ID:GtOxjXwDO氏:らき☆すた・ファンタジー『Another』

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ID:GtOxjXwDO氏:らき☆すた・ファンタジー『Another』 - (2007/12/15 (土) 16:26:11) の1つ前との変更点

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プロローグ 「魔術を使うには大地から、神々から力を借りなければ行使できない」 その部屋のろうそくには一本しか火が灯っていなく、薄暗い、気味が悪い部屋と化している その部屋の中では、父と娘が語り合っている 魔術に対しての知識を確認しているのだ 「そう、その力を借りることができる人間は生まれつき身体のどこかにアザがある」 「それは動物や魔物も同じ事」 「ここで問題。そのアザは子供たちにも受け継がれる?」 「答えはNO。でも、子供もアザができて生まれる可能性はある」 「正解。じゃあ第二問、その兄弟・姉妹にアザはできる?」 「それも答えはNO。兄弟・姉妹につき、一人にしかチカラは備わらない」 「そう、そしてこれからお前にしようとしていることは、後天的に魔術を行使できるようになる『実験』」 父は実験という言葉を強調し、白い石とナイフを取り出した 「失敗したら……?」 「腕を失う。確実に」 娘は生唾をゴクリと飲み込む。額には尋常ではない脂汗が滲み出ている 「大丈夫、失敗しない。失敗させない。だから、俺を信じろ……!!」 「……うん……!」 この二人の間に、家族を超えた何かが存在しているように思えた 娘は覚悟を決め、右腕を父の方に差し出す 「かなり痛いだろうが、耐えてくれ……!!」 父は娘の腕を取り、ナイフを彼女の右手の甲にあてた 「……行くぞ……!!」 1―1 それから5ヶ月後、少女――泉こなたはアウレ町を歩いていた アウレ町は彼女と彼女の父が住む町。道が石畳で舗装されており、近くの集落の中では一番大きな場所だ 彼女は今、町の図書館を目指して歩いている 彼女の目当ては図書館が貯蔵している魔導書にある 彼女は基本的に勉強が大の苦手だが、魔導書に書かれている文字『魔導言語』を学ぶのは好きな様子 毎日と言っていいほど図書館を訪れていた 「ふふふ、館長さん、今日は封書を読ませてくれるって話だし、楽しみだな~」 彼女は鼻歌を歌いながら道を歩いていく。何が書かれているか気になって仕方がない 封書を早く読みたいがために、足速に通りを歩く 町の武器屋を通り過ぎたあと、近道のために裏路地へと入る 「きゃ!!」 「うわ!!」 裏路地に入ろうとした直前、その裏路地から女の子が出てきた 避けることは出来ず、こなたは女の子とぶつかってしまった こなたはよろめきながらもなんとか倒れることは阻止できた これは彼女が古武術という昔から伝わる武術を習っていた賜物である しかし、ぶつかった女の子はそういうわけにもいかず、石畳に尻餅をついてしまった 「いたた……」 「ごめんね。大丈夫?」 女の子は薄紫色の髪を左右でツインテールにしていて、腰には鞘を差している こなたは女の子に手を差し出すが、その手は払いのけられ、女の子は立ち上がりながらこちらを睨み付けてきた 「あんた、何処見て歩いてんのよ!!」 「ごめんごめん、急いでてさ~」 「……あんた、謝る気ある?」 「あるよ~」 言葉だけで悪びれる素振りも見せないこなたに女の子は大きな溜め息をついた 「……まあいいわ。ところで、『そうじろう』って人はどこに住んでるかわかる?」 「ああ、それなら……」 こなたは裏路地から出て、家々の間にある大きな家を指差した 「あの青い屋根の家に住んでるよ。結構大きいから、すぐにわかると思う」 「わかった、ありがとね」 女の子は裏路地を出て、こなたが指差した方へ歩いていった 「……ん?」 