「えぇえぇいっ!!」
夜の街に、可憐な少女の気の抜けた叫びが木霊した。
少女――金髪碧眼の娘。年は十代も半ばか後半。二十歳には至っていまい。
成熟しつつある肢体の線に沿わせて纏うのは、修道服と呼ぶには運動的過ぎる白い戦闘服。
装飾らしい装飾は身に着けていないが、しいて言えば右腕につけられた腕輪がひとつ。
無骨と言っても良い意匠だが、それが却って少女の美貌を際立たせていた。
そう、美少女と――そう言っても良いだろう。
しかし実際に起こっている事態は、彼女の凛々しく愛らしい姿とは裏腹だ。
殴る。殴る。殴る。また殴る。殴って。もう一度殴った。
肉弾戦である。
おぞましき食屍鬼どもが、少女の左で有象無象に蹴散らされ、もとい叩いて砕かれる。
一撃が頭蓋を割り、一撃が胴を抜き、一撃が腕を飛ばし、一撃が足をもぐ。
たかが死人が何するものぞ、ここで負けてはお嫁に行けぬと、少女の攻撃は慈悲がない。
圧倒的とも言える戦いはほんの数分で片付き、後には死屍累々が残るのみ。
「ふぅっ」と大きく息を吐いた少女は、白い額に滲んだ汗を、ぐいと右手で拭った。
そして邪魔にならぬよう端に寄せていた棺桶を「よいしょ」と軽々、左腕で担ぎ上げた。
少女の左腕は鋼鉄である。
少女の敵は人外の怪物どもである。
少女は合衆国科学情報局(DSI)超常現象事務局(OPS)の職員である。
少女は名前を、アイン(Ein)といった。
Special Containment Procedures Foundation。通称をSCP財団という機関がある。
政府と緩やかな同盟関係にあるこの組織からOPSに協力要請があったのだ。
収容違反――ぶっちゃければ標的を取り逃がした――の解決に、戦闘要員がほしい、とか。
そう「設定された」ことを、今のアインは思い出している。
極東の地、日本の首都、東京とされる土地へ、新米(ニュービー)の彼女は送り込まれた。
それからは特に何も考えず、アインは食屍鬼を狩り続けた。
どこから湧いてくるのかとか、何匹いるのかとか、そんな事は思いもよらない。
そもそも考えるということ自体、彼女にはできなかったのだ。
だから最初に思ったのは疑問だ。
(あれっ?)
アインは新人だ。正式に戦闘員として認められたとはいえ、初任務で単独行動は許されない。
いくら有象無象(モブ)の一人といったって、師匠が傍にいてくれるはずなのだ。
(師匠、どこに行ったんだろう?)
師匠がいないということは、これは初任務じゃないのだろうか。
(あ、そっか。そうだよね。私の初任務は――)
なにをボケているんだろう。自分の初任務は「蠅聲の王」の討伐だったではないか。
それに気づくと、後はもう、するすると糸が解けるようだった。
尖塔の聳える廃都。
迷宮の如き広大な廃墟。
蠢く醜悪な食屍鬼ども。
戦い。
分断。
孤立。
目前で殺される師匠――義父。
寄って集って蹂躙せんと迫る食屍鬼。
そして自分は、自分は――――――……
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
全身の穴という穴へ触手と男根を突き立てられ、泣き叫びながら無様に貪り食われた。
「え、う、うぅ……ッ」
またしても閃光のように記憶が蘇る(フラッシュバック)。
思わずアインはそのか細い肩を震わせるが、染み付いた慚死の記憶は拭えない。
記憶が蘇ってから数日を経ても尚、これだ。この後どうなるか、考えたくもない。
だから、それを隠す。
臓腑に滾る恐怖と、絶望とを、無理くりにでも押し込めてしまうのだ。
「……すぅ、はぁ……すぅ、はぁ……」
深呼吸に伴い、形の良い豊かなバストがふるりと揺れた。
大丈夫。だいじょうぶ。何も怖いことはない。少なくとも、今は。
「よっし……!」
ばしりと頬を軽く叩いて気合を入れる。気持ちを切り替える。
そうして努めて意識をしてしまえば、ひとまずは平静を取り戻すことができた。
背後を見ればいつのまにか彼女が屠った食屍鬼の骸は消え去っている。
思えば、よくも軽々とあれだけの量を相手にできたものだ。
「さすが魔法使いの腕輪、かな?」
ネオンの灯りに右手の腕輪を透かして見ると、微細に施された彫刻がきらきらと輝く。
新人の自分とはいえ弱いということはないが、あれだけ暴れられるのは驚きだ。
「となると、あんまり恥ずかしいところ見せられないわね」
なにしろ、この東京で異常事態――超常現象が発生しているのは明らかだった。
