姉妹を皆喪った。
船員(かぞく)を皆喪った。
そして私は……
「駆逐艦『響』、出るよ」
行き先は北。シベリアの寒い────
* * *
「う………ん………?」
芝原海は微睡みの中から目覚めた。目覚まし時計はまだ鳴っていない。ふぁあと伸びをしてアラームの設定をオフにする。
ベッドから出て服を着替える。部屋の扉を開けて居間に向かうと、ルームシェアしている友人の部屋から物音がした。どうやら起こしてしまったらしい。
若干の寒さが残るリビングに入ると陸ガメのメイに餌をやっている先客がいた。しかし、そいつとは馬が合わないため無視して台所へ向かおうとするもソイツに話しかけられる。
「おはよう芝原さん」
心の中で舌打ちをしながらも挨拶を返さないわけにいかず、いかにも不機嫌な態度でおはようと返す。
台所の冷蔵庫からパンと牛乳とバナナを取り出してテーブルに並べる。ついでにテーブルにあったリモコンでTVをつける。
あたしは別にニュースが好きなわけではないが、刺激的な冒険を欲している。ニュースはそのネタ探しだ。
例えば都内で熊の出現や格闘家が来日しているなどの情報があればどこにいけば会えるかわかるため常にアンテナは張っておくのだ。
そして、その習慣のおかげで朝から『大量殺人事件! 犯人は未だ捕まらず!!』という面白そうなニュースを見つける。
朝の眠気もぶっ飛び、ニュースに釘つけになっていると後ろから友人の声がした。
「まさか海ちゃん、ソレに行くつもり?」
「まぁね」
「流石に危ないよ」
「何を他人事のように言っているのよ。あんたも行くんだからね」
みるみる顔を青くしてあーだこーだ言う友人を無視して朝食を済ませて先にリビングを出ると、同じくルームシェアをしている後輩女子二人にすれ違った。
軽く挨拶を交わして部屋に戻ると校則違反の明るい髪を纏め、学校に行く準備をして家を出る。
「ちゃんと後で来なさいよー」
リビングでまだ食事を取っているであろう友人からの反応は無かったが、まぁ何だかんだいって付き合いのいい奴だ。ちゃんと来るだろう。
電車を乗り継ぎ、通学路とは違う駅に降りた。
駅から出るとあちこちに立入禁止(キープアウト)の黄色いテープや警官、マスコミを見つける。
現場の空気にワクワクしながら近寄ろうとすると後ろから声をかけられた。
「君、ここは立ち入り禁止だ」
心底うんざりしながら振り向くと若い男の警官がチョッキを来て海の方へ向かってくる。
警官は教師、親に続く面倒くさい相手トップ3の一つである。奴らは何の権利あってか海の冒険を妨害してくるのだ。
「どこの学校の生徒だ? 名前は?」
夜勤明けなのか、それとも殺人事件の現場にいて気が立っているのか警官の物言いは非常に高圧的で、海はカチンときた。
今すぐボコボコにしてやりたい欲求に捕らわれたが、ここには今大勢の警官やマスコミがいる。
暴れたら色々面倒なことになりそうだと自制心を総動員して抑える。
とはいえ、現場は見たい。
(暗がりに連れ込んで気絶させるか)
決断してからの海の行動は迅速だった。路地裏に指を指して小さな声で警官に言う。
「お巡りさん、実はあそこにお金がたくさん落ちてるの」
「何?」
訝しげながら警官は路地裏に近付いていく。
心の中でよしとガッツポーズしつつ、後ろからこっそりついていく。そして路地裏に入っていく警官にタックルをかました。
うわと間抜けな声を出して路地裏奥へと押し出される警官に飛びかかってスリーパーホールドで極めようとした瞬間、技に失敗して背中から地面に落っこちる。
「痛て……」
何が起きた?
何で失敗した?
躱された?
そして警官へと眼を向けると原因は一目瞭然だった。
躱されたのでも失敗したのでもなく────警官の首から上が消滅していたのだ。首の無い相手にスリーパーホールドをかけることなど出来はしない。
「っ────」
海の全身を悪寒が走る。肉食獣に狙われている、間違いなく。
ここで取るべきは路地裏からの脱出だろう。普通の中学生ならばそうするに違いない。
だが、山で動物を狩った経験を持つ芝原海という少女は〝仕留める側〟のロジックを理解していた。
分かりやすい出口を用意してそこに罠を張る。逃げる奴はまんまと頭から引っかかり、後は狩る方の自由だ。
ならば、ここですべきはこうだ。
「逃げたりしないからかかって来なさい!」
大声。路地裏の向こうまで届きそうなほどの。
殺人事件が起きた昨日の今日だ。怪しんだ警官や声を聞いた誰か来るかもしれない。
「チッ、クソガキが。余計なことを」
悪態が聞こえた。どうやって隠れていたのか、いつの間にか男がいた。
背は高くひょろりとしている。頭から膝まで届く赤い外套を来ている。顔も隠れているため年齢は分からないが、声から察するに若い男だ。
(よしっ!)
