燃え盛る火の中で by 16さん
火に囲まれて、何分経ったのか。
考えなきゃ、考えなきゃ、助かる方法…。
頭がぼんやりしている。
立ちすくんでいると、上田が声を掛けてきた。
「最後に、お互い今までずっと言えなかったことを一言ずつ言い合おう」
「……はい」
お互い死にかけて助かったと思っていたのに、また火に囲まれるなんて。
くらくらする思考の中、上田の真剣な顔だけが鮮明に見える。
「山田。俺は今まで、ずっと君のことを」
「……はい」
「…す、っす…」
「……す?」
目を逸らそうとする上田に聞き返す。
本当は気付いてる。
言いたいことはわかってる。
知っていましたよ、ずっと。
「俺は、君が好きだよ。ずっと、ずっと前から」
「……」
とても小さな声だったけれど、私の目をまっすぐ見てくれた。
死にかけているこんな状況なのに、幸せな気持ちになってしまう。
「……俺は言ったぞ。次はyouの番だ」
「……私も。私も、ずっと前から好きですよ。上田さんが」
上田の体が私をそっと包み込む。
私も手を回してしがみついた。
「こんなとこで死ぬの嫌ですよ、後味悪すぎます」
「ごめん。youを守れなくて」
「…上田さんは、頭使わなくていいですよ。一緒に助かる方法は私が考えますから」
助かったら恥ずかしくなって、何事もなかったようにくだらない言い合いをする関係に戻ってしまうかもしれない。
でも素直になるんだ、もう一度ちゃんと好きって言うから。絶対に。
上田さんと一緒に生きていきたい。
「……熱い…」
頭が回らない。
息が苦しい。
目の前が暗くなってきた―――
「…嫌…!!」
――あれ、息ができる。
見慣れた天井。
心臓がうるさく鳴っている。
「…はぁ…嫌な夢だった」
「どんな夢だ」
聞き慣れた声に視線を巡らす。
勝手にお茶を煎れてくつろいでいる大きな男。
「上田さん…?何勝手に上がり込んでるんですか」
「廊下に君が倒れてたから運んでやったんだよ。おそらく熱中症だな」
そういえば玄関を開けた記憶がない。
枕元に置かれた水やタオル。
頭の痛みに顔をしかめると、額の汗を上田がタオルで拭ってくれた。
「ところでyouはこんな話を知ってるか」
上田は団扇でこちらに風を送りながら、うさん臭い霊能力のことを語り始める。
どうせならお前が独り占めしている扇風機を向けろ。
でもそれが上田。ずっとずっと前から。
「…すき焼きおごってくれるなら、謎解き付き合ってあげます」
微笑みかけたら、上田はちょっと動揺してる。
それでいいんですよ。
余計なこと考えずに、私のこと好きでいてください。
ずっとずっと。
最終更新:2014年03月05日 22:22