ならそれに対処して解決することが、自分の役割であることは変わらない。
師にも、そして自分のパートナーたる『彼』にも、恥じない働きをしないと。
「ね、キャスター、どうだった?」
呼びかけに答えて、音もなく『彼』が姿を顕した。
『彼』は旅人であった。
長い……想像を絶する長い旅路を乗り越えてきた冒険者であった。
手には樫の木の槍を尽き、腰には長剣を帯びた、威風堂々たる戦士。
しかしアインは知っている。
『彼』はキャスター。魔法使いの英雄だと。
【058】
マスターからの魔力供給を得たことで、身体に活力が蘇る。
体力点を原点まで回復すること。
「これだけの食屍鬼がいたなら、たぶんそれを操っている奴がいると思うのよね」
マスター、アインと名乗る少女は、間近に現れた君の顔をひょいっと覗き込んでくる。
まったく、驚きだ。
君はカクハバード中を旅してきたが、これほど美しい少女は見たことが無い。
いや、驚くべきはこの「トウキョウ」という街もだろう。
聖杯によって与えられた知識があっても、君にとっては目に見るもの全てが真新しい。
君はアインへ「マスターとサーヴァントらしい存在の居場所を掴んだ」事を語った。
「さっすが! よし、やっつけちゃおう!」
どうやらアインは戦う気でいっぱいのようだ。
もしこのまま敵マスターのところへ向かうなら252へ、
アインに戦いを思いとどまらせるのなら032へ進め。
また、君は呪文を唱えても良い。
- NIP→134 ・GOB→225 ・TEL→072
- ZIP→009 ・FAR→046 ・BIG→087
【009】
体力点を1消費する。
君は緑色の金属の指輪を持っているだろうか?
持っていなければこの呪文は使えない。058へ戻って呪文を選び直せ。
「ひゃっ!? ちょ、ちょっと、なに!?」
君がアインを担ぎあげると、ずしりと重さが肩に伸し掛かる。
棺桶を持っているのと義手のせいだろうが、それでバタバタと暴れられてはたまらない。
君が「重いから暴れるな」と言うと、彼女は憮然として黙りこんでしまった。
これ幸いと君は指輪をはめて、意識を集中させる。
するとぐにゃりと視界が歪んで、次の瞬間には雑居ビルの屋上へと降り立っていた。
「な、なんだ、貴様!? どこから現れた!?」
「アサシンか!? 私に気配を察知させないとは……!」
暗殺者とは失礼な奴だと君は鼻を鳴らしながら、アインを降ろしてやる。
「あ……ありがと」と呟いた彼女は、すぐに状況を把握して戦いの構えを取った。
どうやら食屍鬼を増やしていた敵のマスターは、吸血鬼であるらしい。
アインを見るなり乱杭歯を剥き出しにして笑みを浮かべた。
「良いぞ、小娘。貴様もまた我が従僕へと作り変えてやろう!」
「キャスター! マスターの方は私に任せて!」
アインは元気よく腕をぐるりと回すと鋼鉄の義手を振りかざして飛び掛かっていった。
「哀れな娘だ。この後、我がマスターによって無惨な末路を辿るというのに」
どうやら敵のサーヴァントはランサーであるらしく、長槍の穂先を君へ突きつけた。
「案ずるな。貴様もこの蛇殺しの魔槍にて、冥府へと送り返してやる」
蛇殺し! 君はそれを聞いて笑い出した。
君は恐るべき七匹の大蛇を屠ったばかりか、主である大魔王と対決したこともあるのだ。
お前など怖れるような相手ではないと言うと、ランサーは怒り狂って襲いかかってきた。
169へ進め。
【169】
技量点:11 体力点:8
ランサーの攻撃が命中する度にサイコロをひとつ振ること。
出た目が6だった場合、君はランサーの魔槍を受けてしまう。
君の体力点をさらに2減らし、ランサーの体力点は2回復する。
君は武器をとって戦いを挑んでも良いし、呪文を使っても良い。
- HOT→068 ・ZAP→294 ・KIN→076
- JIG→118 ・GOD→064 ・ZEN→301
勝利したら094へ進め。
【118】
君が竹笛を取り出すと、ランサーはぎょっと目を見開いた。
「なんだ、魔術師! 同じ槍では敵わぬと悟って、その笛で音楽でも奏でるつもりか」
もちろんそのつもりだと君が答えると、ランサーは小馬鹿にしたように嘲笑う。
「てっきり火の玉でも投げるかすると思ったが、所詮、インチキなまじない師か!」
しかしその笑いもそう長くは続かなかった。
君の笛の音を聞くなり、ランサーの手が自分の意志に反して槍を放り捨てたのだ。
そればかりが軽快な音色に合わせて足踏みをし、踊りだしたではないか!