ふと地面を見てみると、そこには光るものがあった それを拾い上げてみると、どうやらそれはロケットペンダントのようだ 「しまった、ぶつかった時に落としちゃったのか……」 女の子が駆けていった方を見るが、もうその姿は見えなくなっていた 「……ま、いっか。家に来てるんだし、帰ってきたら渡してあげよ」 そう言って、こなたはロケットペンダントの中身を見る 中央に先ほどの女の子がいて、両脇に二人の少女がたたずんでいる その中の三人は、笑顔でこちらを向いていた 1―2 「ふ~、少し早く走りすぎたかな?」 こなたはあの後、図書館ま走ってきた 太陽の位置がまだ東の空にあることを確認し、図書館のドアを開ける 「いらっしゃい、こなたちゃん。今日は早いわね」 図書館の館長だ。人手不足により、カウンターで貸し出し業務も並行している 「うん、早く封書が読みたくてね~」 「急がなくても、封書は逃げないわよ」 そう言うこなたに笑いかけながら、一冊の本を取り出し、カウンターに置く タイトルは現代の文字で書かれていないうえに中身まで同じ調子。故にこれまで封書とされてきた本だ 「よし、さっそく読もうかな」 こなたは図書館中央に位置する読書ルームに移動 「……おおお……」 本を開いてすぐ、こなたの目が輝きだした どれくらい時間が経過しただろうか、窓の外はオレンジ色に染まっていた 本来ならお昼頃に本を読むのを一時中断、古武術の修行を行うはずだった しかし、本に夢中になっていたこなたはそれを忘れていた 「ふ~、おもしろかった~」 パタンと本を閉じ、ふと窓の外を見る この時初めて、こなたは時間の経過を悟った 「……マジ?」 こなたのこめかみから冷や汗が流れた 「ま、いっか。今日は休暇ということで」 気持ちを瞬時に切り替え、読書ルームを出てカウンターにいる館長に本を返す 「今日はずいぶん長くいたわね。そんなにおもしろかった?」 「うん。新しい事も知れたし」 「それはよかった。さ、早く帰ってお父さんを安心させなさい」 「う……ん?」 ――お父さん? 何か忘れているような……? 「あ~~~~~~!!」 こなたは絶叫し、疾風の如く駆け出した 「このロケットペンダントを早く返さなきゃ!! 町を出てるかもしれない!!」 そう、あの女の子と出会ったのは朝方 腰に鞘を差していたということは旅の者、下手をしたら、彼女はもう…… 「お父さん!!」 家に着いてすぐにそう叫んだ。全速力で走ってきただけに、肩で呼吸をしている 「おお、どうした? そんな急いで……」 「今朝、女の子が来なかった!?」 「ああ、来たな。薄紫色のツインテールっ子が……」 「その子、今どこにいるか知ってる!?」 「ええっと、今日は宿屋に泊まるって言ってたから、もう宿屋にいるんじゃないか?」 「宿屋……よかった……」 こなたは大きく息を吐き出した。その後すぐに深呼吸、呼吸の乱れを整える 「何かあったのか?」 「うん、朝ね……」 こなたは今朝の話をした。女の子とぶつかったことや、落としたロケットペンダントのこと…… 「そういえば無くしたって言ってたな。友人との思い出の品だとか……見せてもらってもいいか?」 「いいよ」 そう言ってこなたは父――そうじろうにロケットペンダントを渡した 中身を見たそうじろうの顔は一瞬驚きに染まった 「……どしたの?」 「あぁ、いや、なんでもない」 そうじろうはロケットペンダントの蓋を閉じてこなたに返した 「もうすぐで夕飯ができるから、それを食べてから行きなさい」 「うん、わかった」 「そうそう、ちゃんと手は洗えよ」 「わかってるよ」 外にある井戸にこなたが走っていくのを見届けると、そうじろうは呟いた 「……どういうことだ? あの子は確かに人間だった。だが、両脇の二人は……」 1―3 (さて、どうしようかな……) 暗闇の中、こなたは宿屋の前で思案していた アウレ町の宿屋は少し特殊で、宿泊客以外の人間が中に入るには宿泊客の許可を得ないといけない もちろん向こうは自分の名前を知らない。自分も向こうの名前を知らない。