906 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/04/10(火) 01:51:43.87 ID:G9YAWyk80
まどポのまどっち編続きっぽいのがやっと出来たので投下させていただきます。
細かいトコ直してるとキリが無いのでとりあえずこんなもので。
何というか期待せずに読んでください。しないでください。途中でヤンデレ(?)注意…。
本編だけで51Kとかもうね…。とてもスレに張れない程長いデス。時間に余裕のある時にどぞ。
あと分岐は一応注意事項読んでから飛んでやってください。でわん。
まどポのまどっち編続きっぽいお話。
あくまでぽいものなので細かい設定食い違ってます。真に受けないでください。
あとヤンデレ(?)注意…。
美樹さやかを捜索する途中、新たな魔法少女の姿を見付けた佐倉杏子は驚く。
鹿目まどか。恐らく彼女の契約はさやかを救う為…そして話を聞けば正にその通りだった。
「アンタ…自分がどうなるか理解った上で契約したんだよな…?」
「うん。わたし…さやかちゃんを助けたいから!さやかちゃんは大切な友達だから!」
「……理解ったよ。アタシも手を貸してやる。
もしアイツが人間に戻ってるなら、無茶仕出かなさいうちに探し出さないとね。」
「ありがとう! わたし、鹿目まどか。」
「…ったく調子狂うよ。佐倉杏子だ、宜しくな!」
以前に親友を殺害しようとした相手にさえも、協力関係となれば笑顔で手を差し出す。
そんなまどかのお気楽さに呆れながらも杏子は手を取った。
しかし二人は気付いていない。まどかの契約そのものがインキュベーターの罠である事を。
確かにキュウべぇは"自分の目で確かめてごらん"とまどかに事実を伝えようとした。
さやかが普通の人間に戻った事を、彼女の"死"をもってして…。
[春めく貴女へ]
時刻は数分前に遡る。
志筑仁美と上条恭介は只ならぬ様子でさやかを探すまどかに遭遇していた。
その直後、さやかを偶然にも視界に収めた恭介は気に掛けずにはいられなかった。
「志筑さん、さっきあの路地裏に入っていったの…さやかじゃないかな…?」
「ええっ!?」
「鹿目さん、何だか必死に探してたみたいだし…さやか、最近学校にも来てないよね…。」
恭介は松葉杖生活ながら学校に復帰したものの、直後からさやかは姿を見せなくなった。
また仁美も恭介との一件でさやかの事は心配していた。
もしかしたら自分がさやかを追い詰めたのではないか?そんな嫌な考えが頭を過ぎり初めた頃だ。
「そうですわね…。急いでさやかさんの後を追いましょう。」
「うん…―――っ…!!」
仁美は足を速めようとして、肩を貸していた恭介の状況を思い出した。
彼はリハビリを終えて日は浅く、全力疾走など到底間々ならないのだ。
「僕は大丈夫だから…さやかを探してあげてくれないかな。志筑さんはさやかの友達なんだろう?」
「…はい!」
想いを伝えようとした恭介に背中を押され、今は友人の足跡を辿る事を選んだ。
その道程が仁美の運命を大きく変える事になるとも知らずに…。
………………………………………………♭♭♭………………………………………………
さやかは死に場所を探すように魔女結界へを足を踏み入れていた。
自暴自棄となった己自信から逃れる為なのか、はたまた巴マミの様に誰にも見付からない場所で亡骸となる為か。
しかし結界に入った直後、思いも寄らない聞き覚えのある声に思わず振り返っていた。
「さやかさん!!」
「―――えっ…仁美!!??」
さやかを追い掛けた仁美は結果として魔女結界に巻き込まれてしまったのだ。
まさか一般人が自分を探してここへ現れるなど考えもしなかった。
しかも被害者の仁美は恋敵ではあるが友人でもあり、また既に目前には数匹の使い魔。
「やっぱり…やっぱりさやかさんですのね!
