終焉へ繋がる邂逅
ついに碧雷の帝王と殲滅の魔王を討伐し、戦争を終わらせたアークノアとアカシア。多くの犠牲を払って手に入れたこの勝利は決して手放しに喜べるものではなかった。しかし彼らの最後まで貫いた信念がついに報われた瞬間であった。
「アークノアさん...これから僕はブリトア王国に帰ります。みんな待っているでしょうし。....それにカリバーン様のことも伝えなくてはなりません」
「.....そうか、辛くないのか?」
「....辛いですよ。でも、僕は託されたんです。ブリトア王国を頼むって....。だからやるべきことをやらなくてはなりません」
そう語るアカシアの表情は暗かったが、悲しみに暮れてなどいなかった。彼もまたこの冒険を通して成長したのである。
やるべきこと.....
アークノアはその言葉を聞いて、自身の本当の目的を思い出した。
それは自分の失われた5つの魂を取り戻すことである。しかし気がつけば全ての魂が自身の手元にあった。セイヴァー、カリバーン、イヴァン、アナザー...そしてジーク。
世界を救うために動いていたことがいつの間にか自分の目標にもつながっていた。
しかし....アークノアはここで気がついた。
自分の中にあるジークの魂以外の4つの魂が近くにないことを。
瞬間、激しい闇のオーラを彼は感じ取った。その方向を見ると、そこにはかつてブリトア王国で戦ったもう1体のアークノア、 《暗黒の機構龍 ダークノア》がいたのだ。
奪い合う5つの魂
そこに現れたダークノアを前に、アークノアとアカシアに一気に緊張感が走った。するとダークノアは、彼らにあるものを見せた。それは分裂したカリバーン、セイヴァー、イヴァン、アナザーの魂であった。
「まさか、お前が!」
「後は....貴様の持つ.....そいつだけだ....」
アカシアもそれに応戦を試みた。しかし度重なる連戦を果てに彼の身体はボロボロになってしまっており、脚がふらついてしまっていた。このままでは逆にアークノアの足を引っ張ってしまう可能性があり、とてもじゃないが戦いの中に入ることができなかった。
(...くそっ!なんでまた....こんなときに.....ッ!!)
自分の弱さを未だに克服できていないことに、アカシアは悔しさを通り越して自分に怒りすら感じていた。しかしここで冷静さを失って突撃してしては意味がないことを分かっていた。彼はその怒りを心の底に鎮めながら、自身の回復を待った。
そのころアークノアとダークノアは互角の戦いを繰り広げていた。彼らの目的は5つの魂全てを吸収すること....彼らはこの戦いの中で5つの魂を奪い合っていたのだ。
そのため今まで変身してきた様々な形態に変わりながら、この魂争奪戦を続けていたのだ。
「...ダークノアと言ったか.....お前の目的はなんだ!もう1人の私だと言うのなら、5つの魂を集める目的も相応にあるに違いない。答えてみろ!!」
改めてアークノアは奴が自分と同じであることを感じた。同時にそれなのに全くもって相手の意図が読めないこともだ。
「貴様に.....知る権利など.....ない!」
過去から贈られし絆の結晶
2体の放った技は完璧に相殺された。全く同じ力、同じ技を前に戦況は頓着していた。
違うのは2体の中身ただ一つであった。
そういった意味で現状有利なのはダークノアである。アークノアと比べて容赦のなさが見える奴は、相手を殺すことと奪うことただ一つに特化していた。
それにアークノアも決して体力に底がないわけではない。アカシアと同じく連戦に連戦を重ねていたため、いつ倒れてもおかしくなかった。
徐々に追い込まれていくアークノア。奴の攻撃が炸裂し、せっかく取り戻した魂も再びダークノアに奪われてしまった。
残ったのはジークの魂ただ一つ。しかしそれが奪われるのも時間の問題であった。
ダークノアはついにトドメの一撃を放ち、アークノアを倒して最後の魂すらも回収しようとした。
次元を破壊する技を使いアークノアを次元の衝撃で殺そうと考えたのだ。しかしその一撃を....彼は自身の持つギリギリの力で打ち消したのだ。
まだ余力が残っていることにダークノアは少し驚いた様子を見せたものの、変わらずアークノアのトドメを刺そうとする。
しかし、何度攻撃しても...なんど殺そうとしても....アークノアは倒れなかった。
「お前と私...確かに全く同じだと言える。だが記憶と過去は全く違う。あの戦いが...あの戦争が.....私に負けないための力を与えてくれた。
不屈の力....誇り高き魂.....慈愛の心....そして理想をつなぐ絆。お前とは手に入れたものがまるで違う!」
瞬間、ダークノアの身体の内から謎の力が暴発した。セイヴァーとカリバーンの2体の魂が今の言葉に共鳴し中で暴れたことで、ダークノアから全ての魂を解放させたのだ。
これにより完全に魂を失ったダークノアに対し、アークノア5つの魂を全て取り戻した。
「だが....完全に吸収されるには時間がある.....それまでにお前を完全に倒すまで....」
「あぁいいだろう。それを待つまでもなく、お前はここで倒す」
決着...そして