これでは会うことはほぼ不可能だ (……仕方ない、覗きみたくなっちゃうけど、窓の外から……) こなたは宿屋と隣の家屋との間に入り、裏手に回る そこは意外と広々としており、夕方なら小さな子供が鬼ごっこをしていそうだ こなたは宿屋の窓から見えないよう、窓の下を通る 中をそっと確認し、目当ての女の子がいないと、次の窓に向けて動きだす。その繰り返し そして、とある窓の下で彼女の動きが止まる 窓の下から目の部分から上だけを出し、中を確認する そこには、薄紫色の髪の女の子が二人いた 一人は椅子に座り、一人はベッドの中で上半身を起こしている 「……つかさ、またひどくなってない?」 椅子に座る女の子の声。横顔しか見えないが、あのツインテールは間違いない、今朝の女の子だ 「ううん、私は大丈夫だよ、お姉ちゃん…」 今度はベッドの上の女の子。どうやらツインテールの女の子の妹らしい、姉と違ってショートカットだ なぜか肩で呼吸をしており、苦しそうにしているが、ここからでは顔がよく見えない 左手にアザがあるところを見ると魔術師であろう 「ほら、あまり無理しちゃだめよ?」 「うん……。少し横になるね」 そう言うと、つかさと呼ばれた女の子はベッドの中に潜り込む 少しだけ身を乗り出してみると、つかさの顔が少しだけ見えた (……!?) 「……この旅を続けてもう一ヵ月だね」 「そうね……でも、つかさの容体は悪くなるばかりね……」 「私の病気って、生まれつきなんだよね……」 「ええ……いろいろなところの医者を訪ねたけど、結局治る気配すらなかったって、お母さんが……」 『それは医者じゃ治らないはずだよ』 「「え!?」」 突然した声に驚く二人。窓の外を見ると、青く長い髪に頭からぴょこんと跳ねた毛 ツインテールの彼女には、それらに見覚えがあった。今朝、ぶつかった女の子だ 「ごめん、話は聞かせてもらったよ」 「あんた、なんでここにいるのよ!?」 彼女が窓を開けて尋ねると、こなたは窓のさんに飛び乗る 「説明は後だよ。まずはつかささんが先決だ」 ひらりと舞い降りて部屋の中へと入る 「お姉ちゃん、知り合い?」 「あ、うん。今朝、ぶつかった女の子よ」 「つかささん、っていったっけ。私は泉こなた。よろしくね」 「うん、よろしくね。私のことはつかさでいいから」 笑顔ではあるが、呼吸は荒く、辛そうにしている 「私は姉のかがみよ。ちなみに名字は柊。それで……つかさが医者じゃ治らないってどういうこと?」 「教えてほしかったら八坂こう(この世界唯一の魔導言語翻訳家)さんのサインを」 ……鈍い音が辺りに響いた 「気を取り直して……」 ドでかいタンコブを頭に作ったこなたはつかさの顔を見てから少し間を置き、 「つかさは多分……呪われてるよ」 『……え……?』 二人は何も言わず、つかさを、自分自身を見る つかさは、自分は、ただ病弱なだけだと思っていた。それがまさか、呪いだったなんて…… 今までの苦労は何だったのだろう、落胆したかがみはうつむいた 「これは……どうやら対象者の魔力を奪う呪いみたい 生まれつきってさっき言ってたから、その時から狙われてたんだろうね。つかさは常人よりも魔力が高いみたいだし」 魔力とは、魔術を行使する際に必要な力であり、すべての命の源でもある。これが尽きると、その者の命も尽きてしまうのだ 基本的に魔術を行使する際に消費され、時の経過により回復していくが、つかさのように呪いによって魔力を吸い尽くされた人間もいるのだ 「……さて、どうする? 一番手っ取り早いのは呪いをかけた張本人を倒すこと」 淡々と、二人にそう説明し、反応を伺う。すると、うつむいたままのかがみが左の手で拳を作った 「……場所は、わかるの……?」 「うん、だいたい予想はついてるよ。一緒にくる?」 かがみは顔をあげ、拳を高く振り上げた 「私も、つかさを救けたい!!」 「……決まりだね」 かがみからつかさへと視線を変え、 「つかさは私の家で待っててくれないかな? 本当は強いんだろうけど、今のつかさだと酷だよ」 つかさは少し考え、憂いを含んだ顔で何も言わずに縦に振った
