何一つ理解することが叶わず、命を摘み取られる。
そういう運命なのだと、この首を締め上げる黒い魔人は言外に訴える。
「運が悪かったと思って、潔く諦めてくれませんかねえ? あなたがその手に令呪を宿さなければ……いいえ、本来の記憶など取り戻さなければ、私達もいちいちあなたなど気に留めなかった」
魔人の後ろでにたにたと下品な笑みを浮かべる、一人の女。
自分が何故この二人に襲われる羽目になったのか、その理由には未だ理解が及んでいない。
しかし、自らの内側で最も強く奮起する感情は混乱でも、恐怖でも、絶望でも無く。
「手を煩わされる羽目になった私達が詫びてほしいくらいですよ。サーヴァントを召喚していない内に聖杯戦争のライバルを蹴落とせるのはこちらとしても幸いですが……甚振りがいもありますし」
怒り。
その感情の矛先を向けるのは自分を殺そうとする魔人であり、その指示を出したあの女であり、自分をこの窮地に立たせた原因だろう聖杯戦争とやらであり。
しかし、何より怒るべき相手は別にいる。
最も唾棄すべきは、他でもない自分自身。
聖杯戦争。サーヴァント。令呪。それらなんかよりも余程大切な事柄を忘却してしまったまま、僅かでも時間を無為に過ごしてしまった自分自身だった。
彼を忘れてしまった自分を、心から悔いた。
唯一、自分だけが彼を覚えていられたのに。皆が彼を忘れ果ててしまった中、彼と皆を繋ぎ止めるための記憶を自分だけは失くさずに済んだのに。
これで自分まで彼の記憶を、彼との思い出を忘れてしまったら、彼はどうなる。誰が彼を救えるのだ。
「…………取り消、せ」
「はー?」
だから、だからこそ。
絶対に否定しなければならない。
「あいつとの記憶を、思い出さなければよかった、などと、言わせない」
記憶を思い出さなければ良かった、その一言だけは認めない。
この記憶が原因で死を迎えるのだとして、それが本望だとは思わない。
それでも、一時の記憶の喪失を永遠にするのが最良の結末などと微塵も思わない。
彼と出会って、彼と戦って、彼と共にいたから見えた景色だけは、何者にも奪わせない。
会いたくないと言って彼方へと消えた彼を連れ戻すまで、彼の真意を理解するまで――交わった道の先で、彼ともう一度戦うまで。
絶対に無くしてたまるものか。
「諦め、る、か」
記憶も、命も守り抜く。
その未来を掴むための切札は、無い。
しかし、それが何だ。
呼吸もままならず、脱力し始める身体を奮い立たせ、右腕に力を込める。首を絞める魔人の右腕を掴むために、僅かでも右手を近づけていく。
ただの意地。それでも、今の自分に残された最後の手札。
何も失わない未来のために、残された力を振り絞って。
「……あ、がっ」
「諦めてくださぁ~いって言ったの聴こえなかったんですかあ? つーか別に自分語りとか興味ねーってーの、きめえよ」
魔人の腕に込める力が増すと共に、なけなしの力も奪われる。
意識が遠のき始めるのが実感出来る。
また、何もわからなくなるのか。
記憶も命も、ここで無くしてしまうのか。
もう、彼との再会は叶わないのか。
「もう飽きまーしたー。アサシン、やっちゃっていいよ」
これが、敗者の結末か。
仲間との絆を掲げられず、無力な人間として消えゆくこの様を晒した挙句の、絶望。
孤独の中に再び堕とされたまま、死ぬのか。
「あっ……ア、イチ……――」
こんな形で、櫂トシキは――
◇ ◆ ◇
記憶。
その一言だけで、きっと十分だったのだろう。
◆ ◇ ◆
ぐしゅ、と音が鳴った。
それと同時に櫂の首を拘束する力が消え、身体が地面の上に落ちる。
咳き込みながら見上げた先で、黒の魔人が苦しげに呻いていた。その胸から突き出すのは、一本の矛先。
誰が、何をしたというのか。そんな疑念に駆られるまま視線を動かした先に立っていたのは、握った白槍で黒の魔人を貫く、もう一人の白の魔人。
いや、違う。その姿は、まさしく騎士。
そして櫂は、無意識の内に、呟いた。
「――――ブラスター・ブレード……?」
全く異なる存在であるのは一目瞭然のはずなのに。
何故か、あの光剣士の姿を櫂は連想していた。
「あっ……アサシン、そのサーヴァントを殺しなさい! 宝具を使ってもいいから!!」
呆然と立ち尽くしていた女が我に返り、震えた声で魔人に命令する。