ヴォイドヴィルスに進化したダークノアの力はまさに虚構のウイルスを操る能力であった。全ての文明を妨害し、全ての文明の力を封印するものであり、アークノアが全文明を取り戻した時の対抗策でもあった。
しかしそれでもやはり、アークノアとダークノアは互角の戦いを繰り広げていた。どちらも譲るわけにはいかない戦い...己の信念を賭けた戦いであった。
アークノアはついに最後の手に出た。 《超王神羅 アークオールパニッシュメント》を使ったのである。それを見たダークノアも同時に 《ヴォイド・エターナル・ダークノア》を放ち、最後の勝負に出た。
全てを虚構に還すダークノアの必殺技はブリトア王国で 《ギアキングドール》にトドメを刺したものと同じであり、相手を問答無用で一撃で倒す強力なものであった。
しかしなぜだかダークノアの必殺技はアークノアにまるで通用していなかった。それもそのはず、アークノアのオールパニッシュメントは5つの文明全てを取り戻したことで、最大火力を発揮できるようになっていたからだ。
虚構に対して、存在するという真実をアークノアは使いこなした。無を塗り還す5つの色の力は強大であり、ダークノアはついに巻き返すこともできず、全ての攻撃を喰らってしまった。
身体が塵と化し消滅し、最後に残ったのは真っ黒の奴の魂だけであった。
「....これで、本当に終わりか」
ついに体力を使い切ったアークノアはその場に倒れ伏してしまった。
そんな決着をアカシアは遠くで見ていた。結果参入することはできなかったものの、彼の勝利をほっとした様子で喜んでいた。
だがアカシアはずっとあることを疑問に感じていた。それはダークノアという存在の意味である。
奴がアークノアのもう1人の存在で、全く同じコピーであるとするならば、奴もまたアークノアの分身と言えるのではないか。
しかしあの5体とは違い、ダークノアはまるでアークノアと対等...それ以上に同じ力関係にあったのは確かなのだ。
それこそ奴はアークノアの失った力ではない。それこそ、失った自分自身と言っても過言ではないと考えていた。
....そんなとき、ふとあることが頭の中によぎった。彼はかつてこの星に攻めてきた侵略者達を撃退した伝説の龍。しかし彼の口からそのことについて語られることはいっさいなかった。
つまりは力を失う前の話を彼は全くしなかったのだ。誰が襲って、誰と共に戦ったのか......。
その時の記憶がまるで抜け落ちているかのようであったのだ。
「............」
あのときの戦いに、実は裏の伝承が存在していた。
それは禁断の力があそこで暴れていたという噂であった。禁断のクリーチャーが暴れた影響は、そのクリーチャー自体がいなくなっても、残香としてその場にとどまり続け、クリーチャー達の悪意を増幅させていた。
その結果があのクリーチャー大戦であり、あの何百年にまで続く争いの原因だと言われていた。
「......まさか」
彼はずっと、その禁断のクリーチャーを攻めてきた敵のことだと考えていた。しかし、あのダークノアという存在は紛れもなくアークノア自身と考えてもよかった。
つまり.....あれは彼が失った記憶を担った存在なのかもしれない。
禁断の覇皇
目の前の黒き魂...ダークノアが倒された時に残ったものにアークノアは釘付けになっていた。
禍々しいほどに真っ黒のその魂は、アークノアに嫌な想像を掻き立てさせた。
早いとこ離れた方がいいと思いかけたその時であった。突如として、その魂は自らアークノアの中に入って行ったのである。
あまりに予想外のことに彼は困惑した。しかし次の瞬間にはそんな困惑など全て吹き飛ばされた。
彼の脳内に駆け巡るのは、自身の忘れていたかつての記憶。それは伝説龍と呼ばれるようになったあの戦いの記憶だ。
悲しみ、恨み、怒り、狂気、悪辣....あらゆる感情が彼の中に溢れ出てきたのだ。
ダークノアもまた彼である。しかし奴が持っていたのは彼が持っていたはずのあの時の記憶と感情であった。
なぜそれが分離してしまっていたかは今では彼すら分からない。しかし分離しなくてはならない理由は、一瞬で理解できただろう。
「アカシア!!」
「ッ!!!」
「私の意識があるうちに...私を倒せ!!....無理なら今すぐここから逃げろ!!」
溢れ出すのは禁断の力。あのとき外敵を倒すために手を出した使ってはならない力であった。
そのとき、この帝国に大きな爆発が広がる。
アカシアは咄嗟の判断でその爆心地から逃げ出すことができたが、その爆発は凄まじく大きなものであり、このクリーチャー世界全てに影響を及ぼした。
各地で異常気候、地割れ、あらゆるクリーチャーの消滅...などが巻き起こる。
このクリーチャー界にいる全てのクリーチャーが、この瞬間、何かが起こったと察知したであろう。そして、一部のクリーチャーはそれが自然文明、ヴォルカ帝国にて巻き起こった爆音であることも気がついていた。
煙の中、アカシアはその煙の先の光景を見る。
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