【二日目】
競馬。
それは古来より、名うての騎手と名馬が集い、数多くの名勝負が繰り広げられてきた歴史あるスポーツである。
また、勝負に挑む騎手達は言うに及ばず……
勝負に直接関わらない観客達ですら、日々自らの欲望を、夢を叶えるべく、自らの運に全てを賭けて熱を上げている。
この偽りの東京においても、その有様は一切変わらない。
テレビやラジオをつければ、東京競馬場での白熱したレースが日々繰り広げられている。
そして多くのギャンブラー達が、全神経を集中させて視聴を行っている。
そんな日本競馬における中枢が、JRA―――日本中央競馬会だ。
東京都港区六本木に本部を置き、日夜競馬の為に様々な業務を行っている。
「聖杯戦争……そんな者に、私は巻き込まれたというのか……?」
今、その理事長を務める男―――スティーブン・スティールは、理事長室内で困惑の最中にあった。
事の発端は、一時間前に遡る。
いつもどおりに必要な業務をこなし、昼食を取ろうとして一息を着いた時だ。
たまたま着けたテレビに、そのニュースが映った。
江東区を中心にして起きた、謎の大量殺人事件。
それを目にした瞬間、どういう事かスティーブンは言葉にできない嫌な感覚を覚えた。
理由を他者には説明出来ない、直感から来るものとしか言い様がない強い悪寒。
同時に彼の心を襲ったのは、強い喪失感―――虚無感であった。
JRA理事長として過ごしてきた日々は、何不自由なく充実したものだった。
しかし……それを得た代わりに、自分は何かとても大事なことを忘れてしまったのではないだろうか。
そう、とても大切な……愛すべき者を。
「……そうか。
だから、私は……今まで、彼女のことを……!」
失意のどん底にあった自らを救い上げてくれた、大切な妻―――
ルーシー・スティール。
スティーブンは彼女の存在を、そして封じられていた全ての記憶を、途端に思い出したのだ。
何故今まで、こんなに大切な事を忘れていたのだろうか。
大量殺人鬼のニュースが、どうして彼女の事を思い出す切っ掛けになったのかまでは分からない。
しかし、そんな事は最早どうでもよかった。
大切なのは、何故自分がそんな目に遭っていたのかだから。
「ああ……そうだ。
恐らくマスター以外にも、偶然に巻き込まれた参加者が大勢いる筈だ。
何故そんな事になったのかは、俺にも分からない……」
そんな彼へと、事の次第を説明してくれたのがこの銀髪の男―――セイバーのサーヴァントであった。
セイバーはスティーブンが記憶を取り戻して間も無く、彼の側へとその姿を現した。
そして困惑する己がマスターの為に、この東京で何が起きているかをすべて説明したのだ。
即ち、この虚無に満ちた世界で行われる聖杯を巡る争い……聖杯戦争についてを。
「すまないな、マスター。
困っているのは十分分かっているのに、助けになれなくて」
「いや……大丈夫だ、セイバー。
事態を把握できただけでも、ありがたい」
そして、全てを把握した今……スティーブンは、これから一体どうすればいいのかと考えていた。
彼にとっての願いはただ一つ、スティール・ボール・ランの最中にある元の世界へと帰る事。
愛する妻が待つあの世界へと、帰る事だけだ。
『遺体』を求める大統領とは違う。
聖杯を欲しているわけではない……争いごとを好んでするつもりなど、何一つないのだ。
「……セイバー。
もし君が聖杯を求めているというのならばすまないが、私は聖杯を手に入れるつもりはない。
元の世界へと帰る事だけが……」
「大丈夫だ、マスター」
その意志を伝えようと、申し訳なさの混じった言葉を紡ごうとするスティーブンを、セイバーが静止させた。
大丈夫だという、たったの一言で。
その表情はとても穏やかで、そして力強いものであった。
何も心配をしなくていいと……言葉にしなくてもそれだけでスティーブンへと伝わる、はっきりした意志が感じられる程に。
「俺は満足して生を終えた。
ま、昔は『何でも願いを叶えてやる』っていう敵の甘い言葉に乗ってしまった事もあったが……
だが今は、もう何も望みはない。
俺の思いの全てを託せる、『黄金の意志』を持った彼等と会うことが出来たからな……」
セイバーには、聖杯にかける願いはなかった。
充実した生を送り、未練を残すことなくこの世を去ることができたのだから。
もしも若い頃であったならば、ついつい『死んだ妹や仲間を生き返らせろ』などと、かつて痛い目を見た時の様に叫んでいたかもしれないが……
そんな彼だからこそ、スティーブンの願いを受け入れる事ができた。
人は故郷を目指すものだ……かつての自分がそうであった様に。
まして愛する者の為に帰りたいというならば、尚の事である。
その純粋な願いを保護にすることは、己が『騎士道』に反する……ならば振るおう。
この剣を、このマスターの為に。
「マスター、俺はあんたの願いを叶える為に戦おう。
この騎士道にかけて……あんたの妻が待っている世界へ、必ず送り届ける!」
「セイバー……すまない。
ありがとう……!」
手を差し伸べてくれたセイバーへと、スティーブンはただただ礼を言った。