プロローグ 「魔術を使うには大地から、神々から力を借りなければ行使できない」 その部屋のろうそくには一本しか火が灯っていなく、薄暗い、気味が悪い部屋と化している その部屋の中では、父と娘が語り合っている 魔術に対しての知識を確認しているのだ 「そう、その力を借りることができる人間は生まれつき身体のどこかにアザがある」 「それは動物や魔物も同じ事」 「ここで問題。そのアザは子供たちにも受け継がれる?」 「答えはNO。でも、子供もアザができて生まれる可能性はある」 「正解。じゃあ第二問、その兄弟・姉妹にアザはできる?」 「それも答えはNO。兄弟・姉妹につき、一人にしかチカラは備わらない」 「そう、そしてこれからお前にしようとしていることは、後天的に魔術を行使できるようになる『実験』」 父は実験という言葉を強調し、白い石とナイフを取り出した 「失敗したら……?」 「腕を失う。確実に」 娘は生唾をゴクリと飲み込む。額には尋常ではない脂汗が滲み出ている 「大丈夫、失敗しない。失敗させない。だから、俺を信じろ……!!」 「……うん……!」 この二人の間に、家族を超えた何かが存在しているように思えた 娘は覚悟を決め、右腕を父の方に差し出す 「かなり痛いだろうが、耐えてくれ……!!」 父は娘の腕を取り、ナイフを彼女の右手の甲にあてた 「……行くぞ……!!」 1―1 それから5ヶ月後、少女――泉こなたはアウレ町を歩いていた アウレ町は彼女と彼女の父が住む町。道が石畳で舗装されており、近くの集落の中では一番大きな場所だ 彼女は今、町の図書館を目指して歩いている 彼女の目当ては図書館が貯蔵している魔導書にある 彼女は基本的に勉強が大の苦手だが、魔導書に書かれている文字『魔導言語』を学ぶのは好きな様子 毎日と言っていいほど図書館を訪れていた 「ふふふ、館長さん、今日は封書を読ませてくれるって話だし、楽しみだな~」 彼女は鼻歌を歌いながら道を歩いていく。何が書かれているか気になって仕方がない 封書を早く読みたいがために、足速に通りを歩く 町の武器屋を通り過ぎたあと、近道のために裏路地へと入る 「きゃ!!」 「うわ!!」 裏路地に入ろうとした直前、その裏路地から女の子が出てきた 避けることは出来ず、こなたは女の子とぶつかってしまった こなたはよろめきながらもなんとか倒れることは阻止できた これは彼女が古武術という昔から伝わる武術を習っていた賜物である しかし、ぶつかった女の子はそういうわけにもいかず、石畳に尻餅をついてしまった 「いたた……」 「ごめんね。大丈夫?」 女の子は薄紫色の髪を左右でツインテールにしていて、腰には鞘を差している こなたは女の子に手を差し出すが、その手は払いのけられ、女の子は立ち上がりながらこちらを睨み付けてきた 「あんた、何処見て歩いてんのよ!!」 「ごめんごめん、急いでてさ~」 「……あんた、謝る気ある?」 「あるよ~」 言葉だけで悪びれる素振りも見せないこなたに女の子は大きな溜め息をついた 「……まあいいわ。ところで、『そうじろう』って人はどこに住んでるかわかる?」 「ああ、それなら……」 こなたは裏路地から出て、家々の間にある大きな家を指差した 「あの青い屋根の家に住んでるよ。結構大きいから、すぐにわかると思う」 「わかった、ありがとね」 女の子は裏路地を出て、こなたが指差した方へ歩いていった 「……ん?」 ふと地面を見てみると、そこには光るものがあった それを拾い上げてみると、どうやらそれはロケットペンダントのようだ 「しまった、ぶつかった時に落としちゃったのか……」 女の子が駆けていった方を見るが、もうその姿は見えなくなっていた 「……ま、いっか。家に来てるんだし、帰ってきたら渡してあげよ」 そう言って、こなたはロケットペンダントの中身を見る 中央に先ほどの女の子がいて、両脇に二人の少女がたたずんでいる その中の三人は、笑顔でこちらを向いていた 1―2 「ふ~、少し早く走りすぎたかな?」 こなたはあの後、図書館ま走ってきた 太陽の位置がまだ東の空にあることを確認し、図書館のドアを開ける 「いらっしゃい、こなたちゃん。