「き、きさま! 卑怯だぞ! いみじくも槍使いならば、正々堂々と戦え……!」
混乱の極みにあったランサーが浴びせる罵倒を聞き流し、君は笛を奏で続ける。
もちろん君とて火の玉を投じたり、稲妻を走らせたりすることくらいは簡単にできる。
だが真に熟達した魔法使い(ソーサリー)は、消耗の少ない術を、的確に精度良く扱うものなのだ。
さて、このまま疲労困憊するまで踊らせても良いが、マスターであるアインの方が気がかりだ。
君は適当なところで樫の聖槍を蹴り上げ、それでもってランサーの心臓を貫いて殺した。
094へ進め。
術式破城槌を奮うまでもなく、戦いは決していた。
アインの繰り出した鉄拳は敵マスターの防御を掻い潜り、その心臓を穿っていた。
「ぐわああぁああああぁぁあっ!?」
「もう、うるっさいよ!」
断末魔の叫びに顔をしかめながら、アインは左腕を引き抜く。長手袋に血痕を遺したくない。
吸血鬼がぐずぐずの灰になって風に散っていくのを見届けると、彼女は大きく息を吐いた。
「キャスター、そっちは大丈夫?」
そう声をかけて周囲を見回すと、ちょうど『彼』が樫の槍を拾い上げたところだった。
キャスターは槍を手にして「大した相手ではなかった」と言う。
あまりに平然とした様子に笑いながら「そっか」とアインは小さな声で呟いた。
既にビルの屋上は静寂に包まれていた。
遠くには街の灯りが夜の運河のように煌めいていて、天には星と月が輝いている。
アインはビルの縁まで歩み寄るとしゃがみこみ、膝を抱えた。
胸を押し付け頭を伏せると、心臓の脈打つ音が聞こえてくる。
高層を吹き抜ける風が嫌になるほど寒く、冷たい。
(この東京に、あとどれくらいサーヴァントやマスターがいるんだろう……)
聖杯戦争。
殺し合いを強要して願いを叶えるなんて、どう考えてもまともな儀式ではない。
止めなければいけない。止められるだろうか。アインにはわからない。
誰が引き起こし、なぜ自分が巻き込まれてしまったのかもわからないのに。
「…………ん」
不意にアインの髪に、無骨で大きな掌が触れた。
いつのまにか隣に腰を下ろしたキャスターだった。
そのまま、わしわしと頭を撫でられる。
「……ありがとう、キャスター」
昔、滅多にないことではあったけれど、師が自分を褒めてくれる時もそうだった。
不器用な頭の撫で方に、アインの意識がまどろむように眠りへと沈んでいく。
聖杯――それを手に入れれば願いが叶う、という。
聖杯戦争による被害を防いで、人を助けて、他のマスターと戦って生き残るならば。
(最後には、聖杯にたどり着く……よね)
果たしてその時、自分は聖杯に師匠の蘇生を願わずにいられるだろうか。
アインには――まだ、自信が持てないでいた。
【マスター】アイン(Ein)@『蠅聲の王』
【マスターとしての願い】
- 聖杯戦争の終結、被害を最大限に減らす。
- 師匠の蘇生
【weapon】
左腕の肩口から装着される戦闘用義手。
普段は白い長手袋で隠され、一見して生身と同じように見える。
- 術式破城槌[ヘルツォ・グロンド(Herzo Grond)]
左腕の肩口から装着される強力な呪的近接装備。
全長2mはある巨大な鋼鉄の義手で、同時に魔術の増幅装置。
まさに個人携行の破城槌であり、魔術と物理両面から相手の防御を破壊する。
普段は棺桶型の大型ケースに収納されている。
右腕に装着された腕輪。精密な装飾が施されている。
魔術的な道具であり、装着者の技量を高める効果がある。
キャスターから貸し与えられたもの。
【能力・技能】
- 魔術による身体強化を施したうえでの義手を用いた格闘技
【人物背景】
合衆国科学情報局(DSI)超常現象事務局(OPS)職員、いわばアメリカ版代行者の少女。
幼くして師匠に引き取られ、その助手ながらも先日、正式に戦闘員として認められた。
しかしその初任務として赴いた、強力な吸血鬼「蠅聲ノ王」との戦いの中で敗北。
師匠は惨殺され、彼女自身も食屍鬼どもによる凄惨な陵辱の果て、食い殺されてしまう。
一見して明るく快活で元気な年頃の娘だが、それは内心の繊細さを隠すための振る舞い。
ちなみに処女。
【クラス】キャスター
【真名】
君(You)@『ソーサリー』
【ステータス】
筋力:C 耐久:C 敏捷:C 魔力:A 幸運:A 宝具:B
【属性】
混沌・善
【クラススキル】
陣地作成:-
君はこのスキルを所持していない。
しかし冒険中、君は現界の魔力に困るということはないだろう。
