夕暮れの町並みを、女子高生の集団が楽しそうに雑談しながら歩いて行く。
彼女達の何人かは、楽器ケースを背負っていた。おそらく、同じ部活動の仲間なのだろう。
やがてその中の一人が、集団から離れる。
残りの面々に軽く頭を下げると、彼女は横断歩道を渡っていった。
中野梓は、上機嫌だった。
(まだまだ緩い雰囲気とはいえ、最近は先輩たちもしっかり練習やってくれることが多くなってきたし……。
ずっとこの調子でいけたらいいなあ。うん、明日もがんばろう!
……あれ?)
彼女の脳内には、明るい感情だけが満ちていた。だがそこへ、ふいに影が差し込む。
(先輩たちって、もう卒業したはずじゃ……。この春から私は、3年生で……。
なんで私、まだ2年生なの? まさか時間が巻戻って……。
いやいや、そんな漫画みたいなこと、あるわけが……。
あれ、ちょっと待って。学校からの帰り道って、こんな景色だったっけ?
おかしい、いろいろおかしいよ……うっ……うあああ……!)
ふいに、強い頭痛が梓を襲う。たまらず、彼女はその場に倒れ込んだ。
今まであった記憶とわき上がってきた記憶が混濁し、荒れ狂う奔流となって梓をさいなむ。
苦しむ梓は、自分の右手に奇妙な文様が浮かび上がっていることにも気づかなかった。
(誰か……助け……)
涙を浮かべながら、救いの手を求めて梓は地面を這う。
その視界に、突如人影らしきものが飛び込んできた。
助けが来たと判断し、かすかに喜びの表情を浮かべて梓は顔を上げる。
だが、その表情はすぐに凍りついた。
そこにいたのは、人間ではなかった。
全身は黒く、背中にはこうもりのような翼。頭からは鋭く尖った角が生えている。
いかにも「悪魔」といった風貌の怪物が、そこに立っていた。
「敵対マスターを発見。殺害する」
機械的に呟くと、怪物は長い爪の生えた右手を梓に伸ばす。
この怪物が何者かはわからないが、自分を殺そうとしている。梓はそう理解した。
逃げなければならない。だが迫る死を前にして体はすくみ、身動き一つ取れない。
呼吸ですら止まってしまっているように感じる。
(いやだ! いやだよ! 死にたくない! 誰でもいいから、助けて!!)
ただただ生き残ることだけを望み、梓は心中で叫ぶ。
その思いは天に、あるいは地獄の底に届いた。
次の瞬間、怪物の頭部は打撃音と共にはじけ飛んだ。
残された首から下の肉体は血を吹き上げながらアスファルトに倒れ込み、やがて光となって消える。
その後ろから姿を現したのは、バールのようなものを手にした銀髪の美少女だった。
「いつもニコニコ、マスターの隣に這いよる混沌! ニャルラトホテプです!」
元気よく名乗りを上げる少女。だが、それを聞いているものはこの場にいない。
梓は眼前で繰り広げられたスプラッタシーンに耐えきれず、気絶してしまったのだから。
「ありゃ……。ちょっとやりすぎましたかね?」
◆ ◆ ◆
次に梓が目を覚ましたのは、自室のベッドの中だった。
「あれ、ここは……?」
「あ、目が覚めましたか、マスター?
