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槌を振るう。
槌を振るう。
槌を振るう。

炎の照り返しに洗われ、赤銅に燃え立つ総身に汗を滲ませながら
男は槌を――――振るう。ただ、一振りの刀を完成させんが為に。



 ◆  ◆  ◆  



東京都内に数多ある学園の一つ。
そこでは、戦闘と破壊が繰り返されていた。
生徒達が好き勝手に暴力と争いを撒き散らし、塵芥のように死んでいく。
それが日常だった。
それを皆、当たり前のように受け入れていた。
福本忠弘も伍していた。

刀剣作りの才があった福本は入学早々学園の不良グループに目を付けられ、
暴力で脅され、彼等の為の殺人武器作りを強制されていた。

一週間で三十振の刀を打て。
振れば必ず敵に当たって、当たれば必ず殺せる最強の刀を打て。
幼稚な無理難題にも応え続けなければ命が危うかった。

生徒たちが部活に汗を流すためのグラウンドは抗争の舞台として使われ、
粗末無惨に扱われた彼の刀(たましい)の残骸で埋め尽くされていた。

福本は精魂込めた作品を売って保身に代える事に葛藤を抱きこそすれ
この世の理に何の疑問も持たなかった筈だったのだが――――。



 ◆  ◆  ◆



「打たねェよ」



無数の折れた刀と死体の散らばる放課後の体育館で、
福本は刃の先を壇上の男に向けていた。


「オレはな……激しくイラついてんだよ……
 オレの刀が悪用され放題なことにヘドが出る……
 なんの抵抗もできなかった自分の弱さに腹が立つ……!」


はて、どこかで同じ事を口走ったような――――。
奇妙な既視感に目眩を憶えながら、福本は短刀を構えた。
目の前の男の強さは身をもって知っている。此処で自分は確実に殺されるだろう。
それでも、

「オレの意志を示すタイミングは今しかねェ。
 そう、この刀が語りかけて来んだよ」

鬼神を脳髄に宿し妖刀を打ちながら、逆に刀剣に宿る鬼魅に魅入られたのかもしれない。
「ついカッとなった」としか言いようのない、脈絡無しの軽挙だ――と解っている。
それでも血の滾りに任せて、啖呵を切った。

「何度だって言ってやる!
 これ以上、お前らのために刀打つぐらいなら死んだ方がマシだぜ
 ――――クソッタレ!!!」


咆哮と共に突き出した手首は呆気なく捉えられる。
「言いたいことはそれだけか?」
激痛と共に暗転する世界。
そこに、ひらりと落ちる桜のひとひらを見た気がした――――。



『大将の意志、確と受け取ったぜ。俺っち薬研――おっと、セイバーとでも呼んでくれ』

見たことの無い、年若の生徒が立っていた。
洋装の上に鎧の大袖を付け、手にした短刀からは
今しがた屠った男の血をポタポタと滴らせながら。
不良の仲間割れかと油断なく見上げる福本の前で、彼――セイバーは飄々と自己紹介を始めた。

『俺は大将の味方だ。刀剣の精とでも言えばわかるか?
 戦場育ちで雅なことはよくわからんが、戦じゃ頼りにしてくれていいぜ』

カラシニコフの精ならともかく刀の精は聞いた事がないが、
彼が大将と呼ぶのが自分のことであり、命の危機がひとまず去った事だけ福本は理解した。
そして――――完全に思い出した。


自分が既に生き終えた人間であったことを。



 ◆  ◆  ◆  



セイバーに促されて、福本は自分の事を訥々と語った。
衝動の後に来る燃え尽きと予想外の出来事に加え、
相手が人でなく物であるという事が
平素寡黙な彼の口を僅かに軽くしたのかもしれない。

此処と似たような血嵐吹き荒れる殺伐とした魔人学園に通っていたこと。
正義のカリスマ生徒会長の下で、平和のために能力を振るっていたこと。
最期は生徒会のために最強の宝剣を生み出し、その代償に世を去ったこと。
セイバーは只静かに耳を傾けていた。物言わぬ鋼の塊のように。

刀の残骸と人の死体でめちゃめちゃの、血臭わだかまる体育館を出るに際して
セイバーは一つ問いを投げてきた。

『大将に願いはあるか?』

腹いっぱい食いたい、天下を取りたい、仲間の所に帰りたい……何でもいい。
せっかく拾った命だ。好きにしたって、誰も文句は言わねぇだろうさ――
これからどうするつもりなのか、よかったら聞かせてくれねぇか。

