街角クラクション @ ウィキ

街角クラクション

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匿名ユーザー

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プップー

背中から車のクラクションが響く。
これで何度目だろう?こっちはちゃんと歩道を歩いているのに、しつこいったらない。

プッ

いい加減文句を言ってやろうと振り向いた。
逆光で顔は見えないけど、長身の男性が外車と思しき車によりかかってこちらを見ている。

「車に乗ってないのにクラクション鳴らしてたの!?なんなのこの人!」

怒りをこめた眼で、睨みつけてやろうと男の目の前まで行き、顔を見上げる。
笑いをこらえた表情で私を見下ろす男は、今までに何度も見た顔だった。
そう、スクリーンの中で。

「乗っていかない?送っていくよ。」

文句の一つも言うつもりで男の前まで行ったはずなのに、男の目に引き込まれて、
そのまま開けてくれたドアの内に大人しくおさまってしまった。

「シートベルトしてね。じゃ、出すよ。」

男が周囲の車に軽く手を上げると、スムーズに車の列に滑り込む濃紺のマセラッティ。
助手席からそっと運転席を盗み見る。やっぱりそうだ。

「もしかして…。」

「はじめまして、佐藤浩市です。」

途端に車内の空気が濃密になった気がした。息が苦しい。思うように言葉が出てこない。

「私…好きです。」

やっと出てきた言葉はあきれるほど陳腐な台詞で、頬が赤らむのがわかった。
そんな私を一瞥して、彼、佐藤浩市はこう言った。

「…だと思った(ニヤリ)」

それにしてもこの車はどこに向かっているんだろう?
そもそも私の家を佐藤浩市が知っているとは思えない。それどころか、家とはどんどん逆の方向に車は走っていく。
私は話せない。佐藤浩市も話さない。何度目かの信号待ちで、前を向いたまま意を決して口を開いた。

「あの、どこに行くんですか?」

言い終わる前に、佐藤浩市の手が私の手を握った。反射的に運転席に向き直る。
彼の眼は、まっすぐ私の眼を見ていた。
どこに行こうと、何があろうともう構わない。私は答えの代わりに、そっと彼の手を握り返した。

********************

決して広いとは言えない部屋に、セミダブルのベッドが一台。
閉じられたままのカーテンに、浩市も私も触れようとはしなかった。

「シャワー、先にどうぞ。」

あの時、これがどういう事なのかわかっていたはずなのに、部屋の入口で棒立ちになってしまった私を浩市が笑顔で促した。
頭は動かないけど体は動く。浩市の言葉に押し出されるように、小さなバスルームへ入った。
一人になると突然現実が戻ってきた。
なんで私ここにいるの?何しに来てるの?私をここに連れてきた、あの人は誰?
冷静になろうと、熱いシャワーを頭から浴びる。

と、背中でバスルームのドアが開いた。

「俺も一緒にいいかな?」

当たり前のようにシャワーの下まで来ると、いきなり背中から強く抱きしめられた。
思わず振り返ろうとした私の唇が、浩市の厚い唇で塞がれる。
息をすることも忘れるくらいの、長くて短い時間。
やっと解放された私の唇が言葉を発する前に、彼が言葉を発した。

「ちょっと、落ち着いた?(ニヤリ)」

私の濡れた髪の先を楽しそうにもて遊ぶ様に焦れて、どうでもいい台詞が口をつく。

「こういうこと、よく、あるんですか?」

「(ニヤリ)…おいで、洗ってあげるよ。」

答えのないまま、抱き寄せられてしまった。
ボディソープをまとった浩市の指が私の体をなぞる。
さっき初めて合わせた唇が私の肌をなでる。
敏感な部分を避けるようにして走る指先と唇に、体中の神経が集中する。
後ろから抱きしめられたまま、浩市の唇と指が何度私の体を往復しただろう。
立ってなんか、とっくの昔にいられなくなっていた。

「はい、おしまい!」

ちょっとおどけた声と一緒に浩市の手が離れる。
狭いシャワーブースにへたり込んだ私の頭の上から、浩市の笑い声と、熱いお湯が降ってきた。

**********************

セミダブルのベッドは、ふたりには小さい。
長身な浩市が寝ころぶだけで、ベッドがいっぱいになる。
小さな部屋は空調が効いているはずなのに、熱い。
彼の熱なのか、私の熱なのか、もうまるでわからない。
今わかるのは、この男が地球に優しくないという事だけ。
この男が生きている限り、地球の温暖化は止まらないだろう。

