次のニュースです。
今日、渋谷区のテナントビル一棟が全焼しました。
死亡者○○人、重軽傷者△△人
周辺から火の気がない処から出火したことで、放火の疑いがあるとみられます。
今月渋谷区で起こった火災事件は□□件目になり、警察は渋谷区での警戒を強めていくとのことです。


―――――渋谷区―――

東京都最大の繁華街の一つ。
多くの人間がこの街に訪れる。
特に駅前のスクランブル交差点には多くの人間が溢れかえる。
さらに週末の夜となれば、スクランブルでは人にぶつからず歩くのは難しいだろう。
行きかう人の喋り声、アスファルトを踏みしめる靴の音、巨大ディスプレイから流れるCM。
これらの音が合わさって一種のBGMのようにも聞こえてくる。
そんな人ごみに自分の存在感を紛れ込ますように交差点を渡る男が一人。
葛西は歩きながらポケットにあるマッチ箱からマッチを取り出し、タバコに火をつけた。

やはり違う。
味は似ているが、微妙に違う。

本来なら自分のお気に入りの銘柄はたんまりとストックしているのだが、今はそのストックは存在しない。
まあ、似たような銘柄があるだけ良しとするか。

葛西は歩きたばこをしながら歩き、スクランブル交差点を抜け、センター街に向かう。
だが突如背後から声をかけられ、男は思わず足を止める。
振り返ってみると、警官が二名立っていた。

「すみません。ここは歩きたばこ禁止なので、止めて頂けますか?」

警官は腰が低い態度で、男に注意を促す。
しかし葛西は歩きたばこを注意されただけにしては、不自然なほど驚いた表情を作りながら、警官を見続けていた。

「すみません、聞こえていますか」
「あ、悪い悪い」

警官は男が何も反応しないことに苛立ったのか、少し強めな語気で声をかける。
その声でやっと気付いたのか、葛西はニヤつきながら吸っていたたばこをアスファルトに押しつけて、警官たち元から立ち去った。

葛西善次郎は犯罪者だった。
罪状は主に放火、それに脱獄などの罪状を加えると前科1342犯。
人類史史上最悪の犯罪者といっていいだろう。

そんな犯罪者を目の前にした警官が、だた歩きたばこの事を注意しただけなのが、葛西にとって可笑しくてたまらなかった。

しかし、それは無理もないことだった。
この世界において、葛西は犯罪者ではなく、ただの失業中の無職なのだから。

葛西が記憶を取り戻す切っ掛けは些細なことだった。
渋谷の街をぶらついている際に、ふと目にやった交番に見た時に、あるべきものがなかった。
自分の手配書。
前科1342犯である自分の手配書が日本の交番に無いわけがない。

―――おかしい、何かがおかしい?―――

感じたのは強烈な違和感。
それを感じた瞬間、様々な情報の濁流が葛西の脳内に押し寄せる。

シックス ネウロ 血族 五本指 炎 警察
そして葛西はすべてを思い出した。

センター街のゲートを抜け、20メートルばかり歩くと、その物体は葛西を出迎えた。

これはオブジェと表現していいのだろうか、
空き缶や鉄パイプなどのゴミやがらくた。車や自転車、さらに信号機などが、ただ乱雑に積み重なった巨大な塔。
渋谷、いや現代の街にあるのが不自然すぎる物体。
その不自然さ故に、発せられる圧倒的な存在感は道行く通行人の目をくぎ付けにした。

このオブジェはある日前触れもなく出現した。
最初は誰かのいたずらだろうと、区役所の職員が撤去した。
だが、日を追うごとにそのオブジェは増えていく。
一つ、二つ、三つ、四つ。
撤去しても、出現し、撤去しても、出現する。
いたちごっこは数日間繰り広げられて、ついに区役所は折れた。
撤去にかかる費用と労力が割に合わないと判断し、オブジェを放置することにしたのだ。

撤去が中断された後、オブジェが増えるペースは衰えたが、着実に増え続け、渋谷のいたるところでオブジェが見られるようになった。
今では、渋谷の新しい名物になりつつある。