無ェよ、と答えかけて福本は空を仰ぐ。
高窓から差す外の光を受けて、キラキラ漂う塵のはかなさを
ああ火花みてェだな――と無意識に目で追いながら。

「俺はもう打ちたい刀は打った。
 だけどな、それでもまだ生きてるってんなら――――
 もう一振り、打ってみてェ」

鬼に取り憑かれた魔人刀工の笑みだった。

「死後の世界か知らねェが、こんなクソみたいな地獄にも
 ド正義やエースのようなヤツが居るかもしれねェからよ……」

もし居たら、ソイツにくれてやるのも悪くない。
第二の「福本剣」を。



 ◆  ◆  ◆



学園内に設えられた彼の鍛冶場にも当然のようにセイバーは付いてきた。
幾度追い払おうとも、ふと気付けば福本の側に居る。

『連れてってくれ。邪魔にはならん。
 不安なら令呪を使ってくれ』

甲を小突かれて右手を開くと、円の内側に車輪と受け弧を収めた紋が掌に染みついていた。
火傷とも異なるそれは擦り爪を立てようとも消えない。

『大将の身に危険が及んだ時は、コイツに願を懸けるといいぜ。
 三回までしか使えないからよく考えて使ってくれ』

目の前のガキは何なのか。
この模様にはどんな意味があるのか。
そもそも死んだはずのオレは何故生きてここに居るのか。

福本には分からない事だらけだったが、とりあえず
幽霊にでも憑かれたと思って諦めることにした。


『ま、仲良くやろうや大将。――いい刀、打ってくれよ』



 ◆  ◆  ◆  



二〇〇九年二月某日、福本忠弘は最強最後の刀を生み出し
その代償として両手両足のみを残しこの世を去った。

一五八二年六月二十一日、織田信長は本能寺で受難し
その愛刀である薬研藤四郎は炎の中に消えた。

何の因果か、遥か過去に絶えた筈の
二人の男の刃生(じんせい)は此処に交わる。





【クラス】
セイバー

【真名】
薬研藤四郎@刀剣乱舞

【パラメーター】
筋力:D 耐久:D 敏捷:B 魔力:C 幸運:D 宝具:D

【属性】
秩序・中庸

【クラススキル】
騎乗:D
乗り物を乗りこなす能力。乗用に調教された馬などの動物や、
特殊技能を必要としない普通車程度なら乗りこなす事が可能。

対魔力:C
魔術に対する抵抗力。魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。
大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。

【保有スキル】
戦闘続行:B
戦闘を続行する為の能力。戦闘不能な傷を受けない限り生き延び、戦い続けられる。
戦い続ける運命の下に命を与えられた付喪神である刀剣男士は
ほとんどが高い戦闘続行スキルを有する。

薬研通し:D
彼の逸話に基づくスキル。主命(令呪)を受けた場合に限り、
相手の耐久や防御系スキル・宝具を完全無効化して攻撃ができる。
反面、主を害する命令を受けた場合、パラメーターがすべてE-へと下落。
命令(令呪)の効果が切れれば、効果も解除される。

【宝具】
『薬研藤四郎』
ランク:D 種別:対人 レンジ:1 最大捕捉:1
サーヴァントの本体たる宝具。
戦闘時はセイバーがその手に構え、使用する。
破壊された場合はセイバー本体も消滅。
多少の傷が付いてもマスターが手を施せば数分~1時間で修復可能。

【weapon】
粟田口吉光作の短刀。刃長八寸三分、茎の銘は「吉光」。
室町幕府管領・畠山政長自害の際、主の腹に突き刺さらず
癇癪任せに投げられた所、薬研(石の擂具)を見事に貫いた。
転じて「素晴らしい切れ味だが主の腹は切らない」と称えられ
守り刀として武将の間で愛用された。織田信長もその一人。
歴史上では、「薬研藤四郎」は本能寺で主と共に焼失したと言われる。

【人物背景】
上述した薬研藤四郎の付喪神。
歴史改変を目論む者達を阻止するべく
審神者に命を吹き込まれた「刀剣男士」であり、
関ヶ原や池田屋などの歴史分岐点を狙って絶えず攻め来る敵と
時間を遡行して戦い続けている。

【サーヴァントとしての願い】
主(マスター)を守る

【出典】
ブラウザゲーム「刀剣乱舞」に登場。
レアリティの最も低いコモン短刀のため、序盤で簡単に出てくる。



【マスター】
福本忠弘@戦闘破壊学園ダンゲロス

【マスターとしての願い】
最強の刀を打つ

【weapon】
鍛冶道具、刀(自作)

【能力・技能】
魔人能力「鬼神刀工」
鬼神を身に宿し、強力な刀を作る。鬼の力を借りて打たれる福本の刀は
刀というよりも刀の形をした呪いに近い。世に言う妖刀、魔剣の類である。
より強い刀を打つためには、より深く鬼と一体化するが如く
その身を預けねばならない。ゆえに最強の刀を打ち終えた時、彼は――――

【人物背景】
希望崎学園生徒会役員。
不良魔人グループに脅迫されて数多の刀を強制的に造らされていたが
生徒会長ド正義に親友のエース共々窮地を救われ、生徒会に参加した天才魔人刀工。
生徒会の一員として異能力者・魔人達の集う学園の平和のために刀を打ち、
最強の刀「福本剣」を最期に遺し世を去った。――――はずだった。

なお、彼の生涯随一の傑作「福本剣」は
「必中」「両断」「即死」という結果を強引に押しつける妖刀であり、
超常の魔人どもが跋扈繚乱するダンゲロス・ハルマゲドンにおいて
あらゆる攻撃を無効化する最強の「転校生」勢力を屠り
血みどろの乱戦に終止符を打つという魔剣の名に相応しい働きを見せた。

把握は漫画版「戦闘破壊学園ダンゲロス」4巻のみを読めばOK。

【方針】
学生のロールに則りつつ、最強の刀を打ち遺す。
その刀を託すに足る者を捜す。



候補作投下順



最終更新:2016年03月03日 13:02