誰もいらっしゃらなかったので、失礼とは思いましたがマスターの持っていた鍵を拝借して家に入らせていただきました。
ご両親は共働きのようですね」
ベッドの横にいたのは、銀髪の少女。目を覚ましたばかりの梓に、彼女は明るいトーンで話しかける。
「あなたは……? それにマスターっていったい……」
「はい、それでは説明いたしましょう!」
待ってましたとばかりに、少女は説明を始める。
ここは梓が本来いるべき世界ではなく、聖杯戦争という殺し合いの舞台であること。
梓はその参加者として連れて来られたこと。
そして自分が、梓のパートナーとして召喚されたアサシンのサーヴァントであること。
「じゃああの悪魔みたいなのも、サーヴァントだったんですか?」
「いやあ、それにしては英霊が持っているであろう風格とかそういうものがありませんでした。
おそらくは、キャスターあたりが放った使い魔でしょう。
まったく、男なら拳一つで勝負せんかい、って話ですよ」
「はあ……」
梓は困惑する。うっすらとしか覚えていないが、アサシンは先ほど凶器を使っていなかったか。
自分は女だからいいという理屈か。それならそのキャスターとやらも女の可能性があるのではないか。
そこまで考えて、梓は「たぶん適当に言ってるだけなんだろうなあ」と思い直す。
「それで、マスター」
「あ、はい。なんでしょう」
「マスターには、聖杯に叶えてもらいたい願いはありますか?」
そう言われて、梓は考える。
願いがないといえば、嘘になる。
もっともっと、先輩たちとバンドを組んでいたかった。
だがそれは、単なる個人的なわがままだ。
そんな願いのために他者に迷惑をかけるわけにはいかないし、殺すなどもってのほかだ。
「いえ、特には……。元の世界にさえ帰れれば、それ以上は望みません」
「そうですか、それを聞いて安心しました」
「安心……?」
アサシンの言葉に、梓は首をかしげる。
先ほどの説明を聞く限り、マスターのモチベーションは高い方がサーヴァントにもありがたいはず。
それがなぜ、願いがないと聞いて安心するのか。
「実は今回の聖杯戦争、どうにもきな臭いんですよねえ。
普通の聖杯戦争ってのは毎回一人か二人は巻き込まれ枠がいますが、基本的には本人の意思で参加するものなんです。
マスターのように、強制的に連れて来られて参加させられるなんてあり得ないはずなんですよ。
ですから私は、この怪しい聖杯戦争をぶち壊してやろうと思って召喚に応じたんです」
「はあ……」
全てを一度に理解できたわけではないが、梓にはある程度アサシンの言いたいことが理解できた。
彼女は聖杯戦争の参加者ではあるが、真っ当に勝ち抜くつもりはないのだ。
だからマスターである自分が聖杯を望まないと聞いて、安心したということなのだろう。
「まあそういうわけですので、短い付き合いになるでしょうがよろしくお願いしますね、マスター」
「は、はい」
「心配せずとも、マスターの身の安全は私が全力で守りますので!
望まず戦いに巻き込まれた少女の護衛なんて、ラノベみたいで燃えますねえ!
ああ、私はどこぞの脳みそ固形燃料女と違って同性愛者の気はありませんので、ご心配なく。
まあマスターは物語の主人公を張れるぐらいの美少女だとは思いますけどね。
あなたを失うとなればその世界にとって莫大な損失ですから、きっちり無傷でお返ししないと!