反応するようにアサシンと呼ばれた魔人は右手を振りかざし、白い騎士に裏拳を叩きこもうとする。
それは、届かない。槍を握らない左手に受け止められ、その拳が万力の如き握力に圧し潰された。
痛みと恐れから逃れるように飛び退いた魔人は、しかし騎士の槍に幾度も斬り付けられ、薙いだ一閃に蹂躙される。
魔人の悲鳴。槍に裂かれる風の音。それらを上回るほどの勢いで響くのは、騎士の雄叫び。
地力が違い過ぎる。
自らの肉体を直接戦わせることを本分とするわけではない櫂にすら理解出来る格差が、そこにはあった。
今、櫂も含めた何者もが白い騎士に恐怖を抱いている。
それでも尚、黒い魔人は屈しない。
全力の後退により五メートルは距離を置いた魔人の右の掌に、淡い光に包まれた短刀が現れる。騎士へと刃先を向けた短刀の纏う光は、妖しく、眩くなっていく。
もしや、あれが宝具とやらか。あの光が弾けた時、果たして何が引き起こされると言うのだろうか。
固唾を呑んだ櫂が恐れる未来。それは、しかし到来することが無い。
「クラッシュ、イントルード」
白い騎士が何事か口にすると共に、その身体が激しい光へと変わる。
光は一直線の奔流となり、魔人との間の距離を一瞬の内にゼロとして、そのまま魔人の身体を呑み込んだ。
がががが、と大地を砕く轟音を響かせ、二者を包む光は遥か向こう側まで突き抜ける。
そして光が消えた時、立っていたのは白い騎士。
黒の魔人の身体は、弱々しい光と共に消えゆく。
紛れもなく、白い騎士の勝利だった。
その余韻に浸ることも無く、魔人の亡骸に目もくれず、騎士は櫂達の下へと歩みを進める。
その双眸が、紅く昏く光る。片手の指先に、血が滴っていた。
「や、いやぁぁっ……!」
威勢も何もない情けない声を上げ、女は脱兎のごとく駆け出した。
もう彼女が刃向かってくることは無いのだろう。顎を恐慌に振るわせた彼女の姿から、櫂はそんな連想をした。
……尤も、誰に刃向かわれたところで抵抗する体力など無いのだが。
理屈は全く分からないが、あの白い騎士が戦闘行為を行うのと並行するように疲労感が増した実感がする。何であれ、身体は満足に動いてくれそうにない。
あの騎士の次の標的が自分だとしたら、今度こそ終わりだ。
結局、運命は変わらないのだろうか。
騎士が、目の前に立った。
「……?」
そして、騎士の肉体は大気の中に溶けていく。
櫂の身体に何一つの危害を加えることなく、何処へと消えていった。
言葉を何も語らなかった騎士の真意は、櫂には分からない。
ただ、櫂トシキは命拾いをしたという結果だけが残された。
「くそ……」
助かった。
それを理解すると共に、意識が再び遠のいていく。緊張の糸が切れたというやつか。
結局、自分は未だ状況に振り回されてばかりだ。
恐らく今ここで死ぬわけではないだろう。ならば、為すべきことは目覚めた後にすればいい。
今、自分は何に巻き込まれているのか。聖杯戦争とは何なのか。この事態は先導アイチの件と何らかの関係があるのか。
速やかに知らねばならないことが、沢山あるのだ。
それに。
「奴は、一体」
あの白い騎士は何者で、どうして自分を護ってくれたのか。
あらゆる疑問に囚われたまま、櫂トシキは一時の眠りへと堕ちていく。
◇ ◆ ◇
これ以上失うものなど、もう無い。
ならば為すべきは、彼の思い出を守り抜くこと。
この身の全てを投げ出して、砕け散るまで戦うのみ。
絶対に逃げない。絶望など、もうさせない。
【クラス】
バーサーカー
【真名】
テッカマンブレード@宇宙の騎士テッカマンブレード
【パラメーター】
筋力:B+ 耐久:B+ 敏捷:A++ 魔力:B 幸運:E 宝具:B+
【属性】
秩序・狂
【クラススキル】
理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキル。
バーサーカーの場合、パラメーターの向上は宝具『永遠の孤独』の常時解放という形に昇華されている。
【保有スキル】
自身の肉体に、まったく別の肉体を付属・融合させる適性。
このランクが上がればあがる程、正純の英雄から遠ざかっていく。
名称通り戦闘を続行する為の能力。
決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。