しめた。相手の方から出てきてくれた。
拳を握り、しっかりと地を踏む足に力を入れて踏み込む。
相手が見えているなら負ける気がしなかった。複数人相手でも負けたことが無かったし、野生の獣相手でも一対一なら勝てる自信があった。
ましてやひょろひょろの男になど負けるはずがないと────それが甘かったとすぐに思い知らされる。
背筋に悪寒が走って前に出た体を無理矢理後方へとのけ反らす。秒も経たない内に、そのまま進んでいれば海の頭があったであろう位置を黒いものが通過した。
幸い前髪一センチ程度食いちぎられただけで済んだ。髪型が少々崩れてしまったわけだが、上にあったものをみればそんなことは吹き飛んだ。
あったのは黄金の棺桶だった。蓋が少しだけ開いていて、そこから黒い触手が這い出ていた。
触手の先には眼とも口ともいえない器官があり、あれが海を攻撃したものだと理解する。
触手は転がっていた警官の死体を持ち上げ、そして蛇のように丸呑みした。
その様子を見て眉を顰める海に対し、次はお前がこうなる番だというように触手の先をこちらへ向ける。
「何をやっているアサシン! とっとと仕留めろ!」
アサシン。それが棺桶の名前であるらしい。
命令に応えて1本の黒い触手が4本に分裂する。
まずい。あれはまずい。とてもまずい。
海の腹の奥に味わったことのない感覚がにじみ出る。
────味わったことがない?
いいや、ある。昔すぎて忘れているだけだ。
これは昔々、3歳の頃、山奥で野犬に出会った時味わった────恐怖という感覚だ。
────山奥?
違和感を覚える。この都会の都心部で山奥?
それはどこの山だ? それは本当にここか?
戦いの最中、それも超弩級の相手と対峙して考え事など愚行だろう。
だが、それでも、何故かそれを優先しないといけないような気がして────
「痛っ!」
右の手の甲に痛みが走る。
見てみると、赤い月、いや、赤い船の模様が浮かび上がっていた。
そして同時に想起される無数の記憶。そうだあたしは────
「マスターだったのか。まあいい、サーヴァントが召喚されていない今がチャンスだ! 殺せ!!」
────あたしは魔法少女だ!
四本の触手が迫る。獰猛に迫る触手の先にあるソレは人間を捕食するためのもの。人間では避けられない速さで迫る。
しかし少女は避けていた。人間を超える速度で、人間を超える力で。
* * *
「────!」
アサシンから驚愕の声が漏れる。
少女の姿は変わっていた。その顔は人間から一線を越えた美しい容姿。服は海賊風の青い服。左手はフックに変わり、右手には片手剣(カトラス)。
変身するところを見ていなければ魔術で位置を入れ替えたといっても信じてしまったであろう変容だった。
だが何よりも驚いたのは、その華奢な手足に秘められた力の密度だろう。アサシンの攻撃を避けられる速度で動ける時点で物理限界を超えている。
「何だお前は?」
アサシンのマスターが呆けた表情のまま、少女に問う。
* * *
「何だお前は?」
「そうねぇ、あたしは」
先ほどまで芝原海だった者は問われる。
さあ、何と答えるべきか重要なところだあたし、答えろ。自分は何だ?
「あたしは魔法少女『キャプテン・グレース』! 偉大なる冒険家よ!!」
これ以上ない答えを出した。
踏み込み、男へと突貫する。
男が慌てて何かの命令を出した。
行かせんと頭上から襲いかかる触手、触手、触手、触手!