異国どころではない遠く離れた見知らぬ地において、全てを賭して自らの力になると宣言してくれた誇り高き騎士に、
彼はただただ感謝の念を抱くのみであった。
だからこそ、自らも出来る限りのことを彼の為にしたい。
戦う力などは一切持たないが、幸運にも自らにはこの偽りの世界で高い財力と地位を与えられている。
それらを駆使すれば、きっとセイバーの行動を広く支援出来るはずだ。
「……そうだ、セイバー。
まだ、君の本当の名前を聞いていなかったな……よければ、聞いても構わないか?」
そこまで考えて、スティーブンはまだこの相棒の名前を聞いていないことに気づいた。
聖杯戦争において、サーヴァントが持つ真名は重要なファクターだ。
そして、何より……己の『恩人』の名前だ。
彼自身が拒めば仕方がないが、そうでないのならば是非とも聞いておきたかった。
「もちろん、構わないぜ……俺の名はジャン・ピエール・ポルナレフだ。
改めてよろしく頼むぞ、マスター」
セイバー―――ポルナレフは、笑顔でそれに答えたのであった。
奇しくも、似ていながらも違う世界線を歩んでいた二人の男達。
その魂が今、何の因果を巡ってかこの偽りの地で交錯したのであった。
そして……この時、彼らは知る由もなかっただろう。
スティーブンの愛すべき妻が、この東京の地に降り立っているなどと。
最高とも言えるサーヴァントを引き当て、円満な関係を結べたスティーブン・スティールとは真逆に
最悪とも言えるサーヴァントを引き当て、ルーシー・スティールは極めて過酷とも言える運命を歩もうとしているなどと……
【サーヴァント】
【クラス】
セイバー
【真名】
ジャン・ピエール・ポルナレフ@ジョジョの奇妙な冒険
【属性】
中立・善
【パラメーター】
筋力:C 耐久:C 敏捷:A 魔力:D 幸運:B 宝具:A+
【クラススキル】
対魔力:B
魔術に対する抵抗力。
魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。
騎乗:C
乗り物を乗りこなす能力。
セイバーは野獣ランク以外の全ての乗り物を乗りこなす事が可能である。
ただしその生前、彼や仲間達が乗った乗り物はその過半数が何かしらの原因で大破しているという不吉な伝承があり、
この聖杯戦争においても騎乗物を利用した場合にはそうなるのではないかという残念な可能性がある。
【保有スキル】
戦闘続行:B
名称通り戦闘を続行する為の能力。
決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。
生前は凄まじい激闘の末に傷つく事も多々あったが、それでも諦めず前に進むことで勝利を手にしてきた。
仕切り直し:B
戦闘から離脱する能力。
また、不利になった戦闘を初期状態へと戻す。
生前の仲間曰く『逃げる事も戦法』であり、彼自身も一度敢えて逃げる事で敵の能力等を把握し適切な攻撃方法を見出す時もあった。
心眼(真):A
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。
相手の能力を知りその欠点を見抜く事こそが勝敗を左右するスタンド使い同士の戦いを、生前には幾度となくくぐり抜けてきた。
【宝具】
『銀の戦車(シルバー・チャリオッツ)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1~50 最大捕捉:100人
セイバーを象徴する宝具にして剣であり、彼の精神力を具現化させたスタンドと呼ばれる能力。
刺突剣を携えた銀甲冑の騎士のヴィジョンを発現させ、セイバーの思うがままに操る。
細身の外見通りに筋力値と耐久値はそれ程でもないが、突出した敏捷性の高さを誇っている。
射程距離は10m前後であり、それ以上の距離はセイバーから離れることはできない。
この宝具が受けたダメージはそのまま、セイバーへとフィードバックされる。
また、本来ならばスタンドは同じスタンド使いでしか目視する事ができないのだが、宝具に昇華された事でその特性は失われている。
『銀の戦車・全甲冑開放形態(シルバー・チャリオッツ・アーマーテイクオフ)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1~50 最大捕捉:100人
銀の戦車の持つ切り札にして、その敏捷性を最大限に活かす戦闘形態。
身に纏っている甲冑を全て着脱する事で、持ち味であるスピードを爆発的に高める。
そのレベルは目にも止まらぬどころか、『感覚に訴える残像』を相手へと生み出し、銀の戦車が数騎に分裂して見える程である。
この宝具の開放時、セイバーの耐久値はEランクまで下がる代わりに、敏捷性はA++まで高められる。
また、一度宝具の使用を中断し再発動させれば銀の戦車へと形態を戻すことができるが、
いきなりこの宝具からの使用はできない為、使用には必ず銀の戦車を発現する事が条件になる。
『運命を賭した最後の一撃(ラストショット)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1~100 最大捕捉:100人