まどかさんがお探しでしたので、わたくしも後を追わせていただいたのです。
最近学校をお休みがちでしたし、それにそのお姿は…?」
「馬鹿っ! 何で…何だってこんな危ない場所に付いて来たのよ!?」
「…お友達を心配するのはおかしい事でしょうか…?」
剣を構えたままのさやかを見て、彼女が緊迫した状況である事は仁美も察している。
それでも久しく再会が叶った友人に憂虞の意を訴えずにいられなかった。
「(あたしはどうなってもいい…。でも仁美まで巻き添えにする訳には…)
話は後だよ…。あたしの後ろから離れないでね。」
出口は既に移動してしまったらしく付近には見当たらない。
そうこうしている間に使い魔が集まり始め、このままでは完全に取り囲まれてしまうだろう。
とにかくさやかは仁美をここから無事に外へ連れ出す為、周囲の使い魔に斬り掛かった。
「(さやかさん…わたくし達に隠れてこんな危険な事を…!)」
マントを羽織った黒い悪魔とも剣士とも取れる使い魔を次々と薙ぎ払うさやか。
ゲームの世界で繰り広げられる様な、実際に目の当たりにしなければ理解不能な現実離れした世界だ。
仁美はさやかの置かれている状況が何となくではあるが把握出来つつあった。
恭介に告白する事なく姿を消した理由、きっと誰にも話せなかったのであろう彼女の苦悩が…。
しかし、使い魔を倒しやっと場を切り開けた所で突如変身が解除されてしまった。
「―――なっ…何で変身が…!? 嘘でしょ!? なんで結界のど真ん中で…」
制服姿に戻った状態でポケットに目当ての物を探すも一向に見当たらない。
「なんで…いきなりソウルジェムが消えたりするの!!??」
「さやかさん…!?」
「ちょっとキュウべぇ!これは一体どういう事なのよ!!」
完全に丸腰になってしまったさやか。彼女は魔法少女としての力を失っていたのだ。
白い獣は名を呼べば当然の様に現れて、さやかに淡々とその理由を述べる。
「たった今、鹿目まどかが魔法少女になる契約をしたんだ。
苦しむ親友を助ける為に、"美樹さやかを人間に戻して欲しい"ってね。」
「それって…まどかさんも関係してらっしゃるのですね!?」
「そんな…! でもあたし、人間に戻ったんならもう一回魔法少女になるよ!
「…残念だけど、一度契約を完了したさやかにその資格は無いよ。」
「な、何よそれ!? じゃぁあんた…このままあたしらに黙って死ねっての!?」
「仕方が無いさ、まどかが君の為に願った事だからね。魔法少女でなくなった君に僕が出来る事は無いよ。」
「…っ!!」
さやかの怒りはまどかやキュウべぇに対してではなく、自分の無力さに対するものだった。
仁美の手を取りとにかく退路を探すが、生身の人間のままで使い魔達から逃げきれるのだろうか…?
「キュウべぇさん! わたくしにはその…魔法少女というものの資格はありませんの!?
少なくとも今わたくしには、貴女の姿も言葉も認識出来ますわよ!」
「志筑仁美…君には僕の姿が見えるんだね。いいだろう、君にもその資格がありそうだ。」
キュウべぇ…インキュベーターにとって新たな適格者の出現は予定外だった。
元々彼(?)はこの結界内で美樹さやかを死亡させる事で、鹿目まどかを絶望させる算段だったのだ。
しかし鹿目まどかとの契約に成功した今、何も彼女ばかりに目を向ける必要は無い。
新たに魔女を生み出す可能性のある存在…魔法少女との契約は一人でも多いに越したことは無いのだ。
「待って仁美! そんな事したら…今度はあんたが戦い続けなきゃいけなくなるんだよ!
身体は抜け殻にされて、魂は石ころに変えられちゃうんだ!」
「でもこのままでは…二人共あの黒い魔物に殺されてしまうのでしょう!?
今までさやかさんがそれを背負っていたのなら、わたくしにだって背負う権利はありますわ!