今日は早いわね」 図書館の館長だ。人手不足により、カウンターで貸し出し業務も並行している 「うん、早く封書が読みたくてね~」 「急がなくても、封書は逃げないわよ」 そう言うこなたに笑いかけながら、一冊の本を取り出し、カウンターに置く タイトルは現代の文字で書かれていないうえに中身まで同じ調子。故にこれまで封書とされてきた本だ 「よし、さっそく読もうかな」 こなたは図書館中央に位置する読書ルームに移動 「……おおお……」 本を開いてすぐ、こなたの目が輝きだした どれくらい時間が経過しただろうか、窓の外はオレンジ色に染まっていた 本来ならお昼頃に本を読むのを一時中断、古武術の修行を行うはずだった しかし、本に夢中になっていたこなたはそれを忘れていた 「ふ~、おもしろかった~」 パタンと本を閉じ、ふと窓の外を見る この時初めて、こなたは時間の経過を悟った 「……マジ?」 こなたのこめかみから冷や汗が流れた 「ま、いっか。今日は休暇ということで」 気持ちを瞬時に切り替え、読書ルームを出てカウンターにいる館長に本を返す 「今日はずいぶん長くいたわね。そんなにおもしろかった?」 「うん。新しい事も知れたし」 「それはよかった。さ、早く帰ってお父さんを安心させなさい」 「う……ん?」 ――お父さん? 何か忘れているような……? 「あ~~~~~~!!」 こなたは絶叫し、疾風の如く駆け出した 「このロケットペンダントを早く返さなきゃ!! 町を出てるかもしれない!!」 そう、あの女の子と出会ったのは朝方 腰に鞘を差していたということは旅の者、下手をしたら、彼女はもう…… 「お父さん!!」 家に着いてすぐにそう叫んだ。全速力で走ってきただけに、肩で呼吸をしている 「おお、どうした? そんな急いで……」 「今朝、女の子が来なかった!?」 「ああ、来たな。薄紫色のツインテールっ子が……」 「その子、今どこにいるか知ってる!?」 「ええっと、今日は宿屋に泊まるって言ってたから、もう宿屋にいるんじゃないか?」 「宿屋……よかった……」 こなたは大きく息を吐き出した。その後すぐに深呼吸、呼吸の乱れを整える 「何かあったのか?」 「うん、朝ね……」 こなたは今朝の話をした。女の子とぶつかったことや、落としたロケットペンダントのこと…… 「そういえば無くしたって言ってたな。友人との思い出の品だとか……見せてもらってもいいか?」 「いいよ」 そう言ってこなたは父――そうじろうにロケットペンダントを渡した 中身を見たそうじろうの顔は一瞬驚きに染まった 「……どしたの?」 「あぁ、いや、なんでもない」 そうじろうはロケットペンダントの蓋を閉じてこなたに返した 「もうすぐで夕飯ができるから、それを食べてから行きなさい」 「うん、わかった」 「そうそう、ちゃんと手は洗えよ」 「わかってるよ」 外にある井戸にこなたが走っていくのを見届けると、そうじろうは呟いた 「……どういうことだ? あの子は確かに人間だった。だが、両脇の二人は……」 1―3 (さて、どうしようかな……) 暗闇の中、こなたは宿屋の前で思案していた アウレ町の宿屋は少し特殊で、宿泊客以外の人間が中に入るには宿泊客の許可を得ないといけない もちろん向こうは自分の名前を知らない。自分も向こうの名前を知らない。これでは会うことはほぼ不可能だ (……仕方ない、覗きみたくなっちゃうけど、窓の外から……) こなたは宿屋と隣の家屋との間に入り、裏手に回る そこは意外と広々としており、夕方なら小さな子供が鬼ごっこをしていそうだ こなたは宿屋の窓から見えないよう、窓の下を通る 中をそっと確認し、目当ての女の子がいないと、次の窓に向けて動きだす。その繰り返し そして、とある窓の下で彼女の動きが止まる 窓の下から目の部分から上だけを出し、中を確認する そこには、薄紫色の髪の女の子が二人いた 一人は椅子に座り、一人はベッドの中で上半身を起こしている 「……つかさ、またひどくなってない?」 椅子に座る女の子の声。