182:
抱き着いて小躍りまで披露するしな
たぶん相当驚かれるかと
ある時間になるとグレン島に現れてイベントとか
183:
グレン島ではかいのいでんし拾ってミュウツーとフジ老人のところに行くとイベントがある、とかがいい
184:
はかいのいでんしを入手してフジ老人のところへ行くと最果ての孤島に行けるようになって
親子再会イベントが発生するとかがいい
185:
先頭にはミュウツーを、という条件で
という流れより
この島が御山の噴火によって全てを押し流されてから二年。私はこの月のこの日、この時間に必ずこの地に足をつける。
ここはあれから何も変わってない。風も、空気も、海も、大地も、何もかも。
全てを一瞬で消し去ったあの時のまま。まるでかつての残り香が漂うことを許さぬかのごとく人が、街が、ポケモンが消えてしまったまま。
だがそれも仕方なことなのかもしれない。それもまた摂理なのだと、最近は思えるようになってきた。理に反し、そして何かを成そうとすることは負の事柄しか生み出さない。
その無意味さ、虚しさを私は身をもって知っている。この地に来るのは、それらを踏みしめ、戒めるためだ。
果たして私は変われたのだろうか。欲にまみれた探究心に心奪われ、あの悲劇を生んでしまったあの時の自分から。
波の音に耳を傾けながらふと思う。時が何もかも流し流れていく中、私は…。
そんな物思いに耽り幾時か経った頃だろうか、誰かの声にふと私の意識はそちらに向いた。
この、空間ごと切り取られたかのようなこの静の世界に何とも不似合いな明るい声が妙に気になったのだ。私が一歩振り向くと、その声の主は既にこちらに気づいていたのか近づいてきていた。
白い大きな帽子の左右で綺麗に纏められた茶色の髪を揺らしながら、少女は私のもとに走りつく。ああ、私は彼女を知っている。忘れやしない、いや忘れられるわけがない。
まだ暑さの残るあの日、全てを破壊し、全てを振り切り、まるで全てのしがらみを断ち切るかの如く逃げ出した私の罪の子を彼女は、祈りに耽る私のもとに連れてきた。
全てを認識したその刹那、私は思わず眼を見開き罪の子を見つめたが、その先で彼は一瞬だけこちらを見たが、すぐ慈しむような、それでいてどこか甘えたような視線を彼女へ戻し、その目線の先の本人は、まるで何も知らないと言わんばかりの無垢な瞳で私を見上げていた。
それらが私の心に大きな衝撃を与えたのは言うまでもなく。全てが記憶に新しい。名は確か…
…さん!
彼女の若干、張り上がった声に一瞬思考が閉ざされる。思わず彼女に視線を戻すと、ぷぅと頬を膨らまして聞いてます?と少し怒った様子でこちらを見つめていた。
どうやら私は彼女の話をそっちのけで、もくもくと回想に耽っていたらしい。しまった!気づいた時には既に遅く、彼女は更に頬を膨らませていた。
ああ、すまないのぉ。それで、なんじゃったかの?
ことさら優しく言葉を伝える。彼女への小さな謝罪も込めて。
すると彼女は徐に肩に下げたカバンからあるものを取り出した。分厚い箱に厳重にしまわれたそれ。蓋を開けた私は思わず言葉を失った。
ああ、私の罪はまだあの子を縛り続けるのか。まだ悲劇は変わらず続くのか。
彼女が私に見せたもの、それは俗に「はかいのいでんし」と呼ばれるものだった。
それをつけられたポケモンは怒りに我を忘れ、衝動のままに見境なく破壊の限りを尽くすという、恐ろしい代物だ。
かつて私があの子に与えたもの。全てを凌駕する強さ持つ最強のポケモン、頂点に君臨するポケモン…ただそれだけを追い求めて私は彼にそれを装着した。
…本物の強さとは何か、わかりもせず、考えもせず。
彼女の話を要約するとこうだ。ハナダの洞窟近くでこれを拾ってから、あの子や他のポケモン達が急に怒り出したり、怯えたり、落ち着かなくなったりと、おかしくなったのだと。
特にあの子はそれを見るだけで尋常でない怯え方をするという。当たり前だ。これの恐ろしさをあの子はその身を持って知っている。…あの時の恐怖は、悲劇は、私以上に、そして誰よりもこの子を深く縛り、また深く刻みつけられ、苦しめている。
これを処分したいが、他のポケモンにも影響が出る恐れがある以上、迂闊に捨てられない。どうしたらいいか、それが彼女の相談だった。
そういった彼女の目線は今、あの子に向けられている。
また、そんなものコロコロ転がして。
そういって笑った彼女の瞳からは深い慈愛が感じられる。多くの土地を旅して、数多くの苦楽をポケモンと共にした彼女。チャンピオンとなったことでより深い絆を築いた彼女ならではの穏やかで優しげな瞳。
それを見ていた私の中に、ふとある考えが浮かび上がる。
それはもう今後、誰も思い立つことはないであろうと思っていたこと。なぜならもしもそれが心なき者に触れれば、またあの悲劇が起きてしまう恐れがあるからだ。
だからこそ私はそれを、その海図を肌身離さず持ち歩いている。それに描かれているのはあの悲劇の原点にしてもう一人の被害者の居場所。この子ならあるいは、もしかしたら…
私はその思いを胸に少女に問うた。あの子の全てを受け入れられるかい?その、勇気はあるかい?と
彼女は急に話を振られてきょとんとしていたが、見つめる私の眼から話の意をある程度理解したのだろう。ゆっくりと、それで力強く頷いた。見つめるその瞳から曇りや迷いは一切感じない。
私は、そうか、と一言頷くと、彼女にそれを渡した。だいぶ古びてはいるが、現代の航路でも問題なく行けるだろう。
はかいのいでんしはいったんワシが預かろう、だからそれを持って海を渡りなさい。
そして、全てを見ておいで。その目で、全てを感じておいで。君にはその資格がある。
彼女は驚き、しばらく海図を見ていたが、やがてあの子を一声でよび、私に一言伝えると、他のポケモンの背にのり飛び立っていった。
私はその時の彼女の瞳を一生忘れることはないだろう。溢れんばかりの強い決意とみなぎる強い意志の宿ったその瞳。そしてもう一つ、その隣で沿うように飛び立っていったあの子の、それは嬉しそうな幸せそうな横顔も。
私の罪は一生消えない。それは然るべきこと。だが、悲劇の連鎖は…あの子を縛る鎖はそうではない。そうであってはいけない。
私の眼前にもう彼女とあの子の姿はなく、ゆらりゆらりとたなびく波がまもなく落ちる夕日の光を絶え間なく反射させている。
日は落ちるがやがて昇るもの。あの子の進む道を願わくば光が絶え間なく照らしますように、途切れませんように。
その願いを胸に、私もグレンの島を後にした。
終わり。
最終更新:2009年10月26日 23:59