わたくし達、お友達でしょう…?」
「…っ!……仁美…。」
さやかにはこれ以上仁美を止める事は出来なかった。
仁美の眼に宿る覚悟は寸分の迷いも無かったし、また使い魔も傍まで迫って来ている。
「志筑仁美。戦いの定めを受け入れ、君はどんな祈りでソウルジェムを輝かせるのかい?」
「わたくしは…"大切なお友達を守りたい"!」
「…仁美…本気なんだね…。」
「自分の世界を変えてくれた大切な友人達と、これ以上距離を開けるのは嫌ですから。」
さやかにニコッと軽く笑みを向け、仁美は再びキュウべぇに覚悟の眼差しを向け直す。
友人二人が足を踏み入れた世界なら自分も力になりたい、たったそれだけの想いで。
仁美は志筑家という名家の出身で、家柄にも恥じない品行方正なお嬢様である。
決して悪い噂が流れたりはしなかったのだが、周囲に距離を置かれがちな立場は否めなかった。
家柄の所為にしてクラスに馴染めなかった彼女を変えたのは、中学一年の時に出会ったさやかとまどかだった。
特にさやかは仁美を彼女の知らない世界へと積極的に誘った。
初めてファーストフード店でした注文、初めてマイクで自分の声を聴いたカラオケ、大音量に驚いたゲームセンター…
驚きの連続だったけれど、"自分"という時間を生きるとても楽しい日常の始まりだった。
「契約は成立だ。君の祈りはエントロピーを凌駕した。さあ…解き放ってごらん、その新しい力を!」
「―――!!」
キュウべぇの両耳が仁美の心臓を包み、目映い輝きが放たれる。
さやかは嘗て自分が辿った道に心を痛め、当事者でもないのに思わず顔を歪めていた。
「…っ! …くぅっ…ぁぁっ……っ…!!」
魂を抜き取られるにはそれ相応の苦痛が伴い、仁美は強く瞼を閉じる。
それでも今傍にいる友人が同じものを受け入れて来たと考えれば容易く耐えられた。
生み出されたのは彼女に相応しい緑色の美しいソウルジェム。
「志筑仁美、これで今日から君は魔法少女だ。そのソウルジェムが君の魔力の源だよ。」
「―――………っ! これが…わたくしの…!」
恐る恐る目を開き自分の結晶を視界に納めた仁美は即座に変身する。
仁美の持つ武器は絢爛な装飾が施された大振りの斧槍(ハルバード)。
どちらかと言うと斧寄りな曲線を帯びた形状で、突くよりは斬る事に適している様だ。
仁美は魔力で構築したそれを振り翳し、取り囲む使い魔達を一閃した。
「さぁ!行きますわよ!!」
元々武術の心得のある仁美だが、それとはまた別に本能的に得物の知識を得ている。
巨大な刃にも関わらず、ポールウェポンの遠心力を利用し優雅かつ機敏に斬撃を描く。
また相手を両断するだけでなく、時には刃の大きさを利用して使い魔の剣を受け流す。
「凄いじゃん仁美! その調子で魔力を温存しながら戦って!
今はグリーフシードも無いし…魔女本体がどんな奴かも判らないからね。」
「了解ですわ!」
細かい説明は後にする事にして、ここはまず経験者であるさやかの助言に耳を傾けた。
得物のリーチと攻撃力のお陰で仁美は目立ったダメージも無く結界を進んでゆく。
「……あたし…こんな時に…何も出来ないなんて…。」
今になってさやかは改めて自分の愚かさを自覚していた。
もし暁美ほむらから渡されたグリーフシードの一つでも受け取っていれば、仁美の役に立ったのだろうにと。
「さやか、君は自分以外に対しては献身的なんだね。」
「当たり前でしょ。友達が自分の為に命賭けてくれてんだから。」
「さやかさん。わたくしは傍にこうして仲間がいてくれるだけでも心強いですわ。」
「…仁美……。」
仁美は仲間としての存在を自覚して貰う事でさやかを激励した。
正直、魔法少女になったばかりの仁美はこの状況が不安で仕方無かった。
今まで争い事とは無縁な生活を送っていた女の子には無理も無い話だが。
怯える素振りなど全く見せないのはお嬢様ならではの器量と言った所か。
「二人共、今はとにかく先に進むしか無いよ。魔女を倒せば結界も消滅して外に戻れるからね。」
キュウべぇの言う通り、仁美の戦闘能力を頼りに進むしか無い。
