、たとえ親を唆して資産を全て処分したとしても大した足しにはならないだろう。
それでも、元々の場所から彼女が持っていたものをいくらか持ち込めていたり、
あるいは丁寧に術を織り込める時間が有ればまだマシだったかもしれない。
もちろん、今の彼女は宝石など持っていなければ、この聖杯戦争にどれほどの猶予が有るかなど彼女に知る術は無い。
ならば、あらかじめ聖杯戦争に用意された無双の英傑、サーヴァントを軸に戦略を組み立てるのが筋というものなのだが。
「リン。課題はやらなくていいのかね?」
「知っているんだから嫌味ったらしく言う必要はないんじゃない?」
「これは失礼」
部屋に入り、上着を掛け、学習鞄を所定の場所に置く。彼女の部屋は、必要以上に整理されていた。
本来の自室や、気の知れた知人の家ならばまた所作も変わるのだろうが、意識してか、無意識なのか、他所行きの振る舞いを彼女はする。
とはいえ、一応魔術師の工房として整備された空間ではあるので、他よりはいくらか気の許せる場所ではある。
なので、サーヴァントとの会議が必要であれば、基本は自室で、ということになる。
「今日は何かあった?」
「私が敵ならば、君がマスターであると知れば何か行動を起こすだろうな。
そして、魔術的な干渉を試みるなら、私よりリンの方が気が付くだろう」
「サーヴァント同士の気配の干渉があるでしょうが」
「あったら状況を問わずすぐに知らせなさい、と言うのは君の発言だったように思うが」
「自分の意思を持った英霊から、1日の報告でちっとも有意義な意見を貰えないというのはどうなのかしら?」
「霊体化して今日のディナーでも調べてきたら良いのかな」
「いいわよ、紅茶を淹れるついでにでも聞いてくるわ」
「立派な機具を、とわ言わないがせめてミルとフィルターぐらいはこの部屋にも用意してもらいたいものだ。
インスタントコーヒーも随分と質が上がったとは思うが、どうにも口に合わない」
不仲という訳ではないのだが、彼女のサーヴァントには聖杯戦争について話せる事が無い。
なので、これは互いに会話を繋ぐためのなんということのない無駄話だ。
持論だとか、方法だとか、価値観を論ずるならば語り明かす事も出来るかもしれないが、
彼のそれは戦略だとか戦術だとかに成りうるものではなく、雑誌や新聞のコラムだとか、小説の後書きに近いものだ。
それでも軍警察に所属した経験はあるので、科学的な捜査は幾らかの心得があるだろうが、
魔術だとか聖杯だとかの超常的な事象にどれほどの効果があるのかは彼の知る所ではない。
そして何より彼は暴力的な方法での解決を好まないので、物語の英雄の如き圧倒的な武力は持ち合わせていない。
彼の生業、そしてクラスも――交渉人(ネゴシエイター)である。
そんな彼が、聖杯「戦争」でいかほどに戦えるものだろうか。
故に、マスターである遠坂凛は宝石による備えを用意したい。
「できる限りの魔術的な備えはしたいんだけど、アンタのスキルで値切ったりできない訳?」
「アンティークなら七掛け……いや、相手を選ぶなら半値までにはできるだろう」
「半値、ねえ……」
凛はベッドに、ネゴシエイターは学習机の椅子に腰かけ話をする。
男を彼女の寝るベッドに座らせるか、彼女が椅子を諦めるかと言われれば選ぶまでもない。
来客用のクッションぐらいは用意されているが、椅子やソファーまでは備えられていない。
彼女の趣味ではない、いかにも女の子です、という明るい色合いの部屋だ。
可愛らしいぬいぐるみやら小物やらがあちこちに配置され、衣類にはこれまた彼女の趣味に合わないような、
いかにも「少女」といった感じの物が、箪笥からクローゼットの中までキチッと整理された状態で用意されていた。
化粧品ならば仮の母からある程度融通してもらえたが、資金難のおり、少ない小遣いといえど無駄にはできず、
用意されたものに袖を通していたが、ネゴシエイターが半笑いで可愛らしい、とても良く似合っている、
どこのお嬢さんかと思ったなどと褒めそやすもので、彼女は思わずその綺麗な長い足をネゴシエイターに叩きつけた。
とにもかくにもお金が無い。女子高生らしいといえばいくらかの女子高生は否定するような、
可愛らしいデコレーションが施されたピンクの長財布の中には諭吉が二人。
宝石どころか彼女の好みの衣類を数セット揃えるのも難しい。学校での交際費も考えるならさらに少なくなる。
たとえ半値に値切ってもらえたとしても焼け石に水である。
薄いだとか香りが悪いだとか文句を並べながら気取ったようなしかめたような面白い顔でインスタントコーヒーに