先ほどは遊び程度の攻撃だったのだろう。今回は速度が段違いに迅い。
右に左に下へと掻い潜る。が、最後の一本は避けれない。
コンマ1秒よりも短い時間で、グレースは頭部を失うことを悟った。
その刹那、グレースの耳に透き通った声が届く。
「ハラショー。素晴らしい勇気だ。
だが、勇敢と無謀をはき違えてはいけないな」
海を喰い殺すはずだった最後の一本が爆散する。
何が起きたか確認するより先に、狼狽した男を袈裟切りにした。
信じられないという表情で血を吐いて男が倒れる。ほぼ同時に上と後方で爆音がして頭上に目を向けると棺桶が粉砕された。
「詰めが甘い」
後ろにいたのは上から下まで真っ白な少女だった。肩口から大砲らしきものを背負っている。
さっきの声の主はこの少女らしい。見た目は自分と同年代だが、触手と棺桶を破壊したのがこの子となると見た目通りの少女ではないのかもしれない。
だいたいが自分だって変身すると見た目が全く別の少女になるのだから見た目などあてになるまい。
「それであなたが私のマスターか?」
「マスターって何?」
「この聖杯戦争に参加するのではないのか?」
「ん? セイハイ戦争って何?」
「なるほど巻き込まれた一般人か」
巻き込まれた一般人。どこかで聞いたようなフレーズだ。
「取りあえずコイツを……」
切った相手を病院に連れて行こうと振り向くと男がいなくなっていた。
いや男どころか滴り落ちたであろう血液も無くなっていた。
「サーヴァントを失ったマスターは消滅したようだね」
「サーヴァント?」
「さっきの棺桶だ」
「ああ、アレね」
「棺桶と君が切った男は魔力のパスが繋がっていた。私と君のようにね」
「つまりコンビってこと?」
「ハラショー。理解が早くて助かる」
「ふーん、まあいいわ。じゃあよろしく」
「ああ、私の事はアーチャーと呼んでくれ」
握手する。これよりアーチャーから聖杯戦争について知るだろう。そして、新たなる冒険に胸を踊らせるだろう。
だがこの時、グレースはまだ理解してなかった。
この世界の恐ろしさを、この聖杯戦争の悍ましさを。
【サーヴァント】
【クラス】
アーチャー
【真名】
ヴェールヌイ
【出典】
艦隊これくしょん(プラウザ版)
【属性】
秩序・悪
【パラメーター】
筋力:D 耐久:C 敏捷:B+ 魔力:E 幸運:C 宝具:B
【クラススキル】
対魔力:E-
魔術に対する抵抗力だよ。
私は戦後の英霊だから本当に申し訳程度だね。
単独行動:A
マスターからの魔力供給を断っても現界できるスキルさ。
EXランクはマスター不在でも行動できる。でも宝具の発動にはさすがにマスターが必要だ。
大丈夫だよ。私は一人でも。
【保有スキル】
自己改造 :B
自身の肉体に別の肉体を付属・融合させる。私の場合は艤装だね。
高ランクなのはソ連に引き渡された後に色々いじられたからね。
不沈艦:A→D
これはХорошо(ハラショー:素晴らしいの意)。
どんな損傷を負おうとも沈まないスキルさ。
ソ連に言ってから戦わなかったからこれはきっと不死鳥と呼ばれていた頃の名残だね。
このランクだと
練習艦:A
航海術や砲術などを熟練度の低い者に教えるスキルだよ。
響(わたし)は転戦しながら戦っていたらしいけど、
私はこの仕事ばかりしていたね。
【宝具】
『信頼、其は海を守る者』(Верный/ヴェールヌイ)
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:一人 最大捕捉:自分
彼女の装備や実在したデータが少なく、矛盾や曖昧な表記が多いことから生まれた宝具。
搭載されていたと思われる艤装へ任意に変更できる。
装備していない艤装を空中展開し、一斉掃射も可能。
『大日本帝国万歳』(Ура Японская империя/ウラー・イーポンスキィ・インペーリヤ)
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:??? 最大捕捉:???
固有結界。鉄風雷火、剣林弾雨の大艦隊戦が行われている大海原が展開される。
結界内に放り込まれた者は水面上で戦う。
夥しい量の魚雷、砲弾、更には神風特別攻撃隊が飛び交い、流れ弾のダメージを負うごとに海へと沈んでいって動きにくくなり、最後は轟沈する。
【weapon】
『信頼、其は海を守る者』で展開しうる下記装備。
130mm連装砲
85mm連装砲
553mm5連装魚雷2基
610mm5連装魚雷2基
37mm連装対空機関砲
12.7mm機銃対空機銃
25mm三連装対空機銃
432mm対潜迫撃砲
機雷投射機(機雷搭載数36個)
132mmカチューシャロケット
【人物背景】
戦後日本からソビエト連邦へ賠償艦として渡された駆逐艦『響』が得た新たなる像。
いわゆる成長後サーヴァントというものであり、響とは別の個体である。
彼女は引き渡された後にソビエト連邦にて艦隊に組まれたが、1年後には兵装を外され5年ほど練習艦を務め、最後は標的艦として沈められた。
【サーヴァントとしての願い】
『兵器として』任務を全うする。それだけが望みさ
【マスター】
芝原 海
【出典】
魔法少女育成計画limited
【マスターとしての願い】
冒険に行く。
【weapon】
魔法の片手剣(カトラス)
【能力・技能】
一瞬で虚空から展開できる魔法の海賊船。
水上では亜音速航行を行い、地上で展開すればその質量で相手を圧し潰す質量兵器と化す。
また大砲やテーブルなどの備品を持ち出すことも可能。
【人物背景】
魔法少女育成計画limitedより。
B市内で魔法少女の才能があった中学生の一人。変身後の名前はキャプテン・グレース。
幼いころより山籠りや喧嘩をしていたため変身していなくても馬鹿みたいな戦闘力を誇る。
具体例を出すと空手道場を1日で潰したり、暴走族を一人で潰滅させる。
人間で彼女に勝てるキャラクターは今のところいない。
家は地主があったため金に困ることは無い。
魔法少女としては新人であったが、並の魔法少女が束になっても敵わない魔王の眷属を破壊しており、その実力は非常に高い。
【方針】
聖杯戦争に勝って、更に冒険に出る。
候補作投下順
最終更新:2016年03月03日 12:40