魔法少女になった以上、行き着く先が魔女ならば戦いからは逃れられないのだから。
階層を移動し扉を抜けると、広いエリアの奥には金色の巨体が佇んでいた。
宝石が填め込まれた人型に近い形状の魔女だ。
上体部分からは円柱に近い形状で構成された両腕が左右に二対伸びている。
頭は高過ぎて地面からでははっきりとは確認出来ない。
―金星の魔女―
その性質は虚栄。黄金の身体を煌かせ、騎士の僕(しもべ)を従えて女帝を気取る。
魔女が多重に纏った強固な虚飾は、それ以上の誇りと自尊心を持って屈服させよ。
「げぇっ!でかっ…!」
「あれが魔女ですのね?」
「そうだよ。魔法少女が挑むべき最大の敵さ。今ここからさやかを救い出せるのは君しかいないよ。」
神々しく輝く巨体にも臆する事無く仁美は得物一つで真正面から立ち向かう。
巨大な腕が一振りされ、まず一撃を身を翻して避わす…が、直後に別の腕が迫っていた。
腕の先端には三本の爪、それを斧槍で受け止めた仁美だが余りの勢いに吹き飛ばされてしまう。
「―――きゃあぁぁっ!!」
「仁美ッ!!」
仁美はそのままの勢いで結界の壁に叩き付けられていた。
改めてさやかがどういう覚悟でいたのか身を持って体感する。
「仁美!しっかりして!」
「………うぅっ…さやかさんは……このくらい…!」
それでも仁美は自らを奮い立たせ、身を起こして得物を構える。
魔女の腕は四つ。一撃二撃は辛うじて凌げるものの、近接武器の仁美は近付く事すらままならない。
鉄槌を回避するだけで精一杯で、四本のそれに翻弄されながら仁美は一方的に被害を被り続ける。
「……うぐっ…! まだ…ですっ…―――あぁぁぁぁっ!!」
「…っ!! …ぁ…ぁぁ……ひ…とみ……」
仁美は金の爪に身を刻まれ、清楚で整った顔からは血が滴り落ちる。
その様子を目の当たりにしたさやかは思わず手で顔を覆っていた。
尚も仁美は屈すせず得物を支えにして懸命に立ち上がろうとしている。
「彼女は仲間を守る事を願ったからね。防御力は並の魔法少女の比じゃないよ。」
「だからって…これじゃ嬲り殺しじゃんか! キュウべぇ!早く何とかしてよ!」
「僕に出来るのは魔法少女を導く事だけだよ。
残念だが今の仁美には、この魔女を相手にするのは荷が重過ぎたのかもしれない。
契約して一週間も経験を積めば、彼女も自分なりの戦い方も編み出していただろうけど。」
「…っ…!!」
キュウべぇは魔女の使命ばかりを伝え、故意に無謀な戦いを仕向けたのだ。
志筑仁美はそう簡単に死なないものの、自分の身で手一杯になればさやかが使い魔に襲われるだろう。
さやかと共に仁美も死亡するか、あわよくば絶望して魔女化してくれるかもしれない。
「(どの道まどか達がここへ来るにはもう少し時間がかかるからね。
本来魔法少女というものは7割が初戦で死ぬものだ。何も彼女が珍しい訳じゃない。)」
魔法少女として天性の才能を持つ鹿目まどかが魔女すれば膨大なエネルギーを得る。
それがキュウべぇことインキュベーターの最大の目論見だ。
傷付いた仁美を見ていられず、さやかは自分に戦う力が無いにも関わらず駆け寄っていた。
「さやかさん…! こちらへ来ては危険です!」
「でも仁美が…このままじゃ…死んじゃうよ…。
そうだ! あたしを置いて行けば仁美だけは逃げられるかもしれない…。」
仁美は傷付いた身体で無言で首を横に振る。
「やっとこうして…さやかさんと気持ちが共有出来たのですから…。どうか最後まで守らせてください。」
「でも、何の力も無いあたしより仁美が生き残った方が…」
さやかが訴えている間に魔女の巨体が二人の方へ向いていた。
このまま鉄槌を受ければ唯では済まない!
「仁美っ!危ない…!」
「さやかさん…―――!!」
自分を犠牲にしてでも仁美を生かそうと彼女を押し退けるさやか。
仁美は只管に強く願った。友人を救いたい、大切な思い出をくれた人守りたいと。
その瞬間…魔法少女志筑仁美の中で何かが覚醒した。
ソウルジェムが彼女の意思に呼応し、己に秘められた力を開放する時だ。
(シュパァン!!)(―――グワン…!!)