『MOE』は宇宙の合い言葉ですよ!」
「…………」
アサシンのマシンガントークを前にして、梓は沈黙する他なかった。
(この人……先輩たちとは別の意味で付き合うのが大変かも……)
【クラス】アサシン
【真名】ニャル子
【出典】這いよれ!ニャル子さん
【属性】混沌・中庸
【パラメーター】筋力:B 耐久:C 敏捷:B+ 魔力:B 幸運:B 宝具:A
【クラススキル】
ご都合主義な結界:A
「気配遮断」の代用スキル。
このスキルが発動している間、マスター以外の存在はアサシンを無力なNPCとしてしか認識できない。
戦闘が開始されると、このスキルは強制的に解除される。
【保有スキル】
邪神型宇宙人:A
「クトゥルー神話」という形で地球にその存在が伝えられた宇宙人の一族。
本質は神でなくとも、神という認識で見られるようになった存在。
対峙した相手にクトゥルー神話の知識があった時のみ、このスキルは同ランクの「神性」に変化する。
這いよる混沌:A
数多の姿を持つ存在。
上記の値を上限とし、自らのステータスを自在に変化させることができる。
アサシンは普段、一般人であるマスターに合わせステータスを下げることで魔力消費を抑えている。
クロックアップ:A
超高速移動能力。そのスピードは、英霊と言えども付いていくのは難しい。
生前はノーリスクでホイホイ使えたが、サーヴァントである現状では魔力消費が激しいため多用は厳しい。
サブカル知識:D+
微妙に第4の壁を認識していることも手伝い、莫大なオタク知識がスキルとして昇華されたもの。
縁もゆかりもない英霊であっても創作物の登場人物として知っている可能性があり、低確率で真名を見破れる。
相手が「ヒーロー」であれば、その確率は上昇する。
加虐体質:B
戦闘時、自己の攻撃性にプラス補正がかかる。これを持つ者は戦闘が長引けば長引くほど加虐性を増し、普段の冷静さを失ってしまう。
攻めれば攻めるほど強くなるが、反面防御力が低下し、無意識のうちに逃走率も下がってしまう。
心眼(偽):C
直感・第六感による危険回避。虫の知らせとも言われる、天性の才能による危険予知。
視覚妨害による補正への耐性も併せ持つ。
【宝具】
『シャンタッくん』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:― 最大捕捉:―
ニャル子の眷属である、馬の頭・こうもりの羽・鳥の足を持つ怪生物。
普段は愛玩動物レベルの大きさだが、真の姿に戻れば全長数メートルの巨体となる。
戦闘力はあまり高くないが、乗り物としては優秀。
ニャル子は「騎乗」のスキルを持たないが、シャンタッくんに関しては自在に乗りこなすことができる。
『燃える三眼(フルフォースフォーム)』
ランク:A 種別:対人宝具(自身) レンジ:― 最大捕捉:1人(自身)
ニャルラトホテプ星人の最強形態。
おのれが「最強」と感じる姿に変身することによりテンションを上げ、最大限におのれの力を引き出す。
ニャル子の場合は、特撮ヒーローのような黒い鎧を纏った姿となる。
変身中は筋力、耐久、敏捷がそれぞれ1ランク上昇する。
【weapon】
○名状しがたいバールのようなもの
邪神界隈ではメジャーな鈍器。
ニャル子のものはノーマルタイプで、特殊能力は無い。
○冒涜的な手榴弾
ほぼ普通の手榴弾。
【人物背景】
クトゥルー神話における、ニャルラトホテプのモデルとなった宇宙人と同種族の一個体。
惑星保護機構のエージェントであり、地球人の少年・八坂真尋を守るため地球を訪れる。
その後も理由をつけて地球に居座り、様々な事件を解決した。
可憐な見た目とは裏腹に、性格は卑劣で好戦的。
また、地球の娯楽文化をこよなく愛するオタクでもある。
【サーヴァントとしての願い】
聖杯戦争を破綻させる。手段は問わない。
【基本戦術、方針、運用法】
アサシンでありながら高いステータスと豊富なスキルを持ち、三騎士とも正面から渡り合える。
ただしそれは、あくまで全力を出した場合のこと。
一般人であるマスターの負担を考えれば、できればアサシンの基本である奇襲で余計な力を使わずに勝ちたい。
幸い不意打ち上等な性格なので、奇襲戦法も喜々としてこなしてくれるだろう。
【マスター】中野梓
【出典】けいおん!
【マスターとしての願い】
元の世界に帰る。
【weapon】
なし
【能力・技能】
アマチュアとしては充分にハイレベルなギター演奏。
【人物背景】
桜ヶ丘高校軽音楽部部員。担当楽器はギター。
入学直後の新歓で聞いた先輩たちの演奏に胸を打たれ、入部を決意する。
真面目な性格であるため当初は部の緩すぎる雰囲気に困惑していたが、徐々に適応していく。
今回は先輩たちの卒業後から参加させられている。
【方針】
生存優先。
候補作投下順
最終更新:2016年03月03日 12:57