このオブジェは誰が、何のために作ったのか?
様々な噂が飛び交うが、誰も真相の片鱗に触れることは無かった。

だが、葛西は誰がこのオブジェを作ったのは知っている。
この奇怪なオブジェを作ったのは恐らく自分のサーヴァント、キャスターであることを。

キャスターは自分が記憶を取り戻した直後、出現して聖杯戦争についての情報とミッションを与えた後、姿を消した。
その直後から、渋谷の街にオブジェが出現し始めたのだ。
タイミングからしてキャスターの仕業と考えられない。


□□□

葛西は繁華街を抜け、自宅の近くにある公園のベンチに腰を下ろし一服する。
薄汚れた青色のシーソー、長年使われたせいか、塗装が剥がれた赤い滑り台。
それらを照らす蛍光灯は、チカチカと明滅し、今にも消えそうだ。
そして、頼りない光源が公園のど真ん中にあるゴミの山、例のオブジェを映し出す。

違和感の塊のようなオブジェだ。
世界中のありとあらゆる場所においても、このオブジェは違和感を発するだろう。
自分のサーヴァントは何を考え、何を思ってオブジェを作るのか

少しでも理解できるかと考え、オブジェを下から観察する。
薄暗くて見えにくいが、うっすらと自転車やテレビやマネキンなどが見えた。
相変わらずゴミを積み重ねたようにしか見えないが、一つだけわかったことがある。
それは、積み重ねるのは無機物であるということ。
もしシックスがこのようなオブジェを作るなら、生きた人間を積み重ねそうだな。
そんなことを考えながら、視線を上げるとオブジェの頂上に佇んでいる人をうっすらと見えた。

黒のジーンズ、黒のジャケット、黒のキャップ。
黒一色の服装は夜の闇に同化し、公園の蛍光灯の弱い光りでは目を凝らさないと発見できないだろう。
葛西はその人物に見覚えがあった。
一度だけしか見ていないが、しっかりと覚えている。

「火火火、何をしてるんだ、キャスター?」

キャスターは葛西の存在に気が付き、どこからか取り出した拡声器を片手に叫ぶ

『計算しているに決まっているだろ!このヘクトパスカルが!』

あまりの声量に思わず、耳を塞ぐ。
普通にしゃべればいいのに、何故拡声器を使う?計算しているに決まっているって何を?
突っ込むポイントが二三浮かぶが、ぐっと抑える。

「ここら辺は俺の近所だから、拡声器使うのはやめてくれえか、近所迷惑だから」

キャスターは言うことを聞いたのか、拡声器をオブジェの天辺に乱暴に突き刺し、オブジェから飛び降り、葛西の元へ近づいてくる。

「それより、ちゃんと与えられた仕事やってるのか」
「ほどほどにな、あまりオジさんを働かすなよ。キャスター」
「ちっ!お前の魔力が1ヨクトグラム以下のせいで、碌に動けねえんだ。ゼタ気張ってやれ」

キャスター、南師猩は人に任せることを嫌う。
生前は単独行動が多く、何をやるにしても一人でやってきた。
何事も一人ででき、何より他人が介入することで自分の計算が狂うことを極端に嫌っていた。
葛西に与えた仕事は自分の宝具を生かすために重要な事。
本来なら自分でやりたいところだが、それをするには魔力を消費する。
葛西善次郎の魔力はそこらへんの人間と大差ない。
ただでさえ不利な、キャスターというクラスに、魔力が少ないマスター。
聖杯戦争を勝ち抜くためには、魔力を無駄に消費することはできない。
葛西の働きが芳しくなければ、自分が実行するのもやぶさかではないが、それなりの働きをしているので、とりあえずは葛西に任せている。

葛西がキャスターに与えられた仕事。

―――渋谷を負の感情で満たせ――――

渋谷に住む住人の心に不安、恐怖、嫉妬。それらの負の感情を植え付けろ。
葛西は頭を悩ませた。
かつての同僚ジェニュイン、群衆の心理と行動を思うままに支配できる煽動の天才。
彼女なら渋谷を負の感情の渦に陥れることなど、朝飯前だろう。
だが自分にはそんな技術は持っていない。

しかし群衆を煽動しなくても、単純な方法で渋谷を恐怖や不安で満たすことはできる。
むしろ、その方法しか思いつかなかった。

もし住んでいる近所で殺人事件がおきたら、どんな感情を抱くか?
もし家族、友人が不慮の事故で死亡してしまったら、残された人はどんな感情を抱くか?
大半の人は不安や悲しみを抱くだろう。
葛西は自分の手で不慮な事故や殺人事件をおこすことにした。
放火という方法で、