仁美の斧槍がさやかの目の前の虚空へと斬撃を放っていた。
何も無い場所への一見無意味なそれを、さやかは疑問に思う暇も無かった。
刹那…さやかは仁美の片腕に胴を掴まれ、強く前方へと引っ張られる衝撃を感じていた。
「―――わぁぁっ…!? なっ…何が起こったの…?」
気付いた時さやかは何故か魔女の上空らしき場所へいた。
魔法少女志筑仁美の脇へ抱えられ、宙へ浮いているのだ。
「…………??? ひ、仁美…あんた…飛んでる!?」
しかも仁美は唯単に宙に浮いている訳ではない。自分の髪と似た毛色の馬に跨りながら宙へ浮いているのだ。
それも普通の馬ではなく八本足の馬である。色合いからして仁美が魔法で召喚したものである事は確かだ。
ただ安全だからと言って、いつまでも魔女の上空へ逃げているだけでは埒が明かない。
眼の無い頭でグルグルと見渡す黄金の魔女もそのうち相手の場所には気付いてしまうだろう。
「さやかさん、しっかり掴まっていてください!」
「へ…?」
仁美は脇へ抱えたさやかを自分の後方に座らせると左手に斧槍を携え、右手で掴んだ手綱を鳴らし馬を疾らせる。
まだ魔女はこちらに気付いていない。魔女の後方へ回り込み、奴目掛けて仁美は急降下する!
「やあああっ!!」
(ドゴォッ!!)(―――オオオオオオ…!!)
降下のスピードに斧槍の重量を乗せて魔女の頭部に渾身の一撃を叩き込んだ。
魔女のものと思わしき悲鳴と共に黄金の鍍金(メッキ)が一部剥がれ落ちる。
必死にしがみ付いていたさやかは何とか振り落とされずに済んだ。
「うわっ…仁美…凄っ…! ってヤバい!こっち振り向いたよ!!」
「っ!!」
仁美は窮地に陥った先程と同じく、前方の虚空に向かって斧槍を斬り付けた。
刃の後には黒い太刀筋が不自然に残ったままだ。馬を走らせればその太刀筋へ向かって駆け抜ける。
すると…さやかの視界は再び魔女の後方へ向いていたのだ。
「これって…もしかして空間に穴開けて移動してるの!?」
バックを取った仁美は振り向かれる前に、魔女の背中に馬を走らせ真横に攻撃をお見舞いする。
振り向かれれば鉄槌を見舞われる前に空間を斬り裂いて退避。
一撃離脱で渾身の一撃を幾度と無くぶち込めば、その度に魔女の鍍金が落ち鈍色の身体が露になってゆく。
「正直自分でも何となくしか理解りませんが…。
お友達をお守りしたいという気持ちにきっと、ソウルジェムが応えてくれたのですわ。」
緑と白を基調とした衣装を身に纏う仁美の姿は、まるで神話に出て来るヴァルキリーの様だ。
八本足の馬は同じ神話の神、オーディンの馬スレイプニル。
また、さやかは仁美の得物がやたら大振りな理由もここに来て気付いた。
竿状の長い柄を持つ武器は馬上で振り回す、騎兵の為の物だったのだ。
「(志筑仁美…まさか君がいきなりここまで固有魔法を覚醒させるとは思わなかったよ。)」
彼女がここまで善戦するとはインキュベーターも予想の範囲外だった。
勿論魔法少女が生き延び魂を昇華させる事は、結果的に感情エネルギーを多く得る事にも繋がるのだが。
仁美の空間を斬り裂く魔法で生み出した裂け目はごく短い時間で元に戻ってしまう。
しかし一瞬空間移動が可能なだけで騎兵の機動力は攻防共に存分に生かされている。
恐らく彼女が経験を積み、魔法を鍛えてゆけば全く別の場所に移動する事も可能であろう。
(グオオオオオオ…!)
一方的にやられた序盤とは打って変わって仁美の猛攻が続く。
徐々に馬の扱いにも慣れて来たのか、方向転換も素早く動きの無駄が少なくなって来た。
魔女が誇った黄金と宝石の身体はみすぼらしく剥がれ落ちてしまっている。
魔女撃破まであと一息という時、トドメの一撃を放つ前に瞳の馬は突如として消滅してしまった。
「―――…えっ…!?」
仁美の変身が解除された訳ではない。馬を維持して飛行する魔力が足りなくなったのだ。
支えを失った二人は重力に引かれながら、バランスを崩し結界の床へと落下してゆく。
「嘘っ…落ちる…!?……きゃぁぁぁぁっ…!!」
「いけませんわ…さやかさん―――」
しかも運悪く魔女の視界の範囲で二人は無防備な状態。
これ幸いと魔女の腕が落下する二人へ容赦無く襲い掛かった。
(ズガッ!!)
