トバリタ暦1321年。
国王バラザックの治める王国に、突然悲劇が襲った。妃が急死したのだ。
王を始め、民は皆悲しみ、国は大混乱した。
そんなとき、王に一通の真っ黒な手紙が届く。
トバリタ暦1345年。
もはや、昔の王国の姿はない。
魔物が住まう魔城と化した王国。
大地は腐り、世界は破滅の一途を辿っていた。
とある集落。
少年アークは、ぼんやりと空を見上げていた。
「あの果てに、なにがあるんだろう」
アークは立ち上がる。
世界を変えるために…
いつものように目を覚まし、外にでる。
広場では小さく火が燃えており、その横では老人が芋を焼いていた。
アーク「おはよう ダグじいさん!」
ダグ「やあアーク。今日も早いのお。」
アーク「じいさん、また一晩中ここにいたのか?」
ダグ「そうじゃよ。家に帰っても男共に殴られるだけだしのお。」
アーク「くっそ、あいつらっ!! だからさ、オレが・・・」
ダグじいさんが首を横に振る。オレは「ちっ」と舌打ちをして、下を向いた。
この谷の集落は、50人かそこらのとても小さい集落で、
女は20人ばかりと。老人と中年の荒くれがほとんどで、子供は本当に僅かだ。
そんな中でアークは、親友のジェイドと「少年隊」を設立。
メンバーはアークとジェイドと、ちびっこ達数人。
主な任務は、集落のパトロールとなんでも屋。
他には、洗濯の手伝いや迷子探し。野犬退治もしたことがある。
....といっても、ここでは男達が当たり前のように権力を振るい、
女・子供も暴力を振るわれ、逆らう者は半殺しにされる。
アークは腐ったこの場所が大嫌いだった。
アーク「なあじいさん。」
ダグ「なんじゃ?」
アーク「オレさ。絶対、義賊になってみんなを助けるから。
そしたら、じいさんにも好きなモンを好きなだけ食わせてやるからさ!!」
ダグは微笑む。
ダグ「ほっほっほ。楽しみじゃなぁ。おまえが伝説の勇者様に見えるわい。
ワシはどうでもいいが、せめてあの子達は・・・
あの子供達をどうか救ってあげてくれんかのお・・・・。」
アーク「だから!みんな救ってやるってば!」
ダグ「ほほ、そうじゃったのお。頼むぞアークよ・・・」
そしてまた日は沈み、世界が闇に包まれ、アークは夢を見る。
彼女はふっと笑う。
「どうしたの、ユミナス。元気がないわ」
俺は彼女の顔に視線を移す。
「そうか?悪い、ちょっと考え事してた」
数センチの羽をパタパタさせて、彼女は俺の目の前を飛び回る。
「このところ激しい戦いだったのに、全然休息がとれないものね・・・
ぼーっとしてしまうのも無理はないわ」
「だから考え事してたんだよ!ぼーっとしてたわけじゃ・・・」
「だったら、よだれを口から垂らすのはやめてもらえるかしら?」
「うっ!?」
慌てて口を拭く。本当に疲れているようだ。
目蓋を閉じるだけで記憶がフラッシュバックし、胸にグサりと突き刺さる。
「ディーン」
俺が呼ぶと、静かに本を読んでいたディーンが振り返る。
「何です?」
「俺の剣の調整、今からだとどれくらいかかる?」
「今からですか・・・」
ディーンは薄い藍色の眼鏡を指でクイっとあげると、
何ともいえない表情で口を開いた。
「大分痛んでいたんでいたと思うので・・・明日の朝までには何とか・・・」
「朝までかかるのか?・・・それじゃあ夜襲されたら終わりだぜ」
「しかしだからといって、あのまま使い続ければ確実に・・・」
ガコンッ!ガタガタガタガタ・・・・
「どうした、ミール!?」
「敵襲です。ここより5時の方向。距離は計測中、数不明。」
「ディーン!ステルスだ!ミールはディーンに魔法タンク3番から急速チャージ!」
警告音が鳴り響く中でセレフィアが俺に叫んできた。
「ユミナス、3番タンクはさっきの戦いで使い切ってしまったわ!」
「なんだって!? っくそ・・・しかたねぇ、ディーン、ミール、出るぞ!」
ディーンも叫ぶ。
「ダメです!そのまま使い続ければあなたの剣はもう・・・」
「あいつが死んだ今、俺がお前らを守ってやんねーでどうすんだよ!」
「ユミナス・・・。」
すると、セレフィアが俺の肩に乗ってきた。
「私も行くわ。」
「無理だ!お前はもう魔法なんて使える余裕が・・・」
セレフィアは真っ直ぐ俺を睨んでいる。
「あなたがこんなに必死になってくれているのに、指をくわえてそれを見ていろというの?」
「っく・・・ 足手まといになるんじゃねーぞ!」
「何だよアレ・・・・!」
巨大で醜悪な何かが、こっちに迫ってきていた。
「深淵の・・・魔王・・・・」
セレフィアが呟く。
「もう・・・復活していたのね・・・」
俺は思わず声を張り上げる。
「深淵の魔王!?何なんだよそれ!俺たちはあの糞野郎を追ってたんじゃ・・・」
「ユミナス!!」
ディーンの声が聞こえ、直感で即座に横に飛んだ。
俺が居た場所の地面が黒こげになっていた。
「あ、あぶねぇっ・・・」
「ユミナス、相手はまだ復活したばかりとはいえ、強大な力の持ち主です!
