『幸せ愛犬生活』(3-48氏)

『幸せ愛犬生活』


小猫っていうより、小犬よね、ランカちゃんって―――


ソファの上で、雑誌の特集を斜め読みしていたシェリルは、ぼんやりとそんなことを思う。
シェリルの隣には「かまって、かまって」オーラを纏った、緑の髪の小犬、ランカがいる。

「シェリルさーん」

かわいらしい甘い声を出して、シェリルの右腕にやんわりとしがみつきながら、その顔を腕に擦りつけるランカ。

「ランカちゃん、ステイ。」

言われた通りにランカは、その動きを止めてシェリルを嬉しそうに見つめる。

「もー、シェリルさん、私、犬じゃないですよ。」

そんなことを言いながらも、従順にシェリルの言葉に従っているランカ。
おまけに、怒っているかと思えば、その顔は緩みきった笑顔で。
あるはずのないシッポが大きく左右に揺れるのがシェリルには見えるようだった。
(どう見たってかわいい小犬よね。)
その姿に微笑みながら、シェリルが頭を撫でてやると、
嬉しそうに微笑んで気持ちよさそうに目を閉じる。



「これのどこが犬じゃないのよ、ランカちゃん。」
少し意地悪くそう言って見せると、ランカは頬を膨らます。
「シェリルさんがそういう扱いをするから、こうなっちゃうんです。」
「あたしのせいだって言うの?ランカちゃんのくせに生意気ね。」

これは別にケンカでもなんでもなく。
ランカは頬を膨らませて見せているだけで、その顔には笑みが浮かんでいて。
シェリルはシェリルで、そんなかわいらしいランカを楽しんでいるだけで。
そう、これは『バカップル』と呼ばれるやりとりに過ぎない。

「だいたい、シェリルさんの手が気持ちよすぎるから、こうなっちゃうんです。」
頭を撫でていた手が頬を擽るように撫でると、
ランカは“にへら~”という言葉がピッタリな笑みを浮かべてそう言った。
「当たり前でしょう?あたしはシェリル、シェリル・ノームなんだから。」
なんの答えにもなっていないような理由を、胸を張って自信たっぷりに言うシェリル



そんなシェリルに瞳を輝かせ、見えないシッポをぶんぶんと左右に揺らしながら、
憧れの眼差しを向けるランカ。

「やっぱり素敵ですシェリルさん・・・かっこいい!!!」
「ふふん、当たり前でしょう?ランカちゃん。」

賞賛のご褒美と言わんばかりに、シェリルは艶やかな笑みを浮かべて、
ランカの唇にキスを1つプレゼントする。
それだけで、ランカは真っ赤になって一瞬その動きを止めたかと思ったら、
あるはずのないシッポが、千切れんばかりに左右に振れ出すのがシェリルには視えた。

「シェリルさ・・・」
「ランカちゃんストッ・・・」

飛びつこうとするランカの勢いに危険を察知したシェリルは、その行動を止めるべく手を前にかざす。
が、一瞬遅かった。

「シェリルさんっ!!!シェリルさーん♪♪♪」

ソファに押し倒されたシェリルの上で、まさに小犬よろしく甘えるランカ。
「ちょ、こら、ランカちゃん・・・も・・・くすぐったい・・・くすぐったいってば・・・」
素肌に触れる緑の髪や無意識に脇腹を撫でてくる手に、シェリルはくすぐったさに堪えきれず身をよじる。

「も・・・、こら、ランカちゃん・・・ステイ・・・ステイっ!!」

なんとかその手に手を重ねてそう言うと、ランカの動きが止まる。
それに安心し、呼吸を整えて見上げれば、
そこには捨て犬よろしく、今にも“きゅーん”と声を上げてしまいそうなランカがいた。
思わずシェリルはそのかわいさに息をのむ。



(ダメよ、ここで負けたら。躾が大事だってさっきの記事に書いてあったもの。)

 『時に厳しく接し、きちんと躾ることを心がけましょう。』

さっき読んでいた雑誌で特集されていた“幸せ愛犬生活”の一文がなぜかシェリルの脳裏によぎると、
瞳を閉じてその文章を実行すべく決意を固める。
「ランカちゃ・・・」
瞳を開き、凛々しい表情で注意しようとしたシェリルの鼻に、“ちゅ”と何かが触れる。
「え・・・」
何が起きたのわからずに目を見開くシェリルに、続けざまに同じような感触。
至近距離でランカの視線とぶつかると、ランカがこれ以上にないくらいの嬉しそうな微笑みを見せた。

「ちゃんと、動いてませんよ。」

そう、体はその位置にあった。
動いたのはシェリルの方。
注意しようと体を起こしたその時を見計らって、
ランカがシェリルの整った綺麗な鼻のてっぺんにキスをしたのだ。
しかも二度も。

“ちゅ”

いや、三度も。




「ちゃんと言うこと聞いてますよね?シェリルさん。」

かわいらしい笑みを浮かべて甘えた声でそう言うランカに、シェリルはその頬をピンクに染める。
そんなシェリルの鼻のてっぺんにまたキスをするかと思いきや、
今度はかわいらしく、舌先でその鼻を舐めて見せるランカ。
あまりのことに惚けるシェリルに、ランカは緑の髪を犬耳のように器用に動かすと、

「わんっ♪」

などと、少し恥ずかしそうにかわいらしく吠えてみせた。
そして、ランカは顔を赤くしながら、なんとも言えないほど、
嬉しそうに幸せそうにシェリルに微笑んでみせる。
その微笑みは、シェリルだけが見ることができる特権。

「・・・・・・」
「シェリルさーん♪♪」

シェリルの瞳には、あるはずのないシッポを千切れんばかりに振っているランカが視える。
つけくわえて、ちゃんと主人の言うこと聞いていることに、『褒めて褒めて』オーラと熱い眼差しも。

(どう見たって小犬だわ・・・)

そんなことを思いながら口もとに笑みを浮かべると、シェリルは起こした体をソファに戻した。
四つんばいの状態で、自分を見下ろすランカに手を伸ばして、頭をポンポンと軽く叩き撫でてやるシェリル。




「はいはい、ランカちゃんはいいコね。」
「えへへ~、もー、シェリルさん、私、犬じゃないですよ。」

どこまでも緩んだ頬に、気持ち良さそうに瞳を閉じて言い返されたところで、否定になどまったくならない。
そんなランカに笑みを零して、シェリルは愛情こめて名を呼んでやる。

「ランカちゃん」

優しさと温もりがつまった綺麗な声に聴き入って、ゆっくりと瞳を開くランカ。
その瞳には、ランカだけが知っているシェリルの優しい微笑み。
一瞬ドキッとして元に戻った頬を真っ赤に染めたかと思うと、すぐにその頬は緩みきる。

「シェリルさ~ん♪」
「よくできました。」

そう一言。
そして“ちゅ”とランカの額にシェリルの唇が触れる。
緑の髪が犬耳のように驚きと嬉しさにピコピコと上下に動く姿にくすっと笑って、シェリルはランカの耳元で囁いた。

「ランカちゃん、ゴー。」

楽しそうなシェリルの声。
待ちに待ったご主人様の合図に、喜びを爆発させる小犬よろしく、
ランカは瞳を輝かせ、満面の笑顔でシェリルに飛びついた。


 『愛犬はあなたのたいせつなパートナーです。
  愛情をもって接すれば、必ず愛犬はその愛情に応えてくれます。
  それを忘れずに、あなたのたいせつな愛犬(パートナー)とともに、
  楽しい“幸せ愛犬生活”を過ごしましょう!!!』





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最終更新:2010年05月14日 19:47
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