横顔しか見えないが、あのツインテールは間違いない、今朝の女の子だ 「ううん、私は大丈夫だよ、お姉ちゃん…」 今度はベッドの上の女の子。どうやらツインテールの女の子の妹らしい、姉と違ってショートカットだ なぜか肩で呼吸をしており、苦しそうにしているが、ここからでは顔がよく見えない 左手にアザがあるところを見ると魔術師であろう 「ほら、あまり無理しちゃだめよ?」 「うん……。少し横になるね」 そう言うと、つかさと呼ばれた女の子はベッドの中に潜り込む 少しだけ身を乗り出してみると、つかさの顔が少しだけ見えた (……!?) 「……この旅を続けてもう一ヵ月だね」 「そうね……でも、つかさの容体は悪くなるばかりね……」 「私の病気って、生まれつきなんだよね……」 「ええ……いろいろなところの医者を訪ねたけど、結局治る気配すらなかったって、お母さんが……」 『それは医者じゃ治らないはずだよ』 「「え!?」」 突然した声に驚く二人。窓の外を見ると、青く長い髪に頭からぴょこんと跳ねた毛 ツインテールの彼女には、それらに見覚えがあった。今朝、ぶつかった女の子だ 「ごめん、話は聞かせてもらったよ」 「あんた、なんでここにいるのよ!?」 彼女が窓を開けて尋ねると、こなたは窓のさんに飛び乗る 「説明は後だよ。まずはつかささんが先決だ」 ひらりと舞い降りて部屋の中へと入る 「お姉ちゃん、知り合い?」 「あ、うん。今朝、ぶつかった女の子よ」 「つかささん、っていったっけ。私は泉こなた。よろしくね」 「うん、よろしくね。私のことはつかさでいいから」 笑顔ではあるが、呼吸は荒く、辛そうにしている 「私は姉のかがみよ。ちなみに名字は柊。それで……つかさが医者じゃ治らないってどういうこと?」 「教えてほしかったら八坂こう(この世界唯一の魔導言語翻訳家)さんのサインを」 ……鈍い音が辺りに響いた 「気を取り直して……」 ドでかいタンコブを頭に作ったこなたはつかさの顔を見てから少し間を置き、 「つかさは多分……呪われてるよ」 『……え……?』 二人は何も言わず、つかさを、自分自身を見る つかさは、自分は、ただ病弱なだけだと思っていた。それがまさか、呪いだったなんて…… 今までの苦労は何だったのだろう、落胆したかがみはうつむいた 「これは……どうやら対象者の魔力を奪う呪いみたい 生まれつきってさっき言ってたから、その時から狙われてたんだろうね。つかさは常人よりも魔力が高いみたいだし」 魔力とは、魔術を行使する際に必要な力であり、すべての命の源でもある。これが尽きると、その者の命も尽きてしまうのだ 基本的に魔術を行使する際に消費され、時の経過により回復していくが、つかさのように呪いによって魔力を吸い尽くされた人間もいるのだ 「……さて、どうする? 一番手っ取り早いのは呪いをかけた張本人を倒すこと」 淡々と、二人にそう説明し、反応を伺う。すると、うつむいたままのかがみが左の手で拳を作った 「……場所は、わかるの……?」 「うん、だいたい予想はついてるよ。一緒にくる?」 かがみは顔をあげ、拳を高く振り上げた 「私も、つかさを救けたい!!」 「……決まりだね」 かがみからつかさへと視線を変え、 「つかさは私の家で待っててくれないかな? 本当は強いんだろうけど、今のつかさだと酷だよ」 つかさは少し考え、憂いを含んだ顔で何も言わずに縦に振った 1―4 翌日、こなたは家の前で待っていた 目的は、前日の柊かがみ、つかさを出迎えるため 父親のそうじろうには、事の次第を全て説明してある 背負ったリュックには松明や薬草、念のための食料も入っているが、武器は一切入っていない。格闘家のこなたにとっては必要がないからだ 「お、来た来た。おはよー!」 行き交う人々の間から薄い紫色のツインテールが見えた 間違いない、柊かがみだ つかさの腕を肩にかけ、つかさ自身の負担を軽くしているようだ 「おはよ!」 「おはよー、こなちゃん」 「こ、こなちゃん!?」 「そ。こなたちゃんだからこなちゃん。ダメかな?」 こなたはガックリとうなだれ、「18」とだけ呟いた 「へ?」 