口を付けているネゴシエイターも、やれコーヒーが飲みたい、ワインが飲みたい、レストランのディナーが食べたいなどと結構な我儘を言う。
もちろん、サーヴァントに食事などさせる必要などないのだが、ネゴシエイターはあまり放置すると、直接的な文句こそは言わないものの、
段々と語り口が厭らしくなっていくし、彼女も狭量であると思われたくないので、家族に魔術を使って多少は融通する。
外で使うお金は無い。
あくまで聖杯戦争に差し障りのない範囲で精一杯聞いてあげていますよ、というポーズである。
ネゴシエイターにしても、半分はマスターの値踏みであるので、ある程度要求が通れば何も言わない。
もう半分はただの欲望だ。
「はあ……なんだってアンタみたいなのがサーヴァントなのよ、よりにもよってこの私の」
「リンには他の聖杯戦争の経験があるのだろう? この趣味の悪い催しの主催者の嫌がらせかもしれない」
「せめてハンデって言いなさいよ。しかも自分で役立たずです、なんて宣言する? 普通」
「私の仕事は交渉でね。暴力や戦争で訴えるものではない。いざとなれば宝具があるが」
「巨大なゴーレム……というかロボットを召喚・維持する宝具なんて魔力的にも街への被害的にもそうそう使えるもんじゃないわよ」
「使えるだけまだマシというものだ。優秀なマスターのお陰だよ。並のマスターなら呼ぶだけでも魔力が尽きるだろう」
「アンタ自身できる限り使いたくないんでしょう?」
「交渉が通じない、あるいは交渉する気が無い相手への最終手段だな」
「現状の備えだと、後手に回ったらまずチャンス無しで死ぬわよ、私達」
「過去に聖杯戦争を経験した君がそう言うならばそうなのだろうな」
この聖杯戦争に参加してから何度目かも分からない現状確認をし、遠坂凛は溜息を吐く。
ネゴシエイターは知らぬ顔をしてインスタントコーヒーの粉を自らのティーカップに入れお湯を注ぐ。
どうせ不味いというなら飲まなきゃ良いのに、と凛は思う。
ネゴシエイターはやはり文句を口にする。
凛に用意された紅茶の茶葉は結構上質なものである。仮の母に言えば買ってきてもらえる。
あらあら、紅茶なんか飲むの? と言われた時は多少癪に感じはしたものの、ちゃんと言い付けた銘柄通りの物を用意してくれるので、
慣れてしまえばそう悪い物でもない。 食事にしても何にしても、用意してもらうという経験は彼女の知己である衛宮士郎の家に
お邪魔するようになりまではあまりあるような事でも無かった。母らしき人間と街で買い物をするというのも、これまた幼い頃に
母を亡くしてからはある事では無かった。後見人の神父から人の食べる物とは思えない激辛の中華を振舞ってもらう事はあったが。
コーヒーメーカーや豆も言えば買ってもらえるかな? と彼女は思ったりしたが、豆から挽くコーヒーメーカーとなると数万円はする上、
彼女自身、機械に疎く壊すかもしれないと、イマイチ乗り気にならない。
かといってこのサーヴァントの口からでるうように手動のコーヒーミルを買い与えても、自分の飲んだコーヒーのカップ一つ
言われるまで片づけようとしないこのネゴシエイターが、どれほど飽きずにコーヒー豆を挽く作業を続けるかは信用にならない。
飽きた所にネチネチといってやるのもそれはそれで面白いかもしれないなどと彼女が考えている内に、すっかり外は暗くなっていた。
ネゴシエイターはというと、霊体化を駆使して台所からこっそりくすねてきたのか、あるいは凛が部屋に置いておいた物なのか、
買い置きらしいカップ麺にお湯を注いでいた。
最初にネゴシエイターにカップ麺を与えられた時には、私にこのような粗末な物を食べろと言うのか、と呆れた顔をして言ったものである。
彼女は思う。
あるいは、本当にこのサーヴァントは、この聖杯戦争に疑問を持った自分への当て付けで聖杯が充てがったのではないかと。
以前彼女の参加した聖杯戦争の聖杯は、汚染されていた。
ならば、自分がいつの間にか参加させられたこの聖杯戦争はいか程の物か、と考えるのも自然な物である。
「ねえ、ネゴシエイター」
「なにかね?」
「貴方は自分が『ロジャー・スミス』であるために召喚に応じた、って言ってたわよね」
「その通りだ。私はロジャー・スミスであり、ロジャー・スミスである以上交渉をする。どのような舞台であったとしても」
「ロジャー・スミスは聖杯には求めない」
「私が求めるのはロジャー・スミスであるという過程と結果であり、その報酬は内容とから決められる物だ。
聖杯が手に入れるための交渉が君の依頼なら、聖杯は依頼人たる君の物だろう。あまり報酬を安く見積もられても困るがね」