油断してはダメです!
「んなの分かってるんだ!ミール、魔力計算結果は!」
「過去のデータと照合しましたが、対応するデータがないため、結果は「未知数」です」
その間にもやつは、グォオオオと不気味な声で啼いていた。
「チクショウ!化け物かよ!」
俺は巾着袋から、「琥珀の瞳」を取り出す。
「天声響け!我に答えよ、グラニ!」
俺はグラニに跨り、もう一度魔法を唱えた。
「プロテクト!」
俺とグラニが半透明の魔力の膜で包まれる。
するとセレフィアも、魔法を発動した。
「聖なる祈り、万物を司る大地の神よ・・・ガイア!」
セレフィアが叫ぶ。
「さぁ、行って!魔界でどれだけガイアが力を発揮できるかは分からないの!
私の魔力も長くはもたない!」
「ありがとな、セレフィア・・・」
さらにディーンも、俺に魔法を掛ける。
「ゴッドブレス!」
「この魔法は・・・?」
「神の祝福ですよ。深淵の魔王も、神の力には抵抗がないはず!」
「ディーンもサンキュな!よっしゃあああ行くぜぇぇ!!!」
深淵の魔王とガイアが戦っている。ガイアは様々な魔法を使うが、
それは大地の加護があるからこそのものだ。
今のガイアは、全て自身の魔力で戦っているのだろう。
いつものような圧倒的な力は感じられない。
すると、深淵の魔王が、持った大槍をガイア目掛けて投げつけてきた。
ガイアはすぐさま防御魔法を唱えたが、その魔法を打ち破り、
槍はガイアの胸に突き刺さった。
ガイアが悲鳴をあげ、花びらとなって散ってしまった。俺ははっとして後ろを振り返る。
セレフィアの姿は確認できないが、ミール達が慌てている様子が見える・・・
俺は歯を食いしばった。
「っく・・・負けるかってんだ・・・!」
「ブレイブスラッシュ!!」
俺は剣を魔王目掛けて振りかざした。
しかし、命中したもののダメージはあまり大きくなかったようだ。
「やっぱり魔法系はきかねぇのかよっ・・・」
グラニがヒヒンと鳴く。
「おう!頼むぜ、グラニ。飛翔だ!」
グラニに黒い魔法の翼が生え、俺たちは舞い上がる。
魔王にむかって一直線。その間、魔王の攻撃を俺は必死に防いだ。
「プロテクトも大して意味ねぇな・・・くそ、やっぱテュルフィングで直接やるしかねぇのか・・・」
テュルフィングの声が、俺には聞こえていた。
「お前が折れるわけないもんな。信じるぜ、テュルフィング・・・!」
俺たちは更に上空へ、魔王の頭上まで舞い上がった。
「これで・・・終わりだぁっ!!!」
魔王が上を見上げながら様々な攻撃をしてくる。
俺は閃光を弾き、剣の一撃をさらりとかわし、稲妻の矢を真っ二つにする。
「切り裂けえぇぇっ!テュルフィーーンッグ!!!」
その時、プロテクトの魔法が解け、グラニも雨の雫となって消えた。
風の抵抗を受け、俺の体は無防備になる。
魔王がにやりと笑う。体が、全く言う事を聞かない。
俺はしっかり柄を握っていたはずのテュルフィングを落としてしまった。
そして、魔王がそれを拾い、俺に向かって投げつけてきた。
テュルフィングの声が、また聞こえた。
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最終更新:2009年03月29日 10:45