「私……もう18なんだけど……」 二人は、どう受け止めていいかわからないといった様子だった 「ご……ごめんね……」 「いや、いいよ。一度定着しちゃった呼び名は変え辛いだろうし。さ、行こうか」 かがみはつかさを降ろし、こなたと顔を見合わせて行ってしまった 「……無事で帰ってきてね……二人とも……」 町外れの洞窟。ここは、何かあった時のための非難所とされている そんな洞窟の前に、二人は立っていた 幅はそれほど広くなく、狭い通路が延々と続いているようにかがみには見えた 「ここに、つかさに呪いをかけた奴がいるの?」 「多分ね。まずは入ってみよう」 躊躇いもなく入っていくこなたを追い掛ける。何故か楽しんでいるようにも見えた 「アンタ、なんでそんなに楽しそうなの?」 「いやー、私、町から出たことがなかったからね。その点だとかがみ達が羨ましく思えるよ」 ヘラヘラと笑うこなたに、かがみは苛立ちを覚えた 自分たちは、とても大変な思いをしてきたというのに 「かがみってやっぱり剣士なの?」 「え? ああ、私達の家族はほとんど剣士よ。ちなみに姉が二人いるけど、その二人もね」 右の腰に下げた鞘を見る。剣士は利き手の反対に鞘を下げる。つまり、彼女は左利きなのだろう 「つかさは魔術師でしょ? アザがあったし」 「アザ? ……ああ、印(いん)のことね。そうよ、つかさは炎と雷の魔術師なの。つーかアザって……学校で習わなかったの?」 その言葉を聞いたこなたは少しうつむき、 「私は行きたかったんだけどね、学校……。なぜか行かせてくれなかったんだよ」 「え……?」 学校は別に強制的に行かされる場所ではないので、それほど驚くことでもない だが、このご時世、学校に通っていない人間の方が珍しかった 「多分、『賢者の娘』っていうレッテルを貼られるのが怖かったんじゃないな」 「賢者の娘……か」 世界には『三賢者』と呼ばれる人達がいる。こなたはその一人の娘なのだ 賢者とは、過去の事柄を未来に紡いでゆく存在である。また普通の人間にはない特別な力もあり、人々に頼られている かがみ達も、そんな三賢者の力を頼りにアウレまでやってきたのだ 「そうよね。小さい子供とかって、そういうのに敏感なのよね」 「一応、私に勉強を教えようとしたんだけどね。勉強イヤって言ったらやめてくれた」 「おいおい……」 「あ、でも武術はちゃんと習ってたよ」 その場で正拳突きをするこなた。なかなか様になっている 「さ、着いたよ。ここがこの洞窟の最深部……なはず」 話をしているうちに着いたようだ。そこは今までの通路とは違い、ドーム状の広間となっていた 「はずってなによ」 「さっきも言ったでしょ? 私は村から出たことないんだよ。だからここに来たのも初めて」 こなたはざっと広間を見渡し、そして正面を指差した 「あの赤い光、見える?」 「うん……ぼんやりとは……」 不自然に揺らめく赤い光。外からの光はほとんど入らないのに、なぜ…… 反射しているのではなく、自ら発光している? だとしたら…… 「魔物か何か、ね?」 「松明に火を点けようか、あんまり見えないし」 そう言ってこなたは松明に火を点ける。視界が一気に開け、そこに何がいたかすぐに理解できた 悪魔をかたどった石像が意思を持った魔物――ガーゴイルだ 右手には三つ又の槍、背中から生えた翼で低空飛行、額にある宝石のようなモノがキラリと光る 『ギギ……』 向こうもこちらに気が付いたようだ、こちらに向かってゆっくり移動してくる 松明を岩の間に差し込み、 「あれはガーゴイルだね。額の宝石には『死者の魂が宿っている』って言われてて……」 かがみはこなたの声を途中からまったく聞いていなかった 腰に下げた鞘から家宝の剣――シャムシールを抜く 怒りの眼差しで、ガーゴイルを見据えながら 「――!? かがみ、ま……!!」 こなたが制止しようとしたときには、かがみは駆け出していた (こいつが……つかさを!!!) 今のかがみにあるのは激しい憎悪、剣を高く振り上げ、 「――斬魔!」 ガーゴイルに向けて一気に振り下ろす! ……しかし、 『ギ?』 