単独行動スキル:Aを付与すること。
道具作成:-
君はこのスキルを所持していない。
しかし冒険中、必要な道具を手に入れる機会には十分恵まれることだろう。
【保有スキル】
魔術:A
君はアナランドにて秘伝とされる48種類の呪文を全て習得している。
呪文を使うには体力の消費に加え、時として様々な呪具が必要になる。
また両手で印を結ばねばならず、両手と口が自由でなければ呪文は使えない。
隠密:B
君はアナランド人の勇士として、潜入行動に必要な技量を備えている。
この場合の隠密とは単に「隠れ潜む」という行動のみならず、
相手に自分を無害/友好的な同胞だと思わせる機転や弁舌も含まれる。
加護:C
君は冒険に際して正義の女神リーブラからの加護を授かっている。
冒険(つまり聖杯戦争が終わるまでだ)の間に、三つの効果から一つを得る事ができる。
・蘇生(体力の全回復)
・治癒(呪いや毒物の完全除去)
・奇跡(危機的状況からの脱出)
ただし他の神々の領域として「陣地構築」された場所では、この効果を望む事はできない。
【宝具】
『戦闘幻想(ファイティング・ファンタジー)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
君が所有する、宝具の領域にまで昇華された戦闘理論。極まった真の心眼。
君は対峙した相手の技量、体力、特殊能力を的確に把握することができる。
またどんなに技量の差がある相手でも、勝利できる可能性を手繰り寄せる。
もちろん運だけで勝てるわけではないことを、君は良く理解している。
『君が英雄になれる本(ユー・アー・ザ・ヒーロー)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
君が秘めている、英雄となりうる資質、その可能性。
君はあらゆる状況において、自分の取りうる行動を「選択肢」として認識できる。
これにより君は迷うことがないし、極めて困難な状況を容易く切り抜けることができる。
もちろん脱出不可能な死地というものも存在する。
《ZED》
ランク:EX 種別:第二魔法 レンジ:- 最大捕捉:-
これは宝具ではなく、君の取得している呪文である。
極めて危険な呪文で、失敗すれば二度とこの世へ戻ってくることはないとされる。
君は精神を集中させ、体力を消耗することで、時空と次元を超えることができる。
つまり君はこの世界における、正真正銘の「魔法使い(ソーサリー)」なのだ。
【weapon】
君が持つ、荒野の聖者コレタスによって祝福された聖なる樫の槍。
極めて強力な概念武装であり、主の手にあれば自動的に動いて敵を討つ。
しかし熟達した魔術師であれば、この槍の自律性を一時停止させる事ができる。
君が持つ、鋭く研ぎ澄まされた広刃の剣。
技量を高めるだけの切れ味を秘めた、無銘の業物である。
君が保有する荷物袋。
48種類の呪文に必要な呪具を含め、多種多様な装備が詰まっている。
宝具ではないため基本的には消耗品だが、聖杯戦争中に補充する事ができる。
この時、荷物を何か一つ置いていくことという表示が出ても、君は無視できる。
【人物背景】
君は暗黒時代と呼ばれた遥か昔、荒涼としたカクハバードを旅した勇者だ。
祖国アナランドから盗まれた諸王の冠を奪還するべく冒険を繰り広げた君は、
首尾よくマンパン砦に忍び込み大魔王との直接対決に挑むも、罠にかけられてしまう。
しかしそれと同時に大魔王の正体を掴むことに成功した君は、一か八かの賭けに出た。
《ZED》の呪文で次元を超え、大魔王の対決に臨む直前の時間へと戻ろうとしたのだ。
だが禁忌の呪文は君を「トウキョウ」という不可思議な場所へと迷い込ませた。
君はこの冒険を切り抜けて、あの恐ろしくも懐かしきタイタンの世界へ帰らねばならない。
【サーヴァントとしての願い】
君の目的は二つだ。
さあ、ページをめくりたまえ!
君ことアナランド人、アインのゲームブックコンビです。
アナランド人は4巻クライマックス、アインはゲーム序盤のゲームオーバーから来ました。
登場するランサーとマスターは特に設定の無いモブです。
アナランド人の呪文についてはこのサイトを参照のこと。
ttp://www.geocities.co.jp/Bookend-Akiko/9720/gb/sorcery/s08.html
候補作投下順
最終更新:2016年03月03日 23:37