銀の戦車が持つ最後の奥の手。
その剣針を射出し、飛び道具として敵へと放つ。
驚異的な勢いで発射されたそれは必殺の威力を誇るものの、その性質上使用すれば銀の戦車は剣を失う事になる。
失われた剣針を再生させるには、銀の戦車の発動を中断させた上で魔力補充を行えば可能である。
敵の意表を突くという意味でも効果的な一撃ではあるが、デメリットも大きい為に使いどころが限定される。
【weapon】
宝具『銀の戦車』がそのまま武器となる。
【人物背景】
騎士道に生きるフランス生まれのスタンド使い。
幼い頃より才能としてのスタンド能力を持っており、それを使いこなすべく長き鍛錬を培ってきた。
大切な妹のシェリーがいたが、ある日に彼女は両手が右手というスタンド使いの手に掛かり命を落としてしまう。
ポルナレフはその無念を晴らすべく仇を探す旅に出たのだが、その最中に吸血鬼DIOと出会う。
そこで彼に心の隙間を突かれ、肉の芽によって忠実な下僕へと洗脳されてしまった。
それからはDIOの命令に従い動いていたのだが、その最中にDIOを打ち倒すべく旅を続けていたスタンド使い達―――ジョースター一行と出会う。
彼はDIOからの指令でジョースター一行を倒すべく戦いを挑んだが、激闘の末に敗北。
自らの騎士道に則り命を絶とうとするも、肉の芽の存在を見抜いた一行に芽の除去を行われ、正気を取り戻す。
それからは一行の旅へと同行するようになり、その旅路の中で遂に妹の仇であるJ・ガイルを見つける。
一度はそのスタンド能力に翻弄され、自らの至らなさ故に大切な仲間の一人を倒されてしまうも、その魂を受け継ぎ無事に仇を討った。
そして遂にDIOの元へと辿り着き、決して小さくはない犠牲を払いながらもその討伐を仲間達と共に果たす。
その後は故郷であるフランスへと戻るが、故郷に流通をし始めていた麻薬ルートの存在を知り、調査を開始する。
しかし、その麻薬を扱っていたギャングはポルナレフの想像を超えて大きな組織力を持ち、
彼はボスであるディアボロとの戦いに敗れ、どうにか生き延びることができるも再起不能の身となってしまった。
だがそれからも諦めず、自らの意志を託せる・ディアボロを打ち倒せる者を探し続け、
その最中に同じ目的を持つ組織の離反者―――ジョルノ・ジョバーナ達を見つける。
ポルナレフは隠居生活の中で、ディアボロを打ち倒せる希望を秘めた『スタンド使いを生み出す矢』の本当の力に気づき、
それを彼等に託すことを決意する。
その後、自身の存在に気づいてしまったディアボロに追い詰められ命を落とすも、ギリギリのところで矢の力『レクイエム』を発生させる。
結果として彼は、身近にいたスタンド使いの亀へとその魂を宿すことになり、生き延びる事ができた。
そしてジョルノの手によってディアボロが倒された後も、亀に宿る幽霊としてこの世に留まり、彼と共に組織の再生へと貢献した。
若き頃は、明るく責任感は強いもののどこか軽い面の見られる男であったが、
年月を経て成長した今の彼にはその時の面影は余りなく、誇りある騎士道然とした性格をしている……
ただし、もしかすると何かしらの拍子で昔の面影を垣間見せるかもしれないが。
【サーヴァントとしての願い】
騎士道にかけて、マスターを故郷へと帰す。
【マスター】
スティーブン・スティール@ジョジョの奇妙な冒険
【マスターとしての願い】
愛する妻が待つ世界へと帰りたい。
聖杯は欲していない。
【能力・技能】
秀でた力を持たない常人。
ただし、プロモーターとして優れた手腕を持っている他、様々な知識が豊富である。
競馬に関しての知識は特に優れている。
【人物背景】
アメリカ大陸を横断する巨大レース『スティール・ボール・ラン』の主催者。
ニューヨーク生まれのアメリカ人であり、身長190cm以上の長身。
若い頃は騎兵隊に入っていたが、除隊後は多数のプロデュース業を営んでいた。
自身のプロデュース業に失敗し途方に暮れていたところ、後の妻となるルーシーの言葉をヒントに
大陸横断レース『スティール・ボール・ラン』を思いつき、支援者の力を得てレースを開催する。
その後彼は、彼女が少年時代に恋をし馬車の事故で亡くなった少女に似ていた事から求婚を申し入れ結婚した。
そして遂に念願のレース開催を迎えたのだが、その最中に彼はレース場の事故では説明がつかない異様な事件が相次いでいることに気づく。
やがてそれが、アメリカ大統領ヴァレンタインの陰謀であることを知り、レース自体が知らぬ間に
彼の目的である『聖人の遺体』を探す事に利用されている事実を知ってしまう。
その後は、この事態に対してどう動くべきかと考えていたのだが、同じく行動を起こしていた妻ルーシーの抑止のために、
大統領の手のものにより拉致されてしまう。
この聖杯戦争においては、まさにその最中に東京へと招かれた。
【方針】
セイバーと共に、元の世界へと戻る手段を探す。
自分には戦う術がないが、財力はあるのでそれで出来る限りのバックアップをする。
候補作投下順
最終更新:2016年03月14日 01:54