「か、硬い!」 かがみが一閃させた剣をガーゴイルは片腕で受け止めていた 奇声を発して、ガーゴイルはその槍を振りかぶった! 身の危険を感じたかがみはそれが振り落とされる前にバックステップで後退する が、先ほどとは比べものにならないほどのスピードでかがみの懐に潜り込み、左の拳をかがみに食らわせる! 「がっ……!!」 避け切れず、腹部にもろに喰らったかがみの身体は後方へと吹き飛ばされた。このままでは、壁に激突する! 「かがみ!」 何時の間にかがみの後ろに来たのか、こなたがかがみの身体をキャッチ! こなた自身の身体も、かがみの勢いで数mほど後ろに滑ったが、壁に激突する前に止まった 「こなた、ありがとう……」 口から少量の血を流し、息も絶え絶えのかがみ。腹部に激しい痛みを感じ、こなたに体重を預ける 「かがみ……気持ちはわかるけど、無謀だよ」 三つ又の槍を自由自在に振り回すガーゴイルを見据え、 「ガーゴイルは石の魔物なんだ、物理攻撃はほとんど効かないんだよ」 「じゃあ、どうしろっていうのよ……? 私は魔術なんて使えないわよ……」 魔術が一番有効だ、そうこなたは言いたいのだろうがそれは無理な話だ 魔術師にのみ出るアザ――すなわち印は、その者の総合的な力を吸い取って魔力へと変換させるため、魔術師には非力な人間が多いと、かがみは学校で習った かがみを受けとめたあの腕力、魔術師にあれだけの力は普通はないため、こなたはただの格闘家だろう これは――物凄くまずい状況だと、かがみは判断した 「ま、私にまかせてよ」 「え? あ、ちょっとこなた!」 かがみをその場に置き、ガーゴイルに突進していく 「ちょっと! あんただって『ただの』格闘家でしょう!? 太刀打ちできるわけが……!!」 出せるかぎりの声で叫ぶかがみの言葉を無視し、こなたは突進をやめない。右手を大きく振り回し―― 「……え!?」 こなたの右腕に、白い光が収束していく。あんな光、かがみは見たこともなかった 一体、何の光なのか。それ以前にどこからあの光が……? 「――仙光拳!」 直後、こなたの腕はガーゴイルの胴体を貫いていた 『ガ……!?』 どうやらそれはガーゴイルも予想だにしなかった出来事のようで、全く動く気配を見せない 貫いたガーゴイルの穴とこなたの腕の間からは、未だ光が洩れている 「んじゃ、この宝石はもらっとくよ」 余った左腕でガーゴイルの額にある宝石を抜き取り、ポケットの中に入れる 突き刺さった腕を抜き、掌を合わせ―― 「光の中に消えちゃえ! ――フォトン!!」 光がガーゴイルを包み込み、それが消えた時にはガーゴイルは跡形もなく消え去っていた あれは間違いない、魔術だ。しかし、なぜ『ただの』格闘家であるこなたが…… 「こなた……あんた……?」 「あはは、いろいろ疑問があるでしょ」 こなたは笑いながらかがみに近づいてくる 「話は後にしようよ。早くここから出よう」 「ええ……」 かがみはゆっくりと立ち上がり、しかしうまく立つことができずに壁にもたれかかった その光景を見て思い出したかのように、 「その前に回復だね。ちょっと待って」 先ほどと同じように、こなたは掌を合わせ、なにやらぶつぶつと呟き始める。そして…… 「ヒール!」 拳を挙げてそう叫ぶと、かがみの周囲に暖かな光が渦巻いていく それと同時に、腹部の痛みが嘘のように引いていくのを感じた 三賢者の一人――泉かなたの家系に代々伝わる力《治癒術》である 人体の代謝を加速させ、傷の治りを早くする術で、極めれば死の淵にある者さえ生き返らせることが可能になるのだ かがみはつかさを治してもらうべく、アウレにまでやってきたのだが、強力な治癒術を持っていたかなたは亡くなっていた そうじろうからこなたのことを聞いてはいたが、まだ若いために力が弱いという話だったので、昨夜は宿屋へ戻ったのだ 痛みが完全に引いたかがみは、出口へ歩きだすこなたへ礼を言いながらその後を追った

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