「ああぁぁぁっ…!!」
「わぁっ!?」
垂直に地面まで到達する事無く、斜めに床に叩き付けられてしまった二人。
しかし仁美は身体全体で生身のさやかを抱きしめるような形で彼女を庇っていた。
「………いってぇー…。仁美!大丈夫!?」
「…良かった…さや…さ……ごほっ…!」
だが仁美は言い切れずに虚ろな眼で吐血を繰り返す。
落下する時にさやかを庇い、魔女の爪を直接受けていたのだ。
緑色だった魔法少女の服は真っ赤に染まり、生身の人間であれば確実に致命傷であろう。
一方仁美が身を挺して守った為に、さやかは腕か足の打撲程度で済んでいた。
「(やはり志筑仁美がここで潰えるのは運命かな。もう少し魔力を高める時間があれば違ったけどね。
魔法少女としての素質は惜しいけど仕方が無い。さて、そろそろ僕は…)」
この場を見捨てて立ち去ろうとしたキュウべぇは立ち止まった。
結界の別の場所から魔法少女の気配がしたからだ。
―さやかちゃん!!―
「…まどか…! まどかなの…!?」
ピンクと白のゴスロリな衣装で、息を切らしながら大親友の鹿目まどかが現れた。
仁美とはまた違った非日常的な姿に、さやかは彼女が魔法少女なのだとすぐに理解った。
「さやかちゃん! …それに仁美ちゃんも!?」
「…おいおい…こりゃ一体…どういう事だよ…。」
続いて救援に現れた杏子もこの場の現状に驚きを隠せない。
さやかが人間に戻った事は把握していたが、まさか彼女の恋敵がこの場に居ようとは。
しかもそのお嬢様が契約し、かつ傷だらけの状態だなどと誰が予想出来ただろうか。
「仁美ちゃん!しっかりして!」
「………痛い…です…。でも…わたくしより…さやかさんを…。」
魔法少女である自分は大丈夫だから、とあくまでさやかの身を案じる仁美。
重症なのは明らかに彼女の方なのだが…。
「まどか!杏子!魔女がこっちに来るよ! 早くその二人を安全な場所に運ぶんだ!」
「チッ…! まどか!さやかと嬢ちゃんは任せるよ! 本体はアタシが引き受けた!!」
「理解ったよ杏子ちゃん!」
目論見の失敗したキュウべぇはあくまで魔法少女の味方に徹する事にした。
尤も既に、まどかにも杏子にも秘密を幾つか知られている為に信用はされていないだろうが。
「ごめんねさやかちゃん…わたしの所為で危ない目に遭わせちゃって…。」
「まどかの馬鹿…。あたしなんかの為に…あんたまでこんな事に…。」
「えへへ…さやかちゃんの為ならいいんだよ。」
元はと言えばこのまどかの契約が引き金で危険な目に合ってしまったのだが、
それでも大親友が必死に駆け付けてくれた事と自分を想ってくれた事がとても嬉しかった。
「…まどかさん…わたくしも…」
「仁美ちゃん!無理しちゃ駄目だよ…!」
際限無く沸いて来る使い魔を退ける為に武器を構えようとする仁美をまどかは制した。
大切な二人の親友を守る為、まどかは薔薇を模した弓矢を引き魔物達目掛けて解き放つ。
先程までの闘いで魔女は仁美の攻撃により深刻なダメージを負っていた為、
対峙した杏子により呆気無く撃破されていた。
………………………………………………♭♭♭………………………………………………
四人が結界から脱出すると、そこには仁美を追っていた上条恭介の姿があった。
「志筑さん!? それにさやか、鹿目さんまで…。」
「恭介さん…! あ、あのこれはその…」
三人は(杏子は名を知られていないが)モロに魔法少女の姿を見られてしまった。
赤面してオロオロする仁美だが、恭介が驚いているのは彼女の服装ではない。
「志筑さん!どうしてそんな大怪我をしてるんだい!? 早く救急車を呼ばないと…」
「げっ…! 仁美!早く魔法で怪我治さなきゃ! 回復…あっ、えーっとあたしもう出来ないんだった…。」
「ってかお前ソウルジェム滅茶苦茶濁ってるじゃねぇか! ほら!クリーフシード使えよ!」
「は、はい…!」
魔力が枯渇していた仁美の状態に気付き、杏子は慌ててグリーフシードを差し出す。
先程の魔女を倒し掛けていたのが仁美だと理解っていたし、今となっては魔法少女同士で敵対するつもりも無かった。
限界に近かったソウルジェムは無事輝きを取り戻し、本人とまどかの魔法により傷は無事治療された。
「―――…ヒッ…!!」
「…恭介さん…?」
その様子を目の当たりにした恭介は、途端に青褪めた様子で後ずさる。
体中切り傷と出血でズタズタだった人間がみるみる元に戻る光景など、一般人から見れば奇異な姿でしかない。
「…ば……化け物…!」
「…えっ…か、上条さん…?」
血相を変えた恭介を落ち着かせようと、仁美は微笑みながら手を差し伸べる。
敵意が無い事をアピールしているのに、それすらも恭介には恐怖しか感じなかった。
「…来るなっ…!…き…君は…志筑さんなんかじゃない…! …来るな化け物…!」
「…化け…物…」
化け物という言葉が自分に向けられたものと理解った仁美は表情を失う。
だが…傍にいた友人は彼の言葉をそのまま認めさせはしない。
「―――やめろっ!!」
怒声を上げたのは普通の人間に戻ったさやかだった。
その場の全員がビクッ!と彼女に目を向ける。
「仁美はね!友達のあたしを助ける為にボロボロになったんだ!