全ての記憶を失った男を最後まで戦い抜かせた、ラダムへの怒りと憎しみ。
その感情は、狂戦士となったことにより極限の勢いで燃え盛っている。
ラダムを彷彿とさせる「人に仇なす怪物」と対峙した時に限り発動するスキル。
対象へと行う攻撃行動に大きな有利判定を得られる他、他者からの非攻撃的干渉(呪術、能力低下作用など)の一切を無効化する。
それは、自らのマスターからの令呪による制約すら例外ではない。
バーサーカーは自らのマスターとのまともな意思疎通をしていないにも関わらず、必ずマスターを最優先で守ろうとする。
その真意はマスターを含めた何者にも理解出来ない。当のバーサーカーも、自らの真意を言葉にすることが叶わない。
ただ、このこととは全く別の話を敢えて一つだけしておくならば。
マスターである櫂トシキは、バーサーカーの前で、「大切なメイトとの記憶を失いたくない」と願った。
【宝具】
ランク:B+ 種別:対人宝具(自身) レンジ:- 最大補足:1人
侵略生物ラダムが人間の肉体の改造によって創り出した生体兵器テッカマンの一人、テッカマンブレード。
予期せぬ状況に適応するため、テッカマンブレードが第二段階の進化――ブラスター化を人為的に成し遂げたブラスターテッカマンとしての姿が宝具である。
第一形態の宝具『罪という名の仮面(テッカマンブレード)』の強化型であり、テッカマンの能力の飛躍的な向上として幸運以外のパラメータが上昇する。
『狂戦士』のクラスで召喚された結果、バーサーカーはこの宝具を常時解放した状態となっている。
主な武装は近接戦用の槍・テックランサーと、テックランサーを回収するための鋼線・テックワイヤー。
その他クリスタルフィールドを纏っての高速突撃・クラッシュイントルード、そして体内のフェルミオンエネルギーを一気に放出する必殺技・ボルテッカを攻撃手段とする。
ブラスター化に伴い、テックランサーは先端から通常のボルテッカに匹敵する反物質砲を放つことが出来るようになる。
そして強化された最終必殺技・ブラスターボルテッカは周囲一帯を焦土に変えてしまうほどの破壊力を誇るが、魔術の素養の無いマスターの下で発射するのは大きな危険を伴う。
なお、当然ながら現時点でバーサーカーの理性はほぼ完全に消し飛んでいる。
【weapon】
上記の武装及び技
【人物背景】
侵略生物ラダムによって肉体をテッカマンへと変えられた青年。
家族と仲間を奪ったラダムへの憎しみに身を焦がしながら、彼は幾度となく戦い、傷付いていく。
かつての大切な人間を自らの手で討つ苦しみ、力の代償として自らの記憶の何もかもを忘却する哀しみ。
「――Dボゥイも相羽タカヤも今ここで死んだ! 俺はテッカマンブレードだ!」
その果てに彼は全てのラダムを討ち滅ぼし、そして彼の自我は完全に壊れた。
全てを終えた後、ようやく得た安らぎの時間の中で彼は失った思い出を少しずつ取り戻す―――――――――こともなく、残された生涯を終えた。
Dボゥイ、相羽タカヤ。その名前に皆が込めた本当の意味を、遂に理解しないまま。
【サーヴァントとしての願い】
――――。
【マスター】
櫂トシキ@カードファイト!!ヴァンガード
【マスターとしての願い】
先導アイチとの再会。
【weapon】
特に無し。
強いて言うならばヴァンガードファイトのデッキ。
ただし「ブラスター・ブレード」のカードは立凪コーリンに敗北した際に失われている。
【能力・技能】
少なくとも、超能力の類は持っていない。
【人物背景】
「孤高のヴァンガードファイター」と呼ばれていた少年。
先導アイチと出会い、仲間を持つことを強みとする彼に大きな影響を受ける。
そのアイチが人々の前から消えてしまったことで、彼を取り戻すための戦いへと身を投じた。
レギオンメイト編第16話(シリーズ通算では第179話)終了後からの参戦。
先導アイチとリンクジョーカーに関わる真実を、まだ知らない。
【方針】
まず、自分が今どういう状況に置かれているのか理解する。
【備考】
聖杯戦争については現時点でほぼ全く理解していません。
ただし、対峙した敵マスターから「聖杯戦争」「サーヴァント」「令呪」などの単語だけは聞きました。
候補作投下順
最終更新:2016年03月12日 01:18