繰り返される、脳髄からとろけるようなキスと愛撫。
自分でもどこから出るのか分からないような声が勝手に漏れる。
さっきまでは、こらえていられたはずなのに。
どこをどう触られているかすら分からなくなってきた何度目かの愛撫の後、浩市はそっと私をある場所へと導いた。
「そうするのが当然」というような自然な流れで、私は小市に初めて触れた。

「あまり上手じゃないから…期待しないで。」

小市に指を這わせ、そっと口に含む。

「…ねえ、こっち見て。」

見上げると、口元に少し笑いを浮かべて、浩市が私を見ていた。
顔を伏せると、指先で顎を持ち上げられる。
小市に触れながら、何度も何度も浩市の視線に貫かれた。
私の髪を撫で、頬に触れながら、浩市の視線はずっと私を貫いていた。
これ以上このままなら、自分でもどうなるかわからない。

「私、もう本当にヤバいです…。」

「…大丈夫、俺もヤバいから。」

浩市の吐息が耳元で聞こえる。
そして小市がゆっくりと、私の中に入ってきた。

「どうしたの?」

「…っ…え?」

「なんでこんなになってんの?(ニヤリ)」

「だって…。」

「ほら、俺の方見ろよ。」

「ん…。」

「目、閉じるの禁止ね。最後までずっと、俺の顔見てて。」

*******************

向い合せに座って、目の前で彼の顔を見つめる。
なんだかおかしくなって、つい笑ってしまう。
浩市は、いたずらっぽい目で私の顔を覗き込んでくる。

「…あまり見ないでください。」

「なんで?」

私の唇に軽くキスをすると、浩市はさらに覗き込んでくる。

「恥ずかしいから…。私、そんなにきれいじゃないし。」

口に出してしまうと本当に恥ずかしくなって、思わず下を向いてしまう。
下を向けば、もっと恥ずかしい光景が目に入るのだけど、浩市に覗き込まれるよりははるかにましだ。
瞬間、強く抱きしめられて思わず顔を上げる。

「きれいだよ。」

「…。」

「貴女は、きれいだ。」

反射的に浩市の胸を手で押し返してしまう。
この男にこんなことを言われて、冷静でいられる女がいるだろうか?

「…っ…そんなに、暴れないでくれよ。」

「だって…」

「…俺だって、限界があるんだよ。」

胸に突いた手が、あっという間に絡め取られて後ろに回される。

「わがまま言う口はこうだな。」

唇がこじ開けられ、舌が乱暴に侵入してくる。
同時に、体が激しく揺さ振られる。
もういい、どうでもいい、なんでもいい、この短い時間で何度同じことを思ったか分からない。

ただでさえ熱い部屋に、熱気が渦巻いているような気がする。

「…っもう…おっきいこえでるから…。」

「…出せよ。ほら、聞かせろよ。」

「となりのへやにきこえるから…」

「聞いてるのは俺だけだから、いいよ(ニヤリ」

少しでも深く、浩市を感じたい。浩市と小市を煽るように腰が踊る。

「思った通り…いやらしい女(ひと)だな(ニヤリ」

**********************

深いため息とともに体が離れる。
汗だくで小さなベッドに転がる。
うつぶせになったまま、顔があげられない。上がった息を必死で整える。
「彼」はどうしただろう?うつぶせたまま、横目でちらりと彼を眺める。

目が合った。

少し微笑んで、彼は私に手を伸ばす。
鳥の巣みたいになった私の髪を、彼の指がそっとほぐしていく。
なんだか泣きたいような気分になって、無理やり口を開いた。

「こんなの…忘れられなくなっちゃう。」

「…そうさせる為に、頑張った(ニヤリ」

**********************

「じゃあ、またいつか。」

男は運転席から、私に手を挙げた。
「いつか」なんて永遠に来るはずがないことはわかっているけど、精一杯微笑んだ。

「はい、またいつか。」

濃紺のマセラッティが、夕暮れの街を駆け抜けていく。
テイルランプが見えなくなるまで、そこから動けなかった。

いつもの道を歩き、いつものドアを開ける。
見慣れた景色に、ちょっとだけほっとする。
いつもの癖で、テレビを点ける。
心ここに非ずでも、体に染みついた癖は抜けないんだとちょっとおかしくなる。
やっと空腹に気づいて、何か食べようかと冷蔵庫を漁る。

「あきらめなければ、必ず道はある。」

テレビから流れてきた声に体が反応した。
振り向くと、テレビの中に男がいた。

「男の真ん中で、いたいじゃないか。」

そういえば、「佐藤浩市」なのに車は「MARK X」じゃなかったなあ~と思いながら、
私は冷たいビール(淡麗)を一口飲んだ。
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