葛西は渋谷にある住宅、テナントビルなどをランダムに放火した。
以前のように大がかりな放火はできないが、それでも放火によって少なくない被害と人間が死亡した。
治安が荒れれば人の感情は荒れる。
感情が荒れれば、負の感情を抱きやすくなる。
これが葛西の思いつく、たったひとつの方法。

「おい、お前は聖杯に何を願う」

南師は葛西に尋ねる。
生前の南師なら他人に興味を示すことはなかった。
だが疑問に思うことがある。
何故自分はこの男のサーヴァントとして召喚されたのか?
願いを聞けばその疑問が解けるかもしれない。
そう考え質問を投げかけた。

葛西は吸い込んだ煙を吐きだし、語り始める。

「俺には夢があってね。俺がどう逆立ちしても勝てない絶対的な強者。
そいつは地球上の誰より長生きするだろうさ。俺はそいつより長生きしたいんだよ」
「じゃあ、聖杯で力を貰うか、そいつをぶっ殺せば長生きできるじゃねえか」
「火火火、それじゃ意味がない、俺の美学は人間の限界を超えないこと。聖杯で力を貰ったら人間を越えちまう。
人間の知恵と工夫で長生きすることに意義があるんだよ」

葛西の願いは絶対的な強者、シックスより長生きすること。
だが自分の望みは叶うことはないだろう。
警察の情熱と執念により完全に追い詰められ、燃え盛るビルの室内に身動きできない状態で取り残される。
そして頭上から燃え盛る数百キロのコンクリートが落ちてきた。

それが覚えている最後の記憶。
あれほどの質量だ。九分九厘で死ぬだろう。
では生きる為に、聖杯に頼んで警察に追い詰められたことを無かったことにするか。
あの場所から安全な場所に瞬間移動してもらうか。

どんな願いを叶えられる聖杯。
それが本当なら簡単にできるだろう。
だが、聖杯の力を使うことは人間の限界を超えることではないのか?
美学に反する。
故に葛西はその考えを打ち消した。

葛西が聖杯にかける願い。
それは『召喚された直前に戻ること』
あの時は生きることを諦めていた。
だが、もしかしたら知恵と工夫と幸運で生き残れるかもしれない。
どうせ死ぬかもしれないが、足掻いてから死んでも遅くは無い。

足掻く機会を得る為には、聖杯戦争に勝ち抜かなければならない。
サーヴァントと呼ばれる化け物同士の争うのが聖杯戦争。
聖杯戦争の詳しいことも、セオリーも知らない。
だが、この戦いの鍵を握るのは人間、マスターであると考える。
それこそ魔人ネウロと新種族シックスの争いの鍵を握るのが、お互いが進化を促した人間であるように。

つまり、この戦いは自分の働き次第ということか。

―――長生きの為に頑張ってみるとするかねぇ

葛西は静かに力強く、決意と言う名の炎を心に灯す。

「美学か……」

南師は葛西の話を黙って聞き、独り言のように呟く。
長生きしたければ聖杯の力を使えばいい。
誰もが分かる簡単な理屈、合理的な考え。
しかし葛西は美学のために、合理性を跳ね除けた。
その考えは理解できない。
だが美学については僅かばかり理解できた。

南師は自分の美学を貫いてきた。
その特殊すぎる美学は周りには奇行と見られなかった。
その最たる例がゴミのオブジェだ。
確固たる美学に基づいて、あのオブジェを作っているが、周りは誰も理解しない。
葛西の美学が自分には理解できない。
同じように葛西も自分の美学を理解できないだろう。
美学とはそういうものかもしれない。

葛西が持つ確固たる美学。
これが葛西に召喚された一つの要因か。
南師はそう納得した。





【クラス】
キャスター

【真名】
南師猩@すばらしきこのせかい

【パラメーター】
筋力:D 耐久力:D 敏捷:D 魔力:B 幸運:B 宝具:B

禁断化
筋力:C 耐久力:C 敏捷:C 魔力:A 幸運:B 宝具:B

【属性】
混沌・善

【クラススキル】
陣地作成:-
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げるスキル
南師にこのスキルは備わっていない。