自分がこれからずっと戦い続けなきゃいけない事だって覚悟してこうなったんだよ!」
「さやか…!?」
さやかは恭介の両肩を掴んで必死に説得しようとしていた。
言葉の意味は伝わらなくてもいい。ただ意思だけを伝えたかったのだ。
「さやかさん…。」
「だから二度と…仁美を化け物とか言うな! お願いだよ…。」
「……あっ……ごめん……。酷い事…言ったね…。」
さやかの一括で恭介は何とか落ち着きを取り戻したらしい。
まどか達は必要な範囲で彼に一部始終を話す事にした。
医療技術で治らない筈の恭介の腕が、何の前触れも無く治った事。
ここ数日さやかが姿を消していた事。
彼女達が何を目的にこうして見えない場所で戦っていたのかを。
「…しっかし…とんだお人好しが増えたもんだ…。」
「ごめんねさやかちゃん…。わたしの所為で仁美ちゃんまで酷い目に…。」
「まどかは悪くない。元はと言えばあたしが…
「まどかさん、さやかさん。本当に困った時に助け合うのが友人ではありませんか?」
仁美の優しい笑顔がまどかとさやかに向けられる。
心と身体がどれだけ傷付いても、友人という仲間がいたからこそここまで生き延びて来られたのだ。
「仁美…ありがとね…。そう言えば、恭介とは上手くやってる…?」
「…いいえ。まだこれから気持ちを伝えるつもりですわ。」
さやかには一日待った後に告白すると宣言した仁美。
だが結局さやかの身を案じる方が優先して未だ話は進んでいなかった。
「今わたくしは、やっとさやかさんと同じ立場になる事が出来ましたのよ。
この機会に二人同時なら、本当の意味で平等だとは思いませんか?」
「えっ…!? あ、うん…そだね。」
「(さやかちゃん、頑張って…!)」
仁美は今まで何も知らずにさやかを追い詰めていた自分を恥じていた。
同じ魔法少女という宿命を経験したからこそ、何の蟠りも無く勝負する事が出来そうだ。
「「恭介(くん)、貴女の事が好きです。付き合って下さい。」」
「…僕は…―――
数秒の空白の後…
「ごめん。僕は…どちらとも付き合えない。」
「―――…!!」
彼から紡ぎ出された言葉はどちらも予想だにしないものだった。
唖然とする四人。三人の関係を知っていた杏子は思わずブチ切れていた。
「手前ェッ!よくもコイツらの気持ちを無駄にしやがって!!」
「うわっ!?」
自分を犠牲にして魔法少女の契約をした二人を考えれば余りにも耐え難い仕打ちだった。
杏子は感情に任せて右手の拳で恭介を殴り掛かる。
「―――駄目っ…!」
(バキッ!)