「そうね。貴方はロジャー・スミス。私は遠坂凛。遠坂家の当主としてこの戦争に勝ち抜いて聖杯が何なのかを見極めるわ」
「貴女が何をすべきか決めているならば、私が口を挟む所では無い。貴女には確たる意思と誇りがある」
どんな話をしたところでカップ麺とインスタントコーヒーが合うハズが無い。
多くの学生は、課題やレポートをこなしながらカップ麺を食べ、インスタントコーヒーを啜る事もあるだろう。
学生ならば文句は言わないが、彼はロジャー・スミスである。
仮初の父が帰り、遠坂凛はこれ幸いと文句を聞かずに偽物の団欒に赴いた。
【クラス】ネゴシエイター
【真名】ロジャー・スミス@THE ビッグオー
【属性】秩序・中庸
【パラメーター】
筋力:E 耐久:E 敏捷:E 魔力:E 幸運:A 宝具:B
【クラススキル】
交渉:EX
言葉が通じ、交渉に臨む態度を示す相手であれば、世界であっても交渉を可能とする。
ただし、言語を理解しない相手や、交渉に応じない相手と無理矢理交渉できる技術ではない。
単独行動:EX
宝具を使用しない限り、聖杯戦争の継続中は聖杯から得られる魔力のみでも現界を続けられる。
英霊としての人を半ば逸脱してた能力を持たない事に対しての代償としての高ランク。
【固有スキル】
ドュミナス:A
巨大な機械仕掛けの神、メガデウスを操縦できる。
Aランクならばメガデウスと心を通わせる事もできる。かもしれない。本人の気のせいかもしれない。
騎乗:E
自動車やバイクなど一般的な車両を普通に乗りこなせる。
ロジャー・スミス:EX
彼はロジャー・スミスである。
ロジャー・スミスは交渉人なので宝具を使用するまでは対峙しても英霊とは思われない。
もっとも、サーヴァントとしての気配は隠されず、あくまで対峙した際に彼がそうであると思われないだけである。
【宝具】
『大いなる“O”(ザ・ビッグオー)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
メガデウス「ビッグオー」を召喚する。
操縦自体は乗り込めば誰でもできるが、ドュミナスのスキルを持たない場合は操縦席を機械的な触手で覆い操縦者を圧殺する。
たとえ騎乗スキルを持とうが武芸や機械に対する技能を持とうがドュミナスとして認められなければ圧殺する。
ビッグ・オーには額の装甲から光線を発射する「アークライン」、
パンチとともに圧縮空気を噴射して破壊する「サドンインパクト」など 様々な兵器が搭載されている。
高層ビル並の巨体を持ち、召喚・維持には大量の魔力を必要とする。
操縦者ヘの宝具なので対人。
『此度の舞台に幕は下り(ザ・ビッグオー ファイナルステージ)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:1000人
ビッグオーの操縦席に機械人形を召喚し、連結することで一発限りの巨大砲塔を起動させる。
砲塔から放たれた光線はあらゆる物質・事象を飲み込み消滅させる。
世界が作られたものであれば、光線により抉られ生まれた歪みから舞台裏を覗く事もできるかもしれない。
使用後はビッグオーの召喚・起動は不能になる。
【weapon】
無し。
【人物背景】
記憶を忘れた町「パラダイムシティ」に必要とされる仕事、交渉人ロジャー・スミス。
その辣腕はパラダイムシティNo.1との呼び声も高い。
ゲームへの外部出演では巨大ロボの修理費を0にすることからその交渉能力の高さが伺える。
映像となった作中では失敗している描写もあるが、これは相手が交渉に臨む態度を持たないのと、
THE ビッグオーという作品にビッグオーを登場させるための作劇的な理由が大きいだろう。
外面は良いが、少し付き合うとすぐに子供じみた面を覗くことができる。
彼の様々なこだわりからくる流儀、作法を視聴者がそのように感じるだけかもしれない。
服装はいつも黒のスーツで、敵役からはカラス野郎と罵られ、女性からは趣味が悪いと不評。
【サーヴァントとしての願い】
「ロジャー・スミス」である。
【マスター】
遠坂凛@Fate/stay night
【マスターとしての願い】
勝ち残り、聖杯を見定める。
【能力・技能】
魔術
五大属性、アベレージワンを持っている。魔力量も並の魔術師の10倍あるとのこと。
遠坂の魔術の性質は流動・変換。宝石魔術を専門に扱う。
【人物背景】
冬木の聖杯戦争を生き残った魔術師の少女。
その際、聖杯の性質を知り、破壊に加担したため聖杯には懐疑的。
候補作投下順
最終更新:2016年03月03日 13:12