ノイズ作成:B
スキル道具作成が変化したもの
ノイズを作成できる。

【保有スキル】
孤高:B
確固たる自我を持ち、誰とも交わらない孤高の存在。
Bランクの単独行動を有し,Bランク程度の精神干渉魔法をシャットダウンする。
また協調性が皆無のため、マスターの言うことをほぼ聞かず、
命令されることを極端に嫌い、令呪の効果が極端に弱い

オブジェ作成:-
キャスターの美学の象徴。街中に勝手にオブジェを作る。
このオブジェを見ることで、低確率で真名を看破されることがある。
オブジェの材料は道具生成のスキルで自分で作ることも可能

【宝具】

『すばらしきおれのせかい』
ランク:B 種別:対軍 レンジ:渋谷区内 最大捕捉:渋谷区内に居る人間全員
キャスターが生前活動してきたUGの渋谷区を再現する宝具。
渋谷区内にいるNPCの負の感情が溜まると、ノイズと呼ばれるモンスターを自然発生さる。負の感情が強ければ強いほど、強力で大量のノイズを生み出す。
ノイズは南師とそのマスター以外のサーヴァントとマスターを見つけると襲い掛かる。
感知距離の範囲内にいれば、霊体化していても襲い掛かる

ノイズに触れてしまうと異空間に強制的に引きずり込まれ、ノイズを倒さない限り、異空間から出ることは出来ない。
またサーヴァントやそのマスターがノイズに触れてしまった場合には、契約しているマスターやサーヴァントも強制的に異空間に引きずり込まれる。
マスターとサーヴァントはそれぞれ同じノイズと戦い、片方がノイズを倒せば、もう片方のノイズは消滅し異空間から脱出できる。

ノイズに触れてから、異空間に引きずり込まれるまでには数秒ほどの時間があり、その間に他のノイズに触れられると連続して戦わなければならない。
連続して戦う場合、最初に戦うノイズより後のノイズのほうが強力になる。

『禁断ノイズ』
ランク:D 種別:対軍 レンジ:1~? 最大捕捉:1~?

堕天使から教えてもらった禁呪。
負の感情から自然発生するノイズに比べ強力なノイズを生成できる。
普通のノイズより遠い距離からでもマスターやサーヴァントを感知し、襲い掛かる。

『禁断精製陣リザレクション』
ランクC 種別:対人 レンジ:自分 最大補足:自分

堕天使から教えてもらった禁呪中の禁呪
例え霊核が破壊されたとしても、自分の身体を再構築し、一度だけ完全復活できる。
復活した際に禁断ノイズを取り込み、ステータスは向上している。
精製陣が完全な状態でなければ復活できず、精製陣にかき消されるなど、不完全な精製陣ではこの宝具は発動しない

【weapon】
なし

【人物背景】
冷酷で凶暴な一面を持つが、高い知能を持つ18歳の死神。
よく巨大なオブジェを造る(見た目は完全にゴミの山である)など奇行が目立つ。
最年少で大出世を果たした過去を持つが、協調性は0に等しい。
数学マニアで会話には数学用語が頻出し、「ゼタ遅ぇ」「このヘクトパスカルが!」などが口癖。又、「お前ら全員ここで4ね(しね)!」等と、数字を誤字として用いられる場合も見られる。たまにメガホンで叫ぶ。
堕天使と手を組み、渋谷の頂点であるコンポーザーの座を狙い戦いを挑んだが、返り討ちにあう

【サーヴァントとしての願い】
コンポーザーを倒せるほどの力を得る



【マスター】
葛西善次郎@魔人探偵脳噛ネウロ

【マスターとしての願い】
召喚される直前に戻る

【weapon】
身体に植え付けた火炎放射器

【能力・技能】
火について知識
高層ビルを素手で登れるぐらいの身体能力

【人物背景】
年齢:41歳
身長:179cm
体重:88kg
1日で吸うタバコの本数:8箱
「火」にかけたオヤジギャグのレパートリーの数:1000以上
生まれついての犯罪者として唯一後悔している事:「バブルの輪の中に入れなかった事」

「伝説の犯罪者」と称される程の生まれついての極悪放火魔であり、その前科は放火を主に脱獄も含めて1342犯とギネス級。
しかし全国指名手配されて尚、警察の包囲網を掻い潜り生き延びて来た。

【ロール】
失業手当を貰っている無職

【方針】
元の世界に戻るために聖杯戦争を勝ち抜く



候補作投下順



最終更新:2016年03月03日 22:57