しかし直前に割り込んだ青い髪…恭介を庇ってさやかが殴られていた。
一般人相手に手加減していなかった為に、さやかは足が浮き転倒する程だった。
「さやかちゃん!!」
「げっ…! わ、わりぃ!ついカッとなっちまった!」
吹き飛ぶさやかを見て杏子は一瞬で正気に戻った。
思いっきり殴ってしまった事を深く反省しながら。
「さやか!大丈夫かい?!」
「うぐ…いってぇ…。振られても…恭介はあたしの大事な幼馴染だから…。」
「…ホント…済まねぇ…。」
「ごめんさやか…。僕の為にここまでしてくれてたのに…。」
「あはは、今は…普通の人間に戻っちゃったけどね。
ちゃんと気持ちは伝えられたから後悔は無いよ、今度こそ。」
「…さやかちゃん…。」
「まどか、あんたまでそんな泣きそうな顔してどうすんのよ。」
さやかはやはり少し零れた涙を拭っていた。
治癒魔法をさやかに施すまどかの方が目に涙を溜めてもっと大変そうだが。
「…そーれーよーりー…!」
「さ、さやか…?」
さっきとは別の意味で恭介に迫るさやか。
ある種凄みのある顔に恭介は思わずたじろいでいた。
「仁美まで振るとはどういう事だぁ~!」
「ごめん………僕…好きな子がいるんだ…。」
「「………。」」
…結局最初からこの二人は恋愛対象として眼中に無かったらしい。
何でも音楽関係で知り合った外国のチェリストの女の子が好きなんだとか。
ヴァイオリンを続けられたのだから決して不思議な話ではないか。
………………………………………………♭♭♭………………………………………………
「わたくし達二人共…振られてしまいましたわね…。」
「たはは…なんかもうスッキリを通り越して寒いわ。
まさかおめでとうって言う相手もいないとは思ってなかったからさー。」
「さやかちゃん…。」
恭介を送り届けた四人は人気の無さそうな場所で改めて話し込んでいる。
まどかは遠い目で話すさやかが居た堪れず彼女を抱に付いていた。
「あー…この空気でアレだけど…今後の事なんだが…。
とりあえずお前ら二人の面倒はアタシが見てやるって事でいいよな?」
「あんた…またグリーフシードの為に街の人を見殺しにしろってんじゃないでしょうね!」
「わーったよ、必要最低限だ。けどな…お友達が魔法使えなくて死ぬトコ見たくなんてないだろ?」
「うっ…。」
杏子としても二度と魔法少女同士で争う馬鹿な真似は避けたい所。
恭介を庇った時も含め、さやかの頑固さと一途さは身を持って知っていた。
相手が人間に戻ったのも理由だが暴力による無理強いはもうやらない。
「はぁ…ったく揃いも揃って人畜無害そうなのが面(ツラ)並べやがって…。」
猪突猛進なさやかと違い、まどかと仁美は如何にも戦いに向いてなさそうな大人しい雰囲気。
超新人のまま二人を放置するとさやか以上に危っかしそうで、杏子はとても放っておけなかった。
「勿論出来るだけ人助けには協力してやるよ。 た・だ・し!
お前ら魔法少女の生きる術が最優先な。それだけは絶対だ!理解ったか?」
「「はい!!」」
「さやかも返事は?」
「う…はい…。」
新人魔法少女の二人は先輩の方針に揃って一つ返事で返答した。
杏子から同じ魔法少女を気遣う人の良さを感じたからであるが。
一方のさやかも不満そうな顔ではあるが渋々承諾していた。
「あー、なんかゴタゴタしたら腹減ってきたよ。…チッ。」
懐からお菓子の類を取り出そうとした杏子だが生憎品切れだったらしい。
舌打ちする杏子を見てまず声を掛けたのはまどかだった。
「杏子ちゃん。せっかくお友達になれたんだから、これからみんなでパーティーしようよ。」
「はぁ…???」
「おーし!そんじゃ二人の魔法少女誕生祝い&あたしらの失恋祝いと行きますか!」
「まぁ素敵ですわ♪ 早速家のものに準備をさせますわね。」
「コラお前らぁ!失恋はお祝いじゃないだろ!」
魔法少女と元魔法少女、関係者の四人は早速親睦を深める為に食事会を行う事になった。
三人の友情に引っ張り回されそうな杏子も何だかんだで嫌ではないらしい。
半ばヤケクソ気味なさやかは仁美との友情も無事取り戻せた。いや、そもそも失ってなどいなかったか。
またまどかは今までの様に仲良くいられるという喜びで、さやかにじゃれ付く姿が印象的だった。
最終更新:2012年04月13日 23:28